始まりの国にて
ここは「始まりの国」、ルノア。冒険者志望の人々が最初に集う国ということでついた名である。
この国に住む、なんの変哲も特徴もない、平凡な15歳の少年。この少年こそが、この物語の主人公なのである。
「やっと午前中の授業終わったー。」
僕は独り言のように呟いた。
気怠い授業が終わり、休み時間に入った。
「なーおい、お前聞いたか?最近魔物どもが活性化してきてるらしいぜ。なんでも隣国で事件が起きたんだってよ!」
そう声をかけてきたのは僕の友達。結構心配性な奴だけど、なんだか放っておけない。
「へぇー。この国は大丈夫だろうけど、一応今日は近いとこで昼ごはん済ませるか。」
「そうしようぜ。ひーこえぇ。」
魔物、といってもそこまで攻撃的ではない。こっちから手を出さない限りは手を出してこない温厚な奴がほとんどのはずだ。
半ば信じていない僕だったが、言葉通り近場で昼ごはんを食べ、学校へと帰ろうとしていた。
その時。
「ねぇ、君たち!ちょっといいかな?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには僕らより少し上くらいの背の、黒い髪をしている男の人がいた。
「この国の名前、なんて言うか教えてもらえる?」
僕らは一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。
「え…ルノアです。」
「そうか、ルノアって言うんだね!ありがとう!」
そう言うと、男の人は何かをポケットから取り出し、それに触れている。気になった僕は、それがなんなのか尋ねてみた。
「あの…それ、なんですか?」
「これ?これはね、スマートフォンってものなんだ。あんまり喋ると神様に怒られちゃうから、多くは言えないんだけど…便利な異国の機械、ってとこかな。」
スマートフォン…?異国にしても聞いたことがない。しかも、神様がどうとか言っていたな…。
「すみません、ちょっとよくわからないんですけど…?」
「ごめん、僕急いでるから!」
僕の疑念は無視され、男の人は駆け足でどこかに行ってしまった。
「なんだ、あいつ…。」
友達も不思議がっている。
「もしかして、魔物なんじゃ…!?」
「いやそうはならないだろ。僕もあいつがなんなのかわからないけど、悪い人ではなさそうだったし、そっとしておくのが一番、じゃないかなあ。」
「そうかなあ…。」
「そうだよ。というか、早く学校戻らないと、午後の授業に間に合わないよ!」
「マジ!?やばいやばい!」
一瞬の非日常は崩れ、すぐに日常へと戻っていった。
午後の授業は、「異種族との接し方」だった。といっても、学ぶことがほとんどないので、存在意義が危ぶまれている授業だ。
午後の授業も終わり、僕と友達は帰路についた。
「最近魔物も強くなってきてんのかな、怖えーよ俺。」
昼間のことなど忘れるほど、魔物が起こした事件が気になっているらしい。
「大丈夫だって。仮に強くてもさっき授業でやったみたいに、こっちが襲わなきゃ襲ってこないんだから。」
「そうかなあ…。」
「そうだよ。」
「でもさ、力関係が明白になった瞬間に一気に!ってのもあり得るじゃん!」
「あー確かにね。」
「だろ?だから俺はさ…」
そんな会話をしていると、前方から、沢山の女の人と一緒にいる男の人が歩いてきた。
僕は思わずぎょっとした。なぜなら、その男の人はさっきの「そっとしておくのが一番」な男の人だったからだ。
僕たちを見るや否や、声をかけてきた。
「あ、君たち!さっきはありがとう!」
「あ、いえ…。」
流石に戸惑いを隠せない。国名すら知らなかった奴が、ものの数時間で沢山の女性を侍らせ、服装もものすごく格調高いものになっている。
「そのお方たちは…?」
女性の一人が口を開いた。
「ああ、僕が来てから、色々と助けてくれたんだ。」
国名を教わったなんて言えるはずもなく、内容は具体的に言っていなかった。
でもそんなことはどうだってよくなった。なぜなら、口を開いたその人が、この国の王女だったからだ。
「王女、さま…!?」
「ええ、そうです。このたびは、私の勇者様を助けてくださり、ありがとうございました。」
「ちょっと!私のって、どういうことよ!」
「そ、そうですよ…ずるいです…」
取り巻きが何やら揉めている。状況が飲み込めず、ただただ置いてけぼりにされている。友達も開いた口が塞がらなくなっているみたいだ。
そんなときだった。
「おい兄ちゃん、いい女連れてんなァ…?」
魔物だった。
緑色の肌に、とんがった耳。トゲ付き棍棒を持った、魔物だった。
「魔物か…やめてくれよ、僕は喧嘩は強くないんだ。」
男の人が少し控えめに言う。
「喧嘩?なに言ってんだ、ただのじゃれ合いじゃねぇか、じゃれ合い。」
魔物が好戦的に返した。
もう何が何だかだ。急展開すぎる。どんなにクソな物語でも、こんな展開は存在しないだろう。
男の人が言い放った。
「くそ…やるしかないか!」
男の人は素早く魔法を詠唱し、放った。
僕の未知の、とても強そうな魔法だった。
「お、おいまてよ、俺は…!」
ピカッという強烈な閃光が辺りを覆った。
決着は一瞬でついた。
男の人は、跡形も亡くなっていた。
魔物が、勝ったのだ。
「あ、危ねえ…ちょっと友好的にしようと思ったら、すぐこうなんのか?先行き不安だぜ、こりゃ…」
魔物が頭をかいている。
僕は無意識に口を開いていた。
「えっと、あなたは…?」
「俺か?異世界から来たオークよ。目指すは全種族共存!オークが力だけじゃないってところ、見せてやるぜ!」
「…そうですか。」
「おうとも!」
「…ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「さっきの男の人、ぶち殺しましたよね?それなのに共存は無理がある気がするんですが…」
「あー、それな。俺には魔法反射のスキルが常時発動しててな。どんな魔法も通じねえんだよ。はっはっは!」
「…そうですか。」
「どうだ、すげーだろ!」
男の人の取り巻きはいつのまにかいなくなっていた。王女もろとも、なんだったんだろうか。
男の人自身も、持っていたへんてこな物と共に、まるで忘れ去られたかのように跡形もなく消滅していた。
ここから、異世界オークの民族統一伝説が幕を開けた…!
友達は、気絶していた。
ご愛読ありがとうございました!()