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竜と龍の違いに西洋と東洋の思想の違いを垣間見るような気がするのは気のせいか?気のせいです。


 ドラゴン……ドラゴンねぇ……

俺は思いっ切り首を傾げた。

や、もし本当にドラゴンがいるのなら、エリウちゃん達がヘルプミー的な顔をするのは分かりますよ?

俺だってするもん。

しかし……

扉が開いた時、危険察知スキルは何の反応も示さなかった。

それにそもそも、部屋の中に入るサイズか?

小柄な翼竜ワイバーン種だって、翼の長さを考えたらギリ入らないですぞ。


「うぅ~ん……それって本当にドラゴンか?」


「や、そうやないか?」

黒兵衛が首を傾げた。

「ワテもドラゴンなんてゲームでしか見た事があらへんし」


「翼は?」


「ん~……何や小さいモンが肩から生えとったで」


「ふむ……ふむふむ。で、皮膚の色は?鱗の形状と首周りの太さは?それと四足型だったか?前足が細かったら二足歩行型だが……」


「自分で見ればエエやんか」


「それもそうか」

俺は黒兵衛を肩に乗せ、ちょっぴりヤレヤレと言った感じで部屋の前へと移動。


しかし、どうだろう?

もし本当にドラゴンだとしたら……

現状だと、正直逃げの一手だ。

エリウちゃんが戦うと言っても、無理矢理にでも止める。

口は出さないと言ったが、出さしてもらう。

今まで遭遇した千年以上前のモンスターは、現生種より遥かに強い。

そこから計算すると、ドラゴンの強さはかなりなモノだと推測できる。

エリウちゃんでは多分……いや、間違いなく勝てないだろう。

その場合、俺が出るしかないのだが……

現在の魔力量では、かなり厳しい。

負けはしなくても、苦戦は必至だ。

言葉が通じる相手なら、取り敢えず最初に会話を試みるが……どうだろうか。


「どりどり…」

呟きながらそっと扉を開け、隙間から中を覗う。

酒井さんも俺の頭上に乗り、一緒になって部屋の中を覗き込んだ。


ほほぅ……なるほど。

色は茜色をベースに濃い茶色が混じった感じ。

鱗は……確認できず。

肌はノッペリとしていて、両生類に近い。

顔は鰐みたいだな。

首は細く、やや長めと。

背中には翼ではなく、団扇のような奇妙なディスプレイが付いている。

二足型で、後ろ足はどっしりしている。

前足はやや細いが、それなりに長く器用に動かせそうだ。

それに巨大な爪も持っている。

人間なんか一撃で切り裂かれそうだ。


じっくりと観察していると、頭上から

「何あれ?」

と酒井さんの声。

「ドラゴンって言うより、恐竜じゃない」


「ズバリそれですよ」

俺はそっと扉を閉じた。

そして足元いる黒兵衛を抱え、エリウちゃん達に顔を向けると、

「あれはドラゴンではなく、亜竜の仲間だ。我の世界だと、なんちゃってドラゴンとかドラゴンもどきとか呼ばれている種だ。酒井さんの世界にいた恐竜に近い仲間だな」


「なんや、でっかいトカゲかいな」


「トカゲと恐竜は全くの別モノだぞ、黒兵衛」


「そうなんか?」


「そもそも恐竜類は爬虫類から進化したけど、現生爬虫類とは別種なグループだ。ま、具体的に言うと足の付き方が違う。分かるか?トカゲやワニは、胴体の横から直角に足が生えているだろ?恐竜類は胴体から垂直だ。つまり哺乳類と同じなんだよ。牛や馬と同じな。故に歩き方も違うし、一番の特徴は恐竜類は歩く時に尻尾が地面に着かないんだよ。トカゲやワニが尻尾を引き摺りながら歩くのに対し、恐竜は尻尾が背中から水平に伸びている。身体を支える骨盤が発達してるんだな」


「……お前は恐竜博士か」


「人間界にいる頃、ドキュメンタリー番組ばかり観てたからな。うははは」

俺は笑いながらエリウちゃんを見つめ、

「恐れる事はないぞ。あれはドラゴンではない。知能を持たないただの獣だ。しかもあの種は魔法を使えない。物理攻撃のみだ。ただ、生命力は半端なく強いからな。倒すのにちょっと時間は掛る。……この世界にはドラゴンは存在しないのか?」


