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ちょっぴりお疲れ


 あれから数日の後……

俺様ちゃんは旧エルフ王国の首都であったネア・ブリュドワンに帰ってきた。

事後処理やベーザリア領の残った村や街を破壊して回っていたので、予定より少々遅れてしまったが、何とか無事に終わって良かった良かった。

ホッと一安心だ。

被害も驚くほど少ないし。


ベーザリアに属していたエルフの殆どは、始末してやった。

残ったエルフは、奴隷の証として、公園に居る去勢された猫のようにその長い耳の一部を切り取り、現在リフレ・ザリアに駐屯する第一軍団の下働きを命じてある。

女子供だろうが年寄りだろうが、お構い無しに苦役させている。

ま、自業自得だ。

今まで散々、ハーフエルフや他種族を殺したり何だりして来たのだ。

今度は自分達がその苦しみを味わえってなもんだ。


そして降伏した評議国の兵どもだが……

黒兵衛の策を採用し、一部の種族は解放し、残りは皆殺しにしてやった。

評議国は、主に十二の種族から構成された多種族国家と言う話だ。

あらやる種族が集まれば数も多くなるし、文化の多様性も生まれる。

種族毎の特性を生かした兵科や編成により軍も強くなるし、新たに技術革新も進むかも知れない。

ただし、それは利点ではあると同時に、また最大の弱点でもある。

俺は一部の種族だけ何もせずに解放したのだ。

果たして、殺された他の種族の連中はどう思うだろうか?

解放された種族は魔王軍と通じていると考えるのではないか?

