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さ~て、本日の任務は?


 「美味ぇなぁ……本当に美味しいなぁ」

ある日の朝食の席。

ホクホク顔で御飯を掻っ込む偉大なる男(自称)シング・ファルクオーツこと俺様ちゃんを、何故か黒兵衛と酒井さんが呆れ顔で見つめていた。

「ふにゃ?なに?顔に御飯粒でも付いてる?」


「や、なんちゅうかな、嬉しそうに玉子掛け御飯を食ってる魔王って絵が……ちょっとな」

「そうね。冷静に考えると中々に珍しい光景よ。それにしてもシング、あんた器用に箸を使うわねぇ」


「ん、そう?」

人形の手で普通に何でも出来る酒井さんにそう言われても、余り実感とか沸かないけど……

「最初はちょっと苦労したけど、慣れれば楽だよ。むしろ今ではスプーンやフォークよりこっちの方が使い易いね。カレーだって箸で食うし」


「魔王は見た目も人間にソックリやし、味覚的にも同じなんやろうなぁ」

と、猫用ドライフードをガリガリと音を立てて食っている黒兵衛が言った。

一体、あれはどんな味がするのか……少し興味がある。

ちなみに酒井さんは、テーブルの上にきちんと正座して御飯を食べていた。

玉子掛け御飯を食べてる俺様を珍しいとか何とか言ってたが、普通に朝飯食っている市松人形の方が衝撃的映像だと思うぞ。


「あり?ところで摩耶さんは?さっきチラッと見掛けたんですけど……」


「ん?摩耶の姉ちゃんはもう学校へ行ったで」

「今日は日直当番で早いのよ」


「ありゃ、そうなんですかぁ。日直とやらが何か知りませんけど……ん?酒井さんは?今日は学校へ付いて行かないので?」


「調べ物をして午後から落ち合うわ。もちろん、アンタも黒ちゃんも一緒よ」


「僕チンも?と言うことは、本日もお仕事……ってか趣味的な調査があると?」


「そうよ。この間アルが持って来た調査書を読んでて、幾つか気になる怪異があったからね。その内の一つを調べに行こうと思ってるの。目的の場所が結構近場にあってね」


「ほへぇ……そう言えば酒井さん。あのロリ魔女と結構親しげでしたけど、古くからの友人で?」


「ん?そうねぇ……アルとはもう30年以上の付き合いになるかしら?まだ私が沙紅耶さくやと組んでた頃からの知り合いだしね」


「沙紅耶さん?」


「摩耶のお母さんよ」


「ほほぅ、摩耶さんの母君と……ん?と言うことは、もしかして摩耶さんの母君と言う方も……」


「そうよ。結構、名の知れた魔女よ」


「なるほど」


「今の摩耶と同じように、当時まだ学生だった沙紅耶と一緒に彼方此方飛び回っていたわ。色々と危険なこともあったけど……ふふ、今となっては懐かしい思い出だわ」


「へぇ……黒兵衛は知ってたか?」


「あ?」

使い魔は餌皿から顔を上げた。

そして前足を舐めながら

「あ~……話だけ、少しな。そもそもワテは摩耶姉ちゃん専属の使い魔やし……お袋さんにはお袋さんの使い魔がおるさかいな」


「ふ~ん……で、その母君は?」


「……今は居ないわ」


「あ……と、これは少々、聞き難い事を……」


「え?」

酒井さんは目をパチクリとさせ、不意に苦笑を溢すと、

「大丈夫よ。ちゃんと生きてるわよ。今は日本に居ないって意味。沙紅耶は今、ドイツに居るわ。欧州喜連川グループの取締役兼統括本部長とか何とか……そんな役職に付いてるのよ。この間も電話で、忙しい忙しいって愚痴を聞いたところよ」


「あ、そうなんですかぁ」


「ところでシングの御両親は?」


「ふへ?僕チンですか?ん~……先ず、母上は知りません」


「は?どう言うこと?」


「いや、本当に知らないんですよぅ。と言うのも、俺が生まれた時に死んだって話なんですけどねぇ……その事を聞くと、家臣も領民も何故か言葉を濁すんですよ。そもそも母上の肖像画すら城には無いですし」


「な、何か……色々と怪しいわね」


「でしょ?だから俺なりに、餓鬼の頃は色々と仮説を立てたりしてたんですよぅ」


「仮説って……どんな?」


「や、そんな大層な仮説じゃないですよ?大抵は、俺を生んだ後に他の男と逃げたとか、そもそも俺は別の女から生まれて、それで母上は城から逃げたとか……何かそんな感じです」


