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一年後に殺すと言われても困るで御座る


 鍵を使って開いた壁の向こうには、一本の通路が伸びていた。

左右に魔法の松明が等間隔に並んだ、薄暗く、かなり長い通路だ。

先がどうなっているかはまだ見えない。


むぅ…

暗闇の中に浮かんでいるような松明の道か……ちょっとおっかねぇなぁ。


なんて事を思っている僕ちゃんだが、エリウちゃんはお構い無しにズンズンと通路を進んで行った。

物怖じしないと言うか何と言うか……度胸満点だよね。

未熟な所も多々あるけど、さすがにこの辺は魔王だ。


ん~…

最後尾を歩きながら目を凝らす。

かなり遠くに何かが見えるが、まだハッキリとはしない。

扉か、はたまた分岐点か……

頭上に乗っている、と言うか腹這いで寝そべっている酒井さんが、俺のおでこをペシペシと叩きながら、

「妖気が濃くなってるわ。かなり強そうな敵が待ち構えていそうだけど……シング。アンタならこの場合どうする?」


「ふにゃ?避け様のないイベント戦の敵が強そうな場合ですか?しかも初見の」


「そうよ」


「そうですねぇ……相手が明らかに格上だと分かる時は、速攻で逃げますよ」


「それは知ってるわよ。アンタの得意技ですもんね」


「相手の強さが分からない時は、ん~……先ず六・七分の力で戦ってみます。で、相手の動きや攻撃種類にパターンを見極めつつ、こりゃ勝てると踏んだらそこから全力で行きます。逆に、こりゃ勝てねぇと思ったら一旦引いて作戦を練りますね。相手の力が上でも、作戦次第では勝てますから」


「そうね。けど、相手も力をセーブしてたら?」


「その辺は、経験と勘から判断するしかないですね。僕ちゃんも初心者だった頃は、それで何度も失敗しましたよ。あ、弱いじゃん、と思ったら、敵が全然本気を出してなかったとか隠していた力が想定以上だったとか……中には第二形態に変化した敵もいましたしね。あの時は本気でビビったなぁ……慌てて逃げたんですが、尻に大怪我を負って、今でも傷痕が残ってますよ」


「向こう傷は男の勲章だけど、後ろ傷はヘタレの証拠よ。本当に情けない男ねぇ……ま、分かっていたけど」


「ふひひ……何を言われようが、生き残れば勝ちなんです」


「それもある意味真理なんだけど、仮にも魔王が……あら?何か扉が見えて来たわよ」


「ふにゃ?」

魔法の松明に照らされた延々と続いているような幅の細い通路の先に、酒井さんの言う通り扉が見えてきた。

今までのモンスター部屋に付いていたような粗末な木の扉ではなく、アーチ型をした両開きの大きな扉だ。

いや、扉と言うより門に近い。


ほへぇ……こりゃまた、如何にも『ここから先はボス戦です』って感じですなぁ。

あからさま過ぎて、ちょっぴり笑ってしまうではないか。


エリウちゃん達はと見ると、装備を確認しつつ、戦闘陣形を取っていた。

いつもの左斜線陣だ。

即ち左前方にヤマダ。中央にエリウちゃん。そして右後方にリーネアと言うオーソドックスな隊列。

先頭のヤマダがそっと扉に触れると、それはまるで自動ドアのように音も無くスムーズに開いていった。


ほ、危険察知スキルに微弱だけど反応がありますぞ。


扉の向こうは、最初にゴーレムと闘り合った時のような大きなホールになっていた。

一番奥には扉があるが、その行く手を阻むよう全身鎧を身に着けた身の丈二メートルはあろう偉丈夫が立っている。

その前には、幅広で厚みのあるロングソードが大地に突き刺さっていた。


肩に乗っている黒兵衛が、

「おいおい……あれってデュラハンってヤツやないか?」

俺の頬を小突きながら言う。


「その通りだ」

何しろ自分の左脇に自分の首を抱えているからね。

一目で分かるよ。

「それもモブキャラじゃねぇぞ。かなり知性のある上位種と見た」

ここへ来て、初めて会話の出来そうな敵キャラと遭遇したわい。


と、酒井さんがちょっと興奮気味に、

「デュラハンって、アンデッド系のモンスターよね?」

言いながら俺のおでこをペシペシと叩く。


「ん~……一応はアンデッドですけど、厳密に言えば妖精に属する種ですね」


「そうなの?ふ~ん……首が取れる系の妖怪には何度か遭遇した事があるけど……その仲間かしら?」


「や、それは何とも……」


「で、強いの?」


「強いですよ」

俺は即答した。

「個体差はありますけど、一応は『騎士』ですからね。腕に覚え有りってな連中です。性格的にはヤマダの旦那に近いかな?それに魔法も多少ですが使えます。あとアンデッドですからねぇ……特定属性の魔法に対して耐性がある上に、デバフ等も殆ど無効化されちゃうんですよ」


