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ピッギーズ


 さぁ~て、随分と面白い事になってますにゃあ…

実用性よりも装飾過剰で見た目重視な勇者装備を身に着けた俺は独り苦笑い。

んで、あの正面にエラソーに踏ん反り返ってる奴がボスですか。

確かヤマナー枢機卿こと山鳴神とか、ダイチーが言ってたな。

ふむ…

直感ではあるが、今まで戦った黄泉の雷野郎よりは頭一つ分ぐらい強いって感じか。

僕チン、身体能力ステータス解析系のスキルや魔法はレベルが低いんだよねぇ。

魔力解析とかは得意なのにね。

ま、それでも危険察知スキルの反応は薄いし、取り敢えずは余裕でしょう。

問題は、あのボンクラだ。


俺は溜息を吐きながらオーティスに視線を移す。


う、う~わ~……何か、すっごい睨んでるよ。

親の仇かって感じ。

人間界で例えると平氏を見つけた源氏って所かな。

しかし何でだ?

魔王シングとしてなら分かる。

が、今の僕ちゃんは勇者スティング様だ。

恨まれる理由はこれっぽっちも無いと思うんだが……何か吹き込まれたか?


と、そのオーティスは剣の切っ先を俺に向け、唾を飛ばしながら吼えた。

「偽勇者スティング!!精霊に成り代わり、邪悪な闇の使徒である貴様は僕が倒す!!」


「……は?」

何言ってるんだコイツ?

頭の中は地平線までハテナマークでいっぱいだ。

俺は僅かに小首を傾げながら、

「どう言う意味かな?そもそも私は――」


「――黙れ!!貴様は精霊を殺し、その力を奪った!!しかも証拠隠滅の為に精霊の村の人々も殺した!!更には精霊教会の聖女まで!!」


……うわ。駄目だコイツ……

と思わず口の中で呟く僕チン。

何か特殊な洗脳魔法でも掛けられたのかな?

はたまた自己啓発系のセミナーでも受けたとか。

ってか、仮にも勇者だろうが……

何でそう簡単に邪神の手下になっちゃうかなぁ。

少しは抗えよ。


俺は『もうどうでも良いや』と言わんばかりの投げやりな息を吐き出すと、意味が無いであろうゴテゴテとした装飾が施された剣を鞘から引き抜いた。

あのベルセバンのダンジョンから適当に見繕ってきた剣だ。

特に銘は無い。

ゲームで例えると、ラストダンジョン近くの村の武器屋で売ってる普通に高いだけの剣って感じだ。


さてと、取り敢えず駄目人間オーティスの方から何とかするかねぇ……邪魔臭いし。

本来なら馬鹿勇者の相手はヤマダの旦那達に任せて、俺様ちゃんはあの邪神モドキを相手にするのがセオリーと言うか最適解だと思うのだが、なまじパワーアップしているオーティスが相手では、ヤマダ達もそれなりに力を出さねばならず……ぶっちゃけ、手加減出来ずにブチ殺してしまう可能性があるのだ。

まぁ、死んだら死んだで復活させれば良いだけの話だが、後々の事を考えると、ここは俺が戦った方が無難に収まるだろう。

それに新メンバーであるバルジェス爺さんとあの枢機卿との間には、浅からぬ因縁があると言う話だしな。


「ヤマダ、リーネア。それにバルジェスにリッカ。暫くの間、枢機卿の相手を頼む。博セ…じゃなくてセリザーワ殿達はご助成頼みます」

言って俺はチラリと背後にいるダ・イチーを見やると、彼は軽く肩を竦め、

「申し訳ないですが、手は貸せませんよ。同族同士が直に争うと、ちょっと厄介な事になるんですよ」


「……呪いの類か?」


「枷ですね。天津国津の神々とは違って、地の底を這う黄泉系の我々は互いを信用してはいませんからね。仲間内で争いを起こさない為の鎖のようなモノです」


「なるほどね。んじゃ、離れて観戦してな」


「そうさせてもらいますよ」


「では、行くぞオーティス」

言って俺は剣をやや斜に構える。

ヤマダの旦那直伝『下弦月』の型だ。


さてと、ボンクラ勇者はどう出て――ッ!?