「逃げてばっかりじゃないの」


「ただ、自分の中で一番信憑性があると思うのが……実は最初から母上なんて存在しなかったのではなかろうかと言う仮説です」


「……何それ?怪談話?」


「何て言うか……そもそも親父は独身なのでは?って事ですよ。んで、俺はどこかで拾われた子で……」


「何でシングの話は、毎度毎度そうネガティブなのよ」

どこか呆れたように酒井さんが言うと、黒兵衛も大きく頷いた。


「ん~……だってさぁ、あの馬鹿親父に普通に嫁がいるわけないし……僕チン、立場的には王子の筈なんだけど、尊敬どころか結構蔑ろにされていましたからね。もしかして、ガチで橋の下で拾われた子じゃなかろうかと思って」


「そのシングのお父さんってのは、今……」


「え?死にましたよ。しかも俺の目の前で」


「は?え?アンタの目の前でって……」


「俺が十の時だったかな?城下町で収穫祭があって……そこでちょっとね。その所為か、今でも祭りを見ると、少しトラウマが出ちゃうんですよねぇ」


「そ、そうだったの……」

「それって、何や?テロか何かで殺されたって事か?」

と黒兵衛。


「は?いや……全然違うぞ。祭りでやっていた大食い大会に飛び入り参加して、そこで喰い過ぎで死んだ」


「……」

「……」


「しかも今際いまわの際に俺の手を握り締めて言った台詞が『御代わり』だぜ?思わず俺も真顔で『大盛りにしますか?』って言っちゃったもん」


「あ、あのねぇ……」

「自分、トラウマがどうとか言うたやないか」


「は?トラウマだよ。祭りを見ると何故か胸焼けしちゃうんだぜ」


「……多分だけど、その死んじゃったお父さんって、シングの実の父親だと思うわ」

「せやな。残念な所が同じやしな」


「そ、そうかなぁ?」

あまり似ているとか思わなかったけど、うぅ~ん……

もしそうなら、いつか元の世界に戻って、墓参りぐらいはした方が良いのかな?



と言うわけで、いつものように黒兵衛を肩に乗せ、酒井さんは手提げ袋の中に入れて摩耶さんの学校へ向かって鼻歌混じりに歩いている僕チン。

「いやぁ~……今日もエエ天気ですねぇ♪」


「自分、ホンマに呑気やな。ま、確かに陽気もエエし分からんでもないけどな」


「ところで酒井さん。本日のミッションは一体どんなモンで?」

手にした袋を軽く持ち上げながら尋ねると、魔人形酒井さんはヒョイと顔を出しながら、

「摩耶の学校近くにある神社へ行くの。ちょっと大きな神社なんだけど、そこで最近、不可解な事が連続で起こっているのよ」


「不可解と言うと?」


「それが良く分からないのよねぇ。そこの神社へお参りしに来たた人が色々と……死者はまだ出てないみたいだけど、大怪我したり行方不明になったりとね。アルの調査書からだと、そろそろその手の界隈で噂になって来ているみたいなの。だから急いで調査したいのよ」


「ん?何でそんなに急ぐ必要があるんで?」


「馬鹿が来るからよ」

「馬鹿が来るからや」

酒井さんと黒兵衛がハモって言った。


「ふにゃ?」


「噂が広まって都市伝説化すると、怖い物見たさの馬鹿が寄って来るってことよ。そうなると調査するのも面倒だし、余計に事態が悪化する恐れもあるでしょ?」


「ん~……なるほど。分かったような分からんような……そもそも危険だって聞いてるのに、やって来るのは素人な連中なんでしょ?」


「そうよ。普通の一般人。大抵はオカルトマニアかただのお調子者連中ね」

「パリピやリア充の類や」


「ふむ……何で来るんだ?ん~……サッパリ分からん。や、俺の世界でも、危険に飛び込む連中はいましたよ。冒険者とか。でもそれは、あくまでも何かしらの対抗手段を用意しているからであって……素手でドラゴンの巣に飛び込むようなレベルの馬鹿は、さすがにいなかったですよぅ」


「それはねシング。ああ言う輩は本気で信じてないからよ」

「そーゆーこっちゃ。オカルト好きを公言している連中だって、心の奥底では信じてないねん。だからやって来るねん」


「ほぅ……つまり、噂はあくまでも噂だと思っちゃうのかぁ」


「実際、噂が殆どだから仕方ないけど……人間ってのは基本的に、自分に都合が良い様に解釈しがちなのよ。危険だって言われても、俺は大丈夫だ、と何の根拠もなく思っちゃったりもしてね。……ま、元人間である私が言うのもあれだけどね」

「噂を全て鵜呑みにするってもアレやけどな。でもやっぱ、怪異な現象を本気で信じてないから、何の準備もせずにやって来るねん。例えば目の前に、包丁振り回している男がいたとして、素手の状態で近付くか?近付かへんやろ?逃げるやろ?それが普通や。せやけど、行ったら絶対に死ぬ、とか言われてるオカルトスポットには行くねん。そして死ぬ直前になって、来なきゃ良かった、とかヌカすねん。アホやろ」


