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目撃者は消せ。そう漫画に書いてあった


 廃ホテルの中は、ドローンからの映像の通り、廃墟と言う割には小奇麗であった。

ただ、映像では分からないように、空気が淀んで埃っぽく、ジメジメとして少し黴臭かったりもする。


「暗いですねぇ。ま、スキルがあるから気にならないけど……摩耶さぁ~ん」

呼び掛けてみるが応答は無し。

俺の声が受付前のロビーに響き渡る。

「で、テレビ関係者の姿も無いし……何処に消えたんでしょう?」


「急ぎましょう」

と、俺の耳朶を引っ張る酒井さん。

黒兵衛は軽やかに床に降りると、耳を器用に動かしつつ辺りを警戒しながら、

「エレベータの方やな。行くで」


「うひぃぃぃ……出来れば何も出て来ませんように」


「ビビってるんじゃないわよ。霊は所詮霊よ」


「だから怖いんじゃないですかぁ」


「この間と一緒よ。術士に呼び出された悪霊よ。それだったら怖くないでしょ?」


「その確信が持てるまでは怖いッス」


「何を言ってるんだか……ともかく進みなさい。男でしょ」


「頭を叩かないで下さいよぅ」

ちょいとへっぴり腰で、慎重に歩を進める僕チン。

しかし摩耶さんは一体何処へ?

