1.それぞれのオフー秋葉の場合
本流シリアスパート胎動編が終了したので、再び日常パート。
オフの日からキャラたち共々、日常に戻ってください。
天使が再来したと思われた事件から、しばらくたった。
その間にも何やかんやとはあったが、ようやくみんなが落ち着きを取り戻した頃。
「秋葉、お前、バイトしない?」
突然だった。
突然のお誘いだった。
突然であろうがなかろうが、ろくでもない内容だろうので、特にブレもなくいつも通り返す。
「オレは一応公務員なの。副業は禁止! ……ってか、何させようとしてるんだよ」
声をかけてきたのはダンタリオンだ。
意図はわからずにつっこみ半分、疑問半分聞き返す。
「庭師が体調崩しちゃって、ちょっと荒れ始めてんだよ。……オフの日でいいから草むしってくれないか」
「お前……オレのことを一体何だと……」
ここの庭園は広大だ。
そんなものはシルバーボランティアセンターとかに依頼すれば、喜んで来てくれるだろうになぜオレなんだ。
「オレ……実は人見知りなんだ。あんまり知らない一見さんは入れたくないんだ」
「嘘をつくな」
後半は本音っぽいが、明らかに前半は無表情で言ったので、嘘とみなす。
「就業規則くらい守らせてくれよ。それに休みくらいゆっくりしたいんだよ」
「しょーがねーな。他の奴に頼むか」
初めからそっちに声かけてくれ。
あっさり引いてくれたので、オレの次の休日はいつも通り「普通」に過ごすことができた。
「いい季節になったなー」
今日は晴れている。
風があるともうエアコンを使わなくても、いいくらい涼しい風も入ってくる日が増えた。
こんな日は……
どうするか。
いつもだと、割と家でまったりすることの方が多い。
社会人になるととかく学生時代の友人とは、疎遠になりがちではあるけれど、連絡を取れば遊べないこともない。
二年前のことがあるから、地方へ戻ったやつの方が多いが、都内に残っているタフな友人は、休みに限らず時間さえ合わせれば会うことは可能だ。
都会はいろいろな仕事があるから就業時間もバラバラだったりで、なかなかそこまでたどり着かないのが現状だが。
毎日でかけているのでわざわざ「店に行こう」ということも意外となかったりする。
用は大体、出勤、帰宅時に足りてしまうのは都会ならではだろう。
そんなわけで。
映画鑑賞や観劇などの趣味でもない限り、こうなる。
けれど、その日はあまりにも良い秋晴れの日だったので、オレはでかけてみることにした。
特に用はないので、しいて言えば、散歩の延長だ。
「あら、秋葉ちゃん。今日はオフなの?」
なんとなく涼しい風は、意外なまでに心地よかった。
海側の近い駅で降りて、適当に歩いていると、顔見知りの神魔に出会う。
「えぇ、アパーム様は何してるんですか」
「今日は、知り合いの神魔でビーチバレーしてるのよ。……浜辺でするのよね」
うん、ここは整備された海浜公園だから、浜辺には近いけど、砂浜の間違いだと思います。
オレは遊歩道から下った先の、緑地でわーわーと余暇を楽しんでいる神魔のたちの姿を見た。
……見た目、異形のブレ幅が広すぎて、何の集まりかと思う。
「一緒に遊んでく?」
「楽しそうだけど、今日は遠慮しておきます」
オレは、その時、気合とともにアタックを仕掛けた男神のボールが、炎に包まれものすごい勢いで緑地にクレーターを作るのを見た。
彼らにとっては、下がコンクリートでも砂浜でも大差はないんだろう。
また誘ってください、とやんわり断って気さくな女神さまと別れる。
どっごーん。
背にした現場から、また、破壊の音が聞こえる。
悪意はないから、元通り整地して帰ってくれるだろう。
割と、公園ではよく見かける光景なのでそのままにしておく。
「あれ、外交官さんじゃない。ひとりでお休みかい?」
……このヒトはいつ会ったろうか。
上級神魔の気配はなかったが、そう声をかけてくれたのは見た目、つるりとした皮膚を持つ、大きな目のヒトだった。
「そうですけど……何してるんですか?」
彼は酒屋の店先で、ビールの箱を5箱くらい両腕に積み上げて運んでいた。
体の大きさ的には人間よりちょっと小さいくらいなのに、この怪力は神魔だな、と思う。
「ここの店主と仲良くなってさ、手伝いしてるんだ」
人と良好な関係を結んでいるようだ。
一般の観光神魔だろう。
おつかれさまと声をかけて、再び歩き出す。
「外交官さーーーーん!」
オフの日だから、その呼び方はやめてほしいと思いつつ、後ろから追いすがってくる誰か。
「この間の外交官さんだよね!? ちょうど良かったー! 迷子になっちゃって。駅どこ!?」
ちょっとかわいい系の小悪魔女子だった。
この子は覚えている。
前も迷子で、その時は時間があって、交番まで連れて行ったから向こうも覚えていたんだろう。
「駅なら、あっち。すぐ近くだから、角曲がれば上の方に線路見えるから」
「ありがとー!」
急いでいるのか走り去る。
……この街、神魔の方が多いの?
海浜の、整備された道を歩きながら見まわすがそんなことはない。
近隣住民と思われる人たちも、一つ下の遊歩道の辺りでのんびりしている。
「秋葉くんじゃないか。久しぶりだ」
何ゆえ。
行く先々で、次々と神魔に会う。
誰もかれも、人よさそうに気さくに声をかけてくる様にオレは、ふいに疑問に思った。
……オレの知り合い、神魔の方が多いの?
そんな、人生に一石投じられそうな、珍しいオフの日だった。