「……なるほど。つまり実際に見えている危険しか理解できないって事か。うぅ~ん……人間種ってのは危険察知能力が著しく劣っているのかなぁ」


「科学が発展した分、予感とか予兆とか……そう言う方面の能力が落ちたのかもね」

「せやな。普通に生活している分には、そない能力は特にいらんし……」


「でもまぁ、その科学が何れオカルトって呼ばれる領域まで入ってくると思いますよ。近い将来、魔法も科学で解明出来るかも知れないですね」


「それは……どうかしらね?一応ね、魔法と科学を融合させる研究とかを行っている人もいるのよ。だけどやっぱり、異端扱いと言うか……ねぇ」

「芹沢のおっちゃんの事かいな。あれは只のキ○ガイやで」


「え?誰それ?」


「喜連川の研究所の所長よ。表向きは工学博士で、実際、喜連川の工業部門で幾つか凄い発明をしている優秀な科学者なんだけど……魔法にもかなり傾倒していてね」

「現代に蘇った錬金術師……気取りのマッドサイエンティストや。まぁ、優秀なのは間違いないけどな」


「ほほぅ……」


「私なんか、レントゲンとかCTとか精密検査させられた事があるんですもの」

「ワテなんか、ちゃんと戻すから解剖させてくれって真顔で言われたで。思いっきり引っ掻いてやったけどな」


「それは……面白そうな人ですな」

そう言う探究心、僕チンは好きですぞ。


「シングとは気が合うかもね。何となくそんな感じがするわ」

「せやな。よぅ似た匂いがするし……同類やと思うで」


「そうなのか。つまり、誤解されやすいけど実はかなり出来る男、と感じなんですね。……なるほど」


「……アンタって悲惨な過去を持つ割には、思考回路は本当にポジティブなのね」

「先天性の脳天気か、単なるアホやで」


「ふふ…お褒めに預かり恐悦至極」


「でも、芹沢は本当に優秀よ。複雑な魔方陣も解読しちゃうし、様々な術式を組み合わせて新しい魔法を開発したり……ま、そこに変に科学を取り入れて失敗しちゃったりもしているんだけどね」

「せやなぁ……あのオッチャン、魔力を持っていれば稀代の魔法使いになってたと思うんやがなぁ」


「うぅ~ん……俺の世界にもいますね、そう言う理論と研究に没頭するタイプの魔法使い。上級魔法大学出身者に多いですねぇ。もちろんそれとは逆に、超実践派の魔法使いもいますよ。こっちは大抵冒険者が上がりですが」

ま、俺から見れば、どちらも扱い難い連中だ。

そもそも魔法専業の奴って、何故か偏屈者が多いからねぇ……や、摩耶さんとかは違うけど。


「摩耶の使っている髑髏どくろがくっ付いた杖あるでしょ?実はあれも芹沢が作った物なのよ」

「確か正式名称は、試作対人戦闘モジュール付き魔力増強スタッフ『ダンシングしゃれこうべMk3改』とか言うたな」


「え?何それ?ちょっと格好良いじゃんか」


「え?そ、そう?」

「やっぱ同じタイプやで……」


「しかし、あの杖にそんな隠された秘密があったとは……」

異世界出身の俺からすると、超時代錯誤のダサ過ぎる……もとい、実に趣のあるクラシカルな杖だとばかり思っていたが、この世界の科学を取り入れた逸品とは、予想だにしなかった。

「で、具体的な性能は?」


「杖自体に体内魔力活性化の呪文が刻み込まれているわ。それと対抗魔法の呪文も。そして極め付けは、あの先端の髑髏よ。対人戦闘を想定して目からレーザーが出るし、鼻からは煙幕弾が射出される仕組みなのよ」

「暗い所だと自動的に光るしな」


「す、すげぇ。超羨ましい。俺も何か作って欲しいなぁ……良く考えたら、僕ちゃん武器とか持ってないし」


「そう?頼めば嬉々として作ってくれると思うけど……余りお勧めはしないわよ」

「せやな。おっちゃん、天才やけど紙一重の向こう側におるさかいな」


「え?まさかの低評価?」


「だって……ねぇ。確かに優秀だけど、ちょっと色々と……」

「摩耶姉ちゃんの使ってる杖だって、一体何代目の杖なんやか。前なんかいきなり爆発したんやで。しかも原因が自爆装置の誤作動って……なんで杖に自爆装置が付いてんねんって話や。あまつさえ爆発後の煙がドクロマークやで。そこが一番のこだわりポイントやって言われても困るっちゅーねん」


「そうか?自決装置って、中々に面白いアイディアだと思うぞ。敵に武器を奪われた時とか役に立ちそうだし……」


「うわ…」

「ホンマに……あれやな。魔王は芹沢のおっちゃんと話が合いそうや」











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