一目惚れ!
銀髪の男が真剣な眼差しでイザベラに詰め寄る。
そのただならぬ様子に、流石のイザベラも少し戸惑ったような顔をしてジュメイラの方に目を向ける。すると、その様子を見ていたジュメイラがあっけらかんと口をはさんだ。
「お兄さん、運が良いわね、ホント凄い偶然だわ! 『夢に見し華』ね、あたしたちが作っているのよ」
「あなたが……?」
真紅の髪をくるくると指で弄りながら、得意げな様子のジュメイラをしげしげと見つめると、銀髪の男はジュメイラの方へ歩み寄り、とても信じられないと言った様子で質問した。
「あれを作るためには、『闇の眷属』を倒し、その荒ぶる魂を封じ込めなければならない、それをあなたが……?」
「そう、ちょうど今もね、このイザベラちゃんに驚かれたとこなの。まあ、信じられないってのも無理ないけどね」
「信じられるわけがなかろう!」
「え⁉ 何今の声……?」
目の前の男と話していたはずなのに、何処からか、明らかにその男のものではない、女の、しかも女の子の声でそう聞こえ、ジュメイラは困惑した様子で辺りを見回す。
「ここじゃここ! どこに目を付けておるのか!」
ジュメイラが視線を下げると、自分のすぐ足元で、吸いこまれるような紅緋色の瞳をした金髪の女の子が、厳しい剣幕でジュメイラを見上げている。
「まったく……その牛の様な乳で自分の足元も見えぬとは……」
女の子は吐き捨てるようにそう言うと、やけに大人びた手つきで長い金髪を耳にかけ、腕を組みながらジュメイラを見上げた。
「お前の様な小娘が、『闇の眷属』を倒せるわけがなかろう、ましてやそれを封じ込めて『夢に見し華』に練成するなど……」
「……こ……小娘って……」
その女の子の様子に驚いたジュメイラだったが、少し戸惑いながらも笑顔でその場に腰を下ろし、女の子の顔を覗き込んで優しく話しかける。
「……ね、ねえ、お嬢ちゃん? だめよ? そんな事言ったら、ほら、お兄さんに怒られちゃ……」
ジュメイラがそう言いかけると、銀髪の男が冷静な口調で女の子に語りかける。
「エルミラ様おやめ下さい、またそのような物言いを……」
「何を言うておるかセルシアス! この者はな、我らを欺こうとしておるのだぞ! おい小娘! お前の世迷言などに付き合っている暇はないのじゃ! さっさとどこかへ…」
「エルミラ様、怒りますよ」
「………」
銀髪の男がそう言った途端、女の子はピタリとおとなしくなり、クルリと踵を返すと、膨れた顔をしてラシディアの隣の椅子にちょこんと座ってそっぽを向いた。
「連れの者が大変失礼をした、申し訳ない。『夢に見し華』について、話を聞きたいのだが」
「え? あ、ああ、まあそれは構わないけど……何だかその……あんなに小さいのに、お話が上手なのね……」
その女の子があまりにも強烈だったので、ジュメイラは思わずそう口にする。
「エルミラ様は、ああ見えても子供ではない、私の守護をしてくださっている『月影の神』だ……そして私はあの方の兄ではない」
「はあ……ちょっと……意味分かんないんですけど……ねえ、ねえちょっとラシディア? 何のことか分かる?……ねえ? ラシディア⁉」
セルシアスの話している内容が理解できず、ラシディアに問いかけるが返事が返ってこない。
どうしたのかと思いラシディアの方へと目をやると、そこには、完全に恍惚の表情でセルシアスに見惚れるラシディアの姿があった。
「ラシディア⁉ あんたちょっとどうしたの⁉ ラシディア⁉」
「はっ! えっ⁉ なに⁉ ごめんちょっ聞いてなかった! うわっ! びっくりした! 何この子⁉」
ジュメイラに何度も呼びかけられてようやく我に返ったラシディアは、すぐ横から顔を覗き込むエルミラを見て驚く。
「ようやく気付いたかこの戯けが、我は先程からずっとこうしてお前を見ておったのだぞ。お前、セルシアスを見ておったな? なんぞ邪な事でも考えておったのであろう!」
「え⁉ セルシアス? ……て言うか、え? 何この子⁉」
「だから! それをさっき聞いて、聞いてもわからないから、ラシディアに聞いたんじゃない! ちょっとどうしちゃったの⁉︎」
その様子を見ていたイザベラが、真っ赤な口紅を塗りたくった唇でにやりと笑い、小さく呟いた。
「……恋ね……恋だわ……」