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 「さぁ~て…」

酒井さんに促され……もとい、強制的に戦闘に参加させられてしまった僕チン。

ボリボリと頭を掻きながら、黒いオーラを漂わせる謎の戦士に向き合う。


ふ~む……どうしよう?

敵は獣チックな戦士ではなく、それに取り憑いている謎の黒い靄だ。

となると、物理攻撃はダメか。

ケモケモ戦士まで一緒に殺っちまうからね。

ならば魔法……

しかも肉体ダメージを伴わない系の……

こりゃまた難しいと言うか面倒と言うか……とんだ縛りプレイだよ。

そもそも敵の正体は何なんだ?

酒井さんが禍神とか黄泉の国の雷様がどうとか言ってたけど、人間世界のオカルト知識に疎い僕チンにはサッパリ分からんですぞ。

古神道が何たらとも言ってたけど、そもそも古神道ってにゃに?

人間界に居た頃に何度か行った事のある、神社と言う宗教施設に関係あるのか?

……

ま、後で聞いてみるとしますか。


「んじゃ、取り敢えずと」

俺は腰から退魔に特化した芹沢三式羅洸剣を抜く。

戦士の身体を取り巻く謎の黒い靄は蠢きながら、

『何だ人間?いや……精霊とやらの気配を感じるな。くく…』

そう言ってまたもや嫌な笑いを溢した。


「ありゃ?そーゆーのは分かるの?」


『勇者か?にしては些か精霊の気配が濃いな。……まぁどちらにせよ、この地に残った精霊の力なぞ高が知れているが』


この地に残った……か。

なるほどね。

「一つ聞くけど、大昔に精霊とかを滅ぼしたのって、お前等か?」


『くく……そうだ。我等がこの世界の神々を放逐した。抵抗する神も居たが、それらは全て滅した』


「……ふ~ん」

神様ってのも滅びるんだ。

見た事がないから分かんねぇーや。

想像上の生物だと思ってたし。

「で、お前達は何がしたいんだ?聞いた話だと、何か大昔に日本からこの世界に流れて来たって事だけど……この世界で何をしてるんだ?神様まで滅ぼして……それに人間の勇者なんてモンまで作り出したりして、何を企んでる?」


『人間の勇者を作る?……くく、そうか。大智雷の策か。我が封じられている間に……確かに、この世界の獣人間は操り難いからな。くくく……これは面白い』


「あ~……そうか。そう言うことか。お前、そのケモケモ戦士と供に洞窟に閉じ込められていたんだ。だから現状をまだ理解してないと……なるほど。なら企みを聞き出すことは出来んか」

となると、正体と最終目的を吐かす事が出来れば御の字だな。

それに獣戦士からも色々と経緯とか聞きたいし……


『くく……賢しいぞ、人間如きが』


「……はは、あーはっはっは……大笑い」

俺は剣を肩に担ぎながら嘲笑する。


『……』


「俺を人間だと勘違いしている時点で、お前のレベルの低さが確認出来た。道理で危険察知スキルも殆ど反応しないわけだ」


『……何を言っている?』


「ん~……先ずはスキル、七色の衣・漆黒のオーラ発動」

俺の全身から深い闇を模したような黒きオーラが立ち昇る。


『な゛ッ…』

謎の黒い靄は目に見えて狼狽えた。

いや、煙みたいなモンだから実際はどうか分からんけど、気配からしてかなり動揺しているようだ。

『何と言う……恐怖と絶望の……絶対的な死の気配。ま、まさかお前……いや、貴方様は黄泉の禍津神……しかもこの気配は大神にも……だが、何故に精霊の力を……」


「は?マガツ……なに?酒井さん、コイツは何をゴチャゴチャ言ってるんでしょうか」

俺は後ろに居る知恵袋的存在である自立思考型市松人形様に尋ねる。

酒井さんはその小さな肩を竦め、

「アンタが邪神じゃないかって言ってるのよ」


「な、何と失礼な」

邪神って……この歩く道徳、品行方正な僕チンを捉まえて?

