魔王・ファーストミッション
「ふんふんふふーーーん♪」
鼻歌交じりに、薄手のシャツにズボンと言う軽装で街を歩く僕チン。
肩には黒猫の使い魔、黒兵衛を担いでいる。
向かう先は摩耶さんの通う学校だ。
本日の目的は、昨日彼女が言っていた九十九神とやらを捕獲する事だ。
この世界に来て初めてのお手伝いである。
普段ゴロゴロさせて貰っている分、俺様が如何に有能な男か証明しなければ。
……
ぶっちゃけ、家を追い出されると死んじゃうしね。
「しっかし、コンビニって言ったか?年中無休な上に一日中開いてる店。すっげぇよなぁ……超便利」
「魔界には……ま、無いやろうな」
他人に聞かれぬよう、耳元で囁くような小さな声で黒兵衛が応答する。
「夜遅くまでやってる店はあるけど、さすがにずっと開いている店ってのは無いな。魔界ってのは、人間族が抱くイメージとは違って結構健全なんだよ。殆どが陽が昇ったら起きて沈んだら寝る」
もっとも、夜に活動する種族もいるから、それ用に夜だけ開いてる店もあるけどね。
「まぁ、人間っちゅうのは、色々と想像するのが好きな種族やからな。異世界なんて見たことも無いのに、想像だけで勝手に定義付けとかするし」
「その想像力こそが文明とか文化の発展の基礎なのかも知れんな。主にゲームとかマンガとか」
「せやけど、現実を知ったら結構ショックやと思うで。何しろ魔王がこれやし……」
「これって言うな」
そんな事をボソボソ言い合いながら、摩耶さんの学校へと向かって歩いているのだが、うぅ~ん……なんだろう?家を出てから様々な視線を感じますぞ?
どう言う事だ?
何か俺、奇抜な格好でもしているのかなぁ?
酒井さんが、出歩く時はこの服を着なさい、とか言って用意してくれた服を着用しているのだが……あの魔人形、悪気は無いんだろうけど、根がSなのかナチュラルに意地悪な所があるからな。
「おい、魔王。着いたで。すぐそこや」
黒兵衛が俺の頬を前足で叩いた。
「んぁ?ほほぉ……ここが摩耶さんの……人間世界の学び舎ですか」
コンクリート、とか言う煉瓦とも違う特殊な錬石で出来た塀に囲まれた向こうに見えるは、ゴムのような物で覆われた広い平地と、宮殿のような建物。
「おおぅ……アニメと一緒だ。何かちょっと感動」
「ソースがアニメって……凄いな、自分。言うとくけど、敷地の中へ入ったらアカンで。警備員に捕まるで」
「ダメのなので御座るか?でゅふふふふふ」
「何の真似や、このボケ魔王が……」
黒兵衛が疲れたような溜息を吐いた。
「と、出て来たで」
「むほ」
見ると学び舎の正面玄関から現れたのは摩耶さん。
異界産まれの異界育ちな俺としては、この人間世界の美醜の判断基準は良く分からないが、漫画やアニメからの知識として、彼女は結構な美人さんじゃなかろうかと思う。
ま、個人的にも彼女は可愛いかな、とか思ったりもする。
腰まで届く長い髪もそうだし、肌も白くて肌理細やかだ。
それに奥ゆかしさもある。
俺の知っている魔族や亜人系の女の子達とは全然に違う感じだ。
何せ気に入らない事があると、直ぐに剣を抜いたり魔法をぶっ放してきたりと、直情型が多かったからなぁ……
もちろん、俺の世界の女の子全てが、そう言った尖った性格をしているワケではない。
何故か俺の周りにはそう言う子が多かったのだ。
あれはきっと何かの陰謀に違いない。
さて、そんな摩耶さんだが、学校に来ているので当然ながらいつものセーラー服なる制服だ。
しかしそれにプラスして、黒マントにとんがり帽子。
そして髑髏が突き刺さっている杖と……如何にも魔法を生業としていますと宣言している格好で学び舎から出て来た。
当然の事ながら、僕ちゃんの世界でも魔法を専業としている者達はいる。
いるが……摩耶さんの格好はかなりダサ……もとい、古式ゆかしいコーディネートだ。
俺の世界でも今日では滅多にお目に掛かれない。
この日本と言う国のサラリーマンなる職業で例えるなら、スーツ姿がデフォなのに、いきなり紋付袴羽織で仕事しに来たようなものだ。
「この世界の魔法使いは、あれが一般的なのか?」
「ンなわけあるかい」
黒兵衛はもう一度、俺の肩の上で疲れた溜息を吐いた。
「あれは姉ちゃんの趣味や。更に言えば、魔法使いそのものがこの世界では一般的やあらへん。魔女に会えるのは……コミケ会場かコスプレ喫茶だけや」
「ほへぇ……ってか、あの格好で普通に歩いていて誰も何も言わないの?」
「厄介そうな人に、わざわざ声を掛けるヤツはおらんで」
「……なるほど」
つまり纏めると、摩耶さんの美的センスは少し特殊……と言うことかな?
