高すぎるセンサー(3)
「つまり、お前はこの国の霊的に強化された人間を狩りに来たんだな?」
司さんが確認をする。
声にしなくてもさとりは疑問に答えてくれるが、会話が聞こえないとはっきりいって不便だ。
いや、大事なのはそこじゃないんだろうけど。
『そういうことだよぅ。だから、ここらで待ってたのさ。ついでに腹も満たしてな』
「……回復と強化ができるなんて、なんていい国なんだ……」
「そこは愛国心をアップするところじゃねーよ」
というものの、忍は気遣いをする人間には相応の気遣いをしてくれる。
……この場合の対象は、司さんだった。
「そんなわけで、狙われてたのは司くんってわけじゃないみたいだから、誰も巻き込まれていないので安心して何とかしてください」
「……それは気を使ってくれているのか? それともプレッシャーをかけているのか」
先ほどの一太刀で、どれくらい通用するのかわかってしまったらしい。
「あ、やっぱり難しい?」
諦めたので、オレもトークタイムに参加することにする。
すこぶる真面目な方向で、だ。
「司さん、誰かあの能力に太刀打ちできそうな面子いないんですか?」
「……」
『そうさなぁ。あんたは理性的だから読みやすい。できればなーんにも考えないで突進してくるタイプが一番俺様の力に対抗できるが、戦力的には微妙な感じ』
「わかった。まっすぐ行ってストレート、まっすぐ行ってストレート、まっすぐ行ってストレートみたいな奴だな」
司さんの思考を要約してくれたので、把握。
……………何の解決にもなっていない。
「秋葉……まっすぐ行ってストレートじゃ直訳すると『まっすぐ言ってまっすぐ』になる。訳がわからない」
「ストレートでぶん殴る、の略だよ!」
「ちょっと混乱するからトークは後にしてくれないか」
怒られた。
「ことさら馬鹿っぽくて、わかりやすいけどさぁ……つまり、戦闘狂な人がいればいいんでしょ?」
忍はあまり懲りてない。
しかし、この辺の動じなさが解決の糸口につながることは多々あることだ。
「じゃあ、あんまり腕が立つ人だと無理か。……その下にいますよね、そういう人。オレちょっと呼びに」
パァン!
足元で何かが爆ぜた。
『せっかくあげた時間をなんて無駄なことに使ってるんだろうね、あんたらは』
そうだった。遠隔で小さな破裂術を使ってくるんだった。
オレの返しかけた片足は上げられたまま止まった。
「「{俺・私}もそう思う」」
「なに同意してんだよ! 司さんが時間を稼いでくれれば呼んでこられるでしょ! 司さんの部下の戦闘狂!」
「そんな奴、部下に持った覚えはない」
絶対ある。誰か人物像は思い浮かんでいるはずだ。
さとりよ、今こそ読んで聞かせろ。
『あんたら、アホか』
ぴく、と司さんと忍が反応する。
この状況で、決してコケにしてはいけない人間をコケにしてしまった。
というか、オレは反応しなかったんだけど、コケされてもいいってことか?
……断じてそんなことはない。
というか、今のさとりは二人には聞こえていないオレの思考を読んで言ったんだよな。主にオレのことか?
オレのことなのか?
……もう意味がわからない。
『主にあんたのことだよぅ』
その意味を理解した二人がこちらに顔を向けた。
うぅっ、視線が痛い。
「秋葉、何考えてたの?」
「別に、ただ戦闘狂が誰かって」
「とりあえずそれは廃案だから次を考えてくれないか」
考えたところで全部読まれるんですけど……
『その諦めの良さは俺様は好きだけどねぇ』
「お前、オレたちの仲を引き裂きたいの!? オレだけいじめられっ子みたいにしたいの!!?」
というか、ここであることに気づいた。
その気づいた対象が動き出した。
「じゃあくれた時間で有意義なことを聞くよ」
シンがすたすたとさとりに近づいて、手をかざす仕草をした。
「その目、本当に見えてない…のぉ!!?」
「それ以上前に出るな!」
司さんが襟首をつかんで自分の後ろに下げる。
どうやら相手の攻撃範囲の見積もりがその辺りにあるようだ。
今、忍が出かけたあたり。距離的にはちょうどこちらから3分の1側だろうか。
『ふんふん、やっぱりあんたは勘もいい。俺様の直接攻撃範囲はそこら辺。まぁ今は攻撃する気もないけどね』
「わかったら、二人とも、俺から前には出ないでくれよ」
「は、はい」
さすが特殊部隊は、場数が違う。職務によっていろいろ能力的に底上げされていたりするからその違いもあるだろうが。
戦力外のオレはおとなしくしていることにする。
しかし、忍は違った。
「じゃあここからでいいや。口も動いてないよね。声は音声とは違うようだし、目も口も閉じたまま? その分、読心能力が上がった種族、ってこと?」
耳は普通に聞こえるのかな。
……誰得な一通りの質問をしている。
『その通りだぁ……けど、ちゃんと周りもあんたらの動きも見えてるからなぁ』
「感覚も上がってるってことか」
『あんたの質問は、これで終わり。もう答えないぞぅ』
時間をやると言った割に、突然のお相手終了のお知らせ。
そんなに面倒なことは聞いていないと思うのだが……
忍も同意らしく、聞き返している。
「えぇっ…なんで?」
『俺様にはわかるんだよ、あんたは好奇心で聞いている。けど、無意識に俺様の情報を集めて俺様を理解しようとしている』
いいことじゃないか?
神魔に対するボーダレスなところはそこら辺からきてるっぽいし。
ていうか結局、質問に答えてるよ。
『……』
伝わった。
わかったのオレだけ。オレにもあんたの心が伝わった。
「つまり、そこからつけ入る隙を見出すことができるということだな」
「あっ、そうか!」
『「「………」」』
オレ以外、沈黙。
「何、そのわかってないのはお前だけみたいな空気。やめろよ。さすがにオレだっ
てわかったよ。わかったからって何の解決にもなってないけどな!」
「殴っていいかな」
「後にしてくれ」
忍の殴る、は実際言われても発動したことがないので、警戒だけして黙ることにする。
「まぁいいや、情報統合が適職ってことはわかった」
「どんな自己分析?」
「あなたのこともわかった。心を読むことを誇示することによって優位性を保つ。だから、こっちが聞いたことには答えてくれるし、聞いてないこともわざわざ答えるんでしょ」
今言ったことにはどういう意味があるのか。
忍の指摘は本心なのか、さとりは何も返してこない。
司さんも黙って聞いた。
「やっぱりまだ聞きたいことがあるから一方的にでも聞くよ。つまりこういうこと」
…
……
…………
………………
「ちょっと何か、あいつ顔色悪くなってませんか?」
忍も黙っている。
会話は音として成立していない。
けれど沈黙はひたすらに続いている。
じゃあ何が起こっているのか。……なんとなく理解できた。
…………………………………
『やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!』
突然の絶叫。
「何……したんだ?」
司さんが、悶絶しそうな勢いで頭を抱えるさとりから目を離さないで言う。
「質問」
何の。
なんとなく理解できた、は訂正だ。
何かが起こることは理解できたが、内容はさっぱりわからない。
わかるわけがない。
「大体、考えが読めるってことはあれこれ内緒にして考えていても無駄だってことだよね」
その通りだが、だからといってできることは……
「むしろ全部口にするか、全く声にしないで会話をするかでいいってこと」
全く声にしないで、会話?
「だから何をしたんだお前は……」
「脳内の思考をすべて会話形式でぶつけてみました」
「「…………」」
司さんにこの意味が分かったろうか。
多分、わからない。