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   他人の身体はいろんな意味で、使いづらい(4)

そんなわけで喫茶店。


「喫茶店とか久々に入ったなぁ……何か甘いもの頼んでいい?」

「どうして聞くんだ」

「ビジュアル的に、嫌ならそっちで頼んでください」


確かにパフェとか一人で頼まれた日には、今の姿ではちょっと想像がつかない。

というか、見知らぬ人の目がどう出るのか、怖い。


「……頼んだところで、食べるのがお前なら何の意味もないのでは」

「……エルダージンジャーとホワイトタルトお願いします。こちらの女性にはアールグレイとイチゴパフェ」

「あ、オレ、アイスコーヒーとチーズケーキで」

「……コーヒーはインスタントで十分です」


忍の注文をスルーしてしまったオレに、まさかの司さんからの突き放し発言が飛んできた。

思わずうっ、と止まってしまったオレをよそに会話は続く。


「そしてそのパフェはお前が結局食べるのか?」

「ムース系も好きなんだけど、なかなかきれいなみせ方で心惹かれてね」


スイーツは見た目が肝心らしい。

しかし、答えにはなっていない。

女性店員は何の疑問も抱かずにオーダーを入れて、待つ。


「ところで……」


司さんが小さく咳払いをした。


「すまない……トイレに行きたいんだが」

「行ってらっしゃい」

「おまっ、それでいいのか!?」


あっさり同伴を断られて言葉に詰まる司さん。


「情報部員はトイレなんて行かないんだ。証拠に自宅にはトイレがない」

「いや、あるだろ。普通にあるだろ。我慢させる方が鬼畜だろ」

「その手には乗らないと言っている」


え。


司さんの方を見るとどこか苦々しい表情で視線だけ横に流している。

心理対決になっていたらしい。軍配は見ての通りだ。


「個室に入ればさすがに逃げられないと思ったでしょ。でも司くんが本当にトイレに行きたかったらそんな意を決したような顔を向けてくるはずがない」


…あー。

なんとなくわかった。本当になんとなくだが。

アイディアは全く悪くないが、それを口にするには苦渋の選択だっただろう。


「本当に行きたくなったらどうするつもりなんだよ」

「それは私こそ聞きたい」


ブーメランになったところで、注文の品々が出てきた。

散々走って水分不足だから、まぁ当分そんな心配はないだろうと思う。

食べ物の前なので、その話はなかったことにする。

オレはいいけど、この二人相手だと下世話な話を食事の際にするなと怒られそうだ。


何事もないように、司さんの姿で忍はハーブティーが入っていると思しきカップを口元に傾けている。

……男がハーブティとかあんまり見ないけどなんか様になるな。

一方で、ふつうに司さんはアールグレイと言われた紅茶を飲んでいる。


「……忍の方はなんかハーブだってわかるんだけどさ、アールグレイって何?」

「紅茶。ベルガモットがフレーバーになってるやつ」

「ベルガモットって何?」

「柑橘系の何か」


それ以上聞いても無駄っぽい。


「司さん、紅茶派なんですか?」


ちょっと意外だ。


「どちらでも。それにここは紅茶系の喫茶店のようだから、まぁたまには悪くないな」

「珍しいですよね。コーヒーがあんまりない店って」


その言葉に、完全に紅茶派の忍はこぼしている。

なんで日本人はそんなにコーヒーが好きなのだろうか、と。

アメリカンなんて言葉は生まれる前から浸透しているが、当のアメリカ人は意外とコーヒーは飲まないと聞いたことがある。

カフェインが強すぎるとかなんとか……


「香りは好きなんだけどねー」


それぞれほっと一息。


「で、このパフェはどうするんだ」

「私の身体で食べてくれれば、多分私は満足する」

「それって嫌がらせじゃねーか?」


と、つっこんでみたものの忍は悪戯は好きだが、嫌がらせの類はしてこない。

線引きが微妙だが、司さんにパフェ完食しろはどうなんだろう。

思っていると、スプーンやフォークの入った籐籠から忍は新しいフォークを取って、手つかずのパフェにそれをさした。


「少しください」


そんな律儀な言葉とともに。

そのあたりは構わないのか、司さんは放っておいている。

嫌がらせというか、心配りだったか。

本当に自分が食べたいだけなら、外見そっちのけでパフェを入れ替えて食ってるだろう。普通はそうする。

そして、更に律儀なことに、もらった分だけ自分のタルトを未使用のフォークで割って、パフェの上に乗せ返す。

アートのようにケーキの皿に乗せられたベリー系の果物などできっちりと装飾もカバーして。


……メニューにないスイーツが誕生した。


「そこは返さなくていいんだぞ……?」

「旬の食べ物はやっぱり気になるよね。イチゴが甘い」


……何やってるんだこの人たち。

何事もなかったかのように、なんだかんだでスイーツに手を付け始めた司さんもついひとくくりにしてしまった。


「秋葉も欲しい? まだこの辺手つかずだけど」

「別に手つかずじゃなくてもいいけどさ。とりあえず、いらない」


無難にチーズケーキを頼んだが、さすが喫茶店。ファミレスと違ってケーキがひとつ出てくるだけではない。

果物がついていて、ソースもかかっているしこれは確かに紅茶の方が合いそうだ。


「秋葉は回し飲みとか平気な人なんだ」

「え、お前ダメなの?」


回し飲みがどれだけ普及しているかは知らないが、比率で言えばできる派の人間がほぼ、を占める気がする。


「言っとくけど司くんもそういうの嫌いな人だよ。軽々しく回し飲みとか勧めない方がいい」

「軽々しくは勧められねーよ」


いろんな意味で。

それで未使用のフォークで、手つかずの状態で取り分けてたのか……


「意外と潔癖なんですね」

「潔癖というわけではないが……そういう人間の話を聞いていると自然と嫌になるものだぞ」

「そういう人間?」

「森ちゃんもダメなんだよね」


そして、「そういう人間の話」をオレも聞く羽目になる。

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