スキルに反応は……っと、何か感知したぞよ。

「ままま摩耶さぁ~ん。帰りますよぅ~。酒井さん、オコですよぅ」


「誰か倒れてるで」

黒兵衛がダッシュ。


「ま、待っちくりよぅ」

エレベータへ向かう廊下の途中で、スキルが反応した通り暗闇の中に誰かが倒れているのを発見。

しかしながら摩耶さんではない。

テレビ関係者だ。

女性レポーターとか言う輩だ。

黒兵衛がスンスンと鼻を鳴らしながらその周りをウロついている。


「何でヘルメットを被ってるんですかねぇ?天井とか崩れる心配は全く無いと思うんですが」


「演出よ」

と酒井さん。


「なるほど。おい姉ちゃん、生きてる?生きてるんなら返事してくれよぅ」

取り敢えず、何だかちょっぴり怖いので、靴の先で倒れているお姉ちゃんの身体を突っ付いてみる。


「う…た、助けて……」

姉ちゃんは生きていた。

恐怖を顔面に貼り付け、震える手を伸ばしてくる。


「や、助けてと言われてもなぁ。ちょいと聞きたいんだけど、ここに可愛い女の子が来なかった?綺麗な黒髪ロングでオールディ魔女衣装を着た女の子なんじゃが……」


「た、助けて……」


「おやおや、僕チンの話を聞いてませんねぇ」

さて、どうしたもんか……と考えていると、酒井さんがウンザリとした声色で、

「ちょっと、話を聞いてるのはこっちよ。ちゃんと答えなさいよ」


「……ヒッ!?」

女は悲鳴を上げた。

更に追い討ちを掛けるように、黒兵衛が姉ちゃんを睨み付けながら、

「おい、ここに魔女が来たやろ?何処行ったんか知らんか?答えや、姉ちゃん」


「……」

テレビの姉ちゃんはそのまま意識を失ってしまった。

ま、そりゃ失うわな。


「ってか、二人ともワザと驚かしただろ」


「あ、分かる?」

俺の肩に乗ってる酒井さんは、クスクスと笑った。

黒兵衛も底意地の悪そうな顔で、

「ちょっとイラっと来てな。パニくってる輩には、言葉が通じんしな」


「本当にこの性悪どもは……」


「別に良いじゃない。気絶した方が楽でしょ?それに私達の正体も悪夢の類と思い込むに違いないわ」


「そうかなぁ?それで、この女性はどうします?外へ出しときますか?それとも頚椎でも砕きます?」


「放置でOKよ。助ける義理は無いわ。それより、そろそろ気を引き締めなさい。かなり強い霊力を感じるわ。ここから先はかなりの危険地帯よ」


「み、見えない!!僕には何も見えない!!」


「何でもう目を瞑ってるよ……」


「見えなきゃ怖くないじゃないですか」


「この馬鹿は……さっきも言ったけど、これはやはりこの間と一緒よ。感覚からして、術士が召喚しているのよ」


「さっきも言いましたが、確証が持てるまで俺は目を開けないッス」


「何でそんなに肝が小さいのよ」

酒井さんはヤレヤレな溜息を吐き、ポカリと俺の頭を叩く。


「いやぁ~……器はデカいんですけどねぇ」


「とにかく、目を瞑ったままで良いから先へ進みなさい」


「へ~い了解」


「せやけど……摩耶の姉ちゃん、何処にも見当たらへんな。さすがに心配やで」

「大丈夫よ。この間の事もあるから、摩耶には悪霊除けの護符を持たせてあるし……」


「僕チンもそれ欲しい」


「アンタはナチュラルに悪霊が近寄って来ないでしょ」


「気持ちの問題ですよ」


「本当に真性の馬鹿ね、アンタは」

酒井さんがこれ見よがしに大きく溜息を吐く。

その刹那、ズンと鈍い音と共に、床下から突き上げて来るような衝撃を感じた。

魔力探知系スキルにも反応がある。


「ふにゃ?今、ちょっと大きな魔力の波動が……」


「摩耶よ。摩耶が魔法を使ったのね。急ぎましょう。何かと闘ってるみたい」

「地下やな。行くで魔王」


「ま、待っちくり。前が見えないから走れない」


「目を開けなさいよ」


「嫌です。何故なら怖いから」


「……」

酒井さんは無言で殴り付けてきた。


「わ、分かってます。分かってますから……出来るだけ早足で進みますから……」

言いながら俺は、小さな歩幅でソロソロと廊下を突き進む。

もちろん、目は閉じたままだ。

時折、怨みの詰った声や叫びが耳に響いてくるが……これはまやかしだ。

幻聴の類だ。

「お、お化けなんて嘘なのさ。怖いと思うから、見えたり聞こえたりするんだ」


「いや、めっちゃ周りを飛んでるで。お前には近付いて来んけど」


「……僕チン、もう帰るぅぅぅ」


「足を止めてるんじゃないわよ。急ぎなさい」


「シクシク……怖いよぅ」


「急ぎなさい。摩耶に何かあったら、毎晩枕元で怪談話をするわよ」


「そんな事したら、夜中にトイレへ行けないじゃないですかぁ」


「ッて、止まれや魔王!!」

黒兵衛が鋭い声を上げた。


「急げと言ったり止まれと言ったり……一体どうした?」


「すぐそこが開いてるエレベータや。そこからかなり強い霊気が漏れてるでぇ……気付かんか?」


「何も感じん」


「……せやろな」

「ホテルに地下が……摩耶はそこね。しかし不思議な構造よねぇ……何があるのかしら?黒ちゃん、中はどうなってる?」

「なんも無いな。穴が開いてるだけで、機械は撤去されとるわ。あと……微かに戦っている音が響いてくるで。下までの距離は10メートルぐらいやろか?摩耶姉ちゃん、どないして降りたんやろ?」