「そうなのか……と、そう言えば人間種は基本、魔法が使えないんだったな」
「せや。生れ付き特異な才能を持っとるか、或いは特殊な訓練を受けた者だけやな」
「へぇ~…」
知れば知るほど、人間と言う種族は実に奥が深いと言うか摩訶不思議だよね。
魔法は使えないけど、魔法より便利な物を発明するし……色々と凄いよ。
そんな事をボンヤリと考えていると、此方に気付いたのか、摩耶さんがトテトテと小走りに駆け寄って来た。
「シングさん♪」
「やぁ、摩耶さん。一応、時間通りに参上しましたけど……あり?酒井さんは一緒では?」
「え?酒井さんならここに……」
そう言って摩耶さんが羽織っているマントを少し捲ると、腰の辺りに紐、と言うか荒縄で括られた魔人形が、まるでアクセサリーのようにぶら下がっていた。
思わず「ひぇッ!?」と仰け反ってしまうほどシュールである。
「な、何してんの酒井さん?」
「見れば分かるでしょ?人形のフリをしてるのよ」
酒井さんは身動き一つせず、ボソボソと小さな声で言った。
「私が歩いたり喋ってたりしたら、他の人が驚くでしょ?」
「や、それはそうなんですが……」
ってか、だったら何で腰に結び付けられてるのだ?
鞄とか袋の中に潜んでいれば済むと思うのだが、その格好じゃ余計に目立つような気が……ん?目立つ?
「と、そうだ。あの……摩耶さん?」
「何でしょうかシングさん?」
「いや、その……一つお伺いしたいのですが……俺様ちゃんの格好、変じゃないですよね?」
摩耶さんがちと特殊な美的嗜好を持っていると分かったので、俺は恐る恐る尋ねてみた。
この服を選んだのは酒井さんだ。
つまり、摩耶さんが『変です』と言えば、この服は普通なのだ。
もちろん、『素晴らしい服です』と言ったなら、これは超センスな服装なのだ。
そうしたら後で酒井さんに文句を言ってやろう。
「え?何故ですか?」
「いや、その……何と言うか……家を出てから結構視線を感じると言うか……ぶっちゃけ、チラチラと他人から見られてるんですよぅ」
正直、見られてると言った感覚にはあまり慣れていないのだ。
魔王だから目立つ存在、と思うかも知れないが、学校では到って普通……いや、どちらかと言うと空気のような存在だったし……
今にして思えば、あれはナチュラルに無視されていたような気さえする。
だからか、余計に他者からの視線が気になって仕方がないのだ。
「そ、それは……シングさんが格好良いからですよ」
「ふへ?」
格好良い?