オーティスはいきなり突っ込んで来た。

前に相手してやった時と同じ展開ではあるが、速度が段違いだ。


「くッ…」

オーティスの剣を俺は辛うじて受け止める。


う、うぉう……重い。

パワーもかなりアップしてやがる。

技術は拙いままだけど、フィジカルが人間種の限界を超えてるって感じだ。

……

枢機卿からドーピングでも受けたのか?


「…チッ」

俺は軽く舌打ちし、軽やかに後方へ飛びつつ、

「眠り姫の誘い」

睡眠系魔法を発動。

が、オーティスは何事も無かったかのように再び突っ込んで来た。


うほッ!?まさか抵抗レジストしやがったのか?

う~む、強化されていないとは言え俺の魔法に耐えるとは……耐性面も強化されているのか。

なんちゅうか、やっと勇者らしくなって来たじゃないですか。


「んじゃ、少しだけ本気を……と」

刹那、オーティスは攻撃のタイミングをいきなり変え、横に飛ぶや腕を前に突き出し、

「ファイヤーボール!!」


「――!?」

パッシブスキルの魔力探知と分析が発動。


……なるほど。そう言うことか。


俺は以前とは比べ物にならないぐらい強くなっているオーティスの魔法を剣で受け止める。


火属性が5に風属性が2……そして闇属性が3と。

ふん、授かった精霊の力に闇系の力を上乗せされて正邪が反転したって事か。

あ~あ~……俺が折角パワーアップしてやったと言うのにねぇ。

ま、正義の勇者様だけに闇系の力は制御が難しいか。

「……しゃーねぇ。ボンクラ勇者育成リアルゲームはここで終了だ。後は実力で何とかするんだな。……縮地」

俺は瞬時にオーティスの前に転移するや手にした剣を振り下ろした。



み、見える…

ヤツの動きが見えるッ!!


僕は身を反らし、偽勇者であるスティングの剣を躱した。

半仮面から見えるヤツの瞳に驚愕の色が広がっている。

まさか今の攻撃が避けられるとは予想だにしなかったのだろう。


「とぅッ!!」

ボクは短く気合を発し、手にした剣を寝かせるやそのまま突き出した。

神速の突き攻撃だ。

それは至極あっさりと、ヤツの胸元に吸い込まれて行った。

奴の目に広がっていた驚愕が絶望の色へと塗り換わる。


か、勝った……

ヤツを倒した。

悪の権化である偽勇者をボクが……倒した。

以前戦った時は手も足も出なかった。

いや、それ以前に戦いですらなかった。

なのに今、僕はヤツを倒せた。

しかもこんなに簡単に。


「は…ははは!!見たか偽者!!僕が本物の勇者だ!!こ、これが僕の本当の力なんだ!!」

やはり僕は……ボクだけが精霊に選ばれし勇者。

この僕ダけガ……


「良い夢、見れたか?」

ヤツの声がすぐ耳元で聞こえた。

と同時に、背後から肩を叩かれる感触。


「な゛ッ!?」

僕は慌てて振り返ると、そこには倒した筈のヤツが立っていた。

それも平然と、まるで何事も無かったかのように。

「え?な、なんで?どうして……ぼ、僕は確かに……この剣でお前を……」

手にしている剣、蘇った聖剣ルイルシベールに視線を……え?無い?

