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ドント・ドリーム


 と言うわけで、俺は流浪の戦士シンノスケと称し、剣術大会へと参加する事になった。

相手はもちろん、あの女戦士ちゃんだ。

何とは無しに近くの観客の話に耳を欹てていると、違法ではあるが彼方此方で試合毎に賭けまで行われているらしい。

ま、それは良いのだが、次の試合……即ち僕ちゃんと女戦士ちゃんの試合のオッズは、簡単に言えば100対1ぐらい……恐ろしい事に僕チンが100だ。

魔王である俺様、いきなり万馬券扱いの駄馬だ。

誠に遺憾である。

本当に帝国の連中は、見る目がねぇなぁ。

……

ってか、カーチャ嬢達を連れて来れば良かった。

そうすれば全財産、僕チンに賭ける事が出来たのにね。


「ま、良っか」

俺は独りごち、黒兵衛を置いてそのままヒョコヒョコとした足取りで試合場へと入る。

周りのギャラリーは熱狂的な声援を送っている。

もちろん、俺じゃなく女戦士ちゃんにだ。


ふ~む……若くて美人でしかも強いとなれば、あっと言う間に熱狂的な推しが出来るってか。

俺も若くてカッチョ良いんだけどなぁ……

誰も声援を送ってくれないや。

黒兵衛に至っては木の上で呑気に毛繕いとかしてるし。

トホホだね。


俺は自嘲気味に鼻を鳴らし、件の女戦士ちゃんに視線を向ける。

彼女は楯を大地に立て掛け、剣を片手に軽く素振りを行っていた。

先程の試合からそれほど時間は経っていないのだが、汗一つ掻いてないし息も切れてない。


なるほど……疲れは無いと。

体力もそこそこありそうだな。


と、そんな彼女と目が合った。

眼光は鋭い。

だが僅かではあるが、その顔に薄っすらとだが余裕めいたものが見える。


うぅ~ん……何だろうねぇ?

何かちょっとイキってるって感じ。

人間界だと、天狗になるとか言ったかな?

酒井さんに教えてもらった。

ただ、天狗と言う生物については良く知らんけどな。


さて、どうすっかなぁ……

俺は軽く指先で自分の頬を掻く。


一瞬で勝負が付いてしまうのは、なんちゅうかこう……盛り上がるに欠けるよね。

ギャラリーも増えて来てるし、エンタメ的には少しぐらい長い方が愉しいだろう。

それに、今後の彼女の為にもならんだろう。

俺がラッキーだったと勘違いされるのもアレだし、上には上がいるぞってのを丁寧に教えてやらんとね。

あと、ちょっと試したい事もあるし。


ま、そんなワケで俺はゆっくりと腕を組み、空を見上げ暫し精神集中。

やがて審判らしきオッサンが登場し、互いを軽く紹介。

彼女の名前はエディア何とか……ちょっと長い名前だ。

帝國東部出身で諸国を巡って研鑽中の戦士だそうだ。

ま、簡単な紹介だけだから良く分からんけど、その若さで旅をしているとか……それに立ち振る舞いからして、貴族とか富豪とかそれなりに上流の家に生まれた者であろう。

ハーフヘルムから覗く顔も綺麗に整っているしね。


ふ~ん……何かこう、色々と事情がありそうですな。

俺はゆっくりと腕を組み、パッシブスキルである探査分析系のスキルによる感知結果を脳内で静かに精査。

ふむ……身体能力は優れているが、特に脅威ではないと……ま、人間だしね。

それに魔力もやはり……

ただ、技量は高めと。

手にした剣と身に付けている防具は……ノーマルか。

特に魔法や特殊能力があるワケではないと。

レベルからしたら、もう少し良い武具を装備していても良いんじゃがなぁ……そう言う機会に恵まれなかったのかな?

はたまた、たかが試合だから装備してないとか……


そんな事を考えている内に、審判のオッサンが戦闘開始の合図を告げた。

俺は腕を組んだまま、左手に楯、右手に剣を持って戦闘態勢を取るエディアちゃんに声を掛ける。


「あ~……お嬢さん。出来れば本気で戦ってね。君の本気の力をちょっと見てみたいからさぁ」


「……良いだろう」

口角を微かに吊り上げ、エディアちゃんはそう返した。


「そりゃ有り難い」

俺は微笑み、そのまま彼女を見つめる。

そして暫しの時が流れるが……

エディアちゃんは何もしない。

戦闘態勢を取ったままだ。

って言うか、段々と顔色が赤を通り越してドス黒くなり、表情も激オコだ。


ん?なんだ?何がどうした?