生まれて初めて聞くステキなワードですぞ。
「そうね」
腰に結わい付けられている酒井さんも小さな声で言った。
「背も高いし髪も金色に近くて瞳も藍色で……正直、ハリウッドの二枚目俳優でも通るわね」
「マ、マジッすか?俺様ちゃん、この人間界ではイケてるので御座るか?む、むひょひょひょ……こりゃ参ったね、どうも。新たな時代の幕開けでごわす」
と言った瞬間、摩耶さんの目が細まり、「うわぁ」と呟いた。
酒井さんも何故かゲンナリとした顔で、
「ほらね。口を開くとこうよ。外と内のギャップが酷過ぎるわ。ある意味詐欺よね」
「はにゃ?」
「や、別に口を開かんでも雰囲気で分かるで。常に残念なオーラが滲み出てるさかいな」
黒兵衛がボソボソと耳元で呟く。
「あ、あれ?もしかして僕、蔑まされてる?」
「き、気のせいですよシングさん」
ワタワタと手を振りながら摩耶さんが言う。
「そ、それより、早く行きましょう」
少し釈然としないが……ま、良っか。
何しろ俺は魔王だからね。
器がデカイのだ。
小さな事は気にしないのだ。
「了解です。で、行くのは良いのですが……そのビワーボークとやらがいる場所まではどうやって行くので?」
「あ、車を用意してあります」
「車?ほほぅ……機械仕掛けの自動馬車ですね?ですが、あれを動かすには確か年齢制限とか何かしらの免許が必要だと聞いた覚えがあるようなないような……もしかして摩耶さんが運転を?」
「い、いえ。執事の一人に頼んであるので、大丈夫です」
「執事ですか。へぇ~……人間界にも、普通に執事職があるんですね」
「や、あんま普通やないで」
と、黒兵衛。
「摩耶姉ちゃんの所が特別なんや。何しろ大財閥やしな」
「大財閥ってなんだ?」
「大金持ちの事や」
「ふむ……商人ギルドの長みたいな存在かな?」
「その辺は知らんけど……ま、そんな感じなんやろうな」
「シングの所にも執事はいたんでしょ?」
歩いている摩耶さんのマントの陰から、酒井さんが顔を覗かせながらそう尋ねてきた。
「いたよ。ヨハンとか。他にも沢山いたけど、ちょっとなぁ……変なのが多かったな」
「変なの?」
「うん。妙に無口だったり、融通が利かなかったり、かと思えば堂々と仕事サボるヤツもいたし……中には俺に、ジュース買って来てって頼んだ執事もいたな。さすがにあれには驚いたなぁ……ま、買いに行ったんだけど」
「行ったんかい…」
「そんなダメ執事ばっかりだったなぁ……しかも全員、クーデターで寝返ったしね」
「……話だけ聞くと、悲惨な過去ね」
「話だけはな。当の魔王本人が超呑気やし……」
「過去の事は気にしない。それが俺のポリシーだ」
「気にしなさいよ。失敗を振り返らないと成長しないわよ」
「ぐ…こりゃ手厳しい」
「あ、ほら……見えて来たわよ。あそこに停まってる車がそうよ」
そう言って酒井さんは摩耶さんのマントの中に潜り込んだ。
「ほほぅ……これですか」
黒塗りのテカテカ光る大きな自動車とやらが、学校から少し離れた道路に横付けされていた。
種類……車種と言うのか?それは分からないが、何となく高級そうな車だ。
「お待たせしました、渋澤」
魔女衣装を着込んだ摩耶さんが、車の前で直立不動の姿勢で佇んでいる初老の男性にそう声を掛けた。
ヒョロッとした枯れ木のような爺さんだ。
しかも頭も枯れている。
ど、どうしよう?
あのツルツルに触れてみたい。
ペタンと手の平を打ち付けてみたいぞ。
「……止めれや」
耳元で黒兵衛がボソッ囁いた。
「言うとくけど、あの爺さん、摩耶姉ちゃんの警護役の一人で武道の達人やで。自分……首の骨へし折られるで」
「え?マジで?」
このお爺ちゃん、そんなに強いのかぁ……
や、とてもそうは見えないぞ?
「これは摩耶お嬢様」
その栄養失調のゴブリンのような爺さんは慇懃に頭を下げるが、ふと俺に視線を止めると、
「此方の方は?」
「え?あ、あの……前に話していたシングさんです。今は離れに住んでいる……」
「あぁ……破廉恥行為でホームステイ先を追い出されて路頭に迷っていた留学生を拾われたと聞きましたが……なるほど」
え?なにその残念な設定は?
しかも破廉恥行為ってなんだよ……悲し過ぎないか?
黒兵衛、こんな時俺は何て言えば良いんだ?
