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  籠国の天使(2)ー熱なき炎

私用なので電車を使っていく。

駅を降りると、なんで? というヤツが待っていた。


「公爵、どうしたんですかこんなところで」

「外交に連絡取ったら、お前が休んでこっちに行くって話聞いて」

「興味なかったんじゃないのか?」


ダンタリオンだった。


「無かったけど、無能な国策の上にいる奴らがしでかした、無能な管理能力のせいでいらん労力差し出したことが気になり」

「いつまで引っ張ってんだよ。お前はそいつら一掃してきたんだろ?」

「その節は、ありがとうございました」


そこ。深々礼述べなくていいから。

もう本当にやられてんな、こいつ。


「それで。なんでここにいるんだ?」

「こっちはこっちでいろいろ調べてんの! わかったらフランス大使館へ連れてけ」


…………休みを取った必要性について。


「しっかりつなげよ」


嫌だぁぁぁぁ!


今日は全力でやっぱり行きたくなくなった。


「エシェルは神魔が苦手だって言ってたよ。連れて行くのはまずいんじゃないかなぁ」


そうだった、それもあった。


「勝手に行ってもらって、勝手にお帰り願われるのがいいよな」

「おい」


冗談はともかく(本気だよ)、嫌だという人のところへ仲良くしてねなんてつなげないだろ。

こっちはアポ取ってるけど、明らかにお前アポなしっぽいし。


サプライズで渡したプレゼントの中身が、嫌がらせクラスの嫌いなものだった、みたいな展開になるのは目に見えている。



「本当にダメそうなんだよ。結構真面目なタイプだから、お前みたいなのがいきなり行くと相性最悪みたいなことになりかねない」

「オレは別に構わないぞ。負ける気はしない」

「シスターバードックと違うんだよ! そういう最悪じゃないんだよ!」


険悪な雰囲気で、不穏な言葉を笑いながらぶつけ合える関係にはなれすらしないと、オレは思う。


「そうだね、エシェルの方が嫌がってるんだからもうその時点で勝ち負けとかないから」

「なんだよ、張り合いがない大使だな。人間の大使ってそんななの?」

「普通は張り合わないんだ」


やめてくれ、と思いつつ。


「じゃあオレは人間に化けて、伝言、ってことで要件を聞くことにするな」

「要件聞くだけなら、オレが聞いてきてやるから本当に、やめないか?」

「お前らの話聞いてたら興味も湧いてたんだ。この際、どんな奴なのか直接見るのもいいかなと」


藪蛇だった。

悪口でなくとも、余計なことをする奴の前で、余計なことを言ってはいけないんだ。


オレはいつ話したのかもわからない雑談を後悔した。


「別に一緒じゃなくてもいいんだけどな? 秋葉から紹介されましたーって言って……」

「わかった! わかったから、見た目はせめて品のいい執事っぽい人にして、ぜっっっったいに地を出すなよ。そして、敬語使え。品行方正な伝言役に徹して、それ以外はしゃべるな」

