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万華鏡


 「アンタって本当に何でも有りね。まさにチート野郎って感じだわ」

酒井さんが呆れた声で言いながら、いつものように万歳の姿勢を取る。

俺はそんな魔人形を持ち上げ、自分の肩の上に乗せた。


「魔王ですから。そして主人公ですから」


「ピーピー泣き喚くヘタレが何を言ってるのよ。ピーキー過ぎるのよ、アンタは」

言って酒井さんが俺の耳朶を抓み、指をパチンと鳴らした。

瞬間、辺りの景色が元に戻る。


うむ、悪は滅んだ。

あの謎の黒い靄はもうどこにも存在しない。

あっさり、そしてマイルドに消失してしまった。

大地に転がっているのはボロを纏った謎の戦士のみだ。

後、黒兵衛が呑気に寝てやがる。

……

まぁ、殆ど不眠不休で走って来たから、猫的にはかなり辛いのだろう。


はてさて、コイツは一体何者なんでしょうかねぇ……

そんな事を考えながら、取り敢えずその辺に落ちていた木の棒で突っ突いてみる。

「おい、しっかりしろ獣戦士ちゃん」


横たわる謎の戦士はモゾモゾと動き出した。

閉じられた瞼がゆっくりと開き、鈍い光を放つ金色の瞳が見える。

そして

「…お、お前は……誰だ」

疲れ切った、掠れた声を上げた。


「俺は魔お……あ~……勇者スティング様だ」


「勇者……」

薄汚れた戦士は目を微かに大きく見開き、どこか安堵したような吐息を漏らした。

「そ、そうか。あ、新しき勇者か……」


ん?新しき?

「で、お前は?」


「ティーンバム。お、同じく勇者だ。魔王バームアデスを討伐した」


「……ほぅ」

知らん。

いや、どっかで聞いた覚えがあるようないような……

しかし人間の勇者ではないとすると、精霊教会の誕生以前……大昔の勇者って事にゃ?


俺はゆっくりと彼の頭を支え、半身を起こしてやる。

「んで、連中は?あの黒い靄や、黒尽くめの連中もいたって話だが……」


「や、奴等は全てを奪った」

ギリリと奥歯を噛み締める音が聞こえた。

「魔王を討伐し……俺は凱旋した。しかし……生まれ故郷は破壊され……お、俺の目の前で……家族や仲間達が……」


「……そうか」

殺されちゃいましたか。

あ~……人間界にいた頃に読んだ、復讐系ファンタジィ漫画と同じ展開って感じだよねぇ。

ま、その手の話は、主人公が都合良くチート能力を発揮して復讐を遂げて行くワケなんだが……

「そしてお前はさんはあの黒い靄に憑依されつつも何とか抗い、自らをあの洞窟に封印していたと……そんな所かな?」


「そ、そうだ。ヤツは突然、俺の身体に入り込んで……」


「ふむ、そうか。それで奴等は何がしたいんだ?目的は?何か知ってるか?」


「わ、分からん」

獣系勇者は力無く首を横に振った。

そして微かに震える自分の掌を見つめ、

「だが……お、俺の身体に潜り込んだ黒いヤツが言っていた。栄光からの落差が糧となると……」

そう言うと、いきなり全身の力が抜けたかのようにガックリと首を落とした。

更に頭の毛が急激に白くなって行く。

それどころか、全身から肉が削げ落ちるようにその身が細くなって行った。

滅多にお目に掛れない異様な光景だ。


「お、おい」

な、なんだ?

まさか老化現象が……起こってる?

え?急に?


と、肩に乗っている酒井さんが俺の耳朶を引っ張りながら囁いた。

「時が戻ったのよ。多分、何百年も歳を取らなかったのは、あの邪神の影響でしょうね」


「や、やっと……眠れる」

震える細い手が、俺の肩に置かれた。

と同時に、精霊の力が俺の身体に流れ込んできた。

「あ、ありがとう……次代の勇者よ」


「……」

いや、本当は魔王だけどね。


「願わくば……奴等を……」

まるで早送りの映像を見ているかの如く急激に老化現象を起こした大昔の勇者は、やがてそのままミイラのようになり、そして最後は砂となり、風に運ばれ消えていった。

もうそこには何も無い。


酒井さんが難しいで呟く。

「……絶望に恐怖。そして怒りと復讐心等……おそらく負の感情を集めるのが奴等の目的なのね」


「そんなモン集めて何をする気で?」

俺はゆっくりと立ち上がりながら尋ねた。

もしかして趣味?

そーゆー性癖を持ってるとか?


「分からないシング?自分達のボスを蘇らせる気よ」

酒井さんはそう言って、小さく鼻を鳴らした。


「そうなんで?」


「多分ね。確証は無いけど、奴等の行動からそう推測できるわ。そもそも相手は黄泉に住まう禍神よ。そう言ったマイナスのエネルギーが大好きなんでしょうね」


「なるほど。しかしまた何でそんなまどろっこしい事を……わざわざ勇者を作ってとか」

恨みを集めるのなら、その辺の街とかで虐殺とかした方が早いんじゃないか?


