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3.魔界の女王がやってきた(1)ーリリス様の家庭の事情

「何?」

「リリスって悪魔としては結構有名な名前だと思うんですけど、悪い話しか聞いたことないのは気のせいですか」

「え、それってどういう意味?」


説明はあるだろうがつい、口をはさんでしまう。

忍は先ほどまでとはうって変わってごく、真っ当な返事をくれる。


「リリスは大蛇を体に巻き付けた女性の姿で描かれることが多い。主に裸なので淫魔的なイメージを持たれることも多いんだけど、人間……特に子供を大量虐殺するという話が……」

「めちゃくちゃ悪魔っぽくないか」

「悪魔だよ」

「いや、この国に来ないタイプの。この国にいないタイプの」


もちろん、親日なヒトたちは好感をもって接してくれるので、危険性をさほど感じることはないのは当然だ。

一方で、そうでないヒトもいるだろうことはわかる。

なんというか、神魔が現れるより前の「悪魔」のイメージはそんな感じだ。


が、そもそもそんなヒトは観光にも来ないし、関わってみると特に七十二柱など爵位持ちは、むしろ人間の文明発達に寄与してるんじゃないかというくらいの能力の持ち主も多く……


それを使って大量虐殺が行われたという話も聞いたことがないことに気付くわけで。


「そう。そもそも人間界には文字通り悪魔の所業をしにしか来ないリリス様が、観光なんて楽しみを求めてくるのは魔界歴で初と言える……」

「もうこれ以上聞くのやめた方がよくないか。難易度がどんどん上がってく」

「というか、なんでそんなヒトが日本に来る気になったんですか」

「だから言っただろ、ベレト閣下に聞いたって」


何、吹聴してんの?

あの王様何吹聴してんの?


……まさかの魔王つながりの情報ネットワークで、名前広げるのとかやめて。


「ともかく単に興味を抱いて単に観光に来るんだ。普通に案内してやればいいんだよ。間違っても、オレを呼ぶな」

「思いっきり面倒事ある感じで会話を締めるなよ。結局普通に案内させたいの? 不安をあおりたいの?」

「初めに言っただろ。俺はあんまり関わりたくないんだよ。性格的にもあるけど、魔界の政治的な要因もあって。女は怖ぇーぞ、の象徴みたいなとこがあるしな」


お前こそ着地点はどこなんだよ。

結局、めんどくさい政治的な関係に巻き込まれたくないのか、女王様自体に関わりたくないのか。


「でも、楽しみに来るってことだし、そう考えると普通に旅行だよね」

「お前のそのシンプルすぎる解釈は、今は救い」

「だからうだうだ聞かないで、普通に対応すればいいって言っただろ? 地雷は『アダム』だ。今は気の合う伴侶と仲睦まじく幸せに暮らしているからそこだけ避ければあとは普通に女王様の相手をすると思えばいい」


いつのまにか、女王様呼びになっている件について。

普通普通というが、ふつうに女性に振り回される未来しか見えない気がする。


「買い物好きな女とのデートだと思え」


……かくして。

その無理難題な言葉を最後に、オレたちはその仕事に赴くことになる。


カウントダウンは5日の間だった。






VIPが来る割には急な話ではある。

しかし、魔王クラスになると忙しい、じゃ断れない。最優先で対応になるわけで、今回は魔王の妻なので同様の扱いだ。


それに、5日間で何をするというわけでもなく。


「なぁ、リリス様って人間だったんだろ? 人間もそんな高位悪魔になっちゃうわけ」

「どうかな。原初の男女はアダムとイブって言われてる上に、エデンを出て悪魔相手にタフな日常を送っていることから、リリス様は初めから人間ではなかった可能性も高いような」


