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闇に埋れた真実


 さぁ~て、ウチの姫魔王ちゃんは、どうしているかなぁ……

ホールを出て、通って来た通路を戻っていると、その途中でへたり込んでいる三人がいた。

短い戦闘だったとは言え、その顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。


ま、相手は笑いながら大剣をブンブンと振り回してくる、言わばキチ…もとい、脳方面にハッピーが詰ったような野郎だったからな。

そりゃ疲れもするわい。


と、そんなエリウちゃんと目が合った。

彼女は立ち上がりながら、

「あ、シング様。あ、あの……その……」

何故かしどろもどろだ。


俺は彼女の頭をクシャクシャと撫で、

「見事な戦術眼だ。上出来だぞ、エリウ」

笑顔で褒めてやる。

「ただ、もう一呼吸、早く撤退しても良かったな」


「は、はい」


「ふふ……このままでは勝てない、そう思ったら即座に逃げる。当然だ。それでも戦いを続けるなど、具の骨頂。体力を消耗するだけで何の益も無い。……それでエリウ、どうすれば勝てると思う?そもそも勝てない理由は何だ?」


「え、えと……その、有効な武器とか魔法が無いです」


「正解だ」

俺はもう一度、彼女の頭を撫でた。

「このパーティーには、対アンデッドに有効な聖職者技能を使える者がおらんからな。それにエリウは魔王だ。元々の相性が悪い。更にあれは、かなり強い。その辺はさすがに魔王ベルセバンとやらの幹部だな。今まで遭遇したモンスターとは、強さの桁が違う。実際今も、ヤツは半分も本気を出していなかったようだしな」


「あぅ…」


「ふむ……ヤマダ。これを使え」

俺は腰から芹沢一式七星剣を抜き、手渡す。

「その剣なら、あの鎧も楽に切り裂けよう。エリウにはこれを」

彼女には芹沢三式羅洸剣を手渡す。

「魔王の小槌と言う退魔特化のアイテムをベースにして作り出した剣だ。これならばあの首無し騎士にも通用するだろう。リーネアには……」


「リーネアはこれを使うと良いわ」

頭に覆い被さっている酒井さんが、数枚のお札を俺の目の前でヒラヒラとさせた。

「対悪霊用の護符だけど、アレにも多少は効くでしょ。これを矢に巻き付けて撃てば、効果はある筈よ」


「ふむ、取り敢えずこれで良いか。実力差はあれど、此方は三人で装備も変えた。これなら余裕で勝てるだろう」

ま、これで勝てなかったら、その時は少し力を貸してやろうか。

ここで愚図愚図していても話が進まないからな。

ディクリスも一時帰還したと言う話しだし、ダンジョンでの遊びも早々に切り上げないとね。


エリウちゃん達は何やら短く相談をし、そして再び回廊を進む。


「大丈夫かしら?」

「大丈夫かいな」

酒井さんと黒兵衛が、同じタイミングで同じような事を言った。


「ん~……ま、大丈夫でしょう」

俺の考え、と言うか予想だと、あのデュラハンは本気……死を覚悟した戦いは挑んで来ない筈だ。

あくまでも自分の役目に忠実に、本気のようで本気じゃない戦いを仕掛けて来るだろう。


ふふん、魔王ベルセバンとやらが何を隠したいのか……ちょいと気になりますねぇ。

とは言え、先ずは順番だ。

魔王軍の事や摩耶さん達の動向に注視しなければ。

それにこのダンジョン探索の一番の目的は、エリウちゃんのレベルアップとお宝のゲットだ。

自分の知的好奇心を満たすのは、一番最後にしないとね。


「せやけど、ホンマに分からんなぁ、自分」


「ふにゃ?何がだ黒兵衛?」


「や、何であない、首無しの化け物が平気なんや?めっちゃ怖いやんけ。普通に夜道で遭遇したら、卒倒しそうなレベルの化けモンやで。ゾンビもそうやったけど、何であー言うのが平気で幽霊にはビビるねん」


