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  不機嫌な悪魔(2)

いつも通りだ。


忍はそれを見て手にしていた猫じゃらしをなんとはなしにぱたぱたと揺らしている。


「その前に確認をしたいのですけど」


その手を止めて、先に口を開いたのは忍だった。


「エシェルのこと、この先も黙っていてくれるんですか」

「……話次第だな」


やはり。

明暗は分かれるんだろう。

ダンタリオンにとって無害、すなわち「めんどくさいだけ」と判断されれば、黙っていてもらえる。

が、「敵」と断定されればおそらくはすぐに動くことになる。


下手に出るより忍に任せた方がいい。

オレはそう判断して、できるだけ黙っていることにする。


顔を見合わせて。

それを察してくれたのか忍が話をつづけた。


ただし、内容は昨日、エシェルから聞いたものことを包み隠さずそのまま、だった。



「ふん、……秋葉の顔を見るにそれで全部だな」

「……何でオレで判断されるんだよ」

「シノブは嘘は言わないが、本当のことも黙っていることがある」


性格を見抜いている。

双方言葉に長けるからだろう。

オレにはわからないが、たぶん、何か『シナリオと違う』ことを言われたら、確かにオレの顔に出ていただろう。


逆に、途中途中でオレにも確認を入れながら、話しきったことで「すべて」と判断されたのかもしれない。


「隠す必要のあることが、ないからです。ひとつ危惧すべきは『何らかの方法で外と繋がり、命令が下った際は天使として動く』可能性があるというだけで」

「つまり、命令が下らなければ動かない、ということで間違いないんだな?」

「……」


確認の間があった。

その通りだ。

それはオレたちも確認し、エシェル自身もすでに承知しているところだ。


「そうだよ。天使が命令に絶対だっていうなら、それって命令さえなければ傍観者だってことなんだろ?」

「お前にしては真理をついてるな」

「どーいう意味だよ」


それでもいつもどおりの小ばかにしたような表情かおすらなかったので、ダンタリオンもそう思っているんだろう。

とりあわずにちょっと考える間があって、少し瞳を伏せる。


「つまり、外と繋がりさえしなければお前たちの『味方』でもあるわけか」

「?」


解釈がよくわからない。

が、それは独白だったんだろう。

ぽつりとつぶやいて、それから顔を上げた。


「ただのフランス大使だってことだ」

「!」


現時点で、ダンタリオンはエシェルのことを無害……とは言わないまでも、大げさにすることではないと判断したようだ。

そして、判断を下し終わった後の顔には


めんどくさい


の文字がはりついていた。

オレと忍の頬がほっと緩む瞬間でもある。


「公爵、随分と一日気をもみましたね」

「シノブ、いつまでそれ持ってんだ。いい加減放せ」


タクトのように手にしたねこじゃらしを上げてふったので、ついにつっこまれる。

実は、説明の間中、手にしたままだったので気になっていた様子。

不用意に動かさなかったせいか、オレはそんなの気にする余裕もなかった。


「それに一日中じゃないんだ。さっきも言っただろう。どこぞの誰かが朝っぱらからそんなもん持ってきて顔の横で揺らすもんだから目障りったらなくて……」

「ねこじゃらしね、ふわふわしててきれいな色だし揺らすと楽しい」

「お前ら、お手軽だよな。楽しみ方が」


今頃、もう一人の魔界の侯爵は東京タワーだろうか。


そうやって気を紛らわせていてくれたのかもしれない。

などと、ニンゲンのオレはどうしても勝手に思ってしまう。


「秋葉、時間あるから東京タワーの階段制覇しに行ってみる?」

「無理だ。第一、東京タワーなんて小学生以来行ってないぞ」


地元の認識というのはこんなものだろう。

ちなみにスカイツリーにも、上がったことはない。



「東京タワーね……なんでスカイツリーが出来てから東京タワーの方に行きたがるかな」


ダンタリオンの素朴な疑問。

いや、疑問にすら思っていないのかもしれない。

ただ、口に上っただけで。


それでも忍が答えた。


「わからないですか? 公爵」


呆れたように天井を仰いでいたダンタリオンが再び視線を戻すのを待って、継ぐ。


「高すぎるんですよ。……街が、遠すぎる」


それは名の通り、高い高い場所。

はるか遠くを見渡せる場所。


けれど、すぐ足元も、街の灯りも美しいと思える距離を超えている。


ダンタリオンは、しばらく黙っていたが、咀嚼をするようにそれをじっと復唱しているようだった。



まるで、まったく違うことを問答していたかのように。



「高すぎる……か。よし、機密を聞きだせたご褒美に、今度オレがフライトチャーターで夜景観光させてやる」

「マジで!?」

「やったー」


どういう展開なのか。


そして、オレたちは人生初のヘリコプタークルージングを確約することとなる。




ひとつの問題が消え、そして待っていたのはまた、いつもの日常だった。

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