「……舐めているのか貴様」

強引に怒りを抑え込んでいるかの低い声。

「何故、剣を抜かない。何故構えないッ!!」


「ふにゃ?いやいやいや、何で怒ってんの?舐めているのはお前の方じゃね?」

俺はキョトンとした顔で言った。

そして小さく息を吐き出し、

「俺は最初に全力を出せと言った筈だぞ?何で魔法を使わない?わざわざバフを掛ける時間は取らせてやってると言うのに……」

怒鳴られる理由がサッパリ分からん。

これだから現実リアルの女は……


「な゛…ッ!?」

彼女の目が大きく見開かれた。


「ほれ、早く掛け捲って自分を強化しろ。その間は何もしないからさ」


「……見抜いていたのか」


「まぁね。僕ちゃんこれでも、それなりに場数を踏んでますから」

ま、ステータス隠しや偽装系のスキルやアビリティを持っていたら俺も騙されていたとは思うけど……この世界、そこまで高レベルの奴はいないからねぇ。


「……なるほど。確かに、舐めていたのは私の方だな」

言うや、彼女の顔から慢心が消えた。

そして真剣な面持ちで何やら呟くような詠唱。

剣と楯、そして自分自身がオーラを帯び僅かに光る。


ん~……武器と防具の性能アップ。

身体能力の強化と……基本的なバフって所か。

特殊能力系の付与等は……残念ながら無しと。

ま、こんなモンでしょうねぇ。

さて、どうすっかなぁ……

ま、この女戦士ちゃんと対一なら、特にスキルは使う必要はないかな。

取り敢えず最初は基本アビリティだけで対処してみるか。


「準備は出来たか?なら、どっからでも掛かって来い」

俺は未だ腕を組んだまま微笑む。

彼女の顔が更に険しくなった。


「構えないのか?……ふ、今度はお前が私を舐めているな」

言うや、楯を構えたまま神速の踏み込み。

一瞬で間合いを詰め、右手に持った剣を振るう。


「ほ…」

思ったよりも速いね。

けど、楯を持ったままだからなぁ……どこから剣が出てくるか簡単に予想できるよ。


俺は半歩下がり、難無く剣を躱す。

エディアちゃんはそのまま突進しつつ、剣を振る。突く。薙ぎ払う。

だが俺はダンスのようなステップ刻み、巧みにそれを躱して行く。


ん~……バフの効果で威力は高そうだけど、単調な攻撃だなぁ……もう少しフェイントを多用しないと。

モンスター相手ならそれでも良いけど、知恵ある者には動きが読まれるぞ。

ただ、これだけ剣を振り回して息を切らしていないのは凄いけどね。

けどなぁ……性格的に怒りっぽいのか……少しばかり攻撃に焦りが出て来てるよ。


「逃げ回ってばかりか!!」


あ、やっぱり怒ってる……戦闘はもっとクールに進めないと。

その辺はヤマダの旦那を見習って欲しいよねぇ。

「ん?いや……これで終わりだ」

俺はそう言って、跳ねるようにして左右にステップを刻んだ。

その瞬間、乾いた木の枝を折るような音が辺りに響く。


「な゛ッ…!?」

彼女の装備から放たれる光が胡散霧消した。


「ふふん、酒井さん直伝、八門封魔の陣」

何でも禹歩うほとか言う呪術の一種と言う話だ。

効果は魔法の打ち消し、もしくは弱体化。

実戦で試したのは初めてだが、これは中々に使える。

何しろ魔力やスキルを消費しなくても、特殊な足の運びだけで発動出来るのだ。

魔法が封じられた場合の戦闘とかでは重宝しそうだ。


「さぁ~て、そいじゃ練習も終わったし、そろそろりますか」

俺は組んでいた腕を解き、腰に下げた剣に指を掛けるが……ん~……必要ないか。

と言うわけで軽く拳を鳴らし、そして足首を解すように軽く跳躍。

「じゃ、行くよ」

足が地に付くと同時に、ダッシュ。

一気に間合いを詰めるや、

「……ほれ」

右廻し蹴り。


「――ッ!?」

彼女は楯でそれを受け止めるが、衝撃でそのまま大きく吹っ飛ばされた。


「なんだ、この程度か?まだまだ修行が足らんですな」

俺小さく鼻を鳴らし、せせら笑う。

もちろん、本当に馬鹿にしているワケではない。

挑発だ。

「君は……それなりに強敵とも戦っただろうし、経験も積んで来ただろう。だが、レベルの桁が違う相手とは戦った事が無い筈だ。ましてや死に掛けた事も無いだろ?ふん、甘いな」


「く…」

エディアちゃんは唇を噛み締め、手にした剣の切っ先を俺に向ける。


うむ、戦意は衰えてないか……

が、怒りで少し我を忘れているって感じ。

耐性値が低いのかな。

「どうした?睨んでないで掛って来いよ」


「……」

彼女は楯を前面に構え、腰を落とす。

そして身体を半身ずらし、剣を後方へと伸ばした。


ん~……半月の型か。

防御重視に見えるけど、剣を身体で隠して相手に間合いを掴めなくしている。

うん、実にオーソドックスな楯持ち戦士の構えだな。

しかし構えといい太刀筋といい……場数は踏んでるみたいだけど、基本は道場か何かで教わったって感じ。

だからか、攻撃が読み易いんだよねぇ。


「ん?掛って来ないのか?」

ま、後の先を取る構えだからなぁ……

「なら、行くぞ?」

言って俺はゆっくりと無防備に彼女に近付く。

そして間合いに入るや否や、エディアちゃんの高速の薙ぎ払い。

後方に下げた剣が俺の左胴を襲うが……うん、やはり軌道は単純だ。

俺は腰に下げた剣の鞘で軽く攻撃を受け止める。

と同時に、今度は楯バッシュが発動。

彼女の手にした楯が俺の顔面を襲う。


読み通り……ってか、本当に教科書通りの構成だね。

楯バッシュで俺をノックバックさせて、そこから刺突攻撃って流れかな?


俺は顔面に迫る小さな楯を前に微笑み、そして

「アンバクト」

威力を最小に抑えた衝撃魔法を発動。

鈍い音と供に楯が砕け散り、彼女はそのまま魔法の威力で大きく吹っ飛んでギャラリーの中へと突っ込んだのだった。







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