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  天使再来(2)ー発生源

当然、警官には止められた。


だが、制服を見れば護所局の人間であることは相手にもすぐに分かったし、「白の制服」は一般武装警察より上位組織であることが浸透しているのか、すんなり通れた。

それは警察内のことだけのはずだが、彼らもそこまで気にかけてはいられないのだろう。


身分証をわざと見えるようにかけなおして、警官が誘導しているその後ろの、今はぽっかりと開いている道路の真ん中側に抜ける。そこから現場まではわりと近い。


破壊の痕跡は見えているのだから。


「……ていうか、これ。本当に『危険性は低い』か?」


それを間近で見てオレは思い出した。

二年前の光景は、ビルが破壊され、信号は倒壊し、道路のアスファルトも穿たれていた。


……形跡が新しすぎるが、同じ状況である。


考えてみたら、『2年前より』って言ってたよな?

2年前よりマシなだけで、ここだけ局地的に危険には変わりないんじゃん!?


オレのアホ!


思わず頭を抱えるが、もう遅かった。


「秋葉くん……!?」


白服の、特殊部隊の人から声がかかった。……浅井さんだった。


「どうしてこんなところに……」

「すみません、近くにいたんですけど逃げそびれて」


自分から来ちゃった☆とは言えない状況だ。

というか、本当に、どうしてこんなところに来たんだ、オレ。


開いた道のど真ん中を、何台かのワゴン車が通り、一台がそのすぐ横で止まる。


「本当に、なんのために、情報を流してあげたと思っているんですか」

「……うん、ごめんな」


遮光ガラスで内部の見えないそこから降りてきたのは忍だ。


「浅井さん、どうします? 特殊部隊で預かるには人数足りないでしょう」

「できればそちらに合流させてくれるかな。何が起こるか、まったく想定できない」


オレの身の振り方が、相談されている。


忍は一度ワゴンの中に何事か話しかけると、オレをそちらに乗せた。

浅井さんは、再び車が走り出すのを確認してから、すぐに姿を消した。


「近江君、大丈夫かい?」


見知らぬ情報ターミナルの職員が話しかけてきた。

壮年の男性だ。おそらく、上役に当たる人だろう。


「えぇ、すみません。……何かできることがあったら手伝いますので」


と言いながら、車内を見たが、内部は相当カスタマイズされており、後部座席は取り払われて、開いた空間に機材がセッティングされている。

そのまま軽くネットカフェが事務室転用されているかのようだ。


……できることは、なさそうだ。


「何台かで来てるんだな。全部こんな感じ?」

「だね。ただ……一台で来ると潰された時に動けなくなるから、分けてある」


物騒! 物騒だよ!


やはりオレの認識が甘かった。


「『一応』、合流したからには情報を共有してもいいですか? チーフ」

「そうだな、近江君、聞いておいてくれるか?」

「あ、はい」


一応と言った言葉の通り、忍が話したのは本来はオレが知るはずのない情報……つまり、さきほどメッセージで送られて来た内容の復唱だった。


しかも『厚木方面から来た』ことには触れていない。

そこは本当に、現段階で開示できない情報なのだろう。

それくらいは理解できる。だから、聞けるところを聞く。


「でも6体って……少なくないか? どうしても大挙するイメージがあるんだけど……」

「それについては情報が入っているんだけど、不確定情報だからまだ話せない。ただ、結界が破られたわけではないし、それ以上増えることはないと思われる」

「……それってつまり、国内に存在してたってことだよな」


オレらしくない妙に鋭い見解だったのか、総員が黙り込んでしまった。

逆に、オレの方があわあわしてしまう。


「いや! それ知りたいとかじゃないから。保護してもらっただけで十分だから! あと何かできることがあればやります!!」

「あぁ、人手が多いのか足りないのかもわからないから、助かるよ」


ほっと胸をなでおろす。

別に深くつっこみたくないという意図は伝わったようだ。


そもそも領分でないのだから、そこは微妙なところだろう。

すぐに車は現場に到着した。


特殊部隊の、おそらく全員が揃っていた。


「白上さん、こちらも揃いました」

「……」


最後に到着した車を降りて、中と外に出す機材のセッティングに動き始めた面子を見て、黙す司さん。


無論、その理由は、オレと忍の存在にある。

どうしてここにいるのか。

言いたいことは一択だ。


「はい! 挙手しました」

「すみません、逃げ遅れました……」


もはや馴染みであることを知ってか、現場監督であるらしいチーフはそのちょっと後ろからそういったオレたちの言動を阻みはしなかった。

それどころか緊急事態でもかかわらず小さく苦笑したのは、やはりこの現実離れした状況に危機感が欠けているのか、それとも別の理由があってか。


いずれ、内情まではわからないことだ。


「事情は大体わかったが、もう一度確認も含めて伝えておく。荻野チーフ」


チーフの名前は荻野、というらしい。

司さんはオレたちにそう言ってから、チーフに声をかけ、現状を継いだ。


「天使の数は情報通り6体。すでに術士が囲んでいて、周囲1キロの範囲で封じている。情報局員の拠点付近は更に、結界により最低限の護りは敷かれるが、絶対ではないと理解してほしい」


天使がこの上空から動かない理由はわかった。

すでに、何らかの方法でこの辺りに縛り付けているから、と。

絶対数が少ないからこそできる芸当だろう。


そして、現在地付近も破壊されたビルのようにならない程度には守られるようだ。


「わかりました。こちらの任務については、事前に通知したとおりです。各部署への伝送、特殊部隊の連絡系統の維持、それから新しい情報が入り次第、ターミナルとして機能します。……しかし、天使たちは……?」


荻野チーフの視線が、空に向かう。

6体の天使たちは無軌道に羽ばたき、行きかうばかりで、こちらを攻撃してくる気配はない。


「この辺りに術士が縛ってから、ずっとあの調子だ。……何かを探しているようにも見える」


司さんも見上げた。

想定していた「緊急事態」とは勝手が違うようだった。


「チーフ、本部から連絡入りました」


導通確認が済んだのか、すべてのスタッフが定位置についたところで、オペレーター役の一人が、声をかけてきた。


「……全員に通しても?」


それにはオレも含まれる。


「近江君、ここで見聞きしたことについては、現時点ですべて機密項目となされる。何があっても外部へ漏らさないこと。いいね」


荻野チーフは本来は部外者であるオレに確認をとってから、オペレーターに指示を出した。

無線からの音声と、肉声が混じって聞こえる。



「現在、六本木上空に現れた天使の数は6体で確定。厚木基地にて研究対象とされていた天使が逃走したものとの最終情報です。国内の結界にほころびはなく、6体すべての処分命令が、本部局長より下されました」

「…………!」


誰もが寝耳に水だったのだろう。

この天使は「国が飼っていた」ものだった。

いきさつは不明だが、研究対象というからには捕獲して、生体研究でもしていたんだろう。


「人類の敵」であるのならば、その正体を知ることは重要だが……


2年以上も、この国の中に「それ」がいたと思うと気味のいい話ではない。

振り返ると、ささやきあう情報局員たちの顔にも、動揺を筆頭に、嫌悪や困惑、様々な色が浮かんでいる。


「トップがしでかした不始末、か」


司さんが上空を見上げながらぽつ、とつぶやいた。

そのために最も危険にさらされるのは、司さんたち特殊部隊だ。


それを思うと、じわりとしたものが腹の中から湧いてくる気分だった。


「幸い、6体だ。あの数なら、引きずりおろせればなんとかなる」


切り替えたのか、司さんはそう言って、無線のマイクで指示を出し始めた。

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