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シンノスケの諸国漫遊紀/其の二


さぁ~て、なんじゃろうなぁ…

怒声の響く方向へと鼻歌混じりに近付く僕チン。

大通りの一角に何やら人だかりも出来ている。

何時の時代、何時の異世界や異種族にも、野次馬と言うものは存在するものだ。

これはもう、生物の性と言っても良いのかも知れない。

……

ま、かく言う俺もそうなんだがね。


俺は「ちょっくらゴメンよぅ」等と言いながら人混みを掻き分け最前列へ。

む…?

何やら戦士や騎士と言った腕っ節の強そうな連中が小グループに分かれて言い争っている。

「何が起きてるんでしょうかねぇ」

そんな事を呟き、取り敢えず隣の野次馬に話を聞くが……あまり要領を得ない。

仕方が無いのでその隣の奴に話を聞くが、これも今一分からん。

ならばその隣のオッサンに……と、そんな事を何度か繰り返した結果、分かったのは……要は国家間の争いと言う事だ。

最初、この街に来ていた帝國からの使者に同行していた護衛連中と、ダーヤ・ウシャラクからの使者連中が言い争いになったそうだ。

ま、両国とも緊迫した状態が続いているし、過去の因縁もあるからね。

で、そこへ通り掛ったのがダーヤ・ネバルの一行。

それも争いに加わり、更には旧ダーヤ・タウル王国貴族から俺の傘下に加わった新領主一行も新たに参戦して、何だか自体は混沌としてしまった……というワケだ。

……何だそりゃ?

余所の国に来て何やってんだコイツ等?