「なるほどね」


「ま、厄介な部類に入る敵ですね」

さてさて……

スキルの反応からして、脅威度は低から中のCプラス……レベルにして40前後って所か。

四貴魔将の連中より、頭三つ分ぐらい上って感じだな。

ふむ……

エリウちゃん一人だと厳しいけど、パーティーを組んでる分、何となるかな?

いや、でも初見だし……まだ分からんか。


そのエリウちゃんは、慎重にホールの中へと足を踏み入れる。

そしてゆっくりと進んで行くと、金髪碧眼ロングヘアーの如何にも貴族的な綺麗な顔立ちをしたデュラハンが、

「止まれ」

と一言。

凛とした通る声が、ホール内に響き渡る。


む、普通に喋った。

や、知性ある種と言うのは最初から分かっていたけど……

特に魔王に操られてここに配置されたって感じはしないな。


「初めての侵入者よ。一つ尋ねるが……あれから何年が経った?」


「あれから…?」

エリウちゃんが首を傾げた。


「そうだ。魔王ベルセバン様がこの迷宮をお造りになってから私は眠っていた。……どのぐらいの年月が流れた?」


「く、詳しくは知らん。けど……1500年ぐらいだと聞いた」


「1500年…」

軽い驚きの声をデュラハンが上げる。

そして目を閉じ、呟くように

「そうか……1500年……か。ふ、それが短いのか長いのか……」


ん~……アンデッドにとって、1500年って時間はどうなんじゃろう?

その辺の感覚はサッパリ分からんな。

……

そう言えば、酒井さんも一応はアンデッド……なんだよな?

けど、不思議とアンデッド反応は感じないし、何でじゃろう?

普通の人形に魂だけが宿った存在だからか?

……

飯をモリモリ食う時点で、決して『普通』の人形ではないんじゃが……


「ふ……まぁ良い。この部屋に侵入した時点で、為すべき事は一つだ」

そう言ってデュラハンは右手を伸ばし、目の前に突き立てられた剣を引き抜くと、

「我が名はロンベルト!!魔王ベルセバン様に仕えし三貴将が一柱なり!!」


「え…え?」

いきなりの名乗りに戸惑うエリウちゃん。

と、ヤマダが一歩前へ進み、

「元勇者パーティーが一員、ヤマダ」

そしてリーネアも

「同じく元勇者が仲間、リーネア・ドュセイル・ネル・ブリューネスだ」

透き通るような声で返した。

エリウちゃんもコクコクと頷き、

「げ、現魔王、エリウ・エーレ・ドロン……だ」

そう答えるが

「現魔王……?」

デュラハンの顔に、軽い驚きの色が広がる。


うん、まぁ……何となく分かるよ。うん。


「ほぅ……どうやら偽りではないようだが……お前のような小娘が魔王とはな。1500年の間に、世界の在り様も変わったと言うことか」

デュラハンのロンベルトは小さく息を吐くと次に目を細め、入り口付近の壁に腕を組みながら凭れ掛かっている俺を見つめた。


「ふにゃ?俺?俺は違うよぅ……ただの傍観者兼採点係」

俺は軽く手を振り答える。

「余程の事じゃない限り手は出さないから、安心して戦ってくれぃ」


小脇に抱えられたデュラハンの目が更に細まり、俺と俺の頭上の酒井さんに向けられる。

「……まぁ良い」

そして再びエリウちゃんに視線を戻すと、

「しかし……ふ、お前のような幼い者が魔王とはな。しかも勇者の仲間を引き連れてとは。更にその内の一人はブリューネス王家縁の者……ふふ、面白い」

手にした剣を構える。

それに連動し、エリウちゃん達も戦闘態勢を取った。


「ふふ……行くぞ」

ロンベルトが一歩踏み出す。

と同時に、ヤマダの旦那が駆ける様にして間合いを詰めたのだった。







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