そこまでは思わなくても、種族間に軋轢や対立は生まれるだろう。

そこが狙い目だ。


俺はリフレ・ザリアに残したウィルカルマースに命じ、それとなく様々な噂を評議国に流すように命じた。

奴等も国内がゴタゴタし始めたら、魔王軍どころでは無い筈だ。

更に上手く行けば、本当に此方側へ寝返る種族も現れるかもしれん。

もちろん、暫くは魔王軍から攻めるのは無しだ。

下手に突っ突いて一致団結でもされたら、謀略作戦は水泡に帰してしまうからね。


さて、残りのエルフは集まっているかのぅ……

ブリューネスの王族連中には、出掛ける前に太い釘を刺しておいたが、どうなんじゃろうねぇ。


そんな事をボンヤリと考えながら、目の前で揺れるリッカちゃんの小さな後頭部を見つめる。

彼女は散々大泣きした後に、気持ちの整理が付いたのか、ちょっとだけ元気になった。

まだ反射的に、親衛隊や近衛隊に属する耳の長いハーフエルフを見ると身体がビクッとなってしまうが、それでも大分慣れたのか、時折一緒になって遊んだりもしている。

うんうん、元気になって本当に良かった。

心の傷は治せないけど、癒せる事は出来る筈だ。

ティラちゃん達にも可愛がられているしね。


「おろ?」

魔王軍本隊と別れ、そのまま近衛隊や親衛隊と供に王宮前の草原地帯へと進むと、そこにお出迎えなのか、エリウちゃんとその他の重臣が控えていた。

エリウちゃんは本日はいつもの鎧兜姿ではなく、清楚だけど動き易そうな服に身を包んでいる。

角に巻かれたお洒落アイテムも健在だ。

久し振りにエリウちゃんの普通の姿を見たけど、やはり彼女はこっちの方が可愛いし似合っている。

そしてその肩には、酒井さんが乗っていた。

人間界へ流されて以来、これだけ彼女と離れるのは初めてだ。

だからほぼ二週間ぶりに見る酒井さんは、中々にキュートであった。

……

ごめん、嘘吐いた。

久し振りに会った彼女は、何だかちょっぴり怖くてドキドキだ。

ま、通信魔法で話だけはしてたんだけどね。


親衛隊や近衛隊が慌しくエリウちゃんの前に跪き、帰着の報告などをしている中、俺はゆっくりとタコ助から降りる。

そしてリッカちゃんを抱えるようにして降ろし、そのままブラブラとエリウちゃんの元へ。

リッカちゃんも片手で黒兵衛を抱き、もう片方の手で俺の服の裾を掴みながら付いて来る。

最近、彼女は俺の後を付いてくる時は、いつもこんな感じだ。

お陰で少し服の裾の部分が伸びてしまった。


「あ~……ただいま戻ったぞ、エリウ」

俺は喉の調子を整えながら、何時もの演技で御挨拶。


「お、お帰りなさいませ、シング様」


「うむ。しかし……今日はいつもの鎧ではないのだな」


「は、はい。酒井様が、その……普段からこの格好でいるようにと、そう言われましたので……」


「ほぅ…」

酒井さんがねぇ。

チラリとエリウちゃんの肩に乗っている魔人形様を見ると、彼女は軽く肩を竦めてみせた。

ま、酒井さんの言う事だ。

何かしらの意味があるのだろう。

「ふむ、なるほど。我もその格好は良いと思うぞ。エリウは可愛いしな」


「え?ええ、えと…その…」

エリウちゃんは何故か頬を赤らめながらあたふたとする。

相変わらず面白いな、この子は。

本当に、とても魔王には見えんぞ。


「はは……と、ただいま戻りました、酒井さん」


「お帰りシング」

酒井さんはそう言うと、俺の後ろを見つめながら、

「そのが、話に聞いていたリッカね?」


「そうです」

俺は、俺の後ろに隠れているリッカちゃんの肩を軽く抱きながら

「ほら、リッカ。こっちの角がチャーミングなお姉ちゃんが、魔王エリウだ。んで、その肩に乗っているのが頼れる姐さんこと酒井さんだ。酒井さんは見た目も怖いし怒っても怖いし何をしてなくても怖いんだけど、実はとても優しいお姉さんだからね。だから困った事があったら、いつでも相談すると良いぞ」

そう微笑み、ちょっとだけ彼女の背中を押すようにして前へ出してやる。


リッカちゃんは少しオドオドとしながら、

「あ、あの……リッカです。宜しくお願いします」

ペコにゃんと頭を下げた。


「あ…う、うん……いや……うむ、私が魔王だ、リッカよ」

と、何だかたどたどしい魔王チックな演技で頷くエリウちゃん。

酒井さんは笑みを浮かべ、

「ふふ、私が酒井よ。貴方の事は黒ちゃんやシングから聞いてるわ。もう何の心配もいらないから、安心しなさい」


「はは……さて、リッカ」

俺はちょっとだけ屈み、リッカちゃんに視線を合わせると、

「お兄ちゃんはこれから仕事をして来るから、黒兵衛と遊んでいなさい。そうだ、この街を散歩するってのも良いかも。ティラ、ペセル」


「は」

「は」


「リッカを連れて、街を案内してくれ。もしエルフを見掛けてリッカが怯えたら、そのエルフをブチ殺せしても構わん。黒兵衛、リッカを頼むぞ」

俺は彼女の頭をクリクリと撫でる。

「そうだ。帰ったら皆で一緒にオヤツでも食べような」


「……」(コクン)


「ふふ、ではお兄ちゃんは仕事をして来るからな」

そう言って彼女を送り出した後、俺は軽く自分の頬を叩き、優しいお兄ちゃん仮面を脱ぎ捨て、今度は冷酷な魔王仮面を被った。

「……さて、では玉座の間へ行くか」


「随分と懐かれているわね」

酒井さんがエリウちゃんの肩から、歩き出した俺の肩へと飛び移る。

「それにアンタも、結構可愛がってるみたいだし」


俺は小声で酒井さんに言う。

「歳の離れた妹を持った気分ですよぅ」

とは言っても、年齢的には俺の三倍近くも上なんだがね。

「まぁ、テレパス通信で話した通り、俺も黒兵衛も、この世界の現実って奴を間近で見てしまいましたからねぇ……唯一救えたのが、あの子だけです」


「黒ちゃんも同じような事を言ってわね」


「救った直後はもっと酷かったですよ。ちょっとの物音にも怯えたりして」


「そうなの…」


「人間齢に換算すればまだ十歳ぐらいですからね。そんな子が、死んだ弟を抱き締めながら暗闇の中に独り身を潜めてたんですよ。心の傷は相当深い筈です。……糞エルフどもが」

