第十七話 緊急家族会議飯
神田家の居間には千・神家の皆が長コタツを囲み重苦しい空気が流れる。
「え~では司会進行役をさせて頂きます しずお で御座います。朝早くから大変恐縮ではありますが皆様も表のあの惨状をご覧になった通り緊急事態につきましては我々の今後について皆様の忌憚ないご意見を頂ければと存じる次第でございまして...」
「中間管理職か お前は。」
一姉にツッコまれるなか、皆がそれぞれにこの現状について自分の考えを口に出す。
まっぶっちゃけ俺や鳴兄なんかは既に『異世界かココはっ!?』という結論に達してはいるのだが 、とりあえず皆を泳がせてみた。
当然の反応として衛オジさん宇海オバさんの『これは夢だ』『隕石が落ちてウチ以外の家が吹っ飛んだんじゃない?』なんて所から始まり、とし兄の『自分達も死んでこれは死後の世界』とか、道玄おじさんや豪兄がたまにテレビに出てる事から二姉が『家族ぐるみのドッキリ』など想像の域を中々出ないが、結局のところ伊玖の隣にいる二足歩行で喋る猫?と望の頭の上にいる王蟲の存在が皆の頭を悩ませる...
どうやら王蟲はこちらの意思が伝わるという新事実が発覚したのだが今は置いとこう。
そこへ業を煮やした鳴兄がヤレヤレのポーズをしながらフウッと溜め息をついて真剣な眼差しで皆を見据え口を開いた。
「いいかみんな、世にも奇妙な物語って知ってるか? 俺達はきっとその世界に入り込んだんだ...」
くっーー?! まだ泳がせんのか鳴兄ぃっ!?
俺は腹に力を入れて吹き出すのを堪えた。
そしてなんか一姉にジロリと睨まれたが、緊急事態や事件の得意とする一姉は焦ることなく淡々と話し始める。
「とにかく今大事なのは一人ひとりが混乱に陥らず冷静に行動すること。あと携帯電話が圏外で繋がらないから衛オジさんがいるけど怪我・事故には気を付けなさい。幸い宇海オバさん達が食料を大量に乗せて来たトラックがウチの駐車場にあるからから数日...いえ数十日は飢える心配もないわ。」
「そうじゃのう、冷蔵庫に入らない物は保存食にするかえ。早速 作業に取り掛からんとのう?」
三咲がそう言うと、皆もあ~した方がこうした方がとそれぞれの意見を口にし始める。
だがそこへ先程からずっと腕を組んで黙っていた親父がキュルキュルと腹を鳴らしていた猫?にチラッと目を見やるとーーー
「うるせぇっっ馬鹿野郎っコノ野郎!! 分からねぇのを今考えるだけ無駄な事は無ェっっ、そん時その都度 考えていきゃいいだろが! まずは飯が先だっ 飯の支度をしろ!!!」
ーーーと一喝した。
この開き直ったような鶴の一声に皆が一瞬ビクリと固まるが、次の瞬間 緊張の糸が切れたように皆にフッと笑みがこぼれた。
「そうねぇ、腹が減ってはなんとやらね。」
「いやぁ実は僕もお腹が空いてたんだよね?だって台所から美味しそうな匂いがもう~~」
「せっかく三咲ちゃんと二葉ちゃんが朝早く起きて作ってくれたんだものねぇ?」
そんな道玄オジさんや衛オジさんに宇海オバさんの言葉もあって一気に場の空気が和やかになる。
が、俺だけはその【ツルッ】の一声に親父の頭を見て別の意味で凍りついていた。親父フケたなぁ、どうか遺伝しないで...
ってな訳で、そんなこんなでまずは飯だメシ。
コタツの上には御節や刺身に雑煮とちらし寿司とか朝から豪華な食事が並ぶ。
それを猫?と何故か王蟲が驚きながらも目を輝かせて覗きこんでいた。
「おい王蟲、お前はこっちのキャベツ一玉だ。」
んで俺が王蟲に〔おいでおいで〕をするとイヤイヤしやがった。もう当たり前のように受け入れられてるが、なんか知能のある虫って恐くね?