「注文が多いな」

「要約すると、1.品よく 2.伝言以外の接触禁止 になります」

「要約しすぎだぞ、シノブ」


エシェルとは気心が知れてきた気はするが、気難しいところは相変わらずなので、相性的に本当に、会わせたくない気がする。


というか司さんのことを気に入るくらいだから、ダンタリオンのことは気に入らないのは目に見えている。

比較対象としてわかりやすい。


* * *


そして、結局駅前で待ち伏せていたダンタリオンの公用車(運転手付き)で、フランス大使館へ向かった。

駐車場へのチェックも警備員により一応入るが、元々人の出入りが少ないので顔パスだった。


ここはいつ来ても閑散としている。

車を降りて、エントランスへ向かう。

メインファサードを抜けると、エシェルはいつものように、迎えに来てくれていた。


「やぁ、こんな昼日中ひるひなかから、珍しいね」


しかし、初めて会ったころに比べたら随分と軟化したその笑顔は、見知らぬ人間の執事の存在に気づき、消えた。

……ただ、消えただけだ。

別に険悪な顔をしているわけでもない。


オレたちと初めて会った時と同じ、表情のない瞳。


オレは、これは長いこと一人だったエシェルが、自分を守るために警戒としてしている表情かおではないかと思う。

実際にこの表情だと、嫌悪や微笑を浮かべられるより、何を考えているのか読み取りづらくなる。



……オレはそこまでして人の表情を読もうとしないが、とっつきにくい感じになるのは確かだし、忍やダンタリオンだと腹の探り合いになるだろう。

仕方ないので、ダンタリオンが余計なことを言わない内にフォローを入れる。


「この人な、伝言を預かってきてるある人の執事なんだ。急に連れてきて悪いんだけど、ちょっとだけ話聞いてもらえるか?」

「……」


反応が悪い。

明らかに、拒否の方向に空気が向いているのは気のせいだろうか。


「エシェル、ごめんね。私たちもすぐそこで会って、連絡する間がなくて」

「いや、かまわないよ。それより伝言というのは?」


奥へ通す気はなさそうだった。

忍の言葉を聞いて、ようやく返事をする。その場で、済ましてしまうつもりらしい。


「……『聞きたいことがあった。この間、この近辺に現れた天使の件だ』」


姿も声も変えたはずの、老紳士の姿をしたダンタリオンの口からは、ダンタリオンそのままの口調で、話が始まってしまった。


「……」

「ちょ、お前な! 挨拶くらいしろ!」

「いいや? もう必要ないな。大体わかった」


そういうとダンタリオンは、少し見下ろす視線で、オレに向かってため息をひとつつく。


それからエシェルに向き直った。


「人払いしろよ」

「……お引き取り願おう」

「いいや。重大なことでね。直接聞くことにしたよ」


そういうとダンタリオンは、姿を戻してしまった。悪魔のそれへ。


「公爵……!」

「わかってるんだろ? 用件は。とんでもない『当たり』だな」

「お前、何言って……」


ダンタリオンはエシェルを見据えたまま。

エシェルもまた、ダンタリオンが姿を戻したことに驚きすらしなかった。


初めから、気付いていたかのように。


「人払いなんて必要ない。ここには、僕しかいない」

「ガードマンは? いいのかよ」

「用件があるのなら、君が幻術なりなんなりでなんとかしたらいいじゃないか」


え、この二人……知り合いなのか?

それも相当険悪そうだ。

でもダンタリオンは、エシェルの話をしても今日まで反応しなかった。

エシェルにとっても、ダンタリオンの能力までは知らないはずだ。


その理由は、すぐに明らかになった。


「へぇ、つまり好きにしたらいい、ってことか」

「荒らさないでほしいね。ここは仮にもフランス国の領域なのだから」

「いいだろう。建物も人間も、無傷なままにしてやるよ」


青い、光がうすぼんやりと背後の入り口を起点に床に走った。

これは賭場場で見た……ダンタリオンのテリトリー。

結界のようなものだ。


「公爵? どういうこと?」

「悪い。お前らは締め出してる暇ないな。でもお友達なんだろ? 巻き込みたいとか人間じみた演出したいなら、さっさと正体を見せろ」

「……」


前半分は、オレと忍に向けて。

後半はエシェルに向けて、放つ。


「その気がないなら、仕方ないな」


ダンタリオンがエシェルに向かって右手を差し出した。

それが何を意味するのかは分かる。

不法賭場で、暴れた時に、何度も見た仕草だ。


「おいっ!」


制止する間はなかった。

爆音、爆風。

次の瞬間、それがオレたちを正面から襲った。


一瞬だった。

思わず庇った顔を上げると……



炎の渦が立ち上っていた。

エシェルの立っていた場所に。


「え……何、を……」


その炎の中に人影がある。

うずくまるようにして、腕をついている。

まさか。


オレの視線はそこから動かせなくなった。

高いエントランスを焦がすほどの高さの炎なのに、不思議と熱はない。

しかし、その炎の中で呻いているのは……


「エシェル……?」


忍の呟きに、確信をする。

さすがに忍も、何が起こったのかわからないようだった。

それを理解させるように、ダンタリオンは立ち上る炎の根元を見ながら、言った。


「そいつ、人間なんかじゃねーよ。神魔でもない。……なぁ、だとしたら何か」

「……」


ダンタリオンは、天使の件で調べているといった。

天使たちは厚木の研究所から、ここまで何も壊さずにやってきた。

そして、ここからほど近くの上空に留まった。


あの時。


天使たちは何かを探しているようじゃなかったか?


オレは、なぜかその光景を思い出した。

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