タフな日常ってなんだよ。

敢えて聞きはしないが忍はある程度の「予習」はしてきている様子だ。


「いずれにしても、今日という日は変わらない」

「そうだな。本人に会ってみないことにはどうしようも……」

「はーい、お・ま・た・せ」


急に声をかけられる。

そこにはいたってふつーに人間の美女が立っている。

一人なので誰かと待ち合わせだろうか。ともかく、普通に笑顔のお姉さんなので沈黙を破ってオレはそちらに向き直った。


「あの……人違いでは」

「……だって、ここで待ってるって聞いたわよ?」

「確かにオレたちも待ち合わせですけど」

「…………あなた……」


お姉さんの笑顔が消えた、その瞬間、横から忍がオレを押しのけるようにして声を上げた。


「リリス様ですね? 申し訳ありません。あまりにも人間の女性に近いお姿なので、勘違いをしてしまったようで」


えっ。


司さんも同時に気づいたのだろう。

表情がきっかり切り替わっていて、視線だけで「このヒトがそう」みたいな意味を伝えてきている。


えっ(二度目)。


あまりにもふつうのお姉さんなので、まだ切り替わりそうもなかったが、忍に小さく袖を引かれて我に返った。


……オレが応対のメインなんだから最初に挨拶をしなければならないのはオレだ。

すでに出遅れている感は満載だが。

促されて、とりあえず合わせた。


「失礼しました。お一人でいらっしゃるとは思わず……お目通り叶い光栄です」


とVIP相手ではテンプレ的な挨拶をして名乗り、随行としての二人の紹介も行う。

リリス様と思しき、どう見ても人間のそのヒトはじっと値踏みでもするかのようにこちらを見ている。


やめて。


「リリス様?」

「あぁ、ごめんなさいね。あなたたちのことは聞いてはいたのだけれど、つい、クセで」


どんなクセ?


「男を見ると値踏みしてしまうのよね」

「やめましょう。今日は一日買い物を楽しみましょう」


つい本音ながら大人しめに突っ込むオレ。

幸い、素直に聞いてくれた。


「そうね、じゃあ早速案内してくれるかしら」


出だしは普通だ。

普通に観光案内だ。


いきなり迎えてしまった山場を乗り越えて、ほっと安堵の息が漏れる。

今日は銀座界隈をショッピングという、平和なスケジュールの予定だった。


「リリス様は具体的にはどのようなショップがご希望ですか?」


ショップなどと普段使わない言葉を使うのは、お店、という慣れた言葉を使うとさらに「店」と常用している言葉が出かねないからだ。

「お」はいらないのかもしれないが、どの程度で失礼にあたるのかは神魔のヒトそれぞれ基準が違うので、ここは無難に行く。


「そうね、まずは服が見たいかしら。日本で扱われるものは質もよいと言うし」


そして、歩き出す。

ブティック店ならあちこちにあるわけだが、そこは歩きながら気になる店に入ってもらう算段だ。


しかし、歩いていると自然、会話時間も確保されてしまうもので。


「……」


何話せばいいんだよ。私生活な遍歴聞いてるだけに、逆に話振りづらいわ。

忍が無難なところからいった。


「リリス様は私たち三人をセットで指名してくれたようですが、何か理由が?」


忍は一方で、あまり堅苦しくない言葉を使っている。

女王というくらいだから、指名してくださったとかなんとか使った方がいいと思うのだが、こちらは様子を見てレベルを調整していく作戦らしい。


うん、普段使い慣れない言葉使いだすと間違ったときリスキーだからな。


細かい言葉遣いは気にしていないのか、リリス様の様子は特に変わったこともなく、はじめての街並みに機嫌はよいようだ。


「ダーリンから、ベレト閣下がはじめて人間界に行って怒らないで帰って来たって聞いたのよ。閣下も人間界に呼び出されるの大嫌いなヒトだから」

「……」


これ、どこに反応すべきなんだ。

いきなりダーリンとか言われたことか?

それとも、初めて怒らないで帰ってきたとこか?

閣下「も」人間界大嫌いとかいうところか?


最後のは地雷につながりそうなので、やめておこう。

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