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EP16-2.空の館(後編)

「?」


そして突然踵を返すと駆け去って行ってしまった。


「なんだろ、森ちゃんに何かあったのかな……」


人の心配はするものの。デバイスを持ってきていない。小銭や札は大体非常時用にどこかしらに仕込んでいるのでここに来るのに電車代くらいは普通に払えたが……


うららかな日差し。緊急事態のようで若干途方に暮れる。

しかし、すぐに不知火は帰ってきた。急いでいる感じは消えておらず、なぜかぐいぐいと忍の背中を押してきた。


「何なに?」


たぶん、この感じは何かを察してどこかへ行こうとしたが自分の方に何かさせた方が早いと思ったのだろう。

館内へと続くドアの前に押しやられた。


「いや、ここ入ったら警報鳴るよ? たぶんバリバリ監視カメラ作動中だよ?」


しかし不知火は、やはり珍しく「犬っぽくない」動きでガラスをすり抜けた。何をしたのかあちら側からドアが開いた。


(入れってことか)


この分だと監視カメラも関係ないな。あったとしても不知火がドア開けたから司くんがなんとかする。


などと踏んで今度は忍の方から不知火についていく。それがわかると不知火の足取りもあまり急がなくなった。目的のものはすぐにあったらしく彼は電話の前で足を止めた。


「かけろって? ……どこに」


かしゃ、つーつーつー


アクションを待たずに不知火は自分で受話器を外すと、ボタンを器用に鼻先で押し……


『お客様がおかけになった電話番号は 現在 使われておりません』


鼻がでかくて隣のプッシュボタンも押してしまったようだ。


「うん、わかるよ。わかる」


間違いなくできると思っていたのだろう。ずーんと消沈しそうな不知火に声をかけて忍はディスプレイを見た。


「司くんにかけるんだね」


番号に見覚えがあったのでかけてみた。

すぐにつながった。


『はい』


向こうにも通知が行っているだろう。たぶん「フランス大使館」とかで登録されていると思う。何しているのかわからないが無人の大使館から電話がかかってくれば何事かと思うに違いない。

司の声は若干緊張を帯びている。


「司くんですか。私です」

『!? 忍!? どうしてそんなところにいる!』

「なんでわかるの? 私って言っただけなのに。それじゃ私私詐欺にひっかかるよ?」

『ひっかかるわけないだろう!』


声で分かる、ときっぱり返ってきた。

そうだよね、なんでオレオレ詐欺にひっかかる人は家族の声がわからないんだろうね。遠い祖父母ならともかく謎である。


「散歩してたらなんとなく……」

『どうしたら散歩でそんな遠くまで行けるんだ。しかもこの番号、館内に入ってるのか』

「冤罪だよ。庭には来たけど、なんか不知火がここまで押してきたから」


これは本当。よくわからないのはこちらだ。


『不知火が……そうか』


しかしあちらは合点がいったらしい。


『お前が病院からいなくなったと騒ぎになってる。今探しに出ようとしていたところで』

「……そういえば昼食の時間過ぎたね」


病院食が出る時間は、早い。


「そうか、不知火は司くんの動きを察知して私に電話させたのか……すごいな」

『とにかく迎えに行くからその辺にいてくれ』

「不知火に運んでもらった方が早いのでは?」

『……』


若干の沈黙は一瞬。


『今は平常時で人目があるだろう。勘弁してくれ』


そうでした。いつも大体お遊びか有事の際なので割と失念している。


「自分で戻れるよ」

『俺の立場を考えてくれ』


そういえば護衛でした。いつもそうだから本当に護衛されている自覚が飛んでました。すみません。


「時間、大丈夫?」

『心配してくれるなら最初からそんな遠くまで散歩しない。森を連れて遊びに行くと言ったろう!』


話が進まないと思ったのかそう言って切られた。平常時とか言いつつ、車も使わないで司が忍を迎えに来たのはそれから数分後だった。


どこを起点に出発したのかわからないがさすが特殊部隊である。

こってり絞られたあと、帰りは車が回されていて…


「護送される気分だ……」

「不知火、悪いがしばらく忍の方を見張っていてくれ」


退院までの間、忍の病室には不知火が常時スタンバイすることになる。

それはそれで、退屈しないので忍が病室から出る頻度が減ったというのはまた別の話。



主なきあの庭は、そうしてその間も変わることなく静かにそこにたたずみ続けている。そう、それから、再び世界が変わるであろうその刻まで…

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