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4.森と忍 ーある休日、司の視点から

挿絵(By みてみん)


水面下はともかく再び日常。

久しぶりに忍が遊びに来ている。


「今日いい天気だね」

「この時期は日が入るから向こうのラグがおすすめ。前に言ってた図鑑見る?」

「見る。……カクテルって名前も面白いよね」


飲みに行かないのに、なぜかカクテルの図鑑を眺めている。

まぁ確かにカクテルは見栄えがきれいだし、名前も由来があったりして面白い。


「カルアミルクってほんとコーヒー牛乳だよね」

「度数強いから男の人が女の人落とすときに使われやすいって一時期言われてたよね」


……その落とし方は、たぶん、犯罪に近いぞ二人とも。

リビングの窓際で、雑誌や図鑑を見るのに興じていたのは1時間ほどだろうか。俺はその間、いつもの通り休日を過ごしている。


二人のことは置いておいて、ソファで雑誌のページをめくりはじめると、不知火がやってきてすぐ隣に腹ばいに寝そべる。

その頭を撫でて満足そうな顔を見てから空いた手でカップを手に取る。


「不知火はやっぱり司くん大好きだねぇ」

「帰ってくるとちゃんとお迎えもするし、あんまり顔に出ないけど嬉しそうなんだよね」


どのあたりで判別しているのだろう。

いつの間にかこちらを見ている二人にそんなふうに寸評される。


「ブラッシングしていいかな」


しばらくすると忍がブラシを片手にやってくる。

不知火はそれを見上げるが嫌そうなそぶりはない。


大体、うちへ来るとこれもお決まりのパターンだ。

おかげで、忍が来たその日の不知火はいつにもましてつやつやしている。


「私もするー」


何せ二人がかりだからして。


「猫は肩のところマッサージすると喜ぶんだよね」

「猫背だから?」

「凝るらしいよ」


どんな会話だ。


「そんなことしているうちに、日向が狭くなった」

「散歩行こうか」


何しに来た、というくらい特に何をするでもない。

忍が来てもほとんど日常の延長で、それぞれ好きに過ごしているだけなので特に気にはならない。


ただ。


「司もいかない?」

「そうだな。不知火も連れて行くんだろ?」


一回は何かしらに誘われる。

形ばかりのリードを用意して、近くの公園まで散歩に行くことになった。

時間的に昼前くらいで日差しが暖かく、吹く風も涼風、といったところだ。

季節柄一応コートを羽織ってきたが、それも要らなそうな天気だ。


「子供いるな―」

「休日だから。遊具使いたかったら平日誘って」


一応断っておくが、ここは小さいがトリム系の公園で、大人向けのアスレチックのような物も置いてある。

決して、ブランコや滑り台のことを言っているわけではない。


「不知火、遊んでくれる?」


全身運動を始める予感。


俺は公園内の広い場所に来るとリードを放してやる。

さすがに自宅近くなので、不知火の姿を見て驚くような子供はいない。

むしろ人間の言葉を理解するので「大人しくて利口な犬」として評判だ。


「何するんだ」

「鬼ごっこ」


……不知火の身体能力を考えると


ものすごく本気の鬼ごっこ


になる。

はっきりいって小学生レベルではむしろ相手にならない。

二人は好んでそれをやる。


パターンはいくつかあるが、今日は二人が鬼で、不知火が逃げるという役らしい。

俺はベンチに腰掛けて、それを眺めている。


……いい天気だ。


「あっ、アスレチックに!」

「……犬なのに高低差関係ないって、高レベルだよね」


正しくは、犬じゃないからな。


しかしそこに逃げたということは、連携プレイがいい線行ってたんだろう。

空を見上げている間に何が起こったのか。


「……」


作戦タイム。


そしてそれが終わると、降りてきた不知火にスタートダッシュで手を伸ばす忍。

尾をかすめる。

というか、他につかめそうなところがないので、自然、しっぽを掴んだら勝ち、みたいになっている。


この辺りは加減しているのか不知火は近い場所で二人をかわしている。

その包囲網が、狭まっていることには気づいてはいるだろうが。


そして、二次元では避けられないと判断したらしい不知火は再び跳躍した。


アスレチックの、ロープで吊るされた丸太を渡る橋。

足元が不安定だ。


「よっし、行った!」

「不知火、覚悟!」


先回りしていた森が着地点の正面から不知火に手を伸ばす。その隙に忍は……


再び不知火が跳ぼうとすると、反対側から足元の丸太につながるロープを思い切りひっぱってゆさぶる。

ふいに大きく不規則に揺れた足場に、タイミングを逃した不知火は……


「! 危な……」


なんとか耐えたが森が勢いで落ちた。

……回収は間に合った。


「なんて危険な遊びをしているんだ二人とも……」

「うん、通常運行なんだけど……」


俺が危うく地面に落ちる前に受け止める横に不知火も降りてきた。


「この高さだとそんなに痛くないし、不知火がクッションになることも多く」

「いや、今日は完全に悪手だぞ。不知火も油断しすぎだ」


責めたわけではないが、珍しく、くぅんと鼻を鳴らすような声を上げて耳を少し伏せている。


「この二人は何を考えるかわからないから、ほどほど危険じゃない場所に逃げてくれ」

「作戦通りといえば作戦通りだったんだけど」


この不安定な場所に追い込むことが作戦だったらしい。

見ている方が精神的に不安定になりそうな遊び方をしている。


「森ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫。なかなか複数人で遊べないからヒートアップしてしまった」


全然ヒートアップしているように見えないんだが。


「森ちゃんが怪我すると司くんが怒るからなー。……今度は私がそっちやるわ」

「そういう問題じゃない」


不知火がなぜか落ち込んでいるのでみんなでもふもふと撫でまわす。

今日、一番真っ当な神経をしているのは、不知火なのではなかろうか。


「じゃあ司が逃げる人で、三人で捕まえるという……」

「俺をターゲットにするのか? この休日の公園で」

「平日ならいい?」


そういう問題ではない。

が。


はた。


……俺と森、そして忍。

俺たち三人は確かに不知火の尾が嬉しそうに一瞬動くのを見逃さなかった。


「……不知火が、司くんと遊びたがっている」

「飼い主だからね」

「……………平日で頼む」


そんなふうに、成人済みとは思えないアクティブなゲームを近所の公園で繰り広げ、かいてもいない汗をいい汗かいたと言いつつ、少し昼を回って家に戻る。


……ただの散歩じゃなかったのか。

運動量は散歩の580%比くらいになってるぞ。


そして、食事を作ってまた他愛ない話をして、乱れた不知火の毛並みをグルーミングして。


森と忍の遊びに巻き込まれたり巻き込まれなかったり。


そんななんでもない休日が、過ぎて行った。

ミニミニ話はいかがでしたか?

そういえば、バレンタイン前・当日に短編投下したのですが季節話が別カテゴリであることに気付いていなかった方がいたので、URL貼っておきます。


https://ncode.syosetu.com/n7535gr/


年末も特殊部隊の年越し鍋ネタとかやってました(笑)

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*関連作品*
 アニメ動画まとめ→ https://youtu.be/DUFpxGlWz6c
 派生作品
  季節短編集:https://ncode.syosetu.com/n7535gr/ 
  せかぼくラジオ(日常小話):https://ncode.syosetu.com/n9500gu/ 
  スピンオフ魔界日常編「S-side」:https://ncode.syosetu.com/n5218hc/ 


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