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  大使館(2)ー続くときは続く、あれやそれ。

「あー私は何かわかる」

「どこら辺が?」

「いい人って、何だか嫌だなって感じても『いい人だから』ってブレーキがかかって付き合っちゃうんだよ」

「……………お前、本当は、本当に人がいいんだな」


日頃の言動から、その本質は遥か底に沈んで見える。


「それがすごくストレスになる」

「そういうことだ」


にやにやと笑いながらダンタリオン。


「一見いいヤツは親切を装って近づいてくる。けど『嫌だ』と感じる時点で、危険に対するセンサーが働いてるんだ。それを理性で抑えてしまう。……ツカサ、秋葉用に何かいい例えないか?」

「オレに失礼だ」


こいつは一見でなくても本当でも、全くいいヒトのカテゴリ入りはすまい。

司さんは理解できているのか、見ると少し考えたようだったが、口を開いた。


「パワハラのように目に見えて『嫌だ』と思う存在は、まず避ける。が、『一見いい人間』は嫌だと感じても、避けることが難しい。……つまり、逃げ遅れる、ということか?」


嫌な奴には会いたくない。

嫌だと感じても、『いい人だから』と思うと無意識に我慢をしてしまう。

そういうことか。


「……めちゃくちゃよくわかりました。ダンタリオンにない語彙力だ」

「おい、今度はオレに失礼だぞ」

「でも、確かにそれはあるね。特におしゃべり好きな人は、辛い」


相手に悪意がないと思うと、なんとなく断れないというのは誰しもある気がする。


「日本人は特にコミュニケーションを重視するからな。……大体、一方向で間違った運用されてたりするけど」

「「「すごくわかる」」」


思わずハモった。

これは組織人ならあるあるだろう。


偉い人が、気持ちよくなればいいのだ。

大体コミュニケーションをここぞとばかりに強調する人間は、相手に求めるが、相手を理解する方向性は乏しい。


昔よくいたらしい「オレの酒が飲めないのか」型の人間は、飲めない人間の気持ちを理解していないという意味で、まったくコミュニケーションが取れていいないわけで。


コミュニケーションというのは双方向だと思う。

一方に都合のよさを求める時点で、不成立にしかならない。


「そうか……一見いい人って、コミュ力高そうで実は相手のことを考えてない人のことなんだな……」

「コミュ力高いとみんなにいい人扱いされるから、ますます避けづらくなる」

「実は、相手にしている人間みんなそう思ってるのかもしれないぞ」


司さんの真理をついていそうな指摘。

そうなるとむなしい意味で、滑稽だ。


「ありそうだな~実際、その対応で鬱が増えてるんでしょ?」

「気にしないやつは気にしないんだろうが……そういう奴って鈍感か、同じ穴の狢じゃないのか?」


こんな話を聞くと、人を見る目が変わりそうだ。

しかし、オレはそういうことであまりストレスを受けたことがない気がするので……



鈍感なのか。



「秋葉、鈍感力は大事だと思います」

「なんで敬語なんだよ」

「私は逃げ遅れていることに気づいた。これから逃げることにする」


忍が「逃げる」という言葉を使うと若干の違和感だ。

が、回避するという意味ではそうした方がいいだろう。


いい人と仕事はしたくないというのは、つまり、すでに被害を被った経験からであろうし。


「ってなんでこんな話に?」

「お前がいい人なんて曖昧な言葉を、安易に使うからだろ」

「オレぇ!?」



本当に、なんでこんな話になったんだ。


しかし、このストレス社会で生きていく上で、大事なことに気づいたような気はする。


オレはあんまり関係ない気がするけど。


「そうそう、それでフランス大使の話だったな。……名前、なんだっけ」

「……興味がないと、とことん覚えないなお前も」


どこまで話したのかも、時間をもらわないと思い出せなそうな脱線具合だ。

誰も疑問に思わないようなことに、一石を投じるというのはこういうことなのか。


……あまり縁がないので、終わった話は置いておく。


「エシェルだよ」

「忍は意外と一発で覚えたな」

「……日本人の名前の方が、覚えにくい」


興味がないからだろ。

真実は霧の中なので、探さないことにする。


「日本に残る天才、なんかおかしくないか?」

「何が」

「そんな逸材なら呼び戻してもおかしくないだろ。実際、他の大使館はもう人間なんていないしな」


それに関してはエシェル自身から話を聞いていたのでそのまま話す。

当時似たり寄ったりだった状況の日本を「脱出」した人間は、結局、無事に戻れなかっただろうことも。


そう考えると、残る選択をしたエシェルは賢明だ。


「なるほど、移動に伴うリスクか。言われてみれば当然だな」

「他にもこの国に残ってる外国人はたくさんいるだろ。そりゃ大使館勤めの官僚じゃ、それぞれの国の待遇も違うんだろうけど」


元々日本に住んでいた外国人、それからエシェルのように「動かない」ことを選んだ人も、当然に相当数いるだろう。


何せ、相手は翼をもった存在なのだから。


そもそも空路で移動の時点で、アウトな気はする。


「そういえば、フランス人と言えば……」


ふと、司さんが思い出したようにつぶやいた。

エシェルの話は、清明さんから依頼が来ました、友達レベル0.5くらいです。で要約できる程度なので、そのままみんなそちらへ耳を傾けた。


「最近、占いで目立った動きをしている人間がいて」

「占い? ……今どき?」


そう、今時だ。

旧時代のオカルトブームはとっくに去った。


何せ「本物」がいるのだから。


と言っても、カウンセリング的な占いであれば、現存している。

この場合は、霊的商法の占いのことだろう。


「口コミで当たるととても話題になっていて、けれどマスコミなどの取材は一切シャットアウトしている。それがフランス人だという噂で」

「また、意外な情報を知ってるんだな。実はマニアックな趣味なのか?」

「…………」


その沈黙の意味たるや。



「今の司くんの気持ちを、秋葉風に訳してみる。『こいつ馬鹿なの? 俺が話題にするんだから事件がらみの可能性の方が遥かに上だろうが』」

「オレ風に訳したのは、馬鹿なの?って言いたかったからか? 完全に同意だ」


しかし、司さんはそんなことは言わない。

思いはしたかもしれないが。


……思ったことを訳したのなら、正解なのか。


微妙な心地で、反芻する。

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