2日目の朝
このわけの分からない男は、夕食を作った後に風呂を入れ俺に入れと言ってきた。
特に逆らう理由もないのでそれに従っているが、本当にこれで良いのかさっぱり分からない。
考えても分からないことはとりあえず置いといて、今日起こったことの整理が先だ。
俺にとっては今日、奴に強制的に来るように言われた同窓会に向かいあの人と再会した。
その瞬間、あの人の後ろからトラックのライトが見え手を引っ張った所までで記憶が途切れたということは、あそこで俺の人生は終わったと考えられる。
なのに、目を覚ませば中学の入学式。
見渡す限り代わり映えのない空間であったわけだ。
教室に戻ってもそれは変わらず、俺が変えたのは奴に喧嘩を売らなかったこと。
その後、教室から出て行かなかったことだろう。
それが今の状況を変えたとは言えないはずだ。
喧嘩をしなかったからといって、家族との関係性が不明になるなど聞いたことなどない。
そもそもこんな風に昔に戻ることもない。
「はぁ」
とにかく、しばらくは様子を見てあの日、あの場にあの人を向かわせないようにしなくては。
風呂から上がり部屋に戻る途中、あの男はまた仕事をしていた。
何の仕事をしているのか知らないが、声をかけない方が良いだろうと思いそのまま私服のあった部屋へと向かい敷いてあった布団に入り込んだ。
今日は色々とあって疲れた。
このまま寝て明日になれば元に戻るなんてことはないだろうか。
そうであれば良いのだが、と寝る前は思っていた。
残念ながら世界は戻ることはなく、こちらの世界での朝を迎えることとなった。
寝ぼけたまま洗面所へ行き、顔を洗い鏡を見る。
吊り上がった目、ボサボサの髪。
いつ切ったのか分からないが、右側の唇が切れていた。
どこからどう見ても昔の自分だ。
これがもう少し経つとそりこみを両サイドに入れ、耳に穴を開けていた気がする。
当時はそれがおしゃれだと思っており、髪の色もメッシュにしていた。
そのおしゃれも住み込みのバイトをし始めるタイミングで止め、黒髪に戻し今のようにボサボサの髪型に戻していた覚えがある。
今回はそんなことするつもりはないし、あくまで普通の生活を送る予定である。
そのためにも学校に遅れないようにしなくてはと、スウェットから制服に着替えリビングへ行くとソファで毛布を被り眠っている男がいた。
仕事の途中で眠ってしまったのか、ノートパソコンはつけっぱなしだし資料らしき束は床に散乱している。
それを踏まないようにしながらキッチンに向かってみると、そこにはラップにかかったおにぎりが二つ置かれ【たぶん起きれないから作っておく。 気を付けて行ってこい。 優希】というメモが一緒に貼ってあった。
あの男、優希という名前だったのか。
明崎優希、どれだけ思い出してもそんな男は俺の知り合いにはいない。
その問題は考えてもしかたないのに考えてしまう。
「んん……」
背後のソファから声がし、振り返るもただの寝返りだったようだ。
何となくこの男が起きる前に学校に行きたい気持ちになり、おにぎりには手をつけず水だけコップに入れ飲み颯爽と家を出た。
その家から学校への道のりは何となく分かる。
意味もなくふらついていたため、学校周辺の道は誰よりも詳しい自信があるのだ。
売られた喧嘩を買って、逃げる必要があるときは撒けるような道を選択して細道を通ることもあった。
今思えば自分も若かったものだ。
家から出たときはもともとの人手が少ないように思えたが、学校へと近づくと同じ学校の生徒たちが見え人手も増えてきた。
こんなまともな時間に登校などしてこなかったので、こんな道がにぎやかな登校は初めてだ。
いつもひとりぼっちで、静かな道を歩いて学校につくと先生に捕まるのが常だった。
それが社会人になると朝早くに出勤し、夜遅くまで勤務していたのだから何が起こるのか分からないものだ。