今まで確かに持っていた筈の僕の剣が無い。


「ふふ、これをお探しか?」


「……」

な、何で……ヤツが僕の剣を……


「幻影虚構宮。お前は、お前の心が望んだ夢を見る。良かったな。幻とは言え多少は満足はしただろ?けど、夢には終わりってモンがある」

ヤツはそう言うと、僕の剣を床に突き立てた。

そしてどこか憐れみの篭った声で言う。

「オーティス……お前は所詮、ただの田舎の餓鬼。勇者ごっこは終わりだ。これからは故郷に戻って畑仕事でもしていろ。それがお前の為だ」


「ふ…ふ、ふざけるなッ!!何が勇者ごっこだッ!!」


「思春期は終わりだ。大人になれ、オーティス」

瞬間、ヤツの姿が視界から消えた。

と同時に頭に強い衝撃を受け、僕はそのまま暗闇の中へ落ちて行った。



魔力が勿体無いので物理でブン殴ってオーティスを気絶させた俺は、どれどれってな感じでヤマダ達の戦闘を見やる。


「……うぉう」

一方的にやられてるよ。

幸い、まだ誰も倒れてないけど……

ヤマダにリーネア。バルジェス爺さんにリッカ。そして博士達……合わせて11人も居るのに、全然追い込めていないとは……いや、持ち堪えているだけマシって所か。

何しろ相手はこの世界を滅ぼし掛けた連中の一匹だしな。

万単位の英雄や勇者でも揃えんと勝てんわな。

とは言え、摩耶さんが苦戦するのはちと解せませんなぁ。

体術はともかく魔法だけなら俺や酒井さんにも匹敵する筈なんだが……前に博士が言っていた術の相性ってヤツかな?

