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運は天にあり、鎧は胸にあり


 「やぁやぁやぁ、我こそは真なる勇者スティング!!遠からん者は音にも聞けぃ!!」

タコ助に跨り、混乱の最中であるウシャラク軍に突っ込む僕チン。

背にはリッカ。

やや後方からヤマダとリーネアが追走する。


うぅ~ん、乱戦中ですねぇ……鬱陶しい。

芹沢二式瑠璃洸剣に魔法を付与し、それを振り回しながら敵陣に切り込んで行く。

リッカは短弓を放ち、ヤマダの旦那やリーネアも近くの敵を攻撃しながら奥へ奥へと進む。


む!!あれか……

深い森の中の少し開けた一角に、大きな天幕が設営されていた。

色取り取りの旗が靡いている。

そして周りにはフルプレートに身を包んだ厳つい戦士達。

おそらくは護衛騎士だろう。

そいつ等は本陣に突っ込んで来た俺に対して槍等を構えるが、

「わははは……退けぃ!!」

タコ助の巨体に軽やかに吹っ飛ばされて行く。

と、天幕の中から

「むぅ……何者か」

豪奢なフルプレートに身を包んだ身の丈ニメートルはありそうな偉丈夫が姿を現した。

髭面の大男だ。

何かバーバリアンって感じ。

その首元辺りに、薄っすらとだが例の黒い靄のような物が漂っている。


うん、大当たり……人間界だと『ビンゴ』とか言ったかな。

「わははは!!勇者スティング様、華麗に見参なり!!」

言いながら俺は軽やかにタコ助から飛び降りる。


「勇者?」


「そうよ。真なる勇者スティングとは、ズバリ俺様の事よ」

剣の切っ先を向け、ニヤリと笑った。

「で、お前は誰だ?」


謎の戦士は眉根を寄せ呟く。

「……なるほど、そうか……ヤツが言ってたのはこの男の事か。ふん、生きてるではないか。あの馬鹿めが」


「あん?」


「ふふ、勇者を騙る下郎が。我はダーヤ・ウシャラクの……」


「え?なに?王族とか言いたいの?いやいや、違うだろうが。黄泉の雷野郎だろうが。確か八匹いたんだっけ?」

酒井さんから軽く日本の神話についてレクチャーを受けたのだ。

もっとも妙な名前が多くていまいち憶えてないけどな。


「……」


「あ、最初に言っておくけど、僕チンは陰陽師ほど優しくないからね?お前等を封じるなんて生温い事はしない。魂の欠片すら残らないほどに消滅させてやる」


謎の髭男の顔が歪む。

「……お前、何処まで知っている」

と、天幕の中から更に数匹の輩が現れた。


「ほほぅ」

いやはや、スキルで感知はしていたけど……博士の言ってた通り、モロに忍者じゃないですかぁ。

気合の入ったコスプレって感じで、中々に良いですぞ。

と、背後で剣を振るっていたヤマダの旦那が叫ぶ。

「スティング殿!!彼奴等がティーンバムのダンジョンで我等を襲った者供だ!!」


「へぇ…」

ふむ、人間にしては少し気配が薄いな。

生命体反応も感じるし……あの黄泉醜女とやらとは違う感じだねぇ。

となると、何かが取り憑いていると言う事か?


「……おっと」

謎の忍者コスプレ集団がいきなり襲い掛かって来た。

やや短めの剣を縦横無尽に振るって来る。

かなりの手練だ。


ふむ……いや、憑依とやらとはちょっと違う感じ。

霊的なモノの憑依は、酒井さんの説明によれば精神支配に近いとか何とか……

それにしては身体能力が凄まじいですぞ。

なんちゅうか、人間としての種のリミットを超えている気がする。

確かに精神力で身体能力を大幅にアップする事は出来るが……これはそれ以上だ。

と言う事はだ、何か自分の分身的なモノでも寄生させているのかな?