「ギャフンや」
そうか。
「ぎゃふん」
取り敢えず言ってみた。
「ふむ……失礼ですが、何処の国のお方ですかな?」
「え?国?え~と、ビッチランドですけど……」
そう言うと、黒兵衛が耳元で
「何や、そのエロティカルな国名は」
そうツッコミを入れて来た。
「あ、違う違う……間違えた。ビッツランドです。ビッツランド王国です」
「おい、自分の国の名を間違えるって……」
「過去を振り返らない男だからな。もう滅亡した国だし」
「……ホンマに残念な男やな」
「ほぅ……ビッツランド王国」
爺さんの目が細まり、まるで値踏みするかのように俺を見つめてくる。
その嘗めてくるかの様なねちっいこい視線……生活指導の先生を思い出す。
ま、あの先生はナーガ族だったが。
「寡聞にして存じ上げませんが……シングさん、と仰いましたかな?」
「へ?あ、そうですけど……」
「お嬢様の役に立てば良し。さもなくば……」
言って爺さんは、ツツツと奇妙な動きで懐に入り込むや、おもむろに俺の腹に手の平を押し付け、
「フンッ!!」
気合一発。
「うひゃッ!?」
……いや、ただそれだけだった。
「え?え?え?なな、なに?何をいきなり……」
「これは……なるほど。お嬢様、中々に良い拾い物でしたな」
爺さんはそう言って、笑顔を溢しながら車のドアを開けた。
摩耶さんは困惑の顔だ。
そして俺は大パニックだ。
「いやいやいや……なに?何なの?何が何でどうなった?」
しかも拾い物扱いって……一応、亡国の魔王なんですけど。
「お、おい魔王……自分、大丈夫か?」
黒兵衛が耳元で、少し甲高い声を上げる。
「だ、大丈夫だよ。何とも無いよ」
それが更に俺を混乱させる。
「腹パン入れられるのなら分かるけど……いや、それも意味が分からんのだけど……ともかく初対面の爺さんにいきなり腹を撫でられるって、事案発生だよ。超おっかねぇよ。トラウマ必至だよ」
「し、渋澤。今のは一体……」
摩耶さんが少し困った顔でそう尋ねると、爺さんは破顔一笑、
「なに、ちょっと試しただけですよ。ささ、お嬢様どうぞ……」
試しただけって……
こっちは触られただけだぞ?
どう言う事?
もしかしてこの爺さん、そっち系の趣味があるのか?
何にせよ、おっかねぇよ……
★
さて、そんなこんなで産まれて初めて車とやらに乗って移動している僕ちゃんなんだが……
「うむ、気持ち悪いぞ」
いきなり酔ってしまった。
今にもちょっと胃から何かが逆流しそうだ。
「だ、大丈夫ですかシングさん」
この車は中がやたら広く、対面に座っている摩耶さんが心配気な顔で俺を見てくる。
ちなみに彼女の横にちょこんと座っている酒井さんは小さな声で、
「とことん残念な男ねぇ」
重い溜息を吐いてくれた。
「し、しょうがないでしょ。こちとら初めての体験ですぞ?緊張もするし調子だって良くないわさ」
「童貞みたいな台詞や」
黒兵衛も実に失礼な事を言ってくれた。
や、確かに俺は童貞だけれどもさぁ……
「特別仕様のリムジンやで?超高級車や。やっすい車と違うて、振動も殆ど無い筈やのに……なんで酔うねん」
「し、知らんよ。が……逆に振動が無いからかも。普段、移動とかって馬が基本だったし……」
「あ~……揺れてる方がエエってか」
「か、かもな。音も揺れも風も感じないのに前へ進んでるって感覚はあるんだぜ?これは中々に調子が狂うよ」
「そうなんか。ならエレベーターとかも……乗るだけで酔うかもな」
「そうかも……」
って、エレベーターなる物が何か知らんけどね。
取り敢えず乗らないでおこう。
「しかし、うぇぇぇ……気持ち悪いよぅ」
「本当に世話の掛かる男ねぇ。全く……はい、シング。これを額に貼りなさい」
酒井さんが懐から小さく折りたたまれた紙切れを手渡してきた。
広げると、これは……呪符かな?
相変わらず珍妙な文字と図形が描かれている。
魔力的な何かも感じる。
「酔い止めの陰陽札よ」
「そんな生活魔法的な物もあるの?」
「あるのよ。いざと言う時の為に持ち歩いてるの。それを貼れば少しは楽になるわよ」
「や、それは有り難いで御座る」
早速に貼ってみると、おおぅ……魔力が迸ったわい。
しかし酒井さんって、口は悪いけど意外に面倒見が良いんだよねぇ……お人形さんなんだけど。
「ってか、一瞬で気分が良くなったぞ。気分爽快だ」
いや、マジで凄ぇ効果だよ……どう言う術式の魔法なんだ?