「む、昔は居たと聞きましたが、今は……」

「東方の山奥に、龍と言うドラゴンの仲間が存在するとは聞いた事があったけど、見た事はないわね」

と、リーネア。


「そうか。この世界では絶滅種なのかな」

そう言えば、話にも聞いた事がなかったな。

ファンタジィな世界なのにドラゴンが居ないなんて、何か変な感じだね。


「シング様の世界は?」


「ん?普通にいたぞ。ドラゴンの国もあった」

ってか、そもそもクラスメイトにも居たし。

「ま、種もたくさんいたし、大きさや強さも千差万別で……最強部類に入るカイザードラゴンだと、全長が二百メートルはあったしな。もはや怪獣だよ」

しかもあいつ等は、頭も良いんだよねぇ。

だからちょっと傲慢と言うか……鼻持ちならない奴もいた。

ま、強い上に頭も良けりゃ、少しばかり性格は歪むわな。

もちろん基本的には穏やかで、人格ならぬ竜格が練れた者が大半ではあったが……

ちなみに、守銭奴と言う設定は、あれは人間の勝手な想像だ。

ただ、結婚の際に持参金をたくさん用意する、と言う独自の文化があるので、確かに金銀を溜め込む傾向は強かったがね。


「ともかく、頑張れエリウ。敵はただのワニの頭を持つ牛だと思え。殴ってりゃ勝てる。ただし、攻撃力は高いから……防御6、攻撃4ぐらいのつもりで戦え」


「は、はい」

エリウちゃんは頷き、そしてヤマダとリーネアをお供に、部屋の中へと雪崩れ込んだ。

そして有無を言わさずにバトル開始。


うん、機先を制したな。

あのドラゴンもどき(ちょっとデイノケイルスに似ている)は戸惑っているぞ。


「ねぇシング。あれってもう絶滅している動物なんでしょ?可哀相じゃない?」

俺の頭上に身体を預けている酒井さんが、クイクイっと髪を引っ張る。


「いや、言いたい事は分かりますけどねぇ……保護は出来ないッスよ?一匹だけじゃ種は存続できませんし、既存の生態系に悪影響が出ます。そもそもこのダンジョンからは出せないですよぅ……体の大きさ的に」

ってか、部屋からも出られんわい。

「ま、可哀相ですけど、本日のメインディッシュになってもらいましょう」


「結局食べるのね」


「それが供養ってモンです。ナンマイダブ」

手を合わせながら戦闘を見つめる僕チン。

相手はタフだし攻撃力もあるが、動きはそれ程早くない。

慎重に戦えば、時間は掛るが決して負ける相手ではない。


ふむ……疲労を蓄積させる為に配置した、って所か。

エリウちゃんが中距離から魔法を放ち、怯んだ所を突っ込んで剣を振るう。

ヤマダの旦那は近接戦闘。

その旦那を、遠距離からリーネアがサポートする。

まずまずの連携だな。


「見ていてハラハラするわね」


「まぁ、純粋なタンク役がいないパーティーですからね。エリウちゃんもヤマダ氏も、回避専門で防具は殆ど身に着けていませんし……攻撃がモロに当たれば、かなりのダメージですよ」

