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大きな嘘の中に真実を一つ


 夕食の後……

エリウちゃんは本日も俺の太股を枕に熟睡していた。

満足そうな顔をしているが、疲労がかなり溜まっているのか、直ぐ眠りに落ちてしまった。

まだダンジョンに潜って二日しか経ってないんだがね。


あれから、すぐに鍵はゲット出来た。

例のドラゴンもどきが一つ持っていたのと、その隣の部屋にいた棘付き巨大蟷螂の集団(おそらく怪我を負わせて回復薬などのリソースを削る為に配置)が持っていた。

これで計4つが揃い、めでたしめでたしだ。

ま、一応は残りの部屋も調べたけどね。

俺もちょっとは手助けしたが、殆どはエリウちゃん達が倒した。

苦戦もしたし時間もかなり掛ったが、何とか頑張って倒し切る事が出来た。

これで多少は彼女の経験値も上がった事だろう。


ま、問題は明日だな。

俺の予想だと、すんなり宝のある部屋へ行けると思うんだけど……それからだな。


小さく溜息を吐きながら、目の前の焚き火を見つめる。

火の傍で、黒兵衛が大股広げて毛繕いをしていた。

ヤマダの旦那は何やら瞑想しているし、リーネアは……携帯用の砥石で鏃を磨いている。

何度も敵に刺さってはそれを回収したりしていたので、かなり磨耗しているようだ。

それに矢その物の数もかなり減っている。

折れたり爆発系魔法を付与した矢は完全に使えないからね。

そして酒井さんは、集めた4つの鍵を調べていた。


「……普通の鍵でしょ?」

俺が尋ねると、彼女は微かに口元を歪めながら

「そうね。古いモノに見えるけど……至って新しい、普通の鍵よ」

そう言って俺に鍵を手渡す。


ふむ……

モンスターと供に封印されていたのか、経年劣化している感じには見えない。

酒井さんの言う通り、古い感じに見せているだけだ。

鍵にはそれぞれ、火と水、それに土と風の精霊エレメンタルを表しているであろう模様が彫られている。

ただ、それだけで特に何かあるワケではない。


酒井さんが胡坐を掻いている俺の膝の上に上り、健やかな寝息を立てているエリウちゃんに苦笑を溢しながら、

「この鍵、何処で使うのかしら?」


「ん~……大体の予想は付いてますよ」


「そうなの?」


「このダンジョンの造り方からして、間違いなく中央線に沿ったどこかにありますね。上か下か……ま、隠してはあるでしょうけど、探せば意外にあっさりと見つかる筈です」


「そこにこのダンジョンの秘密があるのね」


「……いえ、多分あるのはお宝の山でしょう」


「そうなの?」


「木の葉を隠すのは森の中……とか人間界では言いましたっけ?」


「……あぁ、そう言うこと」

酒井さんはコクコクと頷いた。

いや、本当に鋭いですね、この方は。


「でもそれって、シングの考え過ぎじゃないの?」


「ん~……かも知れません。けど、伝説に残る魔王にしては……ちょっとねぇ。確かに配置してあるモンスターは強かったですけど……」


「それも『紛れ』の一つって事?」


「……多分」


「で、どうするの?」

酒井さんの視線が、眠るエリウちゃんに注がれた。

俺は軽く首を横に振り、小さな声で、

「このままで良いでしょう。お宝ゲットで意気揚々と帰還すれば、皆ハッピーです」


「つまり、このにはまだ早いってことよね」


「まぁ…」


「それで?」


「摩耶さん達の一件が片付いたら、もう少し調べてみようかと。謎を残すのはちょっと……そう言うのが気になるんですよ」


「そうね。私もそうよ」

酒井さんはウンウンと頷き、そしてちょっとだけ意味深な目で俺を見ると、

「最初にこのダンジョンで感じた嫌な霊気の事が気になってね。正直、異質なモノを感じたのよ。この世界に似つかわしくないね」


「異質なモノ、と言うと?」


「霊的な波動よ。この世界って、驚くほど霊的なモノを感じないの。シングの言う通り、幽霊の類は存在しないみたいなのよ」


「その辺は俺の世界と同じですよ、この世界は。魂が冥界へ行かず独自にさ迷うなんて……人間界が異常なんです。あ、もちろん、幽霊に近い……と言うか擬似幽霊的なモノは存在しますよ?ダンジョンや古代遺跡で良く見かける亡霊の類は、思念体を残す特殊魔法です。魂そのものではありません。ただの記録再生型プロジェクターです。一応、意思的なものはありますが……で、このダンジョンでは、人間界に近い霊的なモノを感じたと?」


「そうなのよ」


「……嫌な話だなぁ」


「でも気になるでしょ?」


「好奇心と恐怖心が、せめぎ合っている所です」

もし『本物』が出てきた場合、近くに酒井さんのようなエキスパートがいれば、まだ何とか耐えられるが……独りっきりだった場合は、間違い無く逃げ出すね。もしくは号泣。

「けど、その霊的波動を感じている割には、まだ何も出て来ませんね。封印でもされているのかな?」


「かもね。だとすると、ますます謎が深まるわねぇ」


うわぁ…

酒井さん、むっちゃワクワクな顔をしているじゃんか。

本当に、オカルト的な事が好きなんですねぇ。

恐怖を感じる事は無いのかな?

