スターバースト
本日は全国的に安息日。
ま、俺は毎日が安息日なワケなんだが、それはともかく朝も早くから芹沢博士に呼び出されて、広大な喜連川邸の一角にある氏の研究所へとやって来た僕チン。
お供に連れて来た黒兵衛と一緒に研究室へと入ると、
「おおぅ、シング君」
破顔一笑、白衣姿の博士が出迎えてくれた。
胸元から除くアニメ系Tシャツが中々にハイセンスだ。
「どうも博士。んで、本日は一体どんな御用で……」
「や、君に少し頼みたい事があってね。でもその前に、先ずはこれだ」
博士はテーブルの上に、細長いダンボール箱を置いた。
そしてそれを開けると、中に入っていたのは一振りの長剣だった。
「こ、これは……」
「君に頼まれていた君専用の剣だ。名は芹沢一式・七星剣」
「おおぅ!!」
ゆっくりとその剣を手に取り、鞘から抜いてみる。
きらきらと光り輝く刀身に、その中心には奇妙な文字と小さな魔法陣が幾つか彫り込まれていた。
「こ、これは……素晴らしい!!」
「ほぅ……中々にエエ剣やな。持ち歩いてたら真っ先に職質されるけど」
と黒兵衛。
「うぅ~む……本当にカッチョエエですな。ですけど博士、これ……ロングソードの割にはむっちゃ軽いんですけど……」
羽根のように、とまでは言わないが、それでも物凄く軽い。
片手でも楽々振り回す事が出来る。
「柄の部分は耐熱処理を施した強化炭素繊維で作ってある。それに刀身も、軸の部分には硬化セラミックを使用し、軽くて丈夫だ。そして刃の部分には、最高硬度を誇るHSSを使用。セラミック鋼材と言うヤツだ」
「ほへぇ……」
「そして更に、刀身に掘り込まれたルーン文字等は、私のオリジナル呪文だ。付与効果としては魔力の入出力に特化と言った所だ」
「そりゃどう言う意味で?」
「具体的に言うと、魔力を吸収したり貯め込んだり放出したりと言った所だ。今も何か感じないかね?」
「そう言えば……僅かですけど……何かこう、来ますね」
微弱だが、握っている柄を通して魔力の波動が伝わってくる。
「大気中の魔力を自然吸収して、君に送っているのさ」
「おおぅ…」
「もちろん、敵の攻撃魔法や防御魔法なんかも、理論上はその剣で切れば魔力を吸収できる。まぁ、その魔法の威力にもよると思うがね。それに吸収した魔力をある程度は刀身に貯めておける。魔力の枯渇を防ぐ為のリザーブタンクとしても使える筈だ」
「スゲェ……本当にスゲェですよ博士。俺の世界でもこれだけの剣は中々にお目に掛かれないですぞ」
「ふふ……これぞ現代科学と魔法が融合した銘刀。ちなみにオマケとして目覚まし機能も付いているぞ」
「最後のは良く分かんないですけど、本当にスゲェな。取り敢えず試し切りしたいで御座る。どこかに切り刻んでも怒られない輩とかいないかなぁ……」
「おい、魔王。辻斬りとかすんなよ」
「うふふ……今宵の七星剣は血に飢えておる」
「アホか。調子に乗って振り回したりはすんなよ。酒井の姉ちゃんに怒られるで」
そう言って黒兵衛は、前足をペロペロと舐めながら、
「で、芹沢のおっちゃんや。本題は何やねん。酒井の姉ちゃんには内緒で来てくれとか言うてたけど……」
「うむ、本題か。……黒兵衛君。君はSRMH計画を憶えているかね?」
「忘れるかいな……えらい目に遭うたで。既にトラウマや」
「SRMH計画ってにゃに?」
「あ?あ~………サポートロボ・メイド仕様・ヒューマンタイプの略やったかな?ぶっちゃけ、アニメとかに出て来るような可愛い女の子型メイドロボを作ってみよう、って言うアホな計画があったんや」
「うほ!?そんなドリーミィーな計画が?」
「せやけどな、やっぱ無理があったちゅうか……」
「現代の科学では、ボディを作ることは出来ても、どうしてもAI方面でね。プログラムに基づいて動かせる事は出来ても、臨機応変な対応や感情等を持たせる事は非常に難しくてねぇ……」