むしろ俺は正義側で、酒井さんの方が限りなく邪神に近いと思いますぞ。

「あ~……何か勘違いしているようだが、俺はお前の世界の神でもないでもないぞ。ま、一言で言えば、世界を流離うナイスガイだ」


「……何言ってんのアンタ?」

と酒井さん。


「ふひひひ……ま、良いや。ともかくお前をぶっ殺す」

俺はそう言って剣の切っ先をヤツに向けた。


『……』

黒い靄は蠢き、謎のケモケモ戦士の身体を操りながらゆっくりと剣を抜く。

そして次の瞬間、靄の一部が弾け、まるでブーメランのように薄い刃となって俺目掛けて何枚も飛んで来た。


ふむ、単純属性攻撃魔法……かな?

なら特に防御の必要も無いか。


「はい、馬鹿」

俺は薄い笑みを浮かべながら両の手を広げ、その攻撃をそのまま身体で受け止めた。


『……なに?』


「はは、同属性の攻撃が普通に通用するワケないでしょうが。しかも低レベルなら吸収されるだけじゃんか」

お陰でMPが少し回復しましたぞ。

これでこっちも魔法攻撃が出来るってモンだ。

しかしまぁ、なんちゅうか……明確に属性が偏っている敵って言うのは、ある意味やり易いよね。

「んじゃ、オーラ解放」

俺は身に纏っている冥属性オーラを解除し、

「んで、七色の衣。輝白のオーラ発動」

もう一度スキルを使用した。


『―ッ!!?』


酒井さんの作った結界内に虹色のオーロラが煌き、それと同時に清浄なる空気が満ち溢れる。

ケモケモ戦士はよろめき、その身に漂う黒い靄からは白い蒸気のような物が立ち昇っていた。


「ん?なんだ?この程度の聖属性オーラだけでダメージを受けるの?やっぱ弱いわ、お前」


『お、おのれぇ…』

黒い靄は苦しそうな声を上げながら、そのままゆっくりと消えて行った。

いや、消えたのではない。

謎の獣戦士の口に鼻、そして耳の穴に吸い込まれて行ったのだ。


「む……なんだ?空気清浄機か、お前は」

はてさて、困ったもんだねぇ。

獣戦士君の体内に潜り込んでしまったぞよ。

厄介と言うか面倒だなぁ……どうしましょ?

「しゃーない。MPの消費が厳しいけど……ま、何とかなるか」

と言うわけで、スキル・ブーストを発動。

「で、次に魔法威力強化ラルジュ。そしてそして……霊子崩壊、虚数世界デ・アマルティ

刹那、新たな世界がそこに構築された。

酒井さんの創り出した幻想的な結界とは違い、どこまでも無機質。

上下左右、灰色の立方体に埋め尽くされた世界。

どことなくだが、人間界にいた頃に見たことのあるエッシャーと言う人の描いた騙し絵にも似ている。


『な…なんだ……ここは』


「有限に閉じ込められた無限にして因果の環から外れた事象率ゼロの世界だ。……ま、良く分からんけどそんな感じ」

俺はそう言って、ゆっくりと彼奴に近付く。

そして至近まで距離を詰めるや

『…』

謎の獣戦士は無言で俺に手にした剣を突き立ててきた。

だがしかし、俺にダメージはない。

それどころか当たらない。

俺の身体はまるで空間に映し出された映像のように、目には見えるけど触れることは出来ないのだ。


『な、なんだ?何が起こって……』

獣戦士は剣を振り回す。


「ふふん、現実は幻となり幻は現実となる」

俺はゆっくりと獣戦士へと手を伸ばす。

と、俺の手は獣戦士の身体を擦り抜け、

「はい、捕まえた」

その体内に潜り込んでいた謎の黒い靄を掴み、そのまま強引に引き摺り出した。


『な゛…』


「最後に聞くぞ?お前たちの目的は?そしてボスの正体は?……あ、ボスってのは首領の事ね」


『……』


「あっそ。んじゃ……魂ごと滅べ」

俺は片手で黒い靄を掴んだまま、そこへ羅洸剣を突き刺したのだった。







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