表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/445

3.不機嫌な悪魔(1)

外交の仕事は、スケジュール調整がメインと言っていい。

エシェルのところで起こったのが昨日の今日で、しかし、ダンタリオンにはすぐに報告に行くべきだろうと、オレと忍は話し合って別れた。


だから、公館へ行くことにしたのは翌日だ。

忍はデスクワークもあるだろうに、すぐに予定を合わせて一緒に来てくれた。


あいつのところへ行くのに、こんなに足が重いのは初めてだった。


「考えてみたら……もう少し、間を開けても良かったんじゃ……?」

「私もそう思った。でも、それで公爵がやきもきするか逆に冷静になるのかが、わからなかった」


その通りだ。

元々余裕しゃくしゃくな感じなので、あそこまで腹立たしそうな顔をされると、どの段階で切り替えがきいているのかわからない。

その前に起きた事件が事件だけに、あいつにしてみれば立て続けに不愉快なことが起きたことには間違いないだろう。


「間が悪かったよなぁ」

「しかし、この間でなければ起こり得なかった事態であり」


ため息をつくオレの横で、忍もそうしたそうだったが、至極、冷静な感想を述べてくれた。


そうだな、怒ったことをぐだぐだ言っても仕方ないか。

今日のオレたちの仕事は、昨日わかったことの報告だ。


それから、できればエシェルの正体については黙っていてもらうこと。


こればかりは、オレだけでなく忍にもどうにかできる事ではないと思うが……

本気の意味で、善処したい。




そして。


見慣れた門をくぐり、アプローチを抜けて、いつもの部屋に向かう。

ノックをして……


「はい」


すこぶる不機嫌そうな声に、今しがた入れたばかりの気合が早くも折れかかった。


「すっごい機嫌悪そうだぞ、どうする?」

「ノックしておいて入らないともっと不機嫌になる。行きますよ」


短く促されて、意を決してオレはドアノブを回した。


「……またそんなしかめっ面で、君はもうちょっと愛想よくできないのかなぁ」

「愛想が悪いのはお前がいるからだよ! どこから持ってきたこのねこじゃらし!!」

「なかなかかわいいよね、これ。猫がじゃれつくのが分かる気がするよ」


言い合っていたのは、ダンタリオンとアスタロトさんだった。

応接セットではなく、マホガニーの大きな机に腰を掛けながら、アスタロトさん。

そなえつけのゴージャスな椅子に腰かけて不愉快そうに、頬杖ならぬ、あごに杖をついてそっぽを向いている部屋の主の顔のすぐわきで、ふわふわと緑のねこじゃらしを揺らしている。


「やぁ、こんにちは」


いつもの笑みを浮かべながら挨拶してきた。


「……こんにちは」


と挨拶をかわしつつも、肩口から後ろ手に持ったねこじゃらしはひっこめない。

ダンタリオンがぺっ、と左手でそれを払いのけた。


「いいから退散しろ、これからオレは仕事なの!」

「え~? いいじゃないか。いつも一緒に話聞いてる仲じゃない」

「今日は極秘事項だから駄目。というか、お前が、勝手に話に入ってきてるだけだろう」


言い捨ててから立ち上がり、突っ立っているオレたちに応接の方を勧め、それを見送ってから、アスタロトさんは机から降りた。


「盗み聞きも禁止だぞ。……お前は信用できないから結界も張っておく」


薄青い光がドアの辺りから床をなぞった。

それを見下ろしながらアスタロトさん。


「ここまでしなくても、ここの壁は厚いから外には聞こえないよ」

「それが信用できない」

「まったく。君は疑り深すぎはしないか?」

「……」


悪魔とは思えない言葉を放ったのは故意か無意識か。


「昨日仏頂面をして帰って来たと思えばこれだよ」


終始黙っているのが珍しいと思ったのか、オレたちの方に向かって言った。


「今日も朝からずっとこんな調子」

「それはお前が朝からずっとオレをおちょくってるからだろうが! お前が消えれば万事解決だ!」

「……ほら、カリカリして。言われなくてもでかけてくるよ。今日は東京タワーの階段の開放日なんだ」


……どーいう情報ですか。

いつもならつっこみたいが、このヒトは特につっこんでもつっこまなくても変化がないので、今日は敢えて黙っていることにした。


……隣で忍は、ちょっと心惹かれたような顔をしている。


「今ちょっと行きたいと思っただろ」

「ちょっとね」


ぽつりと目も合わせないで呟きあった。

アスタロトさんは出ていく前に、こちらに来ると忍に手にしていたねこじゃらしを渡す。


「ねぇ、君ならこんなものでも面白いと思うよねぇ?」


そして猫のように細い目で笑って出て行った。


「……やっと静かになったな」


ため息を大仰につくダンタリオン。

確かにアスタロトさんがいなくなったら、いつも通りの顔に戻った。

本当に、朝からおちょくられていたらしい。


……多分、仏頂面してたからおちょくりたくなったんだろう。


日本広しと言えど、そんなことをこいつにしでかすのはアスタロトさんくらいだ。

妙なパワーバランスが出来上がっていた。


「それで? 何か有益な情報は得られたのか」


どさりとソファに腰を落とす。

そのまま尊大に足を組んで、肘を大きく背もたれにかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*関連作品*
 アニメ動画まとめ→ https://youtu.be/DUFpxGlWz6c
 派生作品
  季節短編集:https://ncode.syosetu.com/n7535gr/ 
  せかぼくラジオ(日常小話):https://ncode.syosetu.com/n9500gu/ 
  スピンオフ魔界日常編「S-side」:https://ncode.syosetu.com/n5218hc/ 


*シャイな方はこちらで応援お願いします(*'ω'*)
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