2.要石(2)ー八百屋は野菜を売るところです
オレの不安をよそに、しかし、話は進められていく。
「秋葉くんには申し訳ないと思っているよ。そもそも『初めの接触者』としてまっさきに巻き込んだのはこちらだし、危険なことは避けたいとは思っているのだけれど……君は、すでに多くの神魔と、それも神格クラスの神魔と関わりすぎている」
「……関わりすぎているっていうか、それがメインの仕事なんですよね? オレ」
というか、巻き込む巻き込まないでいわれるとその後、芋づる式にいろんな人を巻き込んでいるので、その言葉はあまり使わないでほしい。
色々がわかって来た昨今、それはオレにとって軽い言葉ではなくなってきていた。
「そう、だから知っておいてもらわないと」
「じゃあ忍を呼んだ理由は?」
「同じだよ。君と組んで一番顔が通っている情報部の人間。そして、君が情報共有をするにあたって、一番やりやすい人間。違うかい?」
そういわれればそうだ。
今更ほかの人間と組めと言われても、相談なんてしづらいだろう。
その点、忍は下手に気を遣わずに、かつ、大抵の相談に、なんだかんだ言いながら最後まで向き合ってくれる。主に自分の疑問を解消したい気持ちも出るのだろうが。
……それ以前に、泣きつくという意味では他の知らない人にそれはできないから……
いろんな意味で、適任だ。
「秋葉、何納得した顔してんの?」
「納得しちゃダメか?」
「違う、そういう意味じゃなくて……まぁいいや。すみません清明さん、それじゃあそれは情報部としての仕事ではなく個人的に、ということになるんですか」
「そうだね、秋葉くんには個人的な、というか組織の枠を超えた依頼もしてもらっていたけど、君もそういう立場になるということになるかもしれない」
え、オレ外交部の命令で動いてたわけじゃないことがあったの?
……エシェルの時くらいしか思い浮かばない。
そんなオレの心当たりのなさを看破してか清明さん。
「もちろん、外交部は通してたよ。ただ、部局の上からの仕事じゃなくて、こっち関係で回ってもらうことも多く」
知らなかったーーーーーー……
「どっちにしても外交として繋ぎ役だし、依頼の出元が違うだけでやってることは変わらないですよね」
「まぁそうかな。お役所にありがちな横連携のなさで問題が起こるのは避けたいところだし、そういう意味ではごく全うな仕事の仕方を僕らはしていたということか」
そこで逆に納得しないでください。
でも、オレ自身が気付かなかったんだからそこは上の判断の範囲で、忍の言う通り。
八百屋が魚売るような仕事はしていない。
「君もそういう認識でいいかな」
「いいですよ。じゃ、本題をどうぞ」
まずい、オレ、置いていかれそう。
ここから真剣に聞くことにする。
……どうせやることは変わらないのだから。
しかし、甘かった。
こんなところまで呼び出されたことをうっかり忘れていた。
やることは変わらなくても、話は重かった。
* * *
「どーするんだよ、オレたち。こんな情報抱えて普通に過ごすの? オレ、もうすでに心が平穏じゃないんですけど」
「そうだね、知らない方が平穏に過ごせたね。でも何も起こらない日の方が、異常なんじゃないかと私は思う」
「哲学モードに入らないでくれ。そっちは無理だ。あと、悟ったような顔で無表情なのやめて」
忍が哲学モードに入るのは、ものすごくどうでもいいことが起こっているときか、それなりに重要な疑問や問題が生じたときだ。
まさに今が後者だった。
逆に忍自身も問題だと思っているのだと考えれば、悩みは確かに共有されている。
「これ、一般人が知っていい情報じゃないだろ」
「そういう意味では、私たちはもうひとつ爆弾を抱えている」
そうだった。
エシェルのことがあった。
でもそれは、何も起こらない可能性の方が高いわけで……
「直接何かしろって言われたわけじゃなくて、もし何かあった時の連携要員として情報を仕込まれただけだから、大丈夫」
「そっか、そうだよな……予防線みたいなものだよな。何かあった時、みんな何も知らないとパニックになって終わりだもんな……だからなんでオレなんだよ」
「諦めましょう」
得意技をお勧めされたが、こればかりは穏やかではいられない。
清明さんの話の内容はこうだった。