6.御岳と事件(前編)
特殊部隊の車両は、いわゆる覆面であることも多い。
それとたまたま居合わせたのは、たまたま首都高で事故が起こって、オレの乗っていた車も渋滞にはまってしまった。
その渋滞の先頭近くから白服の警察が出てきて、事故検分をしている黒服のお巡りさんのところに寄っていた。
いつ解除になるのかわからない。
司さんがいたことから、オレも便乗して降りて外の空気を吸う。
「どれくらいで解除される?」
「さぁ。ついさっき目の前で起こったからなぁ」
「お前に聞いてない」
「……あ、秋葉。覆面の方、乗ってく?」
様子を見に行った司さんは一般警察に聞いたわけだが、先頭にほどちかい車両から出てきたのは、御岳さんであまり時間かかりそうなら緊急出動で脱出するといわんばかりだった。
というか、覆面を覆面と言っていいものか。一応、事故の関係者がまだここにいる。
「こちら御岳。……なんか事件起こってない?」
なんというざっくりな無線連絡。
事件起こってたら向こうから連絡入ってくるだろうに、聞いている。
やはり車を動かしたいらしい。
「御岳……お前な……」
「オレの班にだけ繋がるチャンネル使ったからお前んとこには繋がってない」
「……」
司さん、御岳さんの無線をひったくってチャンネルを変える。そして、暗証番号でロック。
「全班に聞こえるようにしたから」
「司の意地悪!」
「事件の情報が欲しいんだろう? 情報が入ったら御岳がすべて解決する。よかったな」
……明らかにスイッチオンになったままなんですけど。
その会話、巡回全車に入ったと思うんですけど。
というか、司さんの後半の言葉は御岳さんではなく他の隊員に向けたもののようなので問題はないのだろうが。
『本当ですか! 隼人さん!』
早速どこかから連絡が入った。
「一方通行でいいんだよ、こういうのは。誰」
『池袋208Nで神魔相手の窃盗事件が発生しています! よろしくお願いします』
「よろしくじゃねぇよ、誰だよ!」
『御岳さん、江東区442Dで使い魔迷子事件発生中です』
『江戸川区203Lでも泳げない神魔のヒトが江戸川に落ちてるそうです!』
『隊長! 緊急性はこっちが上です! オレの財布が行方不明です!』
……。
どれだけこの人、軽く見られてるんだよ。
最後の明らかに大事件だけど、ごく個人的な事件だろ。
「お前ら誰だぁ! まず名乗れ!」
『名乗ったら事件情報提供しづらくなるから、匿名にしようと全会一致で』
すっごい迅速だよ。
これ、たぶんゼロ世代だろ。
最後のだけ御岳さん自分の部隊員だろ。
「司さん、御岳さんの第二部隊って……」
「一応希望で班分けされたから、類は友を呼ぶ系の誰かじゃないのか」
第二部隊には、緊張感に欠ける人が存在しているようだ。
「司、てめぇ……」
「財布探してこい。緊急性が高いらしいぞ」
「探してやるから名前を名乗れぇ!!!」
『え、嫌です』
全員ハモった。
『司さん、事件性が高い情報が入ってますけど、今の状態でどこに流したらいいですか』
「……俺が聞く」
この人はすごく分別してるっぽいから、多分、一か三部隊だろう。
声の主は告げる。
『新宿5043にて使い魔と思しき魔獣が暴れています。さきほどの江東区とは時間を鑑みても別件です』
「近いな。御岳、車両借りるぞ。秋葉も」
ここぞとばかりに渋滞脱出できるならということか。
さっさと司さんは乗り込んで、オレは空いた後ろの席に……
「オレがやる! そういう方が得意だ!!」
覆面の運転席にいたスーツ姿の警官を引きずりおろして御岳さんは自らハンドルを握る。
緊急用のサイレンを派手に鳴らし始めると、一気にアクセルを踏み込んで……
「ちょ、まだシートベルト!」
「御岳! お前は降りてろ!」
『財布の捜索は!!』
『江戸川神魔のレスキューは!?』
全部筒抜け。