なんちゃってドラゴンは、長い爪を持つ腕をブンブンと振り回していた。

その風切り音が此方へも響いて来る。


「……そう言えばシングは、鎧とかは着ないの?」

俺のおでこを叩きながら酒井さんが尋ねる。

肩によじ登って来た黒兵衛も、

「せやな。何や自分、鎧とか着ているイメージが無いな。この世界でも特に着てへんし……」


「ん~……鎧か。一応は、ある、と言うのかな?」


「何やそら?」

「元の世界に置いてきたってこと?」

酒井さんが身を乗り出し、頭上から俺の顔を覗き込んできた。

うむ、ちょっと怖いんですけど。


「いえ、そうじゃなくて、魔法で鎧を作り出す事が出来るんですよ」


「そうなの?」

「ほへぇ……そうなんか」


「えぇ、そうなんです。特殊な魔法です。王族クラスの者にしか使えません。僕ちゃんも一応は魔王ですから……魔王ですから!!」


「何で二回言うのよ…」

「言わんと分かって貰えへんのや。悲しいのぅ」


「けどねぇ……中々に使えないんですよね、これが」


「何で?」

「魔力の消費が大きいんか?」


「や、そうじゃなくて……」

俺は肩に乗っている黒兵衛を再び抱き抱えると、

「特殊な魔法でな。自分の魔力を消費せずに、大気中の魔力を掻き集めて鎧を作るんだよ」


「……あ、そう言うことね」

酒井さんがポンと手を打つが、黒兵衛は俺の腕の中で、

「どーゆーこっちゃ?」

余り良く分かっていない。


「だからさ、人間界だと魔力が薄過ぎて鎧が形成されないんだよ。せいぜい、篭手とか兜とか一部分しか出来ないんじゃないかな。この世界の魔力でも、半鎧ハーフアーマー程度が限界だと思うぞ」


「それじゃ、余り意味が無いわね」

「せやな。兜と胸鎧だけで下半身がすっぽんぽんやったら、カッチョ悪いしな」


「それにデメリットも大きいんですよ。周りの魔力を大量に吸い上げちゃいますから、魔力の自然回復が暫く出来ないんです。それと周辺魔力を使用する魔法……地形効果変換系の魔法等は使用不可になっちゃいます。あ、もちろんメリットもありますよ。防御力もさる事ながら、自己ステータスが大幅に上がります」


「へぇ……中々に面白いわね。それがシングの取って置きの魔法って事ね」


「取って置きと言うか、まぁ……こりゃマズイな、と思った時に使いますね」

ステータスが上がるから、逃げ足も速くなるしね。

背中を切られようが尻を噛まれようが、鎧があるからへっちゃらだし。


「そうなの。私も一応、取って置きの術があるわよ」


「ほほぅ」


「ただねぇ、霊力をフルパワーで使うから、シングと同じで余程の時にしか使えないのよ。憶えている限り、使ったのは今までで一度だけよ。沙紅耶と組んでいた時にね」


「使うとどうなるんで?」


「霊力が枯渇して、そのまま昏倒しちゃうのよ。ただの人形になっちゃうわ。前に使った時は、意識が戻るまで一ヶ月は掛ったわ。この世界でも……多分数日は掛るんじゃないかしら」


「なるほど。そりゃおいそれとは使えませんな」


「だから取って置きなのよ」


「ふむ、どんな術か見てみたい気もするけど……黒兵衛、お前は何か取って置きの最終奥義とかはあるのか?死んだフリとか」


「あるで」


「マジか?あるのかよ……」


「ワテの決戦奥義は、一度しか使えへん。まさに本当の取って置きってヤツや」


「へぇ……どんなんだ?」


「自爆や」


「じ、自爆!?おいおい、それはさすがに……」


「や、嘘やで?」

黒兵衛は腕の中で、シッシッシ……と嫌な笑みを浮かべた。


「……」

こ、こんにゃろう…

取り敢えず、エリウちゃん達が戦っている場所へ黒兵衛を放り投げる。

「貴様も戦闘に参加しろ。この駄猫が」


「けど、意外にしぶといわね」

酒井さんが、ちょっとだけ呆れたような声を上げた。

ドラゴンもどきは、全身傷塗れになりながらも、闘志満々と言った感じで攻撃を繰り出してくる。

普通の野生動物なら、降参的な鳴き声を発しながら逃げ出してもおかしくはないのにね。


「完全物理特化の大型生物ですからね。耐久値が半端ないんですよ。それにこの手のヤツは、自分が死ぬまで攻撃して来ます。昆虫並みのしつこさです」


「ふ~ん……此方を疲労させる為に部屋にいるみたい」


「まさにその通り」

俺の考えと同じだね。

さすが酒井さんだ。

「疲労にマジックポイントやアイテムのリソースを削る為に配置したんでしょう。特に脅威ってワケじゃありませんし」


「長丁場になりそうね」


「酒井さんも参加します?」


「嫌よ。何か弱い者イジメしているみたいじゃない」


「……決して弱くはないんですがねぇ」







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