そもそも謝罪や陳情に来たって言うのにね。


と、肩に乗っている黒兵衛が、チョイチョイと俺の頬を叩きながら辺りに聞こえないように小声で、

「で、どないすんや魔王?なんや今にも剣を抜きそうな勢いやで。仲裁に来た警備隊の連中も困ってるようやし……」

そう話し掛けて来た。


俺も同じく声を潜め

「知らん。ってか本当に剣を抜きそうだな。馬鹿なのか?こんな所で刃傷沙汰でも起こしたらどう言う事になるのか分からんのかねぇ」


「それだけ因縁とか怨恨とか……そう言うモンがあるんやろ。で、どないする魔王?」


「いやぁ~……面倒だし……そろそろ警備関係の偉いサンとかが来るんじゃね?確かジルコフ……だったっけ?」


「あ~……カーチャの姉ちゃんの所の戦士長かいな」


「うん、そう。新生ロードタニヤ王国の将軍様に就任予定だ」

俺はそう言うと、背後に居るリッカの頭をポンポンと軽く叩き、

「さ、御飯でも食べに行こうか。何が食べたい?」


「……お兄ちゃん、良いの?」

リッカが少しキョトンとしたような表情で俺を見上げた。

黒兵衛も俺の頬を叩き、

「おいおい、放っておいてエエんか?」


「良いんじゃね?そもそも下々の争いに魔王である俺様がわざわざ介入するか?そっちの方がパニックになるだろうよ」

だいたい権力者が街の喧嘩に割って入るなんてなぁ……そんなのは人間界で観た時代劇の世界だぞ。


「まぁ……せやな。ってか、野次馬根性が旺盛な割には、妙な所で慎重なんやな。さすがヘタレや」


「好奇心旺盛だが常に冷静沈着なのだ」

言って俺は踵を返し、リッカを連れて人混みから抜ける。

とその時、擦れ違い様に一人の初老の男性が軽い足取りで騒ぎの中心へと向かって行った。

気になって振り返ると、その爺さんは何やら騒いでいる連中に穏やかに声を掛けている。

仲裁しているのだろうか。

そして何をどうしたのか、怒鳴り声を上げていた兵士を転ばすと同時に、何処からか取り出した細いロープで両の手を縛り上げた。

一瞬の出来事だ。

周りの野次馬連中も思わず感嘆の声を上げる。


「ほほぅ……捕縛術か。実に見事な戦闘技術アーツだねぇ」

見事な早業に思わず俺も魅入ってしまった。

いやはや、見たところ普通の人間種のようだが……あんな動きが出来るのか。

ヤマダの旦那のように、かなりの修行を積んだ人物みたいだが……


と、肩に乗っている黒兵衛が

「なんやアーツって?」

俺の頬を突っ突く。


「あん?あ~……簡単に言えば熟練した技って事だ。才能に偏った種族特性アビリティ技能スキルとは違い、経験とが努力が物を言うのがアーツだ。ヤマダの旦那の双剣術やリーネアの弓術がそれだな。物理系戦闘技術だ。それに酒井さんが良く指先で宙に魔法陣を書いて術を発動させたりするだろ?あれは無詠唱形の簡易魔法陣だ。魔法系戦闘技術だな」


「匠の技って事かいな」


「そう言うこと。才能があっても一朝一夕に身に付くものじゃねぇ」


「自分は何か修め取るんか?」


「そうだなぁ……土下座と嘘泣きかな?あと死んだ振り」


「……戦闘技術やないやろうが」


「わははは♪しかし……あの爺さん、只者じゃねぇな。パッと見、縁側で猫でも抱いていそうな枯れた爺さんだけど、動きが半端ねぇ。市井の人間に出来る動きじゃなかったぞ」


「爺さんって言うほど歳を取ってるワケやないけど……元冒険者とかやないか」


「……気になるねぇ」

俺は目を細めて件の人物を見つめる。

謎の老人は警備員達に何か言った後、そのままそそくさとその場を後にしようとしている所だった。


ふむ……直感アビリティが反応しますか。

そうですか。

とは言っても昼御飯の時間だしなぁ……リッカもお腹が減っただろうし。


「ん~……月影の探索者ウブラルーナエ

取り敢えず、呟くような小さな声で特殊魔法を発動。

黒兵衛が、

「何をしたんや?」

と尋ねてきた。


「なに、ちょいと尾行者をな。ストーカ系魔法だ」

言って俺はリッカに微笑み、

「さ、お昼御飯にしようか。この街の名物はなんじゃろうかねぇ」



初老の男は飄々とした足取りで街を歩いている。

見る人が見れば、その歩みから只者ではないと分かる筈であるが、平和な街でそれに気付く者は居ない。

男はそのまま路地裏へと入る。

そして歩く速度をゆっくりと緩めつつ、気配を探る。


……尾けられている?


男は先程から何かしらの気配を感じていた。

が、それが何か分からない。

驚くほどその気配は薄い。

獲物を狩る野生の肉食獣の方がまだ分かるぐらいだ。


魔法の類か種族的な何かか……となると、魔王軍か?


男は自嘲気味に笑った。

この街に今、魔王軍の幹部はおろか魔王エリウ自らが赴いている事は知っている。


やはり先程の騒ぎで感付かれたか……


男はもう一度笑った。

こう言う時勢の時に、目立つ事はするべきではなかった。

しかし、この争いの無い平和な街で、異国の野蛮人どもが騒ぎを起こすのは我慢ならない。


十年前……

心身ともに打ちひしがれた男はこの街に辿り着いた。

平和で知的で、種族間の争いも無いこの街は、素性も分からぬ男を優しく迎え入れてくれた。

だからこそ、この街で争いを起こす輩は許せない。


「……潮時かな」

男は呟き、足を止めた。

そしてゆっくりと振り返る。

だがそこには誰も居なかった。

しかし本当に極僅かではあるが何かしらの気配を感じる。

殺気の類は感じないが、姿を現さない以上、敵ではないと言い切れない。


恨まれて当然か……


男は自分の懐に手を差し入れる。

指先に固い物が触れた。

魔族にしろ人間にしろ、自分はそれだけの大罪を犯した。

自分に恨みがあるのら、潔く討たれても良い。

が、素性の分からぬ相手に黙って討たれるのはさすがに自分の矜持が許さない。


「何者だ」

男は何も無い空間に向かって問い掛ける。

その目は一点を凝視していた。









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