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トリック・スター


 こいつは、また……

精霊教会の大聖堂に足を踏み入れた芹沢の額に、冷たい汗が浮かぶ。


予想していた通り、いやそれ以上に豪奢な建造物であった。

この世界の建築様式に古典的な和のテイストも混ざり、何か心を惹き付ける様な不思議な魅力を放っている。

さすが教会の総本山と言うだけのことはある。

但し、それはあくまでも見た目だけではあったが。


う~ん、微弱ながら精神への継続ダメージがあるねぇ……一般人なら知らぬ間に洗脳されてるって所かな。


芹沢は手の甲で軽く額を拭った。

そしてメガネの奥の目を細め、何気を装い辺りを観察。

荘厳さと同時に僅かに寒気も感じる。


……いやはや、建物全体に結界か。

しかも中々に複雑だねぇ。

術式結界に呪物を用いた特殊結界を何重にも仕込んでると言った所かな。

例えシング君でも、これを破るには苦戦は必死かも知れないねぇ。


芹沢は自分の肩に乗っている管狐のフィリーナの頭を指先で撫でた。

外部との通信は当然、妨害されている。


さて、オーティス君は新たなる精霊の力を授ける儀式とやらで別室へ連れて行かれたが……ふふ、どうなる事やら。


そんな事を思っていると、白いローブを纏った男達が数人、近付いて来た。

漂う気配からして普通の人間だ。

彼等は恭しく頭を下げ、

「勇者オーティス様のお仲間の方々。儀式には暫く時間が掛りますので、どうぞ別室でお待ちを」


「やぁ、それはどうもありがとう御座います」


「それと枢機卿様が、後ほど皆様と一緒に昼食をとの事で御座います」

にこやかな笑みで教団の信徒が言う。

そこに他意は無い。

心から好意を寄せている笑顔だ。


「ほぅ、昼食を供に……ですか」

芹沢も笑顔で頷きながら、チラリと横目で摩耶の様子を覗う。

彼女は眉間に皺を寄せ、かなり深刻な顔をしていた。


まぁ、そうだろうねぇ……

私達に黄泉竈食よもつへぐいでもさせ、自分達の駒にでもしようと言うのかな。

「はは、それは実に有り難い事です。そろそろお昼ですし、何処で食べようかなとか考えていた所ですよ。いや、本当に枢機卿殿には感謝を」


「それは何よりです。では、どうぞ此方へ」

信徒達はそう言って、芹沢達を先導する。


枢機卿か…


先程オーティスを出迎えに来た件の枢機卿とやらをチラリと見掛けたが、明らかに人ではなかった。

もちろん、見た目は人間だ。

が、中身はまるで別物。

邪神と言う言葉がしっくり来るほどの圧倒的な神力を内包しているのが分かった。

無論、それを察知出来たのは芹沢と摩耶の二人のみであったが。


黄泉の八雷神……黄泉大神の眷属か。

いやはや、何を企んでいるのかねぇ……

その気になれば一瞬で此方を壊滅させるほどの力を秘めている筈。

自分が用意した防御アイテムを駆使しても、ほんの少し時を稼げる程度だろう。

そんな圧倒的力の持ち主が、どうして勇者オーティスに拘るのか、それがまだ分からない。

敵の目的が奈辺にあるのか、それが掴めれば……


と、不意に自分が着ている薄汚れた白衣の裾が引っ張られた。

見るとシルクが不安そうな顔で見上げている。

彼も何かを感じ取ったのだろう。

「ねぇセリザーワ様。マーヤ様が物凄く怪しんでるような感じだけどさ、その……」