「多少の浮遊術ぐらい使えるわよ。しかし戦闘中なら急がないと……シング、何とか行ける?」


「ふへ?穴が開いてるだけですよね?10メートルってのがどのぐらいか良く分かりませんが……それほど高くないですよね?」


「アンタ6人分ぐらいよ」


「余裕ッス。んじゃ黒兵衛、俺の肩に乗れ」


「飛び降りるんか?しかも目を瞑ったまま……大丈夫か自分?」

言いながら使い魔の黒猫が俺の肩に飛び乗った。


「大丈夫だよ。衝撃に対するパッシブスキルも持ってるんだよぅ」

そう言って俺は、両の手で肩に乗っている酒井さんと黒兵衛をホールド。

「では行きますよぅ……って、ナビをしてくれ。穴は何処だ?」


「目を開けろや……」


「やだよ。まだ悪霊とかが飛んでるんだろ?怖いじゃんかよぅ」


「……目を瞑ったまま飛び降りる方が余程怖いと思うんやが……」

「そのまま真っ直ぐよ。もう少し……今、足の先がエレベータの入り口に掛かったわ」


「あ、このボコッとした感触ですね。先は……おおぅ、何も無い空間だ。んじゃ、行くでごわす」

そのまま進むと、直ぐに自由落下。

股間辺りが微かにヒュンッとなるが、ほんの一瞬で足の裏に微かな衝撃を感じた。

「到着っと」


「回れ右をしなさい。目の前は壁よ。あと大きな段差もあるから気を付けて」


「了解。んで状況はどーなってるんで?」


「真っ暗よ」

「ボイラーとかの機械室があった場所かいな。思うてたより広いし、何やけったいな感じがするけど……取り敢えず向こうの方から音が響いてくるで。姉ちゃんの声も聞こえるで」


「向こうと言われても……このまま真っ直ぐ進んで良いんで?」


「せや。真っ直ぐや」

「急ぎなさいシング」


「宜候」

目を瞑ったまま転ばないように歩幅を極端に大きく股の限界まで広げながらズシンズシンと進む僕チン。


おおぅ、確かに何やら物音が……あ、摩耶さんの声も聞こえる。

スキル反応は、摩耶さんとその近くに人間が二人。

周りは何か感知しているけど生憎と正体は不明。幽霊とかの類かな?

それと別部屋なのか……少しばかり離れた場所に、これまた人間種が二人三人……いや、四人か。

敵味方の判別は不可。

それと珍しくアンデッド反応を幾つか確認と……


「摩耶ッ!!」


「うぉう!?」

いきなり耳元で酒井さんが吼えたので、僕ちゃんちとビックリ。

思わず転びそうになってしまった。


「さ、酒井さん……と、シングさん」

「全く、何をしてるのよアンタは。……帰ったら説教だからね」


酒井さんの説教か……

今現在、俺が世界で一番苦手な罰だ。

長時間、正座させられてネチネチと……うぅ~ん、摩耶さんも可哀想にね。


「にしても大量の悪霊ねぇ……取り敢えず、六根清浄」


ん?何やら波動が……


「シング。もう目を開けても良いわよ。辺りに居た悪霊は浄化したわ」


「マジですか?」

浄化?

神聖系魔法か?


