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閑話休題・シンノスケの諸国漫遊紀/其の一


 と言うわけで……何がと言うわけなのかサッパリ分からんが、俺は黒兵衛とリッカを供に、ロードタニヤ辺境伯領の中心都市であるレダルパを散策していた。

黄泉の邪神関連の突発的行動により、忙しくて未だに正式な王国として建国はしていないが、近い将来この街が首都になる予定である。

ちなみに現在の戦況は、俺が黄泉の雷野郎と酒井さんが謎の黒い靄に取り憑かれた連中を片っ端から始末してやっていた所為か、今は小康状態といった所だ。

ま、此方もそれなりに被害は出てしまったがね。

その酒井さんはエリウちゃんとカーチャ嬢達を伴い、この街に総司令部を置いている。


「ってか、エエんかい自分」

俺の肩に乗っている黒兵衛が眠そうな声を上げた。

「こないな所で油売ってて……また怒られるで」


「良いんだよ」

言いながら俺はチラリと後ろを振り返る。

そこにはいつものように、俺の服の裾を掴みながら付いて来るリッカ。

物珍しそうな瞳で、大通りに面した商店などを眺めている。


通りは成型された石で舗装された綺麗な道。

裏道も清潔だし、他の国の街のように貧民窟スラムなどは見当たらない。

それに行き交う種族も様々だ。


ふむ……

文化水準が高いと言うことは、イコール知的水準も高い。

何か学校的な学術機関でもあるのかな?

カーチャ嬢が優秀なのも頷けるよねぇ。


俺はそんな事を考えながら黒兵衛の頭を撫で、

「内政とか外交とか……色々とエリウちゃんに経験を積ませないとな。そもそも俺がいても役には立たんだろうし」


「そないなこと言ってるから、酒井の姉ちゃんに穀潰しとか言われるんやで」


「ふふん、ラスボスである俺様は、そう簡単に人前には出ないので御座る」


「そう言えば、何や彼方此方から使節団やらが来とったなぁ」

黒兵衛がそう言って、大きな欠伸を溢した。


「来てたぞ。帝國にウシャラクにダーヤ・ネバルに……後は北部の都市と俺が独立させた周辺の小国からも」

朝から司令部前は大行列だったのだ。


「そら多いな」


「だから逃げて来たのだ。面倒だし」


「……」


「や、冗談ですよ?なんちゅうかさぁ……俺が前に出過ぎると、後々困ると言うか……エリウちゃんがやり難くなるだろ?この世界における魔王は彼女なワケだし、そもそも彼女の国だしな」

それに俺達がいなくなった後の世界線を考えると、余り表に出て色々と指図するのは……ちょっとね。


「まぁ……せやな」

黒兵衛も俺が何を言いたいのか理解したのか小さく頷き、器用に俺の肩の上で前足を舐め始めた。

「せやけどあの連中、何しに来たんや?」


「分からんか黒兵衛?帝國は、まぁ……休戦協定の延長かもしくは和平に関してだろうな。で、ダーヤ・ウシャラクは今回の件に関しての後始末。何しろ王族に連なる者が堂々と反旗を翻して魔王軍の支配地に攻め込んで来たんだからねぇ……ウシャラクとしては土下座必須だよね。そしてネバルの方も同じだな。中立を謳いながら兵や資金が評議国に流れていたって話だ。で、北部の都市国家は……あそこは国家と言うか幾つかの都市の寄り合い所帯だからな。今回の魔王領へ侵攻した一部の都市とは考えが違う都市もあるんだろうよ」


「とは言うても、どの国の部隊も、あの黒い奴らに操られていたんやろ?」


「まぁな。ある意味連中も被害者だ。が、そんな事は知らんし教える気も無い。こっちとしては結果的に有難いからねぇ。何しろ実際に魔王軍に被害が出ている以上、外交的には物凄く有利なワケだし」


「確かに、交渉の場でイニシアチブは取れるな。そう言えば魔王、北部都市国家と言えば……聞いたか?」


「あぁ、例の精霊の里だか何だかの限界集落の事か?聞いたぞ。ワイチェールから報告があった」

あの以前訪れた、平和で清潔で静かな牢獄と言った感じの村の話だが……そこの村人全員、惨殺されていたと言う事だ。

しかも犯人は勇者スティング。

動機は精霊の洞窟についての情報を渡さなかった事についての逆恨み。

そんな話が現在北部都市周辺に広まっているらしいと……いやはや、参ったねぇ。


「殺ったのは、あの黒い連中やろうなぁ」


「精霊がいなくなったからな。ま、疾うの昔からあの村は放置されていたワケなんだが……完璧に用済みとなったんだ。証拠隠滅と同時に、序でに勇者スティングに罪を被せれば良いんじゃね、って考えたんだろうね。ふん、ご苦労なこった」