何にしても少し鬱陶しいな。


「取り敢えず、スキル・七色の衣、輝白のオーラ発動。そして解放」

俺は辺り一帯に聖属性の力を振り撒いた。

「はい、弱体化完了と……リッカ」


「奇門遁甲、円月陣」

リッカが酒井さん謹製の術札を宙に投げると同時に周りの景色は一変。

荒涼とした大地に、闇夜に大きく浮かぶ満月がそこにはあった。


うむ、これで邪魔されずにゆっくり始末できるわい。

事情を知らん兵とかがやって来ると面倒だしね。


俺はフフンと笑いながら、髭戦士を見つめる。

敵の忍者集団は俺のオーラとリッカの結界によりかなり弱体化しており、ヤマダの旦那やリーネア姐さんに次々と討ち取られて行った。


「これは……陰陽の術……」

髭モジャが唸り声を上げた。

「やはり大和から流れて来た術士か」


「うんにゃ。やっぱお前もその程度だねぇ」


「……なに?」


「ちなみに言っておくけど、既に仲間の一匹は始末したぞ?そいつも俺の正体を誤解したままだったし」

俺は笑いながら瑠璃洸剣を鞘に仕舞い、変わりに退魔特化の三式羅洸剣を引き抜いた。

「さて、今回は前回とは違い妙な縛りが無いから、あっと言う間に片付けてやるぞよ」


「……ふ、愚かな。たかが人間如きが――」


「ふひひひ」

ん~……スキル、ブーストと必中の初撃発動。

んで、魔法威力強化ラルジュを掛けてからの羅洸剣に『魂魄の帰還』(レディレアニム)を付与。

最後に、縮地。

空間を飛び越え、一気に間合いを詰めた俺は、軽やかに髭のオッサンの胸に剣を突き立てた。


「――な゛!?」


「はい終了。本当にあっと言う間だったね。いや、『な゛』と言う間か」


「ば…馬鹿な……身体が……く、朽ちる」


「辺り一帯に聖属性が満ちてるからねぇ。闇系のお前は回復も出来んよ」

ま、ぶっちゃけ……憑依されている元の人間も死んじゃうけど、そんな事は知らんしね。


「こ、こここの力……まさか天津の大神……」


「は?相変わらずワケの分からん事を」

前に倒したヤツも、僕チンのことを邪神とかヌカしたしな。

「さて、どうする?このままだとお前、本当に消滅するぞ?しかしここでラッキーチャンスです。何しろ俺は慈悲深い。お前の名前、目的、そして頭の名前などを素直に喋ってくれたら、特別に見逃してあげますぞ?」

もちろん大嘘だけど。


「ぐ…」


「さぁ、どうする?どうするどうする?」


「ぐ……愚か者め。例えこの身が――」


「あ、そう言うのは良いから」

俺はヤレヤレな溜息を吐きながら、羅洸剣を引き抜く。

「喋らんだろうなぁ~と思っていたからね。その辺は素直に感心するよ。俺なら多分、全部喋ってしまうし。ま、謎が残ったままってのは気持ち悪いけど、兎も角お前等を片っ端から処分していけば何か掴めるだろう」