後は経験不足って所か。

どうも大所帯での戦闘に慣れてないって動きだよねぇ。

ま、この狭い場所で仲間が10人も居れば確かにちょっと……なまじ自分の魔法が強い分、色々と制限されるわな。

下手すりゃフレンドリィファイヤで全滅だし。


「宜しいのですかシング殿?」

と、背後から精霊教会教皇のダ・イチーこと八雷神の一柱である大智雷が囁いてきた。

コイツがどうして俺達側にいるのか、後で博士達に説明しないとなぁ~と考えつつ俺は小さく鼻を鳴らし、

「おいおい、今は勇者スティング様だ。バルジェス爺さんを始めまだ正体を明かしてない連中が居るんだ。迂闊に名を呼ぶな」


「これは失礼。で、良いのですか傍観しているだけで?あの山鳴雷は傲慢で愚かですが、その実力は八雷神の中でもかなり……正直、戦闘力だけ見れば私よりも上ですよ」


「そうか?」


「……ま、昔の私と比べてですが」


「だろうな」

実際、この男は強い。

この世界ではおそらく最強の一角であろう。

直接的な戦闘力で言えば俺や酒井さんの方が強いかも知れないが、コイツは頭が異様に切れるし何より博学だ。

人智を遥かに超えている。

その辺はさすが神の眷属と言ったところか。


俺はゆっくりと腕を組み、目を細めながら眼前で展開しているバトルを見つめる。

「戦闘訓練を積む良い機会だからな。もう少し様子を見ていよう」


「訓練ですか。確かにあの人間達はかなりの強者ですが、山鳴神相手には些か荷が勝ちすぎるような……」


「その人間にお前達は封印されたんだろ」


「ふふ、言われてみれば確かに。人だからと言って侮るのは良くありませんね」


その通りだ。

そもそも俺も、敵を弱いと侮ってこの世界へ飛ばされた訳だからな。

「でも実際、お前達を封印したヤツってのは規格外の強さだったんだろうな」


「どうでしょうか……強さと言うより、入念に下準備をしていたと言った方が良いかも知れませんね。それに時の魔王や勇者の助けもありましたし」


「ふ~ん、その時の話を詳しく聞きたいな」


「構いませんよ。色々とお話すべき事はありますし……おや?」

と、大智来の眉間に微かに皺が寄った。

「そろそろこの戦いに煩わしさを感じたみたいですね。這う者を繰り出しましたよ」


「這う者?あぁ、何か影みたいなモンが床から湧き出てきたな」

見ると床の彼方此方から黒いガスのような物が噴出し、それが徐々に幾つかの固体へと変わって行くところであった。

以前戦った黒い靄のような敵とはまた違う感じだ。


「具現化した闇の瘴気のようなモノです。アレ自体に特に意思はありませんが、定命の者を無差別に襲います。中々に面倒臭い敵ですね」


「……見た感じ物理攻撃は効きそうにも無いし魔法に対しても耐性が有りそうだな」


「御明察の通り」


「となると、そろそろ俺も動くか」

さすがに、あの邪神一匹相手に梃子摺ってる所に無数に雑魚が湧いて来たら全滅しかねないからね。


「先程も言いましたが、山鳴雷は強いですよ」


「魔法一発だな」

俺は呟くようにそう言うと、腰から芹沢三式羅洸剣を引き抜いた。

そしてそれを軽く肩に担ぎ、

「んじゃ、行って来るか」

散歩に行くような軽い足取りで戦闘の環に加わる。


さてさて取り敢えず……

「スキル、七色の衣・輝白のオーラ発動。そして解放」

聖属性の波動を放ち周囲を清浄化。

敵に弱体化のデバフが掛ると同時に博士達に防御と回復のバフが掛かる。


「むぅ」

と山鳴雷が唸った。


俺は剣の切っ先をヤツに向けながら、ちょいと芝居掛った口調で語り掛ける。

ま、その方が如何にも勇者らしいからね。

「ふふ、我が名はスティング・ファルクラム。異世界より迷いし邪神よ。精霊との盟約により貴様をその魂ごと滅ぼす。……恨むなよ」


「ほざけ人間如きがッ!!」


「ほ…」

おっと、何やら身体から放電し始めましたぞ。

魔力を感知しないから魔法では無し。

特殊技能スキルか雷野郎の種族特性アビリティって所だが……ふむ、放電している距離からして攻撃と言うより近接攻撃に対する防御って感じだな。

となると、選択肢としては……

耐電系のバフを掛けてからの特攻。

または距離を取っての魔法攻撃って所だが……うぅ~ん、チマチマ攻撃して魔力を消費するってのは、ちょっとなぁ。

まだ何か隠し玉を持っているかも知れないし、ここは速攻で片を付けるのが良いだろう。

と言うわけで、

「特殊魔法、デ・アマルティ(霊子崩壊・虚数世界)」

色彩に富んだ世界が一瞬にして無機質な空間へと切り替わった。


「な、なんだ?」


「さて、行くぞ」

俺は羅洸剣を手に下げ、そのまま構えすら取らずに無防備にヤツに近付く。


「舐めるなッ!!」

山鳴雷とやらは怒りの篭った咆哮と供に突っ込んで来た。

その手には白き雷が迸る手槍。


ほぇ?どっから取り出したのやら……

魔法的な収納ボックスでも持ってるのか?

はたまた物質変換とか……うむ、分からん。


奴の持っている鋭い手槍が神速の速さで繰り出されるが、それは俺の身体を擦り抜けた。

しかも手槍だけではなく、奴の腕も身体も全てが俺を擦り抜ける。


「ふ…」

俺は手にしていた羅洸剣を無造作に振り上げた。

と同時に奴の腕の一部が切り裂かれ、そこから鮮血ならぬ黒い煙のような物が溢れ出る。


「ッ!!?」


「どうした?攻撃が当たらないのが不思議か?でも俺の攻撃は当たる。何故だろうね?まぁ、例えて言うなら……史上最強の輩が居たとする。無敵の猛者だ。ただ、それが書物に出て来るただのキャラクターだったら?どんなに強かろうが読者に物理攻撃は当たらない。まぁ当たり前だ。しかし逆に読者は何でも出来る。書物に色々と描き込めば良いのだから。生殺与奪は思いのままだ。俺の言っている事の意味、分かるか?」


「き、貴様……一体、何者だッ!!」


「勇者だよ」

そして俺の剣は意図も容易く、ヤツの腹に吸い込まれるにして突き刺さったのだった。






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