「や、そうは言っても……慣れかな?俺の世界にも普通にいたし」


「その辺にちょろっとおる幽霊より、あー言うダイレクトな化けモンの方が怖いと思うヤツの方が多いで」


「そうか?物理で殴れば何とかなる相手は、特に怖いとは思わんのじゃがなぁ」



再びホールへと戻ると、デュラハンのロンベルトは、待てを命令した犬のように、律儀にその場で待ってくれていた。

最初の時と同様に、ホール中央付近で仁王立ちだ。

ちょっぴり面白い。


「よぅ、お待たせ」

俺は軽く挨拶しながら、先程と同じようにホールの壁際に凭れ掛かり観戦モード。

エリウちゃん達も同じように戦闘態勢を取る。


「……」

ロンベルトは無言で剣を斜に構えた。

脇に抱えている首も、目が爛々と赤く光り、真剣そのものな顔をしている


ん?警戒しているな……って、そりゃするか。

と言うか、何か僕ちゃんを睨んでないか?

殺気まで感じるぞ。


「む…?」

ロンベルトの持つ大剣の刀身が、紅い色に染まり出す。

と同時に、

「キョーーーッ!!」

怪鳥のような鳴き声が脇に抱えた首から発せられた。

その声に、ヤマダとリーネアの身が一瞬だが硬直する。


うほ?声によるスキル攻撃かにゃ?

効果は一時的な硬直と先制攻撃って所か。

レベル差があると恐慌等のデバフも掛るかも……


が、そのスキルも魔王であるエリウちゃんには通用しないのか、彼女は魔法を放ちながら剣で切り掛かる。

しかしロンベルトは巧みな体捌きでそれを躱すと、そのままの流れでヤマダに向かって剣を……

いや、違う。

向かうのはヤマダではなく、俺だ。


え?お、おいおい、なんでだよ……


壁際でボンヤリしている俺に向かってデュラハンが迫り、その手にした大剣が赤い弧を描く。

「ぐはッ!?」

首筋から胴まで、綺麗に袈裟懸けに斬られた。

即死級の大ダメージだ。

……

素の状態だったならな。


「相手が違うだろ」

俺は、斬った筈なのにダメージを受けてない俺に呆然としているロンベルトに向かって蹴りを一発。

デュラハンはホールの中央まで吹っ飛んで戻る。

「全くこのデュラ公は……人間界の相撲と言う競技に例えたら、はっけよいの掛け声と同時に行司に張り手を噛ます様なモンだぞ」

本当に、なに考えてんだろうね?

俺を脅威と捉えたのかな?