「取り敢えず、出て来る物は食べない方が良いねぇ」

芹沢はニッコリ笑い、辺りを憚るように小さな声で答えた。


「え?それって……まさか毒ってことかい?」


「ふふ、毒より性質タチが悪い物だよシルク君。黄泉……死者の国の料理を食べると、自分達も死者の国の住人になってしまうんだよ。まぁ、呪いの一種のようなモノかな」


「……」


「ま、それとなく皆に言っておいてくれ給え」





 案内されたのは食堂と言うよりは礼拝堂のような場所であった。

先程までいた聖堂より、和よりも洋風に近い建築様式だ。

この世界の色が濃く出ていると言った感じである。


「……ふむ」

真ん中に長テーブルと整然と並べられた椅子。

そこにナプキンと様々なカトラリーが置かれている。

一見すると高級フレンチ系レストランのようだ。


箸は置いてないのかな?ふふ…


芹沢はそんな事を思いながら、案内して来た信者達に愛想笑いを浮かべる。

信者の一人が恭しく頭を垂れ、

「間も無く枢機卿様がお出でになられると思いますので、皆様はどうぞ寛いでお待ち下さいませ」


「はは、それはどうも御丁寧に……あ、ところでオーティス君は?」


「枢機卿様と供に参られる筈です」


「そうですか。いやぁ~……オーティス君がどう変わっているか、少し楽しみですな」

芹沢は笑いながら少しばかり皮肉めいた口調でそう言うと、おもむろに一番近くの椅子に腰掛けた。

他の面々もそれに習う。


「それでは」

と信者達が部屋を出て行く。

それを見て芹沢が近くに居たシルクに軽く目配せすると、探知能力に優れた彼は足早に扉に近付き、そして『大丈夫だよ』と言わんばかりに大きく頷いた。

芹沢がゆっくりと席を立ち、そして皆に向けて笑顔で言う。

「さて、枢機卿とやらがやって来る前に、色々と準備しようかねぇ」

その言葉に、真っ先に反応したのは摩耶だった。

と言うか摩耶しか分かっていない。

新参のエディアにシルル、そしてクバルトは芹沢が何を言ってるのか理解出来ないでいた。

ちなみにラピスは理解云々よりも、テーブルの上のカトラリーを何故か自分の背負っているランドセルに詰め込んでいる真っ最中だ。


芹沢は困惑した顔をしているエディア達に視線を向けると、おどける様に肩を竦めてみせた。

「シルク君には既に説明しているし、マーヤは……ふふ、何か気付いたかね?」

摩耶は小さく頷いた。

そして辺りを警戒するかの如く声を抑え、

「死の瘴気……邪悪な波動を感じます。それに僅かに死臭も……これはあの洞窟で感じた気配と同じです」


「さすがだねぇ。うん、その通り。ここは敵の本拠地だよ」

芹沢が淡々とそう言うと、エディアとシルルは顔を見合わせ、

「セ、セリザーワ様。『敵』と言うのは……魔王ではなく、前に仰っていた異世界より飛来した邪神と……」


「その通りだよエディア君」

芹沢は苦笑を溢しながら頭を掻いた。

エディアは息を飲む。

「な、なんで……」


「ふむ、どっちの意味の『なんで』かな?オーティス君の提案でここまで来た事か、それとも精霊教会が敵そのものだった事か」


「ど、どっちもです」


「ふふ、まぁその話は追々ね。何しろ今は時間が無い。ただ先に言っておくが、オーティス君が裏切ったとかそう言う事ではないよ。人間誰しも、マイナス思考の時は都合の良い話に飛び付くものだからね。さて……取り敢えずマーヤとラピスは室内のサーチを。シルル君」


