こっちの方が大事なんですけど!?
大賢者セルシアスの居城、揺蕩いし叢雲で出会ったセルシアスの仲間たち、異世界からの召喚者、屈強の戦士『もののふ『のメイダーン、癒しの女神の加護を受けた『慈しみの聖人』であるゴリゴリの大男『聖魔導士』のナドアルシヴァ、古の魔導機を操る『古代魔導騎士』のリサイリ、そして、青藍の髪をした麗しき美女、ジュベラーリは、なんと神話に登場する『終焉の鬼神』|殺戮の狂戦士だった!
ここまでずっと驚きの連続だったラシディアとジュメイラだったが、この後、さらなる驚愕の事実を知ることになる……!
「おい、バルシャよ!どこを見ておる!早う我の問いに答えぬか!」
「え?あ、は、はい…えっと…エルミラ様、き、今日のご飯は、な、何ですか…?」
「うむ、今日の夕餉はな、宵闇の魔獣の丸焼きじゃ、とんとんとん…さあ、食べるが良い」
「あ、は、はい…もぐもぐもぐ…と、とても、お、おいしいです…」
「そうであろうそうであろう、では次はな……」
僕の名前はバルシャ、僕は今、ジュメイラ師匠と一緒に、大賢者セルシアス様の居城 『揺蕩いし叢雲』 に来ている。
でも、ここへ着いた途端、突然このエルミラと言う女の子、ラシディア先生が言うには、月影の神って言う、神様…らしいんだけど…この子にここへ連れて来られて、おままごとの相手をさせられている。
僕は、これからどうなるんだろう……
「おい!バルシャ!何を呆けた顔で外などを見ておる!早う食べぬか!」
「あ、はい!…もぐもぐもぐ…お、おいしいです…」
────────ジュメイラ師匠…どこにいるんですかぁ……?
────────────────────
「殺戮の狂戦士って…神話に出てくる…あの?」
ラシディアはゆっくりとジュベラーリの方へと目を向けると、怯えた声でそう呟いた。
そんなラシディアを、ジュベラーリは頬に手を当て、その小指を艶やかな唇に噛みながら楽しそうに見ている。
そしてその様子に、「うん、実に良い反応だ、やはりジュベラーリの紹介が一番楽しいな。」と、セルシアスが満足気な表情を見せた。
「殺戮の狂戦士って、終焉の鬼神なんて言われるくらいだからてっきり、悪い神様だと思っていたけど…」
ジュメイラがそう言うと、ジュベラーリは目線だけをジュメイラの方へと向けて、「前は、ね」と、とても前は悪い神様だったなどとは思えない様な清らかな笑顔でそう答えた。
「それにもう私は神ではないのよ、今では一応『人』なの。このセルシアスに助けてもらってね」
「助けたなどど…私はその様には思っていないよジュベラーリ……」
─────何⁉何なのコレ…⁉この二人には何かある!!と感じたラシディアは、何かが胸に突き刺さるような感覚を覚えたが、必死に平静を装う。
「お、その顔は?ジュベラーリの事を聞いたんだな?で、セルシアス、どうだった反応の方は?」
「ああ、期待通りだ。シヴァの時もとても良い反応だったよ」
メイダーンと揉め終わったナドアルシヴァがやってきて、ラシディアたちの様子を見て尋ねると、セルシアスが満面の笑みでそう答えた。
「なあ、二人とも、ジュベラーリは確かに殺戮の狂戦士だが、何も心配する事は無いぞ!だから怖がらないでやってくれよな!」
ナドアルシヴァが二人に向かってそう言うと、「ええ!勿論よ!」と、ジュメイラはにこやかに返したが、ラシディアは、「…え?…はっ、はい‼」と、まだ別の事で動揺していた。
「では、ジュメイラ、ラシディア、皆の紹介も済んだことだし、これからの事を簡単に説明しておこうね。叢雲!」
セルシアスがそう叢雲に呼びかけると、この部屋全体を覆う窓の中央、部屋の正面に地図が浮かび上がった。
「これは、ラス=ウル=ハイマ首長国連邦周辺一帯の地図だ。そして今私たちはラス=ウル=ハイマの首都、ワディシャームへと向かっている。3日後には着くだろう。そして着いたらすぐに、同国連邦国軍と合流し、状況の確認と戦略を話し合う事になっている」