「それでこのおっちゃん、何を血迷うたか、その辺をさ迷っている霊をボディに組み込めば普通の人間みたいに感情で動くんじゃね、とか言い出しおってなぁ……」
「う、うぉう……いきなり悪魔の所業だ」
「いやいやいや、コンセプトは悪くないだろ?幽霊だって、自分で自由に動かせるボディとか欲しいだろ?」
「で、どうなったんで?」
「案の定、大失敗や」
黒兵衛がニヒルな笑みを溢した。
「凶悪な霊がそのボディを乗っ取って大暴れや。ワテや姉ちゃん達が必死で退治したんやで」
「その霊が良い霊か悪い霊か、その辺のチェックがちょっと難しくて……ほら、悪い霊って人を騙すじゃないか」
「あんなぁ。その辺をさ迷っている霊が人畜無害なワケないやろ。良い霊ならとっくに成仏しとるわい」
「……ま、そりゃそうだ」
「それで芹沢のおっちゃん……自分、またその計画をやろうってか?」
「うむ」
「いやいやいや……また酒井の姉ちゃんにド突き回されるで」
「博士、その歳で酒井さんに殴られたりしてるのか……何か切ねぇなぁ」
「ふふん、今度はちょっと違う。違うのだよ黒兵衛君」
博士はそう言って、何故か胸を反らす。
「今度のコンセプトはズバリ、魂の創造だ」
「は?」
「へ?」
俺と黒兵衛は顔を見合わせた。
この人は一体、何を言っておるのだ?
「その辺さ迷っている霊……既存の魂では無理だと判明した。だったらどうする?答えは簡単、無垢なる魂を創り出せば良いのだ。魂を創造し、それを機械の身体に……まさに新しき生命体の誕生だ。これぞ神だけに許される業。否、私こそが神なのだ!!」
「……博士」
「ん?何だいシング君」
「それは止めましょうよぅ」
「な、何故だい?超絶素晴らしき計画だとは思わないのかい?それとも……まさか君ともあろう男が、酒井女史のような感情が優先される意味の無い倫理観を振り翳そうと言うのかい?」
「や、違います。倫理云々とかはあんま気にしないです。ただ……その……ぶっちゃけ、失敗する匂いがプンプンとするんで御座いますですよ、はい」
「ははは……失敗こそ、成功の糧だよシング君」
「や、それに巻き込まれる方の身にもなって欲しいと言うか……僕チンの勘が、悲惨な目に遭うって叫んでるんですよぅ」
「大丈夫!!そんなワケでシング君、一つ頼むよぅ」
「その自信は一体何処から湧いて来るのやら……しかもそんなワケでって、どんなワケで?僕チンに何かして欲しいんですか?」
「そうなのだよ。この世界の魔力は、何て言うのか……濃度的な物が低くてね。そこで君の持つ、異界の高濃度の魔力を少しばかり分けて欲しいんだよ」
「ふへ?魔力ですか?ま、多少でしたらお安い御用ですけど……」
「お、おい魔王。エエんか?共犯にされるで?」
「ちっともお安くないですな」
「頼むよシングく~ん」
芹沢博士は猫撫で声で頼んで来た。
「円盤化されてない往年のOVAとかダビングしてあげるからさぁ」
「み、魅力的な提案ですな」
「えらい安く買収されるのな、自分」
黒兵衛が大きな溜息を吐く。
「せやけど芹沢のおっちゃん。魂の創造って、具体的にはどないすんねんな」
「それは企業秘密だよ、黒兵衛君」
「企業って……個人の趣味やないけ」
「まぁ……単純に言えば、魂の欠片を集めて合成しようって事だ」
「魂の欠片……魂って欠けるんですか?」
初耳ですぞ。
「ごく稀にね。残留思念とかもそれに分類される。それを特殊な装置で集めてあるんだが、それを合成する為の魔力に問題があってねぇ……シング君の力を借りたいんだよ」
「なるほど」
「おい魔王。……ホンマにエエんか?」
「ん~……嫌な予感は確かにするけど、好奇心の方が勝ってるって感じかなぁ。ちょっと見てみたいじゃんかよぅ」
それに貴重なOVAとかも欲しいし。
「酒井の姉ちゃんにバレたら、ものごっつ怒られるで?」
「むぅ……それは嫌だな」
「大丈夫大丈夫。全ての責任は私が取るよ。それに怒られないさ。だって成功するんだからね」
博士はそう言って、一人高笑いするのだが……
今更ながら、ちょっぴり不安だ。