「そう?普通の人間よりも効果が強く出るのかしら……」
「おい、大丈夫か魔王?」
「何が?」
「自分、魔法耐性が低いんとちゃうか?」
「治癒系魔法に耐性云々はあまり関係ないと思うぞ?と言うか、耐性なら俺は物凄く強いんだぜ。何せ餓鬼の頃から虐げられて来たからな」
「……シングの過去って、何かネガティブな事ばかりね」
「聞いてると切なくなるわい」
「そ、そうかなぁ」
確かに辛い事も多かったけど、それも今では良い思い出だ。
そもそも俺は過去を気にしない男だからね。
「ところで摩耶さん。本日のミッションの目的である、ビワルボグンとやらについてですが……」
「おい、どんどん名前が変わってるで魔王。琵琶牧々や」
「そうとも言う。で、そのビワボクボク……略してビボですが、どんな奴なんです?凶悪ですか?」
「い、いえ。本来、九十九神は凶悪でも何でもないです。温厚で人に好意的です」
「なるほど。酒井さんとは真逆なワケですね」
「どう言う意味よ、シング」
「ぐふふふ……」
「あ?なに笑ってるの、この馬鹿魔王」
「まぁまぁ……」
摩耶さんが苦笑を溢しながら、酒井さんを膝の上に乗せる。
「九十九神については酒井さんの方が専門ですので……説明、お願いします」
「ふん、仕方ないわねぇ」
「ま、頼むぜベイベェ」
「こ、この男は……」
酒井さんはギンッと鋭い眼光で俺を睨み付ける。
そして大きく鼻を鳴らすと居住いを正し、
「琵琶牧々は昨日も話したけど、琵琶から変化した九十九神よ。文献によると、着物を着た老人のような姿で頭の部分が琵琶になっているわ。目撃例が少ないから詳しい生態とかは不明だけど……取り敢えず、琵琶を弾いたり昔語りをしてくれたりと……そんな九十九神だわ」
「それはそれで五月蝿そうだなぁ」
「他にも似たような系統で、琴古主とか三味長老と言う九十九神もいるわね」
「ユニットを組んで演奏するのかな?リクエストしたらアニソンとか弾いてくれるかも……見つけたら頼んでみようかなぁ」
「でもね、これはあくまでも普通の九十九神だったらの話よ」
「にゃ?それはどう言う意味で?」
「さっき摩耶も言ったけど、九十九神は本来、人に好意的な存在なの。そもそも人の愛着や想いから変化した存在ですもの。だから人に大切に使ってもらいたいとか人の役に立ちたいとか思ってるわけ。言わば本能みたいなものね」
「ふんふん」
「けどね、中には色々と拗らせちゃったのもいるの。それを使っていた人の念がちょっとおかしかった場合とか、後は長い間放置していたとか……そう言った負の要因でね、九十九神が変化する場合があるのよ」
「具体的には?」
「人に使ってもらいたいと言う気持ちが、人に使わせたいって気持ちになっちゃうのよ。これを九十九憑きの状態って言うの。九十九神が人に取り憑いて、無理矢理、強引に自分を使わせようとするの。ここまで来たらもう手遅れね。人に害を為す存在として、滅するか封印するしかないわね。……って、どうしたのよシング?顔が真っ青よ?また酔ったの?」
「いや、そうじゃなくて……純粋に怖いです、はい」
「……アンタねぇ」
「いや、だって……意味が分からん。物から変化した化け物が人に取り憑くって……物が憑依?何それ?超怖ぇよ」
「だったら呪われたアイテムが使用者を惑わすって考えなさいよ。そう言う物ならアンタの世界にもあるでしょ?」
「……あ、納得」
その系統の呪術系魔法は確かにあるし、そう言う罠的なアイテムの類も古代遺跡とかに確かにあるわい。
「でさ、実際にその……九十九憑きだったか?そう言った事例とかはあんの?」
「あるわ。ついこの間も始末して来たばかりなのよ」
「ほほぅ」
「経凛々って言う九十九神よ。古い経典から変化した九十九神ね。ま、元からこの系統の九十九神は厄介な存在に成り易くて……この間も、発見した時は既に手遅れだったわ。憑かれた男の人は何日も不眠不休でお経を唱えさせられていたみたいで……私達が見つけた時は衰弱死していたの」
「そりゃまた厄介ですな。だったらビワビワに憑かれたら……どうなるんだろ?ずっと琵琶とやらを弾かされるのかな?」
「その辺は不明よ。ただ、弾くと言うよりは延々と聞かされる系かもね。琵琶の音色と平家物語とかを死ぬまでずっと聞かされるかも」
「地味に嫌だなぁ」
ただ、そのビワボクの声が可愛い声優さんの声だったら……少しは有りかもな。
その声で昔語りを……おおぅ、全自動ドラマCDみたいだ。
それはそれで、ちょいと楽しみだね。