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  ミーハー警官と現実の誤差(3)

「それに、それだけの切れ味を維持するには手入れも相当必要でしょう? ……車買ったら、月に一回洗車すればいいとかそういうレベルで持てる武器ではないと思う」


お前、いつから話聞いてたの。


忍が真顔で言うので、一木たちも耳を傾けている。


「まぁ確かに……刃こぼれさせたら終わりだしな」

「そんなに試練の道が……」


甘く見ていたらしい一木。


「司さん……」


少しは反省したようだ。


「一木、わかったらお前、現実と中二病を混同する癖……」

「オレ、精進します!!」


は?


「神魔の方々とお近づきになりたい! だから秋葉先輩みたいに外交に異動希望してたけど、せっかくここにいるんだから……極めます!!」


……極めるどころか、指一本本物に触れたことがない俄かが何を言っているのか。


今どきの官公庁に入ってきた本音も漏れ出ている。


「……まぁ、いいんじゃないのか? 本人がやる気なら」

「ほんとですか!? 見込み有りますか!」


いや、今のは俺には関係ないから好きにしたらという意味だと思うぞ。

そもそも見込みなんて今までのやり取りからどうやって見出すんだよ。


「見込みはともかく、モチベーションを維持するのは大事だ」


はっきり言われた。

しかし、本人は恐ろしいまでのポジティブシンキングでやる気になっている。

もっと面倒なことにならないといいが。


「……一木くん、極めるなら今現在の仕事をまずこなすのが第一歩だよ。巡回頑張れ」

「ありがとうございます!」


そして、誤認をしたまま見回り組はモチベーションを上げて去っていった。


「ナイスだ、忍」

「だって話し終わらなそうだったし……それとも司くんはもっと話したかったかな」

「いいや」


全く。

という心の声がはっきり聞こえた。


司さんと忍は旧知……かどうかは知らないが、三人で初めて組むときには既に面識があるようだった。

どうやら司さんの妹と忍が友人らしい。

その程度の関係で、本人たちに深い交流があるわけではないらしいことはすぐにわかった。


それよりも難易度が高い仕事の場合は性格的にこの面子で何とかなることが多く、自然、三人で顔を合わす回数は増えていた。


「しかし、司さん、あんなにかわしてたのによく渡す気になりましたね」

「あれは支給品だからな」


そう言う。

そういえば時々、司さんは二本、刀を携行していることがある。

今日も二本だ。

一本でさえ滅多に抜かれる事態にはならないので気にしたことはなかったが……


「こっちに触られたくなかったんですか?」

「あぁ、そっちは預かりものなんだ。支給品も真剣だからあまり触らせたくないんだけどな」


まぁ……指が落ちるとかそういう切れ味のものはやたらと触るものじゃないだろう。


「刀ってきれいだよね。武器というよりアートに近いと思う」

「そんな認識で興味持ったら危ないの筆頭じゃないか?」

「私は近づかないよ。興味はあったけど、初めて見た時に絶対に触っちゃだめだと思った」


そこは過去系なのか。

ひっかかったのか司さんが聞いた。


「過去に、手入れのされているものを見たことがあったのか?」

「中学生くらいの頃かなぁ…父が所有していて見せてくれた。すごくきれいだと思ったけど、触っただけで指が落ちるなって感じた。怖くはなかったんだけど、触れようとは思わなかったよ」

「……」


一木に聞かせてやりたい。

中学生の女子がそこまで何か直感めいたものから一切触れないというのもすごいと思うが、あいつには危機感が欠けている。

と、何を思ったのか司さんは先ほどの刀を忍に渡した。


「今見たら、どう思う?」


純粋な疑問だろうか。

忍は


「これ、抜くくらいなら大丈夫なんだよね」


と珍しく躊躇するように聞いてきたところをみると相当、扱いに警戒しているようだ。


「妖刀の類じゃないし、普通の支給品だから大丈夫だ。ただ、横に持って抜くと安定しないから縦に持ち替えた方がいい」


確かに。

大抵、どんなシーンを見ても刀を抜くときは縦で抜かれている方が多い気がする。

それが正しいのかわからないが、すぐにそれは明らかになった。


「あ、ほんとだ。脇で固定できる分、すんなり抜ける感じ」


すると余裕ができるのか、言われた通り、忍は刀を見た。


「……やっぱり収蔵物で曇っているのと全然違うよね。風景もよく映しこんでいて……きれいだ。それに、すごく手入れされてる感じ」

「お前、前世が刀鍛冶とかなの?」

「そんなわけないでしょう」


キッパリ言うが、人生で2度目に見たとは思えない感想だぞ。

柄に刀身を戻して、司さんに返す。


「前に見た時ほど、指落ちますよみたいな感じはしなかった」

「そうか」


何、このやりとり。


「……一応聞くが、秋葉も見てみるか?」

「いやいやいや、オレは遠慮します」


一応聞くってどういう意味。

うん、断られること前提なんだろうな。

うっかり落としでもしたら同時に身体のどこかを失くしてそうで怖い。


「扱い、繊細なんだろうね。……繊細にものを扱えない人に無理だと思う」

「お前それじゃ、オレが繊細の逆を行っているようじゃないか」

「そうじゃないけど、『適正』ってあるんだろうなと」


司さんを見る。

それには答えなかった。

けれどある意味、答えた。


「霊装の場合は、親和性……相性のようなものもある。なりたくてもなれない奴もいるし、なりたくなくても強制的に持たせられることもある」


ちょっとため息。

後半の発言に諦めみたいな空気を感じる。

少しの不本意感というべきか。


でもよく考えたらそれ、オレの今の生活そのものだわ。


「ああ、司くんもある意味、巻き込まれた口だからね」

「! そうなんですか?」

「……」


なぜかオレと忍を見て、もう一度小さくため息をつかれてしまった。


「追求しない方がいいよ。色々複雑だから」

「いや、しないけど」

「複雑なこともないけどな」


意味深。


ともかく、司さんはこのご時世では貴重な人材というわけだ。

その貴重な人材が、時々しょーもない会話に巻き込まれているのが不思議な光景だが、むしろ人として良識人であることを思えば当然の光景でもあるのかもしれない。



「ところで、司さんから見た一木の見込みは」

「俺は検査官じゃないし、なんとなくの性格しか見えなかったわけだが」

「その性格上で、適正を判断したら?」


…………。


沈黙が返ってきた。


「不適」


ものすごい的確な判断だと思います。

いちいち神魔見るたびにテンション上げてる特殊部隊員とか、フォローしきれないのが目に見えている。


「でも本人の頑張り次第ではわからないよね」

「忍、可能性を否定しないところはお前の凄くいいところだと思う。でもこの場合、否定してくれた方がオレも司さんも気が楽なんだ」

「そう? じゃあ駄目出しの方向で会話してみる?」

「そっちの方が、マシ」


現状、ただのミーハーおまわりさんの一木。

司さんの為にも、特殊部隊への異動届が受理されることのないよう、願うばかりだ。

特殊部隊に所属する人たちの制服自体も、霊装なので特注です。

カスタマイズ可能。素材の親和性などにも気が払われている。同じ服装じゃつまらn…(略)

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