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6.救援

「きゃあああ!!」

「わぁぁぁぁ!!!」


直接爆風の届かない場所にいた人たちから、音だけで悲鳴が上がる。

オレたちは通路の真ん中あたりにいたので、熱波をもろにくらってもおかしくなかったが、親切なことにイフリートが、己の身をさけるように張ったバリアらしきもので爆風以外は届かなかった。


それでも、吹っ飛ばされそうな風圧だった。


『どうだ、恐れおののいたか』


怯える人々、喜ぶ少年を前ににやりと口の端をつりあげるイフリート。


「えぇ、とても」


忍もかすかに笑った。

ほぼ同時だった。


爆音を立てて、天井が崩れた。


『!?』


再び悲鳴。

だが、イフリートもまた、何が起こったのかわからないという顔で降りくる破片を腕で払いのけた。


「こんなところに空間を作っていたとはね」

「清明さん!?」

「……予想外な人が来た」


いや、その前にお前の予想がオレには全く分からないんだ。

説明してくれ。


そんなことを聞いている間はもちろんなく、同時に瓦解した礫の上に現れたのは司さんと、アグニ神だった。

その後ろに清明さんがいて、他にも数名の特殊部隊の制服姿の人がいる。


『貴様……計ったな!?』


直下にいる忍に向けて、焼き尽くす勢いのそれが放たれるが、一閃。

いち早く動いた司さんが、払いのけた。


「下がってろ」


お役御免とばかりに、忍はおとなしくオレたちのところまで戻ってくる。

浅井さんは戦線に復帰、司さんと一言二言交わして、一歩控えたところで再び臨戦態勢を取っている。


少年は何が起こったかわからないといった風だったが、元凶のようだと報告するとすぐに隊員二人が確保に向かった。


「また頑張ってくれたね。とにかく避難をしてくれるかい? ついでにあの人たちも誘導してもらえると有難い」


清明さんがそうして、フロアの角で固まっている大勢の人たちを見やった。

ここからは、神魔に対抗できる人たちの管轄だ。

制限を受けているとはいえ、アグニ神もいる。戦力的に心配はないだろう。


オレと忍は隊員数名と一緒に、あるはずのない地下構内の階段を、巻き込まれた人たちを誘導しながら上がる。


歪められた空間、そこにあたかも地上に向かうように階段が「見えて」いるのはつまり、道を作っている清明さんがそう見せているんだろう。

なるほど、特殊部隊と言えどこの芸当はできない。

それで清明さんが来たということか。


勝手に納得した頃に、オレたちは全員が地下構内から脱出をした。


「外だ……」

「本当に……?」


安堵する人より、どこか呆然としている人の方が多いのは気のせいではないだろう。

泣き出してしまう女性もいる。


一様に、逃げのびられた喜びより恐怖の方が大きかったようだ。


「秋葉、なんとか言ってあげたほうがいいんじゃない?」

「オレ?」

「あの魔神は、正規のルートで入ってきたものじゃないでしょう? 誤解したままなのはどっちにとってもよくない」


誘導を担った部隊の人たちもそれぞれになだめたり、落ち着くように計らっているが人数が多くてまとまらない。

誰もかれも、不安そうだった。


そんな中、忍が勝手に、部隊の人にオレが話すと言ってしまった。

……そりゃこの中で、適任なのは民間人より縁遠そうな特殊部隊の人より、非・戦闘要員のオレなんだろうけど。


何を言えばいいんだと忍の方を見ながらも、道をあけられて説明をする。


「あの魔神は、入国の手続きを踏んでいない……いわば、密入国の異国の精霊の類です」


厳密には精霊ではないかもしれないが、神魔というとややこしいことになりそうなので、言葉は分けた。


「あとから現れた神魔は正規の手続きで在日している神魔で、ご覧になったように、手助けをしてくれる存在なので、必要以上に怖がらないでください」

「……本当に大丈夫なんですか」


誰かが不安の声を上げた。

ああいうことがあると、善悪見た目から区別がつきづらいので、こんなふうに、ややこしいことになる。


「あのヒトは、インドの神様です」

「神様……」


不思議なことに、神様というと途端に安心する人々。

神魔も神様も似たようなカテゴリなんだけど、先入観って怖いな、と思う。


「それに今回のことは、人間が絡んでいます。詳細は警察で検証してもらわないとわかりませんが、人間にも犯罪者とそうでない人がいることを忘れないでください」


とかく、こういう時は「毛色の変わった存在」が差別されるものだ。

そんなことは神魔が現れる前から知っている。

肌の色、性別、国、人種……皮肉にも、そんな差別が急激に減ったこんなご時世に、同じ理由で盲目になるのは勘弁してほしい、とは思う。


そう思うオレは神魔に、関わりすぎているのだろうか。


とりあえず、落ち着き始めた人々を前に、ため息をつきたい気分になった。


「秋葉、私、一度戻るけど」

「戻るって、……まさか、地下にか」

「これ」


そう言って、見せたのは元々イフリートが封印されていたはずの小瓶だった。


「もしかしたら、何か役に立つかも」

「ちょっと待て」


思わず止める。

ここで行かせたら多分、オレは怒られる。


「危ないだろ。地下はたぶん、神魔大決戦になってる」

「それはむしろ見てみたい」

「やめて。司さんに怒られる」

「清明さんに渡すんだよ。あれだけの人数かばいながら浅井さんが戦ってたのに、司くんと清明さん、それにアグニ神までいながらこんなに時間がかかるなんて、おかしい」


そういわれると。

確かに戦力的には申し分ないはずだ。

倒すのが難しいなら、封印するのが早いんだろうが、それもできていないということになる。


……考える。


「考えてる暇があったら、渡してくるわ」

「お前考えるの得意だろ。オレに考えさせてる暇があったら次点の案を出せよ!」


えー、と不満の声が返ってきた。


「そりゃ、私より誰かに行ってもらった方が安全だろうけど……」


オレはそれを聞いた直後に、その手に握られている小瓶を取り上げた。


「あっ」

「特殊部隊の人に行ってもらえばいいだろ!」


なんで気づかなかったんだ、オレ。

というか、なんで自分で行きたがるんだ、忍。



オレは事情を説明して念のため、今ここで護衛してくれている内の一人に、行ってもらうことにした。

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