「さぁ?ま、勇者って言うぐらいだから、普通の人間よりは色々と効率が良いんじゃないの。それに精霊の力が関係しているのかもね」


「はぁ……そう言うモンですかぁ」


「多分、物の怪の類が徳の高い人を襲うのと同じ理由よ。ま、何にせよ、敵は古神道を扱う大昔の化け物ですもの。何を考えているのかは正直、分からないわね」


「あ、そう言えばその古神道って何です?何か特殊な魔法体系とか?」


「そうねぇ……簡単に言えば、純度100パーセントの完全オリジナルな日本独自の術式よ」


「はにゃ?どう言う意味で?」


「大陸からの影響……陰陽に仏教、儒教や道教と言ったモノの影響を全く受けてない、日本古来の術式よ。大和朝廷より前、古墳時代からある太古の術ね。だからか、特に体系化されてるワケではなく、地方によって形式にも違いがあるのよ。扱いも難しい危険な術よ。その分、強力だけどね」


「はぁ……なるほど」


「……分かってないでしょ、アンタ」


「ふひひひ」

だってしょうがないじゃん。

僕チン、別世界の魔王だし……

そもそも宗教色の強い魔法体系ってのが、サッパリ分からんのだよねぇ。

「しかし酒井さん。もう一つ分からん事があるんですが……」


「なに?」


「今回の一連の経緯ですよ」

俺は眉を顰めた。

「奴等の目的は、まぁ予想ですが分かりました。しかし酒井さんの言う通り、負のエネルギーを集めてボスを蘇らせるのが奴等の悲願として……何故にオーティス達を襲ったので?自分達が創り出した駒の筈でしょ?それに彼方此方で反魔王派が動き出してるじゃないですか。これも十中八九奴等の仕業でしょ?なんちゅうか、目的と手段が合致してないって言うか……正直、何がしたいんだ?ってハテナマークばかりですよ」


「そうね。千年近くも陰でコソコソ動いていた連中が、ここへ来て大っぴらに……ってのも不思議よね。もしかして連中自身も良く分かってないのかも」


「ふにゃ?それはどーゆー意味で?」


「色々あるんじゃない?黄泉の眷属神とは言え、互いに仲が良いとは限らないし……それにアンタと言う不確定要素もあったりして、実は混乱しているんじゃないかしら?」


「……なるほど」

混乱している……ふむ、有り得るな。

今の黒い靄も、何百年も閉じ込められていて、現状には疎いようだったし……

ボス不在と言うことは、纏め役がいないのかも。


「しかし問題は、これからの対処法よ」


「ん?と言いますと?」


「敵は太古の神々に連なる連中よ。しかもこの世界の神や精霊を放逐した強敵。それが表に出てきて行動を起こしているのよ。エリウ達が敵う相手だと思う?」


「あ~……そっかぁ」

何しろ最強の部類に入るヤマダの旦那達も散々な目に遭ったぐらいだしな。

下手すりゃ魔王軍が壊滅するかも。

ふむ……

そう言えば、千五百年前に数多の国や種族が滅び、歴史の大断絶が起きたと言う話だが……それも奴等の仕業で間違いはないだろう。

しかしそれほど強いとは思わなかったが……あ、もしかしてボスが滅茶苦茶に強いのかな?

「ん~……今まで得た情報を整理すると、千五百年ぐらい前に日本から黄泉の国の邪神がこの世界へやって来た。理由は知らんけど。んで、この世界の神とかを殺して世界を滅ぼしかけた。けど、その時の魔王と勇者、そして同じく日本から来た陰陽師が協力して邪神を封印した。しかしそれから何百年か経過した時、何かしらの理由で封印が少し解かれて邪神の手下が出て来た。そいつ等が精霊教会を作り、人間の勇者を量産して……って言う流れで良いですかね?」


「概ね、そんな所じゃない。ただ、時間にズレがあるのよねぇ……千五百年前だと、陰陽師なんて存在していない筈だし。それに何で封印されてる筈の黄泉の者どもが出て来たのか……それも分からないわ」


「なるほど」


「で、これからどうするのシング?」


「ん?ん~…」

俺はゴリゴリと頭を掻いた。

「しゃーないですね。ここは面倒ですが、高機動各個撃破作戦で行きましょう」


「何よそれ」


「機動力重視。殆ど単騎で動いてあの黄泉の何とかって連中を片付けて行きます。チンタラしてたら魔王軍に被害が出ますからね。あ、酒井さんも別行動で奴等を始末して下さい」


「……そうね。連中とまともに戦えるのは私やシングぐらいなものだしね。手分けした方が効率が良いわ」


「あ、そうだ。どうせ別行動なら僕チンは勇者スティングとして奴等を退治しましょう。その方が連中も更に混乱するでしょうからね」









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