面倒な事になりそうだから、始末しちゃおうと考えたとか。

……

勝てるワケが無いのに……


吹っ飛んだデュラハンは即座に態勢を立て直す。

ダメージを負ってないので当然だ。

俺がダメージを与えちゃ、元も子もないからね。


そこへ一時的な硬直から回復したヤマダが迫り、双剣を振るった。

右手に持ったヤマダの剣は、デュラハンが脇に抱えた首を狙う。

それをロンベルトは剣で受け流すが、開いた胸元へと、今度は左手に持った剣で斬り付けた。

俺の渡した七星剣だ。


「ぐ…」

デュラハンがよろめく。

小脇に抱えた顔に驚愕の表情が浮かんだ。

それもその筈、浅い攻撃にも関わらず、その重厚な鎧が容易く切り裂かれたのだ。

そこへ更に追撃をかけるヤマダ。

デュラハンは巧みな剣技でそれを凌ぐが、そこへエリウちゃんが突っ込み、至近距離から剣を振るった。

狙いは脇に抱えた首だ。

デュラハンは咄嗟に肩でそれを防ぐが、

「むぅッ!?」

エリウちゃんの斬り付けた箇所から白煙が上がる。


ふむ……聖属性ダメージか。

退魔特化の羅洸剣は、やはりアンデッドにも有効と……


「くっ…」

デュラハンは大きく横に飛び退る。 

そして脇に抱えた首を持ち上げた。

何かの特殊攻撃を仕掛けようとしているのだろうが、そこへリーネアの矢が飛来した。

それは鎧の胸部分に突き刺さり、強烈な閃光と供に爆発。

デュラハンのロンベルトはそのまま吹き飛んで今度は壁にぶち当たった。


勝負有りだな。

俺は口角を少し吊り上げる。

本来なら、飛んで来る矢などは、あのロンベルトの腕なら簡単に剣で払い除ける事が出来ただろう。

が、先程まで、飛来する矢などは殆どがその重厚な全身鎧に弾かれていた。

今度もそれで大丈夫だと踏んだのだろう。

もしくは攻撃準備中で、躱す余裕が無かったのか……どちらにしろ、致命的なミスを犯した。

酒井さんの術札による威力で、胸当ての部分の大半が砕かれ、そこから淡い光……おそらく生命エネルギー的なモノが漏れ出している。

成仏まで後一歩と言う感じだ。


「ぐ…ぐむ……」

デュラハンは剣を支えに片膝を着いていた。

脇に抱えられた首に苦悶の表情が広がっている。

そこへヤマダとエリウが止めを刺そうと殺到した。

リーネアも次の矢を構えている。


と、デュラハンのロンベルトは不意にゆっくりと片手を挙げ、

「ふ……私の負けだ。お前達の勝ちを認めよう」

何故か上から目線でそう言ったのだった。



デュラハンは自分の頭を両の手で掴み、それを首元に嵌め込む。

それと同時に、負った傷が見る見る間に回復して行った。

傷付いた鎧も、どう言う原理かサッパリ分からんが自動で修復が為されて行く。


ほぅ……コイツ、思った通りかなりの余力を残してやがるな。

魔王軍の幹部にしては、ヤケにあっさり倒せたと思っていたが、やはり侮れん。


そのデュラハンは不敵な笑みを湛え、

「ベルセバン様の遺命により、私を倒した以上、この先にある宝は全てお前達のものだ」

そう言うと同時に、ホールの一番奥にある扉がゆっくりと開き始めた。


ほほぅ、こいつはまた……

扉の先は、部屋いっぱいに積み上げられた宝の山だった。

目も眩まんばかりの金銀財宝だ。

それに武器や防具の類もある。

……

相変わらず、この世界の武具は見た目重視的な派手な物が多いけど……

それなりに性能も良さそうだ。


ふ~ん、なるほどねぇ……まぁ、予想通りですな。

くれると言うのなら、ここは有り難く貰っておくとするか。

軍資金の足しにもなるし。


俺は、見事な財宝にポカーンと口を開けているエリウちゃんに少し苦笑を溢しながら、

「ふむ……エリウ。それにヤマダにリーネア。自分達に合った武具があるかも知れんから、好きに探してみろ。残りはティラ達に連絡して、回収部隊を編成させよう」


「い、良いのかシン殿」

とリーネア。


「構わん」

俺は頷き、

「酒井さんも、何か探して下さい。特殊なアイテムが埋もれているかも知れませんから」


「そうね」

魔人形は頷き、リーネアの肩に飛び乗った。

「それじゃ、お宝を検分しましょうか」

そう言って、リーネアと供に部屋へと入って行く。

それにヤマダとエリウも続き、最後に何故か黒兵衛も。

……

人間界には『猫に小判』って諺があったような記憶があるんじゃが……ま、良っか。


「ほほぅ、見事な宝だな」

俺は二メートルを超える巨体のデュラハンを軽く見上げなら言う。

「冒険者を満足させるには充分だ。これなら気分良く、何の疑いも抱かずに帰れるってなモンだ」


「……どう言う意味だ」

ロンベルトは目を細め、俺を見下ろした。

僅かに殺気が漂っている。


「……伝説に謳われる魔王が遺したにしては単純過ぎる構造のダンジョン。そしてこれ見よがしに並んだ小部屋に配置された強いモンスター。そこで見つかる鍵。待ち構える魔王の幹部に宝の山と。ふふ、冒険者のミスリードを誘うには充分……いや、少し過剰過ぎるかな。予定調和感が半端ないよ」


