神のしもべはかく語り(6)
「夢の三食昼寝付き……あ、それって住む場所もついてるってことだよな」
「もちろん、衣は自分で用意していただきますが、食住は保証しますよ」
「やた! オレは確実に人生の勝ち組だ! ……清明さんって言ったっけ」
ひょいひょいと、司さんの横を抜けて近づく。
もう敵意は虹のかなたに吹っ飛んだくらいのさわやかっぷりなので、司さんもとっくに刀は収めて道を開けている。
「改めて、オレはルース・クリーバーズ。全力で協力させていただきます。この国のために……!」
あからさまに手のひら返した瞬間。
清明さんはにこりと穏やかな微笑で、差し出された手を握り返している。
どれだけ金に弱いんだよ。
この人よく神父になれたな……また謎な人が政府の割と真ん中の方に、増えてしまった。
……管理は清明さんがするだろうから、問題ないだろうけど。
「ではシスターはフェリシオン神父の元へ戻って、移動の準備をしていただけますか? お二人で」
「はい……! お二人で、新しい生活の準備をしますわ……! すぐにでも!」
清明さん、さっきもさりげなくシスターの動きを止める術を心得ているようでしたが、そっちも調査済みですか。
若干、シスターの日本語がおかしくなっているのは舞い上がっている証拠だろう。
「あと、残った問題はひとつですか」
「?」
シスターは事態が収束したとみるや、朝からみせている行動力でもってきちんとした挨拶とともに去った。
そして、こちらも移動を始めて路地から出ようとする一同。
穏やかな顔の清明さん。
ほいほいとついていこうとするルース神父を、その言葉を聞いてなぜか司さんが止めた。
そして、腕を軽く上げさせる。
「なんだよ」
「財布」
「…………………………」
そうだな、それはまずいよな。
「さっきの神魔のだろう。そのまま持っていかれると、保護の前に拘置が待っているんだが、返してくれないか」
「これはーーー寄進です! 托鉢! 酔っぱらって絡んだの向こうの方だし、オレは何も悪くないから!!」
ごみゃー!と暴れそうな勢いだったが、司さんは相手にしないことに決めたようだ。
「だから、返してくれればこちらで処理しておくから」
「あ、なんだ。あんた、いいやつだな! じゃあこれ、拾ったから預けときます」
自分の非が責められないと知るや、両手でそっと丁寧に差し出した。
この人どこまで、自分に都合がよくなると下出に出るの。
そして、彼は清明さんに連れられて、上機嫌にその場を後にした。
* * *
「……なんか、今日は朝からものすごい濃い一日でしたね」
「そうだな、思い切り振り回されて終わった感が半端ないな」
しかし、一番冷静に、一番迅速に動いていたのは司さんであり、一番振り回されていたのは結局オレだろう。
「世の中あんな人がいるなんて……というか、外国の人ってあんな感じなの?」
「さぁ。ステレオタイプって国によって色々だけど……どう見ても規格外な感じはするよね」
違う意味で規格外の人間に、言われている。
とりあえず、オレは礼と静けさを重んじる日本に生まれてよかったと、心底思う。
……日常が毎日、静かで穏やかだとは言い難いが。
「あ、でもあの人たちすごいテンプレだったよね」
「どこら辺が?」
どっと疲れた感じでオレは何か発見したらしい忍につきあう。
「冒険に出るときは『勇戦僧魔』という初心者の向きのパーティ編成が昔からあって」
「それ国民的有名RPGのだろ。司さんにもわかるように説明しろ」
「別に俺はわからなくてもいいから、余計な気を使わないでくれ」
わからないという前提でオレ。
余計なお世話だったらしい。
すみません、オレは今日も疲れました。
「あながち司くんにもわからない話ではないと思う」
前置き。
「戦闘の時は、前衛と、回復補助、そして遠距離からの攻撃タイプがそろっていると戦いやすいですよ、という話」
「……」
司さん、その沈黙は、すごくわかりやすくて理解できたけど、だからこそ敢えて何も言わない、を選んでいるでしょう。
こんな話題でわかってしまうのは複雑だ。
「つまり、戦士がシスターで、回復が神父で、最後尾なはずの魔法使いがルースさんってことか」
「完璧なバランスだ」
「人間関係は完璧には程遠いから、内部でバックアタックが発生する感じだぞ。あと肝心の勇者どこ行った」
聞いたのが悪かった。
「勇者は旅立ちは大体、器用貧乏なんだけど、最後は最強の武器とか手に入れて一気に活躍したりするんだよね」
「……お約束なやつはそうだな……?」
「勇者秋葉が、彼らを引き連れて魔王討伐に出かければいい」
・ ・ ・ 。
「どんなポジションだよ! むしろあのメンバーじゃいきなり魔王城に押しかけて勇者真っ先にやられるだろ!? 召されるから!」
「そういえば、大体最後の方は、天空城とかカミサマいる場所的なところに行くよね」
「行くんじゃなくて、逝くことになったらシャレにならないからな?」
司さんは会話に加わらず、思いついたように無線で先ほどの警官たちに連絡を取っている。
このまま財布を渡して、適当に丸く収めて早く帰れるのが目にみえた。
「勇者秋葉、魔王を倒すのだ!」
「特攻して来いとか人権侵害だ。ベリト様とか見ただけで無理だからな」
ノリノリではなくものすごく感情がこもっていない感じの忍からはとりあえずネタで流しとけみたいな空気しか流れてこない。
本気で言うようなヤツの相手は、そもそもオレには無理であろうが。
そういう意味では、ふつうについていける良心的な相手でもあると無駄なことに気づく。
「勧善懲悪とかは確かに、あの人たちの十八番な感じはするけどな」
「現実では極端なのも、どうかと思うけどね」
とりあえず。
清明さんの管理下なら大丈夫だろう。
ふと、顔を上げる。
場所がよくわからないが路地のバーの入り口には洒落た文字で、こう書かれていた。
『 アンダーヘブンズ バー 』
と。
あとがきスキット(要するに没会話)
「でも最近のドラマチックRPGは、明らかに前衛が回復使ったり、術組は回復攻撃両方使えたり、完全に術士ポジションなのに『流連弾』みたいな明らかに前衛技持ってたりするから、もうよくわからない」
「アレだろ。前者が水戸黄門みたいな感じで、後者は洋風映画だと思っとけ」
「わかりやすいけど、古い」
「………………じいちゃんが昔、見てたんだよ」
ドラ〇エとそれ以外の有名RPGの差。
裏話、没シーンは、活動報告に乗せておきます。