思い出したら、またムカムカして来た。

気晴らしに後で、その辺のエルフをブン殴ってやろうかのぅ。

「エリウ」


「は、はい。何でしょうかシング様」


「エルフどもは玉座の間に集めてあるか?」


「は、はい」


「……で?どのぐらい集まった?」

俺がベーザリア討伐に赴く前、召集に応じていなかったエルフの領主は、ベーザリアを除いて確か七氏族居た筈だ。

王族に連なる氏族が二つに、その他の氏族が五つだったと記憶している。


「それが……リーンワイズの召集に応じ、集まったのは四部族だけです」

エリウちゃんは、どこかバツが悪そうに答えた。


俺はそんな彼女の肩をポンポンと軽く叩き、

「別にお前がそんな顔をする必要は無いと思うぞ?」


「で、ですが……やはりエルフが言う事を聞かないのは、私の魔王としての威厳が足らないからで……」


「それは違う。奴等が単に馬鹿なだけだ」

もしくは現実を直視できないかだ。

「はたまた、ベーザリアのエルフがどうなったのか……知らないのかな」


「そうかも知れません」


「ふ……ま、我には関係無いがな」



旧エルフ王宮の玉座の間に入ると、片膝を着いて頭を下げているエルフの集団と、壁際に沿って佇む魔王軍の幹部達の姿があった。

エリウちゃんは玉座に腰掛け、その横に酒井さんを肩に乗せた俺が玉座の背凭れに軽く肘を掛けながら並ぶ。


さてさて、エルフどもをどう使ってやろうかのぅ……

スキルで闇属性オーラを少し出しながら、俺は頭を垂れている連中を見下ろす。


エリウちゃんが相変わらず緊張しながら、

「面を上げよ」

と少し甲高い声で言った。

エルフ達がゆっくりと顔を上げる。


俺はニッコリ爽やか且つマイルドな笑みを溢しながら、

「ふ……戻ったぞ、エルフども。ま、少しばかり遅くなってしまったがな。何しろベーザリアのエルフは数も多く、彼方此方に点在していたからなぁ……全て始末するのに、少々手間取ってしまったぞ」

ハハハ…と乾いた笑いと供に、俺は目を細める。

「さて、我が出掛ける前に言った事を覚えているか?どうだ、リーンワイズ?」


「は。覚えております」

エルフの代表に任命した長髪エルフが、微かに震える声で答えた。


「そうか。ならば良い。しかし……ふむ、我の見間違いか、はたまた計算違いか……エルフの数が少ないな。どうだね、エリウ」


「三氏族が召集に応じておりません、シング様」


「だな。ならば仕方が無い。面倒だが、もう一仕事するとしようか」

そう俺が言うと、おずおずと手を挙げる者がいた。

かつてエリウ暗殺を目論んだ、第三王女のリークエラだ。


「ん?なんだ?」


「お、恐れながら……こ、ここに未だ来ていない者の一人は、我が姉であり第二王女のリーサイズです。ただ、その……到着はまだですが、此方へ向かっていると報告を受けております。も、元々姉は病気がちで、それで出発が遅れたとの話でして……」


「……そうか。ならばここへ到着次第、殺すとするか」


「ッ!?」


「ん?何を驚いた顔をしている?」


「そそそ、それは……」


「それとも、お前が自分の手で始末したいのか?」


「……」


「予定よりもゆっくりとベーザリアのエルフを始末していたので、時間的猶予は充分にあった筈だ。なのに更に遅れるとは……ふふふ、所詮お前等エルフはゴミだ。ここにいるのは、まだ何とか使えるゴミだが……そうでないのは、使えないゴミだ。ゴミは早急に処分しないとな」

俺はチラリと壁際に佇む四貴魔将の虎顔ちゃんに視線を移し、

「アスドバル」


「は!!」


「魔王軍本隊から何部隊か率いて、こっちへ向かっていると言うリーサイズとやらを始末して来い。供の者を含めて全員だぞ。第二王女と言う話だ。せいぜい、派手に殺してやれ」


「はは!!」


「……ふむ。リーンワイズ」


「は…」


「お前はここに居るエルフの氏族を纏め、ファイパネラの指揮下に入れ。ファイパネラ、エルフを監督しながらスートホムス山脈とやらを攻めさせ、魔王軍に敵対している幾つかの部族を始末して来い。あぁ、お前麾下の第三軍が直接動く必要はないぞ。エルフどもを見守るだけにしておけ。戦は全てエルフにやらせろ。その中で、最も働きが鈍い氏族を報告せよ。そいつ等は使えないゴミと判断し、後で領民もろとも皆殺しにする」


「畏まりました、シング様」


「宜しい。では善は急げと言うしな。明日は準備に当てるとして、明後日にでも再び出発するとしよう。ウォー・フォイ。お前の第四軍より三千位を動かせるようにしておけ」


「直ちに準備を致します、シング様」


「……エリウ」


「は、はい。何でしょうか?」


「反抗するエルフの始末だが……今度はお前が指揮を執れ」


「わ、私がですか?」


「ふ…そうだぞ?元々、お前の軍だしな。なに、心配するな。たかだかエルフ狩り……いや、ゴミ処理だ。もちろん、我も手伝うしな。気楽に指揮を執れば良い」



―――夜、俺は私室にて、酒井さんと黒兵衛と顔を突き合わせ、今後の事について色々と協議していた。

ちなみにベッドの上ではリッカちゃんがスヤスヤと安らかな寝息を立てている。

……

言っておくが、俺は幼女を愛でる残念な習慣とか持ってないからね?