俺がそう思っていると王蟲はシレッと地球の猫の如く望の膝の上に乗っかっていった。
まぁいい、色々あって俺も腹へった。皆が席につきイタダキマスをすると猫?がキョロキョロしながらヨダレを垂らす。
『いっいいんれすか?ホントにいいんれすか??』
そんな猫?の姿を皆が微笑ましく眺める。
すると親父がーーー
「馬鹿野郎!! ガキは食うのとカナヅチを握るのが仕事だろうがコノ野郎っ腹一杯食えってんだ!!」
それは違ぇ...
そう思ってると宇海オバさんが親父を嗜める。
「ちょっと義兄さんっそんな大きな声だしたらこの子が怖がるでしょ! それに子供の仕事は食べる事と野菜を作る事よ!!」
それも違ぇ...
子供は食べる事と【遊ぶ事】が仕事である。
それは遊ぶ事でアクションに対する反応や感覚、イメージする力に計画する力、争いやその納め方などの問題解決能力の発達と、人の基盤となる勉学は【遊び】を通じて学ぶものだ。
なので『磯野 野球しようぜ!』と誘って来る中島くんが全面的に正しいのであってカツオ君に野球禁止令を下す磯野家に俺はいつも不満を持っていたのだが、最近は俺も磯野家の方の肩を持つようになった。
おいカツオ...人ん家のガラス割りすぎだぞ。
そして大人と子供の境界線はここで決まるのかも知れない...そう思いながら今日はちょっと多目に山葵を刺身につけて食べる。
....辛ぁ~~~~~!?!
んで皆も朝だというのにモリモリと飯をかっ喰らう。外があんなでナンの問題も解決していないのだがそこには不安という文字はなく、不思議なくらいに楽しく和気あいあいと食卓を囲む風景がそこにはあった。
それこそ三咲と宇海オバさんはご近所さんがどうのと世間話をしたり道玄オジさんと二姉が仕事の話をしたり、猫?は涙を流しながら刺身を頬張り王蟲が親父のコップに酒を注いだりーーーっておい馴染み過ぎだろテメェ。
ったく.....あれ? そ~いやさっきからずっと喋ってない奴がいるぞ? というか存在を消してる奴がいる...あっ鏡姉だ。
俺は居間の隅っこを見ると真っ白になって体育座りしている鏡姉がいた。
「ナンもない...ナンにもないよ~~」
このウィルスに脳髄まで毒された鏡姉の存在意義はウィルスの研究であり、先ほど起こされ外の荒野を見てからというものずっと心ここに在らずなのである。
勿論どこの世界であろうとウィルスなるものは存在するのだろうが、鏡姉が興味を示すのは【病原体】【宿主】【生体を害する】というワードが入るウィルスに限定され、今の外を見た限り現状として恐らくナンもない世界に対する喪失感が鏡姉を灰にさせていた。
しかしここで勘違いしないで貰いたいのは、だからといって鏡姉はウィルスによる人の不幸を願ったりはしない。
それは警察や消防士や医者と同じで平穏を願えば己の存在を否定し、かといって不穏を望めば己の意義を失う。
つまり警察も消防士も医者も自衛隊も鏡姉も平和をのぞむ一方で、もし本当に明日から事故も病気も事件も災害も無くなれば己や家族は路頭に迷い頭を抱えることになるだろう...
そんなジレンマが鏡姉を悩ませーーーゴメン嘘ついた。
鏡姉を擁護しようと警察とかを引き合いに出して正当化しようとしましたが正直に言います。当然 鏡姉はウィルスによる人の不幸を喜ぶ悪人ではないが、誰かの為にウィルスを退治するとか善人な訳でもない。
鏡姉にとってウィルスとは、
《 何よりも殺し ただ殺す。》
という、ウボォーギンと同じ単純思考回路の恐らく強化系なだけである。
そして鏡姉のこの性格は研究者よりも興味先行の科学者としての資質の方が強いからと思われるが、俺に無理やり農家をやらせようとするマッドな菜園ティストが母親なのだから まぁ納得である。
んな訳で鏡姉の事は暫くほっとケーキ。
...しずおです。
ネタが.....思い浮かばない~~~~!!
次回 超職人大家族っっ
とりあえず一家団欒!!! 見てねっ(>_<)