「何を言ってるのか分からないな」


「そう?じゃ、有り体に言うと、このダンジョンそのものが真実を隠す為の目眩ましの一つに過ぎない、って事かな」


「……」


「だから殺気を溢すな。ウチの未熟な魔王ちゃんには内緒にしてるんだから」

俺は笑いながら、部屋の中にいるエリウちゃんを見やる。

彼女は何故か武具よりも、小さな可愛いアクセサリー等の宝石の類に目が行っている様だった。

その辺はまぁ……年頃の女の子だねぇ。

「経験の浅い冒険者やお宝目当ての連中ならともかく、考古学系の探検家を騙すには少し厳しいかもな。あと俺のように、それなりに教育を受けたヤツ。ダンジョン概論や構造設計学の成績は、自慢じゃないがそこそこ良かったんだぜ」


「貴様……一体何者だ」


「居候だよ。魔王ちゃんの所のな」


「……」


「しかし、わざわざこんなダンジョンまで造って、一体何を隠しているのか……ちょっと楽しみだなぁ」


「……この世界を滅ぼす事になっても良いのか」


「へ?」

世界滅ぼす?

……

ふ~ん、なるほどね。

その言い方からして、つまりはここには世界滅ぼしかねない何かがある……って事だな。

アイテムか?

世界破壊爆弾とか、その手の超古代文明の兵器が眠っているとか……

或いは、何か邪悪なモノを封印してあるとか。

酒井さんも、嫌な霊気を感じるとか言ってたし……なるほど。つまりはそう言うことか。

やべぇ……

凄く怖いけど、知的好奇心が益々刺激されますぞ。


「そいつは中々に面白いな。世界を滅ぼすか……だが正直、この世界がどうなろうと俺は知らん。だからどうでも良い事だ」


「な、なに?」


「ふん、そもそも俺が本気になれば、この世界など数ヶ月で滅ぼせるわい」

ちなみに酒井さんに至っては一ヶ月で滅ぼすかも知れん。

「ま、知己が出来た以上、そんな事はしないけどな」

それに何か世界的規模で変事が起こった場合は、知り合いだけ連れて何とか元の世界(人間界)へ戻るわい。


「……貴様、まさか異世界より降りし者か」

ロンベルトの目が更に細くなった。

ただその言葉の中に、僅かに畏怖めいたモノを感じる。


「ンだよぅ……今頃気付いたのか?」


「……一つ尋ねる。オンミュージ、と言う者を知っているか?いや、オンミョジだったかな」


「オンミョジ……あぁ、もしかして陰陽師の事か?それは名前じゃなくて職業クラスだ。ウチのボス(酒井さん)がそれだ」


「そ、そうなのか」


「……」

ふむ……異世界のデュラハンの口から、陰陽師と言う単語が出ると言う事は……

なるほど。かつてこの世界には、異世界……人間界より陰陽師が来たと言う事か。

それが世界滅ぼす存在なのか?

確かに酒井さんなら世界を滅ぼせると思うが……

うぅ~む、かつてこの世界に何が起きたんじゃろうか……超気になりますねぇ。

「それよりお前さん、これからどうするんだ?」


「……再び眠りに着く」

ロンベルトはゆっくりと目を閉じた。

「次の探索者が現れるまでな」


「そうか。なら暫く起きてろ。上……地上の事が片付いたら、また直ぐに戻って来る予定だからな」







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