「一時的だけど、この場を聖域化したわ。これで悪霊は出て来れない筈よ」


「ほへぇ……さすが酒井さん。何でも出来ますなぁ……ってか、もっと早く使って下さいよぅ」

言って俺は目を開けるが、おおぅ……地下だけに真っ暗だ。


「浄化系の符札は一枚しか用意してないのよ。作るのに手間が掛かるからね」

酒井さんは今度は辺りを照らす術札を取り出し、それを宙に投げる。


「あ、摩耶さんだ。それと……」

仄かな明かりの下、酷く疲れた顔をした摩耶さんと、俺のスキルが反応した通り、もう二人そこには居た。

若い男女だ。

二人とも足を負傷しているのか、その場で蹲っている。

女の方は恐らくだが雑用的な仕事をする、ADと呼ばれる輩だろう。

そして男はカメラマンだ。

何故なら大きなカメラを持っているから。

しかも足の痛みに耐えながらも、黙々とカメラを構えて回し続けている。

中々のプロ根性だ。


「摩耶……一体これはどう言う事?」

酒井さんは冷ややかな目でテレビ関係者である男と女を一瞥し、自分のツルンとしたおでこに手を当てながら言った。


「そ、それは……この方達が悪霊に突き落とされるのを見て……それで……」


「それで追い駆けて、ここで結界を張ってやり過ごそうとしていた……と、そんな所ね。全くアンタって娘は……」


「す、すみません。ですが……」

と何か言い掛ける摩耶さんを酒井さんは手で制すと、

「取り敢えず、今日の所は撤収よ。この先に微かだけど何か嫌な気配を感じるわ。まだこっちに気付いてないみたいだけど……今の内に脱出するわよ」


「は、はい。あ、この方達は……」


「……シングが運ぶわ」

そう言って酒井さんは、どこか意味深な顔を俺に向けた。

「色々と面倒だけど……後は頼むわね、シング」


「ふへ?僕チン?……ん~了解ッス」

あぁ……そう言うことね。


「ごめんね」


「全然、平気ですよぅ」

何しろこちとら、居候の身だ。

しかもゲームとかも買ってくれるし……汚れ仕事の一つや二つ、余裕ですたい。


「じゃ、行くわよ摩耶。黒ちゃんは残ってこの辺をちょっと調べててくれる」

「了解や」

「じゃ、シング……お願いね」

「シングさん。お願いします」


「うっす」

酒井さんと摩耶さんに『お願い』されてしまったが、それの意味する所は互いに大きく違う。

俺は軽く頭を掻きながら、足許の黒兵衛を見やった。


「自分……大丈夫か?」


「ん?ん~……全然、平気だぞ。俺は別世界から来たわけで、倫理観っちゅうか価値観っちゅうか常識っちゅうか……ま、そう言うのがちょっと違うワケでな。特に悪い事をしてるとか思わない。そもそも俺は人間種じゃないからね。その辺の道徳心みたいなモンは、最初から持ち合わせて無いよ」


「せやな」


「ま、見知った相手ならともかく、全然知らんヤツは……別に好き好んでヤるワケじゃないけど、必要とあれば平気で御座るよ」

そう言って俺は、蹲っている男の許へと近付く。

中年の男性は、未だにカメラを構え、俺の姿を撮っていた。

中々に職業意識が高い。

その辺は素直に尊敬しよう。


「じゃ、ワテはその辺を調べてくるわ」


「おう。あ、ちょっと進んだ所に小部屋があって、そこに何人か居るぞ。何やってるか分からんけど、アンデッド反応もある。気を付けてな」


「ホンマか?それはそれで気になるのぅ」


「……さて」

俺はゆっくりと腰を下ろし、男の構えているテレビカメラのレンズを遮るように掴みながら、

「あのさぁ、世の中には、行ってはいけない場所とかあるし、撮ってはいけない映像とかもあるの。分かる?俺は別に気にしないけどさぁ、酒井さんとか摩耶さんの映像はさぁ、何か面倒な事になるんだって。さっきの魔女ちゃんと魔人形様のことね。それ、撮ったでしょ?ダメだよぅ。ぶっちゃけた話さ、酒井さん達を撮るってのは、リターンも大きいけど当然リスクも高いの。分かるだろ?存在自体が凄いんだもん。んで、アンタにはそのリスクを今から支払ってもらうの。お代は、映像を収めたテープと、アンタの命でごわす」