「は、はい」

ボリュームたっぷりなカール髪の少女は緊張した面持ちで芹沢を見つめる。


「聖属性の魔法は扱えるかね?攻撃ではなく防御系の。出来れば個人ではなく範囲効果のある魔法が扱えると良いのだが……」


「は、はい。あまり得意ではないですが、シールドや結界系の魔法は幾つか習得しています」


「結構。いつでも展開出来るように準備しておきなさい。エディア君は今の内に自分にバフを掛けておくのが良いだろう。さて私は……」

と、芹沢が白衣のポケットを弄っていると、扉付近にいたシルクが鋭く小さな声を上げた。

「セリザーワ様」


「もう来たか。予想より早いねぇ……皆、席に着いて何事もなかったようにね」

芹沢はそう言うと、軽く自分の頬を叩きながら椅子に腰掛ける。

皆もそれぞれ自分の席に着いた。

それと同時に扉が開き、最初に入って来たのはオーティスであった。

どこか自信に満ち溢れたような笑顔を浮かべている。

その後に件の枢機卿。

聖職者とは思えないほどの立派な体格を備えた偉丈夫であり、邪悪さは感じさせない。

だが人間を見下している傲慢さまではどうやら隠し切れていないようだ。

目付きや仕草で何となく分かる。

とは言え信者達からすれば、『威厳が漂っている』等と思われるのだろうが。


芹沢は小さく鼻を鳴らした。

まぁ神からすれば、人間なんてモノは侮蔑の対象だからねぇ。

それが黄泉に属する邪神となれば尚更だろうね。

「やぁオーティス君。どうやら儀式とやらは無事に済んだようだね」


「え…あ、はい!!」

オーティスは満面の笑みで大きく頷いた。

芹沢も頷きながら目を細める。


ふむ、見た目は……変わってないな。

気配も特に変化は無しと。

ただ、何かこう……違和感は感じるねぇ。

それが何かは分からんけど、オーティス君からは覇気と言うか力が漲っている感じが……ふふ、まるで心理カウンセラーを受けた後のようにも見えるよ。


「それは良かった。これで魔王エリウに挑めるかな」


「え、えぇ……もちろんです!!この力があれば魔王シングにだって勝てます!!」


「それは頼もしい」

ふむ、どうにも少し歯切れが悪いねぇ。

何か吹き込まれたかな。

と、芹沢は笑顔を崩さずに枢機卿に視線を移した。

そしてゆっくりと椅子から立ち上がると、慇懃に頭を垂れながら、

「礼を申し上げる、枢機卿殿。オーティス君の眠っていた力を引き出してくれたようで……いや、実に有り難い」


「構わんよ」

枢機卿は鷹揚に頷いた。

「勇者を助けるのは教会としての務め。この世に蔓延る邪悪を一日も早く始末して頂きたいからな」


「邪悪ですか。それは魔王のことですかな?」


「魔王もそうだが、それ以上の悪が存在するのだ」


「ほぅ…」

芹沢はゆっくりと自分の細い顎を撫でた。

「魔王以上の悪ですか。なるほど。まぁ、自分にも少し心当たりがありますねぇ。まさかこの人が、とか意外な人物が真なる悪の存在であったとか……物語などでは定番ですが、現実にもママある事なんですよ」

過分に皮肉めいた口調だ。


「……なるほど。ま、その辺の話は食事でもしながらゆっくりと語ろうではないか」

枢機卿は軽く手を振りながら芹沢に着席を勧める。

だが芹沢は微笑みながら小さく頭を振ると、さも残念そうに

「いやいやいや……折角用意して戴いたのに申し訳ないが枢機卿殿、本日は御遠慮申し上げる」

そう言って、何気にテーブルの上に置いてあったカトラリーの中からナイフを一本手に取った。


「……どこか具合でも悪いのかね?」


「具合と言うか……実は我が家には代々伝わる家訓と言うものがありましてねぇ」


「家訓とな」


「えぇ、黄泉の食い物には手を出すな、と言う教えがあるんですよ」

言って手にしたナイフを素早く枢機卿の顔面目掛けて投げ付ける。

しかしそれはどう言うワケか当たる直前にそのまま垂直に床に落ちた。

まるで彼の周りの空間だけ重力値が違うようにだ。


「ふ…ふふ」

枢機卿は鼻に掛るような小さな笑い声を溢す。

そして口角を僅かに吊り上げた。

「見たまえオーティス。これが奴等の正体よ」


オーティスの雰囲気が一変した。

目は据わり、どこか感情の失せた声で言う。

「……セリザーワ様。それにマーヤ様。まさか……貴方達が邪神に仕える闇の使徒だったとは」


「は?や、闇の使徒?」

おやおや、オーティス君は一体何を言ってるのかねぇ……中二でも拗らせたのかな?

