第十一話 ジュニアの長男 俺が目指したあの偉大なる兄貴。
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さて、取り敢えず あと一人でいつものメンバーも揃って毎年大晦日に開かれる宴が始まるのだが...全然来ない。
宇海叔母さんが実家で丹精こめて作った野菜やらをトラック一杯に積んで来て、その荷降ろしをしてるみたいだが全然来ないよ...どんだけ持ってきたの?
まぁ確かに家計は助かるし、有機農法で作った宇海叔母さんちの野菜を一度口にしたら他の野菜なんてまず食えたもんじゃねぇ。
色、味、形、大きさ、鮮度、艶と どれをとっても最高級の超一級品なのだ。
それこそ三咲という料理人とこの素材さえあれば『究極 対 至高』に対抗しうる第三の勢力の旗揚げも夢ではない。
「ちょっとしずお、先にご飯にするからゴッシー呼んできて。残りは後にしなさいって」
「あっ一姉、今兄貴にメールしたからもう来るよ。」
それからすぐにゴッシーが来た。
神田家 Jr 長男 《神田 豪士》 28歳
豪兄は 空手、合気道、剣道、柔道の有段者であり、その強さ故によく自信のある相手から練習試合など申し込まれては勝利した。
それが噂を呼び 日本の各格闘技界の猛者が喧嘩売ってきては試合でフルボッコにし、それが又噂を呼んでは世界の各格闘技界の猛者が豪兄に挑み返り討ちにされた。
やがて年末辺りに放送される格闘技番組に出場し、ボクシング、ブラジリアン柔術、ムエイタイ、キックボクシング、総合格闘技等の世界的に名の知れた王者を次々にリングに沈め、
【新世紀 覇者 拳王】の名を欲しいままにしたが、決して豪兄は北斗の長兄のように暴君ではない。
むしろ北斗○拳 史上最も『華麗』な技を使う次男の方がピッタリな印象で、
豪兄が怒る姿を見た者はおらず、困っている人も見過ごさず、イジメを見かければ弱きを助け、悪を倒さず諭し、試合以外ではまず力を振るったりはしない。
そんなカッコ良く優しい豪兄が『華麗』な鯛なら、キャラでカッコつけてる鳴兄は鰈だ...
...泥にまみれてやがる。
豪兄が転んだ人に自然と手を差し伸べる男なら、鳴兄は『大丈夫か~い?僕の手に掴まりたまへ~』てな感じだ...なっ?ひっぱ叩きたくなるだろ? まぁどっちも優しいケドね。
だがここだけの話、この世で唯一豪兄に膝をつかせ怒らせ泣かせた漢がいる...それは、俺だ。
あれは三年前だったか?俺が神田家Jr.の家に遊びに行った時に豪兄が冬の冷たい風が吹き荒ぶ大雨の日に二時間並んでやっと買えたという有名店のプリンを.....
えっ?俺が食べたから怒ったって? いや違うな...豪兄はそんな器の小さい男じゃないぜ!!
俺が『ひと口だけ』食べたあと何かプリンの気分じゃなかったんで、その辺に放置してたら窓から忍びこんだ野良猫に喰われたのだ。
それでも『ヒデェ』『アリエネェ』と泣き怒るだけで叩かれたりはせず、ホント優しい豪兄だった
.....ゴムェンッ兄チャン!!
ちなみに空手、合気道、剣道、柔道等の昇段は一定の年数や貢献がないと上がれないのだが、豪兄は己れが習う武道の貢献度は世界最強で証明し、後は時がたてば昇段も確実な為、周りからは『裏十段』と呼ばれているらしい。
なんて思ってたら突如、鳴兄が急にポツリと核弾頭発射ボタンを押しやがった。
「そーいや豪兄、今日は婚約者の瀬菜さんは連れて来なかったのか?」
その鳴兄の言葉に豪兄がビクリと肩を上げる...そして周囲の空気も一瞬で凍りついた
誰もが示し合わせた訳ではないが、もうすぐ三十路で実は結構 焦っている独り身の一姉の前で結婚だ恋人だの話はご法度と、皆が暗黙の了解としてその話には触れずにいたが、そしてだからこそ豪兄も機をうかがって紹介しようとしてただろうにそれを...
だが更に空気を読めない人がもう一人いた!宇海叔母さんである!
「え~~っ? 豪士君に婚約者いたのっ!? いつ出来たのよ~教えてよも~~~! 『てっきり一美ちゃんが最初に結婚するとばかり思ってたのに』 それでっ?どんな娘? 今日誘えば良かったじゃないっ今からでも連れてきなさいよ!! ホラ電話!!!」
そんなテンションアゲアゲの宇海叔母さんとアホの鳴兄を尻目に皆がソッと一姉を見ると、俯いて垂れ下がった髪の毛の隙間から怨嗟のこもった眼光を覗かせる一姉は、バッグから財布を取り出し囁いた
「へぇ豪士...そうなんだ。コッチは毎日仕事で忙しくて色恋ドコロじゃないんだけどねぇ.....でもまぁメデタイならご祝儀くらい包まなくちゃねぇ五万でいいかしら? 一枚~二枚~三枚~四枚~...あれぇ一枚足りな~~い.....」
恐っ恐いよもうっっ(´д`|||) お菊さんの霊にでも取り憑かれてんの? 足りないのはアンタの人を祝う心だよっっ!!
「ホラ豪士...コノお金で裏の飯屋~~にでも行って彼女とゴハンでも食べてきなさい?裏飯屋~~に..心から祝福するわ...」
『い』が足りないっ今度は『い』が足りないよ!! それじゃ『お祝い』じゃなくて『お岩』さんだよっ!? ーーってさっきからナンの怪談話だよ!!
...なんて今の一姉に『異』を唱える者は誰もいないけどさ.....
まぁ気持ちは分からんでもない。一姉は美人だし子供の頃から親戚家族だけじゃなく、高校・大学の同級生やご近所さんに至るまで皆が早く結婚する・出来ると言われ続けて早三十路...いやまだだけど。
その周りからの期待がいつしか重圧になっていた事は否めない...が、それよりもウチのとしおだよっ! 一姉よりも年長のとしおが一切何の期待もされてないとか可哀想過ぎるだろ!!
確かに職を転々として三十路で無職のニートだがっ......うん、死んだらええねん。
どうも しずお軍曹でぇ~あります!
無能な上官は後ろから部下に撃たれ、
脱走兵もまた後ろから撃たれるでありますが、
正に背中の傷は兵士の恥でぇ~あります。
だからといって親の背中を見て育つ子供に
まっさらな親父の背中を見せてもナメられる
だけでありますな?
親の心 子知らず、子は親知らず ケロケロケロ
次回 超職人大家族。
ママの心はマンマミ~ヤでぇ~あります!!
日本のヒーローは異世界に喧嘩を売るも見て欲しいであります。