「戦略と言っても、セルシアスよ、あれだろ?いつもの塩梅でやるんだろ?」
ナドアルシヴァはそう言いながら、部屋の中央にあるソファにどっかり腰を下ろした。そして、どこから持ってきたのか、むしゃむしゃとバナナを食べている。
「恐らく、そうなるとは思うが、向こうにも『英雄』と呼ばれる者たちがいる。彼らの力も期待できるだろう」
「その英雄たちが散りぬる陽を抑える事が出来れば、だいぶ戦況は有利に運べますね」
メイダーンはセルシアスの言葉にそう答えると、先ほどまで揉めていたナドアルシヴァからバナナを貰って食べた。
「あ、あの、セルシアス様、質問なのですが…」
「ああ、ラシディア、何も遠慮はいらないよ、言ってごらん?」
「シヴァさんの言う、いつもの塩梅って…よくこの様な事態に対処されるのですか…?」
「そうだね、その事も説明しておかなければならないね。叢雲、阿久戸妙の陣布陣図を出してくれ」
セルシアスがそう言うと、窓にまた別の地図が浮かび上がった。
「ラシディア、これが私たちが現在展開している守りの結界、阿久戸妙の陣の全てだ。今はこの結界を張る事で、散りぬる陽から出現する『忌み侍る陽炎』の侵略からそれぞれの国を守っているのだが、見てもわかるように、北端と南端付近はまだ結界を張れていない。したがって、それらの地域ではまだ、『忌み侍る陽炎』との攻防が続いているんだ」
「では、今回のラス=ウル=ハイマだけではなく、いずれはすべての地域に結界を張らなければならないのですね!私!お供します‼」
今回の件が終わってしまったら、セルシアスと離れなければならないと思っていたラシディアは、そう言って全力で、何故か敬礼する。
「ありがとうラシディア、そう言ってくれてうれしいよ」
「…でもセルシアスさん、その……北端と南端全部に結界を張るという事は……この『現世』全てに………結界を張るという……事なの?」
窓に映し出された布陣図を見渡しながら、いつの間にかバナナを食べているジュメイラが口をもぐもぐさせながらそう尋ねた。
「いや、現実にはそれは不可能だ」
「いくらお兄ちゃんでも、現世全部を結界で覆う事は出来ないんだ。」と、リサイリがまたとんでもないことをぺろっと言うと、ラシディアは目を丸くして、ジュメイラはバナナを咥えたまま止まり、リサイリはナドアルシヴァからバナナを貰った。
「現世全てに結界を張るのは不可能だし、結局のところ、結界で守るのはその場しのぎにすぎない。散りぬる陽そのものを滅ぼさねば、いずれ現世は無に帰す」
「だが、いくら俺達でも、散りぬる陽自体を滅する事は出来ねえ。だから今はこうして、彼方此方飛び回って阿久戸妙の陣を張って歩いてるって訳よ」
ラシディアは、リサイリがセルシアスの弟であるという事の方が衝撃的過ぎて少し混乱状態にあったが、必死に頭の中を整理して、セルシアスに尋ねた。
「あ、あの!リサイリ…じゃなくて現世はいつか消えてしまうという事なのですか⁉」
「このままだと、消えてしまうわ、確実にね。」と、後ろからラシディアの肩に手を置いてジュベラーリが静かにそう言うと、彼女がバナナを食べていない事を見てなぜかラシディアはほっとした。
「だが今は、たとえそれがその場しのぎであっても、結界を張って皆を守らねばならないんだ…」
セルシアスはそう言うと、布陣図をゆっくりと見渡す。しばしの沈黙が訪れる。
「……散りぬる陽を、消し去る方法とか、封じ込める方法とか、そう言うものは無いのでしょうか……?」
ラシディアはセルシアスの見る方に目を向けてそう尋ねる。
「それが、私たちの最終的な目標……この現世のどこかに現れるという救世の力『メサイア』……その力を以てして、散りぬる陽を滅し、この現世に安寧をもたらす。」
ラシディアは、そう言うセルシアスの横顔を見つめ、自らもこの現世のため、そしてセルシアス様のためにこの命を捧げるのだと、静かにそう心に誓った。
すると後ろから、ナドアルシヴァが「ラシディア、そんな事よりほら、バナナ、やる」と言った。