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  火種(4)ー言葉遊びの臨界点

「自分ではがすよ、はがすくらい自分でできるよ!」

「傷の状態を見るから待ってろ」

「だからはがすのは自分でやるって……」


珍しく忍が悲鳴じみた声を上げている。

実はすっごい痛いんじゃなかろうか。

それとも司さんにいたぶられているのが痛いのか。


……多分、後者だ。


「司さん……貼る時間考えてますか」


助け舟のつもりだったが


「貼るのは一瞬だ。すぐに終わる」


どーーーいう意味ですか。

本当に、意味が分からなかったのでオレは助け船をあきらめた。

何を出してもどうせ、泥船なのは理解した。


しかし、そのすきをついて忍は司さんの手を押しのける。


べりっ


と音がした気がした。


「さぁあとは貼るだけです」

「お前、きれいに貼る方が人の手が必要だろ?」

「ちょっとガラスがあればできるから窓があるとこまで……」


がっ。


腕をつかまれる忍。


「……」


司さんホントに怒ってるよ、これ顔に出てないけど怒ってるよ。

誰に腹立ててるかって、たぶん本須賀じゃなくてこんな傷作って黙ってる忍の方に怒ってるよ。


……気持ちはわかる。


どっちの気持ちもわかるから、オレには見守るほかはない。


「秋葉、何後ろ向いてんだ!」

「オレもう見てられない」

「せめて見守って!」

「痛々しくて見てられないんだ、悪い!」


珍しく助けを求める声がしたわけだが、何がどう痛々しいのかは聞かないでほしい。


その日、忍は誰にも怒られていないのに、そして怒られるようなことを普段していないだろうのに、誰かにこってり絞られたあとのような疲れ方をしていた。



* * *



「いずれ……」


とその日すべての日程を終えて、司さん。


「それほどの案件だと部隊内では話になるはずだったんだ」

「それを口止めしたんだよ」

「その口止めは南さんの場合、隊長クラスでの情報共有になる。黙っていても、俺のところにも話は来ただろうな」


オレと忍の努力はすべてが水泡だった。

いや、そこで止まるならそれでいいんだけど。


とりあえず、オレと一緒に黙秘して、忍が司さんに絞られる必要はなかったようだ。


「司くんが怒ることはないでしょ。私がふっかけたんだから」

「いや、思い切り食らってんのお前だからな。オレには正論にしか聞こえなかった」

「とりあえず、部隊が一つだった時にどんな感じなのかはわかったよ。あと、そうそう大問題にされても困る。……ひとつくらい手札がないと」


待て。

わざと殴られに行ったんじゃないだろうな。


と思わざるを得ない発言を忍はぽろりとこぼしたが、さすがに警官が殴りつけてくるとは思わないだろう。

気のせいだ。


「その手札を取るために、全治一か月くらいの大あざを作ったのか?」

「いいえ、それはケフィアです」

「……」


完全にごまかしに行っている。

こうなると、忍の方もてこでも動かない。

それがわかっているのか、司さんは追及をやめた。


「ケフィアってなんだっけ。このフレーズどっから出てきたんだ」

「オレはお前の脳内の棚がどうなってるのか聞きたいよ!」


聞き覚えがあるようなないような。

そんな謎単語が時々、忍の頭の引き出しからこんなふうに出てくるわけで。


「ちょっと整理してくるから、待ってて」

「どこで」

「もうわかった。それはいいから、とにかく医者には行ったんだろうな」

「打ち身って医者行って治るものなの?」


行ってないよ、こいつ行ってない。

市販薬だけでここまで乗り切ってる……!


「……」


さすがに黙す司さん。


「鎮痛剤はもちろんだが、炎症回復を促進させる薬が出るから行ってこい」

「そうなの!? ……塗り薬って鎮痛作用だけかと思ってた」

「お前、食品の原材料とか見るのに薬の説明は見ないの?」

「青あざごときで薬使ったこととかないし。そこら辺ぶつければすぐできるでしょ? テーブルの角とか」


あるあるだけど、お前そんなヘマすんの?

そりゃ人間だから、それくらいしてんだろうけど、想像つかないわ。


痛みが伝わらないって怖いことなんだな。


「それだけ大あざ作ったんだから行っていいんじゃないか……?」

「まだしばらくかかるだろうから、薬くらいもらってこい」


当て逃げにしても完全に公務災害なんだけど、請求するほどのことでないと思っていたらしくそれ以前に医者にもいかないこの女子力。


「……皮膚科なの? 整形外科なの?」

「わからないなら病院行けよ。割り振ってくれるから」

「病院は時間かかるから嫌なんだよね。個人医院は当たり外れが酷くてそれも怖いけど」


大病以外は自分で治しそうな人がここにいる……


「とりあえず、これを使っておけ」


司さんが手持ちの外用薬を放ってよこす。

仕事が仕事だけに、最低限のエイドキットは持ち歩いている。

オレもよく、どこかにぶつけたり何かしら傷を作ると絆創膏をもらうことがある。

それも傷が乾かないやつ。最新式の高性能な感じの。


「ありがとう。……横流しの手札をくれて」

「………………返してくれるか」

「既成事実は消えない」


最近、どうも忍のうっ憤もたまっているようで、言葉の使い方が難解になっている(パズル的な意味で)。



今日は、よく晴れてるなぁ。



大分薄日になってきた光がビルの合間から差し込んでいる。

忍の相手を司さんに任せて、オレはのんきに空を見上げた。

次回から、急展開でシリアスモードを駆け上がります。……シリアスパート書き始めたらギャグパートの神様が3人同時に下りてきてるんだけど、一体どうしたら。

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