ふふ、まぁ冗談は兎も角、言霊か何かで精神を誑かされたのか……

しかもこの圧倒的な瘴気の中でも動じないとは……やはり闇系の属性に染まっているか。


「ま、想定通りの展開だし……先ずは防戦の一手だね」

と芹沢が呟くや、それまでボンヤリしていたラピスがいきなりアクションを起こした。

「シルバーパレット弾発射でしゅ!!」

背中に背負った芹沢謹製赤ランドセルから数発の特殊炸裂弾を射出。

それは天井付近で破裂するや、辺り一面に銀粉が舞い落ちる。

その効果は聖属性魔法の威力倍増だ。


摩耶が杖を大きく掲げ、

「聖なるかな。彼方よりの邪気を打ち払い此方に聖域を展開」

結界魔法を発動。

更にシルルも祈るように指を組み合わせながら

「パーリフィケイション」

同じく結界魔法を張る。

二重の聖属性結界魔法だ。


だが枢機卿は僅かに目を細めると、

「小賢しいな」

まるで嘲笑するかのように小さく鼻を鳴らした。

瞬間、辺りに充満していた邪悪な瘴気が濃くなり、二人の結界を容易く打ち砕く。


……一瞬か。

芹沢が小さく舌打ちする。


やはり西洋系の魔法やこの世界の魔法では効果が薄いか。

それに敵の領域と言うのも分が悪い。

「ならば……黄家仙道、紫雲宮」

白衣のポケットから取り出した小さな木簡を、芹沢は勢い良く地面に叩きつけた。

パシンと言う音が響くと同時に、辺り一面に靄のような物が掛る。


「……ほぅ、仙術の類か。大陸の術だな。初めて見るが中々に面白いぞ」


「あまり得意な方では無いんですがねぇ」

これも効き目が薄いか。

その辺に屯ってる土地神や悪霊の類なら効果は抜群なんだが……さすがは古の神の眷属と言った所だねぇ。

しかし、これは少々マズイ状況ですね。

あの黄泉の眷属神は余裕に構えているので今は何とか時間は稼げるが……問題はオーティス君だ。


芹沢はチラリと横に視線を走らす。

オーティスは両の手で剣を構え、まるで両親の仇とでも言わんばかりの目でシルク達に対峙していた。


やれやれ、こんな所でもまた生真面目に……

しかも想像以上にパワーアップしているみたいだし……はてさて、どうしたモノかねぇ。


と、オーティスは縦横無尽に剣を振るい突っ込んで来た。

以前とは比べ物にならないほどの鋭い剣戟。

前衛のエディアは辛うじてそれを受けながら叫ぶ。

「オーティス君!!正気に戻って!!」


「……何を言っている?正気じゃないのは君達の方だろ?」

感情が死んでいるような平坦な物言い。

オーティスはそのまま軽く飛び退って間合いを取ると

「ファイヤボール」

基本的火系魔法を連射。

だがその威力は以前とは段違いだった。


「マジックシールド三枚!!」

シルルが瞬時に防御魔法を展開。

が、オーティスの魔法は難無くそれを突き破る。


ふ~む、全てのステータスが上がっているのか。

となると、単に精神作用系の魔法で魅了されていると言うワケではないと。


芹沢は防御術式を展開しながら考える。


剣の鋭さに魔法も強化されている。

技術的にはそのままだが、能力値は大幅にアップと……

身体能力にこれほど影響及ぼすとなれば、魂に直接に何かされたのかな?

