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3.事件勃発

「きゃあぁぁl!」

「!」


女の人の悲鳴が響いた。

公園からは引き返した……駅の方だ。


「すみません、行ってもいいですか」


浅井さんは、承諾すると一気にトップスピードで、悲鳴の方へ駆けていった。

確かに強化を受けている人間の動きだ。


「仕事モードに入ったね」

「本来的には、護衛の方が少ない任務だと思だろうしな」


言ってから顔を見合わせる。

二人してそこで待っていても仕方ないので、邪魔にならない程度の距離でそちらへ向かうことにする。


小走りに駆けてみると、そこに人の姿はなかった。


「……どこに行ったんだ?」


神魔か何かの類で、追いかけて行ったのだろうか。

辺りを見回す。

駅のホームは二階にあり、見上げる位置だが誰も見当たらなかった。


「秋葉……」


忍の声がワントーン低い。

振り返ると、忍は視線を前方で往復させて、そのままオレに視線だけよこした。


「ここ、おかしい。離れた方がいい」


心なし、こわばった顔で後ずさりながら。


「離れた方がいいって……」

「テナント」


それだけ言われて、それは見た。

駅の一階部分に入っているのはファストフード店とコンビニだ。


人影はなかった。

……客の姿だけでなく、店員の姿も見えない。


それではじめて、ここで何かとてつもなくまずいことが起こっていることに気付く。



いたはずの人間が、消えた。



気付けば無人の駅前は、すさまじい違和感で満ちていた。


悲鳴を上げて逃げ出さないのは、忍が冷静だからだ。

あまり目立つ動きで逃げるのは確かに得策ではないと感じる。


それでゆっくりと、誰かが見ているかもわからないそこから去ろうと移動を始める。

神経質なくらい、周りを伺いながら。


バァン!


突如、つんざくような爆発音がすぐ近くで上がった。

心臓が跳ね上がったような心地だった。


駅に向かって右手上方で、火の手が上がっていた。

何か、燃料庫のようなものが爆ぜたような勢いだ。


「これ、まずいだろ~ 通報どうする!?」

「しないと、だよね。こうひと気がないと……」


「何があったのだ!」

「!」


その時、ふいに男の大きな声をかけられ、思わず肩が跳ね上がった。

存在自体がふいだった。

先ほどまで、気配もなかった場所にそれは立っている。


二面二臂の、赤色の体に炎の衣を纏った大きな男性。


見るからに神魔だった。


「あなたは……」


その神魔が黒煙と炎の柱の上がる情報へ手を向ける。

一瞬、炎は渦を巻いて増大したが、直後に消え去った。


「ひょっとしてアグニ神……?」

「その服は、我々と縁深き組織の者だな。アパームのところに来ていた者では」

「そうです。近江秋葉と戸越忍です」


忍が素早く名乗る。

アグニ神はアパーム様と同じ出身、インドの火の神だ。

先ほど、館でこちらに来ていることは聞いていた。

アグニ神も、護所局の制服を見て何者かは察してくれたらしい。


「何があったのだ」


もう一度、その神は聞いた。


「わかりません。女性の悲鳴が聞こえて駆けつけたら誰もいなくて……爆発は急に起こりました」


これが全ての要約だ。

浅井さんがいないのは犯人を追っていったから……というのも無理があることにオレも気づいていた。


あのタイミングで「何か」がこの辺りにいた人間を、一度で全員消したのなら、浅井さんに追いかけられる、理由がまずない。

その中途であるならばともかく。


それはつまり。


「浅井さん、まずいんじゃないか?」

「巻き込まれた可能性は高いね。……アグニ様、この辺りで色々不遜なことが起こっていると聞きましたが、何か心当たりはありませんか」


まずい。

オレたちも実地に入ってしまった。

忍はこのまま調べに入るだろう。

片足を突っ込んだオレはどうしたらいいのか。


……考えるまでもなかった。

浅井さんの行方がわからないのだ。

せめてそこまでたどり着かないと。


「わずかだが、火の気配がする」


忍に言われると、瞳を細めるように顔を上げた。

それを探ろうとしているようだ。


その時だった。


ずぶり。


足元が沈んだ。


「えっ! ちょ、これ」

「……明らかに神魔関係だ。引きずり込まれる」

「なに冷静に言ってんだ! ていうかこれどうなって……!」

「アグニ様!」


それを見た異国の神はオレたちの腕をつかんだが、沈む力の方が強い。

というか、アグニ様の力が強すぎてこのままだと腕がちぎれる。


「…………!」

「すみません! すぐに特殊部隊に連絡してください! 白上司を指名して、駅名を言えば来てくれるはず……!」


忍がそう言ったときには、あり得ないことに肩までアスファルトに沈んでいた。

そこからはあっというまだった。



助けることが無理だと判断したアグニ神が腕を話すと同時に、オレたちは水に落ちたかの勢いで、「そこ」へと落ちていた。

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