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4.魔界の女王がやってきた(2)ー密室の地雷

「ダーリンというのは、サマエル様のことですか」

「あら、そこはちゃんと予習済なのね。そうよ、ダーリンは魔界の有力者。でも何よりも強くて優しくて、理解してくれるところが好きよ。相性が良かったのね」


こんなふうに普通に話していると見た目も相まって、本当に普通の女性だ。

やはり上機嫌にふふ、と笑いながらショーウィンドウを眺めながら答える。


「私、魔界に行けて幸せよ」


……人間でないにしても。

人が辿り着くことを切望しそうな楽園から魔界に行って幸せだという。


ちょっと深みのある人生観にも聞こえる。


「理解者は何より、希少な存在ですもんね」

「わかる? そうなのよ。私とダーリンは意気投合して、その後、世界を破滅させることにまい進したわ」


………………前言を撤回する。


「でもこんなふうに人間界に観光に来る日が来るとは思わなかった」


そうですね、魔王と一緒に人類滅亡させたい人が、観光に来るとは日本人も思ってませんね。

忍、語り入ってきたから止めろ。

視線で訴えるが、無理、というようにかぶりを振られる。


語らせておけばこっちが話さなくても済むからまぁいいか。

司さんも黙って、ベレト閣下の時のように後ろを歩いている。


「世界を滅ぼしたら人間も滅ぶと思うんですけど……そんなに人間がお嫌いなのに、日本は平気ですか?」

「あら、大丈夫よ。よく気が利く子は好きだわ」


なでなで。

忍の頭を無造作に撫でているリリス様。


お前、何平気な顔してんの? 人に頭とか撫でられんの嫌いだよな。アスタロトさんもたまに撫でてるけど人間は嫌で悪魔は平気なの?


というかなんでリリス様は忍のことは全く平気なの????


などとも思ったがそういえばベレト閣下の時も忍はそんなに構えずに接していたので、それが逆にいいのかもしれない。

実際、忍は恐怖というより敬意をもって彼らに接している。

神も魔も、それどころか対象が動物ですらあまり関係ないのはさんざん見てきたことだ。


語りに近い話は続いている。



「魔界と人間の国が協定結ぶとか信じられないと思ったけど……この国はほかの国とは全然違うわね。あ、あのバッグかわいー」


語りながらショーウィンドウ越しの商品を褒めているリリス様。

割と散々な話になりそうなので、これを機に勇気をもってオレは話題を変える。


「リリス様はセンスが良さそうですね。普段はどんな服装を?」

「見たい? パスポート用の写真があるけど」


パスポート、それは入国審査にて使うもの。

かつて、人間が国境を超える際に使われていたそれは、神魔のゲートを超えた後の身分証明証としても使われている。


但し、色々なヒトがいるので、顔写真ではなく全体像だ。


「……これは、秋葉と司くんには見せない方がいいのでは」


真っ先に手渡された隣を歩く忍の感想。


「なぜ?」

「いえ、お召し物というか、なんというか、私は嫌いじゃないんですけど。目が円らでかわいいですよね」


謎の感想に、思わずその手元を覗き込んだオレ。

そこには全裸で、見せちゃいけないところだけは大蛇が体を覆うように巻きついているリリス様の姿がある。


……。


オレは何も見なかった。


「シノブちゃんは見る目があるのね」


っていうか、これ服買いに来る必要性あるのかぁぁぁぁぁ!?

オレは未熟だ。やはりスルーしきれない。


しかし、忍が褒めて満足したのか、パスポートがオレたちの手元まで回覧される事態は避けられていた。

手にしたら、感想を述べなければならなかったろう。

なんていうか、人間界ではそれは、大人向けのグラビアアイドルみたいな写真になってます。


そんな感想しか出てこないオレの語彙は相変わらずだ。


「アキバ、あの店に寄ってみたいわ」


なんで忍はちゃん付けでオレはいきなりの呼び捨てなのだろうか。

聞いてもいいだろうか。いや、駄目だろ。


「いいですよ。何か気になるものが?」

「アクセサリーのデザインが気になるわ。上の階のようだけれど」


普通にマダムな感想が返ってくると安心する。


「ところで私は名前でちゃん付けで呼んでくれるんですか」


忍も気になったらしく、聞いた。

オレからすると勇気ある質問だが、忍が聞く分には問題ないだろう。

目当てのテナントが入っている階へ行くため、エレベータのボタンを押す。


「どうしてかしら? ベレト閣下から話を聞いてから面白そうだと……それに、私、人間の……特に男が嫌いなのよ」


問題が発生した。今すぐその話題を中止して再起動しろ、忍。

しかし、凶悪なウィルスに乗っ取られた端末のごとく、早くも操作不能に陥っている模様。


……ものすごく強力だ。


「アダム……あいつはへたれだった。私だってたまには上になりたいって言ったのに、拒否るとかないわ。そのくせ女々しく天使まで使って追いかけてくるし」

「……リリス様、それ、かつてのプライバシーでしょうから、お話ししなくても大丈夫ですよ」

「構わないわよ。事実だもの」


日本人特有の、それやめて。という婉曲的な物言いは、海外産の悪魔の女王様には当然のごとく伝わらなかった。

かといってはっきりやめろとは言い難く。


全員が密室のエレベータ内で、過去エピソードを聞く羽目になる。


「おかげで毎日100人も子供殺される羽目になって、酷い仕打ちよね」


ていうかその前提として100人も毎日子供産んでたんですか、悪魔って鼠算式に増えるんですか。

むしろ毎日100人のペースだとネズミどころじゃないんですけど。


関係ないところにつっこみたくなるのは、オレが人間である証拠だろう。

100人の子供がおかしいというのは人間基準であって、悪魔の基準は全く分からない。


「だからつい、男には冷たくなるのよね。男なんてバカなくせに女の上に立ちたがって、理解されるのが当然みたいな顔してるくせに、何も見てないし」


すみません、オレと司さんがすごくけなされてるみたいな気分になってくるんですけど。

エレベータという密室で、文字通り肩身が狭くなる思いがする。


「でもこの国の起源はアダム関係ないので。へたれもいますけど昔は侍の国だったので」


忍が微妙なフォローをしている。

しかし、リリス様は悪魔。

やはり関係ないところに注目してきた。


「サムライって?」

「……」


そこから説明が必要なのか。

もっとも、東洋のガラパゴスみたいな小さな島国の歴史なんて悪魔の女王様が知る由もないだろう。


忍は振り返って司さんを見ている。


「……」


微妙な沈黙が一瞬流れる。


「こういうの持ってる人達です」


見てたの刀の方だった。


「それ、日本刀よね。……セクシーよね。お土産に一振り欲しいわ」

「…………帰りまでに調達できるか、確認しておきましょう」


すかさず司さんが切り返す。

侍の話どこ行った。

ともかく、素早い返答にリリス様はご満悦のようだ。


この辺りは女性だなぁと思う。

忍だったら絶対本線に戻ってそもそもの疑問を解決したがるが、大体、女性は話がそれると逸れっぱなしでどんどん違う方向へ行く傾向がある。


これに気付いたのはオレではなく忍の方で、これは単純に、脳の使い方の性別差であるらしい。


「ツカサって言ったわよね。あなたは無駄に喋らないし、理知的で対応が迅速……嫌いじゃないわ」


すみません、対応の主導役オレなんですけど。

悪魔というのは実力主義とはよく聞くが、このままだと親和型な典型的日本人のオレは空気になる。

空気ならまだいいが、そこから不興でも買ったら減点主義で怖いことになりそうだ。

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