……

ま、当人が恐怖の権化みたいなモンだし……何しろ魔人形だしね。



と言うワケで迎えた三日目の朝。

や、今が朝かどうかは分からんけど……

本日も倒したモンスターの肉で腹を満たして出発だ。

ってか、さすがに連続で肉ばかり喰っているので、なんちゅうか飽きた。

胃も少しもたれ気味。

酒井さんが

「お米なら飽きないのにねぇ」

とか呟いている。

確かに、穀物の類は毎日食べても飽きないよね。


さて、鍵を全て揃えた(と思う)ので、問題はそれを何処で使うかだが、エリウちゃんはリーネアがマッピングしている手帳を見ながら、彼女と何やら相談している。

俺は少し離れた場所から、それを眺めていた。

肩に乗っている黒兵衛が、

「何やアドバイスせんでエエんか?」

と言ってくるが、先ずはエリウちゃんに任せようではないか。

簡単な造りのダンジョンだからな。

リーネアやヤマダの旦那もいるし、少し探せばあっさりと見つかる筈だ。

ただ問題は……


「問題はどんな敵が出て来るかって事よね」


「さすがは酒井さん。その通りです」

俺は頷いた。

黒兵衛も

「ゲーム的に言えば、中ボスクラスの敵が出て来てもおかしくはないやろうしな」


「そうだな。と言うか、間違いなく出て来ると思うぞ」


「で、どないするんや?」


「ん?特に何も……ま、誰かが死に掛けたり、はたまた死んじゃったりしたら、その時は動くよ。けど、それまではエリウちゃんに一任だ」


「大丈夫か?」


「勝てないと分かったら逃げる、と言うのは憶えた筈だからな。それをちゃんと実践できるかだ。俺の通っていた学校では実際にそう言う教習があってな。生徒レベルでは絶対に勝てないようなモンスターを用意して、どうするかテストするんだよ。大抵の生徒は無謀に突っ込んで返り討ちに遭っていたけど、俺は違ったぞ。速攻で逃げ出したからな。もちろんテストは合格だ」


「それは自慢して良いのかどうか、分からん話やなぁ」


「何を言うか。一口に逃げると言っても、戦闘からの離脱ってのは、それなりに技術はいるし結構難しいんだぞ。失敗すれば益々窮地に追い込まれるだけだしな」

とは言え、中にはその強敵に勝っちゃう規格外の猛者もいたんだよなぁ……

俺の良く知っている四大国のアマゾネスどもだけど。

何でアレに勝てるんじゃろうか……

一流冒険者だって一対一なら逃げ出すってモンスターだったぞ。


「と、行き先を決めたようやで」

黒兵衛が俺の頬をトンと小突く。

エリウちゃん達が部屋を出て歩き始めた。

少し距離を開けて、俺達もその後に続く。

俺の頭上で何故か腹這い状態になっている酒井さんが、

「上手く行けば、今日中に外へ出られるかもね」


「ですね。まぁ、初心者には二泊三日ぐらいが丁度良いのかも。本当は一週間ぐらい、潜りっ放しにさせたかったんですがねぇ」


「エリウにはちょっと無理よ」


「ん~……食料もアイテムも底を突いている極限状態ってのを経験するのも良いと思ったんですけど、予想外にダンジョンが簡単でしたから」

致死ダメージを与えるようなトラップも仕掛けられていないしね。

「ま、配置された敵が曲者ばかりで、それはそれで面白かったんですが……」


そんな事を言いながらブラブラと歩き、そのまま角を曲がると、その先にある通路の真ん中でエリウちゃん達が立ち止まっていた。

どうしたのか、と見てみると、壁に大きな穴が開いており、その前で何やらごちゃごちゃとやっている。

鍵を取り出しているようなので、あの場所に鍵穴でもあるのだろう。


黒兵衛が少し眠そうな声で、

「昨日散歩した時、この辺は通ったんやが……穴なんか開いとったか?」


「うんにゃ。多分……鍵を揃えるか、はたまた全部屋を調べるかしたら開く仕掛けになってるんじゃね?」


「そこに鍵穴があるってこと?」

そう酒井さんが言うと同時に、軽い地響きと供に石の壁がゆっくりとスライドして行く。


「ほ…」

思わず声が漏れる。

これはこれは……かなり強いアンデッド反応を検知したぞよ。


肩に乗っている黒兵衛の爪が、少し肌に食い込む。

「い、嫌な気配やで…」

「妖気よ」

と酒井さん。


「ふむ……」

中ボスはアンデッドか。

どんな敵じゃろう?

気配からして、ゾンビやスケルトンなどの低級アンデッドではない。

ハイ・レイスとかリッチとか……

どちらにしろ、エリウちゃんにはちと相性が悪い敵だ。

はてさて、初見の強敵に対し、彼女がどう対処するのか……ちと見物ですな。








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