そもそもボスの居場所は最初から分かってるんだしね。

「と言うワケで、とっとと消えろ」



「随分と、事態は混沌として来ましたねぇ」

通信用の符を額に添えながら、荷馬車に揺られている芹沢は小さな声で囁く。


『そうなのよ。正直、色々と手が回らないわ』

脳内に響く女性の声。

相手は言わずもがな、酒井魅沙希だ。


「これも因果の流れってヤツですよ、酒井女史」


『どういう意味?』


「いや、色々と考えていたんですがねぇ」

そこで一旦言葉を区切り、芹沢は自分の乗る荷台の端を見つめる。

そこにはラピスに身を寄せて静かな寝息を立てている摩耶の姿があった。

色々と疲れが溜まっているのだろう。

「……私達がこの世界に来たのは、偶然ではなく必然ではなかろうかと思いまして」


『必然?この世界に来る事が決まっていたと?』


「そうです。あの時、聖騎士どもはシング君を元の世界に送り返そうとした。そのままだと多分、シング君は自分の世界へと戻ったでしょう。が、私達が付いて来た」


『そうだったわね。何か……随分と昔のような気がするわ』


「恐らく無数にあるであろう異世界の中で、私達はこの世界に来た。そしてそこには日ノ本に馴染み深い黄泉の化け物に陰陽師の形跡と……こんな偶然があると思いますか?」


『……なるほどね。この世界の因果に引っ張られたのね。ふふ、面白いわ。この件は多分、私達でしか解決できないでしょうに』


「逆に解決しないと帰れないかも知れないですね。まぁ私としては、このままこの世界に居ても良いんですがねぇ」

それは結構、本心であった。

人間界に戻りたくない、と言うわけではない。

ただ、知的好奇心を満足させたいと言う欲求においては、こっちの世界の方が遥かにそそるのだ。


『何を言ってるんだか……それは摩耶が決める事よ』

魅沙希の呆れた声が響く。

『ところで、そっちはどうなの?今、何処で何してるのよ』


「帝都を目指して北上中ですよ」


『あら、そうなの?でも大丈夫?皇帝と確執があったんじゃないの?』


「オーティス君は色々と渋りましたがねぇ」

殆ど夜逃げのように帝都から脱出したのだ。

オーティスでなくとも、戻り難いのは分かる。

しかし、あの時とは状況が些か変わったのだ。


ふふ、そう言えば村から付いて来たガキ供を置いて来てしまったが……どうしているかな。

「ただ、例の黄泉の八雷神。その手下どもに襲撃される可能性が少ない方が良いと思いましてね。正直、ヤマダ君達が抜けた今の戦力だとかなり厳しいかと……」


『そうね。人気の多い場所の方が安全かも』


「しかし、何故にあの化け物達は此方を襲って来たんですかねぇ」

それがどうも分からない。

黄泉の化け物……即ち精霊教会とやらは、表向きは勇者を支援する組織の筈。

それがこのタイミングで仕掛けて来るとは、些か腑に落ちない。

「オーティス君は、奴等の事を魔王シングの放った刺客だとか……色々と素っ頓狂な事を言い出しましてね。はは……どれだけ自惚れているんだか。友人のシルク君ですら、呆れた口調で嗜めていましたよ」


『……敵の狙いは多分、シングよ』

魅沙希が静かな声で言った。


「ほぅ……そうなので?」


『正確には、勇者スティングね』


「……なるほど」

確かに言われてみれば……黄泉の化け物達の巣窟である精霊教会……それに対して今まで明確に敵対意思を示したのは、シング君の演じる勇者スティングのみだ。

魔王エリウや魔王シング、そして自称勇者であるオーティス君は、表面上は精霊教会がまだ敵とは認識していない。

「となると……ふむ、ヤマダ君やリーネア女史の後を尾けて……オーティス君をスティングと誤認か。なるほどね。合点が行きましたよ」


『まぁ、憶測だけどね』


「ふむ……敵の狙いは勇者スティングに絞られている……なら今後、此方は襲われないと言う事になりますね」


『いえ、分からないわ。何しろここに来て敵の行動が滅茶苦茶ですもの』


「情報が錯綜しているのか、はたまた指揮系統の乱れ……指揮官同士で功を競っているとか……ま、色々ありますねぇ」


『だから油断は禁物よ。そう言えば、新人はどうなの?シングから少し聞いたわ』


「エディア君とシルル君ですね。中々に可愛い達ですよ。摩耶お嬢様と歳も近い所為か、直ぐに打ち解けましてね。和気藹々としてますよ。まるで女子校の教員にでもなった気分です。それに腕前の方もこれが中々に……いや、本当に若いのに大したモンです。ただ……」


『ただ、なに?』


「何て言うのか……理想と現実のギャップに戸惑っていると言うか落胆していると言うか……」


『あぁ、勇者の事ね』


「そうです」

芹沢は思わず苦笑を溢した。

「話を聞くと、彼女達はオーティス君と会う前にシング君と出会っていたようでしてねぇ。どうしても、彼の強さやカリスマ性をオーティス君と比べてみてしまう感じでして……まぁ、シング君も色々と彼女達に吹き込んだようで。それにシルル君からシンノスケと言う戦士について色々と質問されますし、エディア君からは真なる勇者スティングついて色々と……どちらもシング君の事なんですがね」


『本当にあの馬鹿は……』


「まぁ、シング君が何か言わなくても、それなりに腕に覚えがある者からすれば、オーティス君はやはり少々……ねぇ」


『シングが力を与えたって言ってたわよ?それでもまだ駄目なの?』


「潜在能力は上がったようですけど、技量が上がったと言う訳ではありませんからね。まだまだ修練が足りませんね」


『師匠が居ないからかしら?』


「それもありますけど、性格的に少しね。それに元々の才能も……いや、努力はそれなりにしているんですが……やはり『勇者』と言う特殊な職業クラスに就くには少し……職業軍人や一流冒険者を目指すと言うのなら、それなりに大成はすると思うんですがね。ま、元々勇者ってのは職業ではなく称号なんですが」


『そうなの。私なら直ぐに失格の烙印を押すけどね。若い内ならやり直しが出来るんですもの。無駄な努力で時間を潰すのは勿体無いわ。』


「まぁ……そうなんですがね。ただ、ここは異世界ですし……何が起こるかまだ分からないですよ」


『……そうね。実際、最初の予定とは大きく変わって来ているしね』


「かつてこの世界を滅ぼし掛けた黄泉大神の眷属神……封じた陰陽師ってのは誰なんですかねぇ」


『さぁ?どうせ土御門の一門じゃない?連中、数だけは多いしね』







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