ボロ市と正義の悪魔(3)
「財布です。そこの人間が、あちらにいる男性から盗んだようで」
え。まさか、取り戻した?
「そ、それオレのです!!」
先ほど鳥居の下で消沈していた男が、それを見て声を上げた。
「……盗んだ?」
財布を見て、名乗りを上げた男性を見て、露店の前でしりもちをついている男を見る。
交互に。
「確かに一番、悪役面だなぁ」
「ひっ」
顔を近づけられて、中年に差し掛かった無精ひげの男が小さく悲鳴を上げている。
それをみてニッと笑う御岳隊員。
「財布の中身の確認。本人確認が出来たら返して」
「はいっ!」
人間の事件処理は一般警察の仕事。
「こういうの、現行犯逮捕っていうんですよね」
「よく知ってるな」
「えぇ。法律は一応、読み込んできたもので。警察以外でも『現行犯逮捕』はできるのだと」
「それは頼もしい」
……ちょっと待って。この人本当に悪魔ですか。
全然わからなくなったところで、連れと思しき神魔が出てきた。
「アンドロジナス、何をやっている」
「アモン侯爵、いや、つい悪事を目撃してしまい……」
だから、悪魔なんですよね?
直接確認したいが、爵位で呼んでいるあたり、魔界関係者であることは間違いなさそうだ。
「なぁ、忍……ちょっと調べてくれない?」
「端末は持ってきていません。Gooogle先生に聞くしかないですが」
「じゃあ後でいいや」
気にはなる。
が、オレは先生のウソ情報に振り回されるので、余計な時間を使わせないことにする。
「御岳さん、確認取れました」
その間に、財布は持ち主の元へ返ったようだ。
「あ、あのっ! ありがとうございます!」
「いや、何。すぐに捕まえられてよかった」
返ってこないと思っていた財布の生還に、彼らの見た目が人間であることもあって、それでも勇気が要ったのだろう。
持ち主は礼を、叫ぶように言って勢い良く頭を下げた。
「お前がちゃんとバッグに入れとかないからだぞ」
「だってまさか日本でスられるなんて思ってなくてよ……」
「何度も放送かかってただろ、ったく馬鹿なんだから」
思い思いに連れにも責められる。というか、責めているほどの仲ではなさそうだが……
「まぁまぁ。せっかくのイベントなんだから、仲良く行っておいで」
そう仲裁に入ったのは、後から現れた神魔……アモンと言った悪魔だった。
それで言い合いをやめて、今度は信じられないほど素直に頭を下げる。
緩んだような笑顔すら見せて彼らは去っていった。
「…………………………悪魔?」
「いろんなヒトがいるね」
その一言で片づける森さん。
「本来なら礼に三割くらいまでもらえるんだけど……」
「勝手にやったことなので、必要ないですよ。それより露店が若干壊れてしまい」
「人間の方が悪いんだから、あとで賠償させる。気にしないで……」
そこに三人目が登場した。
「アンドロジナス、また首を突っ込んだのか」
「こればかりは自分でもどうにもなりませんねぇ」
「あなたは?」
さすがに三人も神魔に出てこられてか、御岳隊員の口調が少し変わった。
「これはお初にお目にかかります。私はオリアス。魔界で侯爵をしておりまして、今日は三人で観光にまわっているところです」
みんな人間の姿なのも気になるが、三人とも悪魔に違いないらしい。
これは外交官として出る幕はないが、見物人の振りをして眺めていてもいい感じだ。
「観光のさなかに、とんだ失礼を。楽しめていますか」
「あぁはい。これ、よろしければどうぞ」
なぜかたこ焼きをパックごと御岳さんに渡すオリアス侯爵。
さすがに一瞬「……」みたいにはなっていた。
「あちらの通りは市ではなく屋台なんですね。面白いです」
「それにしてもこれだけ人が多いと、今のような輩も多いのでは」
「伯爵。それは彼らの仕事なのだから余計なことをしてはいけないよ」
なんだろうこの三人。
全然関係が読めない。
なんというか、悪魔の中でも異色というか。
オレも悪魔相手には、怖い目にあったこともあるけど、それ以前にこの3人。威圧感が全然ない。
「それはどういう?」
たこ焼きを手渡された時以外、笑顔を絶やさなかった御岳隊員だが、今までとは違った笑みを浮かべて見えるのは気のせいだろうか。
何か面白いものでも見つけてしまったかのような……知らない人だしよくわからないけど。
「アンドロジナスは魔界では珍しい正義を司る悪魔なんですよ」
よくわからないけど!!!!
「悪魔に正義を司るとか……いたんだ」
「さすがに全員調べてみたわけじゃないから、私も予想だにしなかったよ」
森さんと忍に全面肯定だ。
「悪人や不正を見つけたり、盗品を取り戻すのも得意ですね。ある意味、こういう場所だから、腕がうずくのはわかります」
それ本当に悪魔!!?
いつも会ってる悪魔はもっと悪魔っぽいよ!?
主に多分、あなたたち三人の所属から来てる大使!
思っている間に人の円が崩れだして、元通り流れ始めた。
すでに窃盗犯は連行されているので、それを眺めているのは神魔に興味があるか、特殊部隊の御岳さんが目立っているかのどちらかだろう。
「ほほぅ? それはそれは……確かに看過できる状況ではないでしょう」
「えぇ。気になって仕方ないんですよ。正義の鉄槌を下すのが私の本領でもあるので」
むしろ、カミサマだろ。
何をどこまで信じていいのかわからなくなる瞬間だ。
Gooogle先生は誤字じゃないです(笑) ←むしろoの数が一つ多いことに気付かない人の方が多い気がする。
 