「あの村の存在意義は無いんやし、放置しておけばエエのにな」


「連中は冥府に属する化け物だ。生者を殺すのが好きなんだろうよ」

言って俺は小さく鼻を鳴らす。

「しかし敵の本拠地が北部地方にあったとはねぇ……てっきり帝國近郊だとばかり思っていたけど、違ったか」


「ヨモツヒラサカ島やったな。北部都市から東へ行った島とか言うてたな」


「その島とやらにいるのが中ボスだな。黄泉の八雷神とかだったっけ」

ちなみにラスボスは例のダンジョンの中だ。


「せやけど、何であの勇者を呼んだんやか……何をする気やろ」


「さぁ?魔改造でもするんじゃね?目から謎ビームが出るようにするとか」

本当に出たらビックリするけどな。

「後は情報収集とか罠を張るとかかなぁ」


「どない意味や?」


「例えば……もし俺、勇者スティング様がその島に登場したらどう思う?いや、まぁ……もう行くのは決定してるんだけどね」

既にリーネア姐さん達を先行させて、港町で船を手配している所なのだ。

「連中は思うだろう。どうして本拠地がバレたのかと。答えは一つ、ボンクラ勇者一行から情報が漏れたと……そう考えるだろうね」


「なるほどな。連中からしてみれば、異世界から来た摩耶姉ちゃん達の事も詳しく知りたいだろうし……更に上手く行けば勇者スティングも釣れると……そう考えたんか」


「多分な」


「……ホンマ、あの兄ちゃんも大概やなぁ」

黒兵衛がどこか小馬鹿にしたような口調で言った。


「通り名がボンクラだしな。しかし……ふむ、島かぁ……」


「なんや?それがどうしたんや?」


「ふふ、実はこの俺様、船に乗るのは初めてで御座る。超楽しみ」


「子供か、お前は。せやけど元の世界では乗った事がないんか?」


「超大国に挟まれた内陸部の国だぞ。海なんか無かったしねぇ」

ってか海の幸ってのも殆ど食べた記憶が無い。

海鮮料理を堪能したのは人間界に召喚されてからだ。


「はぁ~……そうなんか」


「お前は乗った事があるのか?確か猫はネズミ捕りの為に船員が乗せるとか何とか聞いた事があったけど……」


「何時の時代の話や?現代いまでは普通にアウトや。ま、ペット可の客船もあるけどな」


「つまり乗った事はないと」


「あ~……小さなボートならあるで。摩耶姉ちゃんの家には大きな池もあるしな」


「へぇ~、それは知らんかったなぁ」

もし人間界に戻る事が出来たら、僕チンもボートとやらに乗ってみたいなぁ……白鳥の形をしているのかな?

「しかし海かぁ……ふむ……」


「なんや?どないしたん?」


「黒兵衛。余は寿司が食べたくなったぞよ」


「……いきなり何を言い出すんやか。自分、アレか?もしかして心か脳に致命的な病でも抱えているんか?」


「また酷い事を……本当に口が悪いな、お前は」


「頭が悪いよりはエエやろうが」

と黒兵衛が減らず口を叩いていると、クイクイと服の裾が引っ張られ、

「ねぇねぇシングお兄ちゃん。スシってなぁに?」

リッカが興味深気な視線を投げて来た。


「寿司と言うのは酒井さん達の国の食べ物でな。簡単に言えば、酢で〆た御飯の上にワサビと生魚を乗っけた物だ。醤油を付けて食べるのだ」

ちなみに好きなネタはヒラメとカンパチとアナゴだ。


「???」


「まぁ分からんわな」

俺は笑いながら不思議そうな顔をしているリッカの頭を撫でる。


生魚を食すってのは、かなり珍しい文化だからなぁ……理解できないのも当然だ。

俺も人間界に転移した当初は驚いた。

言い方は悪いが、野生動物か?と思ったぐらいだ。

何しろ俺の世界でも、生の魚をそのまま食べるなんて、ぶっちゃけ魚類系のモンスターだけだったし。

水棲魔族だって基本は火を通していたしな。

しかし単純に生魚を貪り食うのではなく、刺身一つ取ってもそこには様々な技巧が凝らしてある。

あれは一つの完成された料理なのだ。

う~む……この世界にも、生魚を主体とした料理を流行らしたいものだ。

例えばマグロ丼とか。

……

ってかこの世界にはワサビも醤油も無いけど。

そもそも白米もな。

「あ~思い出したら、何か和食系が食べたくなったなぁ……丼物とか。いや、シンプルに茶漬けでも良いな……ってか米が食いたい。朕はコシヒカリを所望するぞ」


「この世界に流通してるのは麦系の穀物やからな。同じ稲科やけど、米は見掛けんなぁ」


「そうなんだよ。麦飯や五穀米みたいなモノはあったよ。けど、麦飯とか言いながら米要素がゼロなの。既に飯じゃねぇーよ。ただの麦だよ。五穀米に至っては鳥の餌だ」


「そう言うのが好きな種族もおるんやろうなぁ」


「あ~あ~、まだ見ぬ国で栽培してないかなぁ……見つけたら是非とも輸入したい。もちろん拒否したら速攻で攻め滅ぼして魔王直轄地だ。ちなみに税は米で許してやる。年貢制度だ」


「米食いたさに国を滅ぼすって……普通に酒井の姉ちゃんに怒られるで」


「そっかぁ?むしろ酒井さんの方が御飯を食べたいと思うんじゃが……ん?なんじゃ?」


「どないしたんや?」


「いや、何か向こうで騒ぎが……」

怒鳴り声が大通りにまで響いてくる。

待ち行く人々も、何事かと辺りの様子を覗っていた。

「喧嘩かな?」


「警備隊のおっちゃん達も走ってるで」


「なんじゃろう?ちょっと見てくるかねぇ」


「相変わらず野次馬やなぁ」


「昼飯前に少し身体を動かすのも良いんじゃね」

俺はそう言うと、軽い足取りで声のする方へ向かって歩き出したのだった。







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