リッカちゃんには、ちゃんと部屋を用意したんだよ。

そこのところ、お間違えないようにね。


「エルフを始末し、このグレッチェの大森林を完全に勢力下に置く。問題はそこからなんだよねぇ……現在、あの馬鹿勇者はどうしてます?」

薄めたアルコール飲料の入ったグラスを傾け、俺は酒井さんに尋ねる。

彼女はお茶を飲みながら、テーブルの上に広げられた簡易地図を指差し、

「この東方の三王国って所を巡っているみたいね。そこからカル・ラバスって都市へ向かって、そこから東の大陸へ渡るそうよ」


「東の大陸……これですね」

俺は地図を指でなぞる。

俺たちが現在いる大陸より、ほんの少し海峡を挟んだ所に、東の大陸とやらはある。

ま、この地図がどれほどの精度のモノか、甚だ疑問ではあるが。

「そんなに離れていないし、大きくもないですね。大陸と言うより大きな島って感じだなぁ」


「日本に例えると、この大陸が本州なら、東は四国って感じね。勇者達はそこで情報を集めるみたい」


「うぅ~む、予想していたとは言え、摩耶さん達の痕跡を見つけるのは、まだまだ先になりそうですな」

『神の御使い大作戦』は、一応は順当に進んでいると思うのだが……

如何せん、文明の発展した人間世界とは違い、情報が伝わるにもそれなりの時間が掛ってしまうのがネックだ。

人間界なら、小さな町の小さな事件ですら、僅か数秒で世界中に広まると言うのにね。

……

それそれで、凄い事だよなぁ。


「それは仕方ないわよ。広い世界から、たった三人を見つけるんですもの。どうしても時間は掛るわ」


「しかしあの可愛い容姿とは裏腹に、管狐ちゃんは優秀ですね。この距離でも情報を送って来るなんて……」

通常のテレパス通信の有効範囲を、かなり超えていますぞ。


「元々、情報の収集と言う用途に使う為の式鬼ですからね。そっち方面に特化しているのよ。それにこの世界で能力が強化されているのかも。それでも、そろそろ限界じゃないかしら?海を越えたら、おそらく通信は途切れる筈よ」


「むぅ……ならばこっちも海沿いを目指して東に進んだ方がエエのかなぁ」

そうすれば、多少は通信が繋がるかも。


「評議国の方は、何か騒ぎの種を蒔いたって話だったわよね?この大森林も平定したようなものだし……今の所、手を付けてないのは砂漠だけね」


「ペルシエラでしたっけ?砂漠にあるサンドエルフの国。そっちは取り敢えずスルーで良いでしょう。元々、砂漠を攻めること自体、メリットが無さ過ぎます。特にサンドエルフって言う種族と敵対しているわけでもないですしね」

最低限の監視要員だけを残し、砂漠地帯に駐屯しているアスドバルの第ニ軍は南方へと転進させる予定だ。

もし仮に、サンドエルフが砂漠を出て魔王領へと侵攻して来たら、その時は根絶してやろう。

不干渉ならばそれで良し。

こっちから攻める事はしない。

面倒臭いだけだし。


「そうね。北の方は一先ずはそれで良いけど……帝国の方は?」


「こっちにも騒乱の種を蒔きまちた」


「そう言えば、捕虜にしていたスパイが逃げたって話を聞いたんだけど……」


「正確には、わざと見逃した……と言うか、逃げるように仕向けたんです」


「そうなの?」


「そうなんです」

俺はテーブルの上の黒兵衛の頭をガシガシと撫でながら、

「ミーブワンってのは、皇帝直属の間諜組織って話でしょ?手に入れた情報は、直接皇帝に報告すると思うんですよねぇ」


「帝国の皇帝って、ハルベルト二世とか言ったわよね。結構な名君って話よ」


「あ~…そんな話もありましたね。んで、間諜どもですが……実は魔法を掛けてありましてね。俺の事を話し終わると同時にドカンと爆発する魔法で御座る。前に勇者パーティーの凸凹コンビに使った魔法の別バージョンです。もしも皇帝の目の前で爆発したら、一体どうなる事やら……うひひひ」