「え…」


「恨んで化けて出て来ないでね。僕チン、その辺が唯一のウィークポイントですから」

俺は笑顔で大きなテレビカメラを軽く奪い取るや、そのままそれを垂直に振り下ろす。

メシャッと鈍い音と共に、男の頭部が潰れ、辺り一面に血と脳漿が飛び散った。

俺は更に念を入れ、もう一度カメラを叩きつけ、頭部をミンチ状にする。

これで余程高位の蘇生魔法でもない限り、復活は出来まいて。

「はい、終了っと。さて、お姉ちゃんの方は……」


「ひ…ひぃぃぃ!!」

残っているもう片方の姉ちゃんは、脱兎の如く駆け出した。


「お、おいおい……スゲェな」

パッと見、片方の足の膝から骨が飛び出している状態じゃったんだが……それで全力ダッシュを噛ますとは。

「生存本能ってヤツかな?切羽詰ると、超人的な事が出来るんだ。人間ってスゲェなぁ」

等と感心しながら、大きなテレビカメラを片手にのんびりと歩いて行く僕チン。

あの足ではそう遠くへは行けないし……っと、その前にテープを回収しないと。

ふむ、どうやって取り出せば良いんじゃろうか……


と、テレビカメラを弄くっていると、

「プギャァァァ!!」

突然、屠殺場の豚のような悲鳴が地下に響き渡った。

思わずビックリしてカメラを落としてしまうが、その弾みでテープが出て来たから良しとしよう。


「ってか、なんでしょうねぇ」

感覚を澄まし、スキル反応をチェック。

おろ?何かこっちへ……


「ま、魔王!!」

暗闇の中、黒猫が金色の目を光らせながら走って来る。


「どうした黒兵衛?」


「何か来るで!!」


「や、分かってるよ。姉ちゃんが走ってた方からだが……おろ?おろろ?」

ズルズルと何か引きずるような音を立てながら、何者かが廊下を道形に進んでくる。

アンデッド反応?

この世界では珍しいなぁ……


「な、なんや?」


「ふむ……」

姿を現したのは、全身血塗れの男だった。

しかも首が妙な方向に曲がっている。

そしてその手には先ほど逃げた女。

首の部分を鷲掴み、引き摺りながら此方へ向かって歩いて来る。

更にその背後には、フードを被った正体不明の輩が数人。

状況的に、どうやらこいつ等が首謀者のようだ。


「お、おい魔王……どーなっとるんや?あれは……まさか動死体ゾンビか?」


「そうだねぇ……間違いなく、動死体だね」

俺は軽く頭を掻きながらそう言った。

「んで、背後の連中がおそらく死霊術士と……そんな所か。さて、どうしよっか?」


「……自分、動死体はビビらんのな」


「ん?ただの動く死体じゃんか。ビビるどころか警戒もしんよ。ま、死霊術じゃなく反魂術系の動死体なら、ちょいと厄介だけどね」


「なんやそれ?何かちゃうんか?」


「似て非なる物だよ。簡単に言えば死霊術の動死体は単なる術士の傀儡。反魂術で言う動死体は自分の意思を持つ死体って事。こっちの方は長じてリッチとか暗黒騎士になるからなぁ」


「そうなんか。ってか、どうする?こっちへ来るで?ここは撤退するか?」


「ん~……ちょっと遅かったかな?」

そんなやり取りをしていると、フードを被った男達が目の前に現れた。

その中から、他のフードとは色の違うフードを被った輩が少しだけ前に出る。

顔は暗くてよく分からないが、口元辺りに深い皺が見えることから、かなりの爺さんであろう。


「女が飛び込んで来たかと思えば、今度は男。どう言う事じゃ?何故、死んでおらん」


「……どう言う事だって言われてもなぁ」


「死霊どもはどうしたのか……ん?この気配……神聖魔法?結界じゃと」

フードを被った爺さん(年齢不詳)は、軽く辺りを見渡し、低く唸ると、

「ふむ……浄化したのか。御主、何者じゃ?聖騎士か?」


「恐れ多くも魔王様だ。エッヘン」


「魔王?」


「その通りで御座るよ」


「……まぁ良い。殺せ。面倒が起こる前に処分しておけ」

爺がそう言うや、いきなり脇に控えていた動死体がウガウガと気味の悪い声を上げ、掴んでいる先程の女性を振り回しながら襲い掛かって来た。


「いやぁ~ん」

軽やかに避ける僕チン。

敵は力はありそうなものの動きは鈍く、また反応も遅い。

かなり低レベルの動死体だ。


「横や魔王!!」


「ふにゃ?」

チラリと視線を走らせると、横合いからフードを被ったモブキャラが突進してきた。

手には奇妙に先端が捩れているナイフ。

恐らく何かしらの儀式に使われる物だろうが……


「で?それがどうした?」

ナイフは俺の横腹に突き刺さる直前、砕け散っていた。

「刺突武器に対する耐性だ。もちろん他の武器にも同様に耐性がある。低レベルの武器なんかは、当たる直前に破壊されるばってん、ダメージを与える事は不可能で御座るよ、にんにん」