だとすると元に戻すのは至難の業。

これは中々に厄介だねぇ。


「く……オーティス君!!」

エディアがオーティスに向かって渾身の一撃。


「甘いよエディアさん」

と余裕の笑みでそれを軽く受け流すが、その陰からシルクが飛び出し急襲。

しかしオーティスはそれを読んでいたのか、視線すら動かさずに防御魔法で弾き返した。


「く、くそ…」

シルクが態勢を整え、短剣を構え直す。


「……シルク、残念だよ。君の事は友人だと思っていたのに」


「クバルト!!何をボサッとしてるんだよ!!オーティスを止めるんだよッ!!」


「お…おぅ」

それまで事の成り行きに思考が付いて行けなったのか、ただ右往左往するばかりのクバルトが、戸惑った顔をしながらゆっくりと巨大な戦斧を構えた。

刹那、オーティスは一気に間合いを詰めると、何の躊躇いも無く剣を振り上げその手首を刎ね飛ばした。


「クバルトッ!?」


「……シルク。何時からだい?何時から僕を裏切っていたんだい?」


「オーティス…」

シルクは唇を噛み締め、オーティスを睨み付けていた。

呻き声を上げながらその場に蹲るクバルトには、摩耶とシルルが回復魔法を掛けている。


ま、参ったねぇ……

エディア君にシルル君、シルク君にクバルト君、そしてラピスの5人でも抑えきれないか。

芹沢の額に冷たい汗が浮かぶ。

幸い、あの邪神は愉しんでいるのか、今のところ戦闘に加わる気配は無いようだが……


「ともかく、先ずは自称勇者君を止めるか」

芹沢は口の中でそう呟くと、懐から何枚もの術札を取り出した。


その時だった。

バンッと言う何か叩くような大きな音が響いたかと思うと扉がゆっくりと開き、ゆっくりとした足取りで一人の男が入って来た。

白地に金銀をあしらった豪奢な長衣を身に纏っている、一目で聖職者と見える出で立ちであった。

芹沢達に緊張が走る。


教会関係者?

ここへ来て増援か?


芹沢も他の者も、オーティスですら戦闘を一旦止め、その男を見やる。

男は温和な笑みを浮かべていた。

涼しげな目元に瞳には知性の輝き。

邪悪さは微塵も感じられないが、枢機卿とは違う意味での異質な雰囲気を醸し出している。


一体何者……


と芹沢が思っていると、謎の闖入者は辺りを見渡し、これ見よがしに溜息を吐いた。

そして何処か物腰が低く少し気怠るそうな声で

「おやおや、面倒臭い結界が幾重にも張ってあると思ったら、お取り込み中でしたか」

そう言うと、また大きく息を吐いた。

枢機卿の眉間に大きな谷間が出来る。

「む、大智雷か。何処に行っていたのだ」


「……ヤマナー枢機卿。大智雷ではなく、今はこの精霊教会の教皇、ダ・イチーですよ。と言うか、良いのですか?勇者の前でそのような事を軽々に口にして」


「下らん。既にこの男は我の傀儡くぐつよ。言葉は届いても意味は理解できん。それよりも少し手を貸せ。貴様の見立て通り、こ奴等は倭からの転移者ぞ」


「ははぁ、やはりそうでしたか。それよりも、ちょっと珍しいお客人を連れて来たのですよヤマナー枢機卿」


「……客?」


「えぇ、真なる勇者スティング殿とそのお仲間の方々をね」

精霊教会のトップである教皇を名乗った男の背後から、白銀の全身鎧に純白のマントと言う、まるで物語の世界から飛び出してきたような如何にも勇者と言う男が現れた。

目元から下を装飾の施された白銀の半仮面で覆っているのが少々異質ではあるが、それが却って不可思議な魅力を醸し出している。

そして勇者の後に更に続く者が数名。

エルフの弓士に人間の剣士。

小柄な少女にフードを頭から被った謎の男と続く。

枢機卿の目が細く、そして険しくなった。

「……どう言う事だ、大智雷」


「どう言う事も何も……まぁ、永らく待ち望んでいた好機が訪れた、って事ですかね」


「……ふ、なるほどな。昔から何か企んでいるとは思ってはいたが、まさかここで裏切るとはな」


「裏切る?」

教皇は心外なとばかりに目を見開き、

「私の行動は最初から一貫していましたよ。あの結界から外に出た時からね。だから『裏切る』と言うのは間違いですね」


「なんだと…」


「ま、『黄泉大神の眷属神』としか行動出来ない貴方方とは、根本的に考えが違うと言う事ですよ」


「……」

枢機卿が無言で手を振った。

刹那、教皇の前で大きな音と供に何かが弾ける。


「やれやれ。この千年……ただの邪悪な眷属神として振舞ってきたは貴方と、ひたすら研鑽を積んできた私。霊格に差が開いている事を理解出来てないのですか?」


「む…」


「ま、良いでしょう。貴方の相手は勇者スティング殿とそのお仲間です」

言って教皇は一歩下がり、代わりにスティングが前に進み出た。







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