「……皇帝が死ぬか重症なら、確かに帝国は大混乱ね」


「聞けばその皇帝はまだ独り身って話ですからね。後継者を巡って、まぁゴタゴタするでしょう」


「けど、逃げたスパイは二人って話だったわよね。確か三人いた筈だけど……後の一人は?」


「ディクリスって言う間諜が残ってます。最後に捕らえたヤツですね。あのエルフの王女と供に。アイツはかなり有能ですよ。いつでも逃げる事が出来るようにしてたんですけど、それを逆に怪しいと踏んだんでしょうね。他の二人が逃げ出したのを、わざわざ報告しに来たのもアイツです」


「へぇ」


「話してみると、中々に面白い奴ですよ。それに超現実主義リアリストです。国家に対しての忠誠と言うより、あくまでもビジネスとして諜報活動を行っていると言う感じです。その辺は国家所属のスパイと言うよりフリーランスの忍者ですね。そんなワケでコイツは、俺様専属の間諜として使ってやろうかなと思いまして。取り敢えずエルフから奪った財宝を幾つか与え、今は評議国に潜り込ませています」


「ま、人間にも様々な性格の者がいるからね。それにしても、ホント何時になったら摩耶を見つける事が出来るのかしら……」


「それに関連してすがね、黒兵衛とも色々と話したんですが……問題は見つけた後って事ですよ」


「どう言う意味?」


「いやぁ~……ぶっちゃけて言いますと、帰る方法があるのかな?って事ですよ。出来るだけ考えないようにしてたんですけどねぇ……実際問題、異世界への転移ってそんな簡単には行かないでしょ?」


「言われてみれば……そうね」


「召喚魔法が使えるのなら、確かに次元世界の転移も出来るかも知れません。でも元の人間世界へピンポイントに戻れるかどうかは……かなり難しいのではなかろうかと。それに時間軸の問題もありますよ。その辺の特殊魔法理論は苦手なんですけど、どの程度のこの世界と時間の流れがリンクしているのかによって、状況が変わりますからね。酒井さん達の国だと、確か……亀に乗って冒険した物語がありましたよね?」


「浦島太郎ね。あぁ……そう言うことね」

酒井さんは顎に指を掛け、フムフムと頷いた。


「です。いざ元の世界に戻ったら、何百年か経っていたと言う可能性もありますから。それを考えると、元の世界に戻るのは、ちょっとどうかと思いましてねぇ。ですからこの世界に骨を埋める覚悟も、一応はして置いた方が良いのではないかな、と思いまして」


「なるほどね。シングの言うことも分かるわ。けど、それは摩耶達と相談もしないと。あのが、どうしても元の世界に戻りたいって言うなら、何とか方法を見つけるしかないし」


「摩耶さん、戻りたいって言いますかねぇ」

芹沢博士なら、『この世界でも良いじゃん。いや、むしろこの世界が良い』って言い出しかねんぞ。


「シングはどうなのよ?」


「僕チンですか?ん~……どっちでもエエです。元々どんな環境にも慣れるのが早いですし、摩耶さんが戻りたいって言うのなら、それに従いますよ。この世界も人間世界もどっちも面白いしですからね。自分の生まれた世界じゃなければ、どこでもノープロブレムです。そう言う酒井さんはどうですか?戻りたいですか?」


「私?そうねぇ……最初の頃は戻りたかったけど、気が付けばもう三ヶ月近くは経ってるし……それに色々と慣れても来たし……シングじゃないけど、摩耶の意見待ちね。摩耶がここに残っても良いと言うのなら、それはそれで反対はしないわ」


「なるほど。酒井さんの国だと、住めば都って言いましたっけ?どんな環境でも、慣れれば面白いですからね。確かにこの世界は人間世界ほど洗練はされてませんけど、そこもまた魅力的ですし……今頃摩耶さん達も、こっちの世界を愉しんでいるかも」


「そうかもね。もしかすると、魅力的な男に出会って恋に落ちているかも」


「あ~……そう言う可能性もありますねぇ。だとしたら、帰らないかも。その場合は、全力でサポートした方が良いですね」

そう俺が言うと、酒井さんは大きく目を見開き、次にガックリと項垂れながら、

「……アンタって、本当に面白い事を言ってくれるわね」

大仰に溜息まで吐いてくれる。


「はへ?」

あれ?僕チン、何か間違った事でも言ったかな?

サッパリ分からんのだけど……

ま、兎にも角にも、今は人類系国家に圧を加えつつ、あまねく天下に真なる魔王シングの悪評を広めよう。

それが摩耶さん達を見つける最速の手だ。






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