俺はニッコリと笑顔を溢し、軽いパンチを一発。

フードを被った男の顔面にぶち当たるや、首から上がいきなり爆発四散した。


「あり。ちと力を入れ過ぎちったよ。もう少しマイルドにするかねぇ」

と、身体を回転させながら手刀で動死体の首を跳ね飛ばした。

「ふむ……やはり魔法を使わなくても、低レベルの人間種が相手ならアビリティとスキルだけで充分に闘えるか」


「ぐ…な、何者じゃ、貴様……」


「魔王だよ」

俺は手に付いた血を払うかのように振りながら不敵な笑みを浮かべる。

「ふふ……舐めるなよ人間。貴様等全員、ここで皆殺しだ。……って、どうよ黒兵衛。今の台詞、かっちょ良くないか?如何にも魔王って感じがしないか?」


「あ、あぁ……せやな。中々やな。せやけど、皆殺しはアカンで。ボスらしき男は生きて捕らえんと、酒井の姉ちゃんにシバかれるで」


「そうだね。お説教食らうと、ストレスでお腹が痛くなるモンね」

俺は少し困った顔でそう言うと、軽いステップで素早く間合いを詰めるや、フードを被った謎の連中に連続のパンチング。

男の一人は衝撃で後頭部から脳汁が噴出し、また別の男は顔面のド真ん中に大きな穴が開いた。

「で、気が付くとザ・ボスたった一匹と……ふふん、観念しなせぇ」


「な、何だ貴様は……」


「だから魔王だって」

爺ィの腹部に軽い一発を放つ。

ボグンと鈍い音と共に、爺さんは吐瀉物を撒き散らしながら地面をのた打ち回った。

「あ、あれ?あれれ?こういう場合、普通は気絶するんじゃね?」


「テレビの見過ぎや。そない簡単に人は気絶せーへんで」


「そうなのか?」


「こういう場合は、こうするんや」

言うや黒兵衛の身体が淡く光り、使い魔の黒猫はそのままフード爺さんに体当たり。


「ぐ…」

爺さんは一撃で動かなくなってしまった。


「お、おおぅ、すげぇ。どうやったんだ?」


「簡単な事や。体の表面を薄く魔力で覆ってな、そのまま衝撃を与えたんや」


「な、なるほど。魔力のオーラで直接ダメージを……うむ、ラーニングした。帰ったら練習してみよ」


「それより、大金星やで。まさかこない簡単に事件解決とはな。ま、何も分かってへんけど、首謀者を捕らえたんや。尋問は、酒井の姉ちゃんに任せればエエやろ」


「だね。酒井さん、褒めてくれるかなぁ」


「ご褒美に新しいゲームとか買ってくれるかも知れへんで」


「マジか。そいつは嬉しいなぁ……おねだりしてみよ」

俺はそう言って、ピクリとも動かない謎の爺さんを見下ろす。

「で、問題はだ……どうやって上まで戻ろうか?」


「飛行術とかは使えんのか?」


「魔法全般は魔力の関係から怖くて使えないよぅ」


「せやったら、物理的に上るしかあらへんな」


「コイツを担いだまま、あのエレベーターの穴を垂直に登るの?それってかなり難しくね?階段とかはないのか?」


「無い。梯子だけやし、その梯子も壊れとる。どうもこの場所は、ホテルが廃業してからこの連中が秘密裏に作ったみたいやな。最初から、構造的に変やと思うてたんや。壁とかも雑やしな」


「そうなのか。その辺の事も、この爺から聞き出さないとな」










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