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帝都探方


 「リーネアとヤマダの所在を確認した。南だ」


「……と言うことは、そこに勇者と名乗っているスティングとやらが?」


「間違いない」


「ならば急ぎ……」


「既に派遣した」


「大丈夫か?スティングとやらは聖女ティトターニを……」


「心配ない。腕利きを三十名ほど送った」


「腕利き?……黒猛雷の一族か?」


「そうだ。勇者殺しのプロだ」


「なら、何も問題ない……と言いたいが、良いのか?勝手に動けばあの大智雷がなにかと五月蠅いぞ?」


「……時は直に満ちる。いつまでもヤツに仕切らせるのはな」



「うぅ~ん、何時来ても帝都は賑わってますなぁ」

俺は帝国首都であるオスト・サンベールの街を散策しつつ、彼方此方の商店を覗いたりしている。

肩に乗っている黒兵衛が眠そうな声で、

「御上りさんか、お前は……」

等とほざいているが気にしない。

ま、本来の目的は、過去の勇者に関しての情報収集だ。

御供はカーチャ嬢にロセフとセレヴァ。

何しろ僕チン、この世界で主に人間種が使っている文字が読めないからね。

魔王軍の公用文字や一部種族が使う文字は翻訳系魔法で読めるのに、何でじゃろうねぇ?

もしかして読める文字の種類に上限があるとか……

その辺は検証した事は無かったなぁ。

ちなみに酒井さんは魔王城で過去の文献を調べている。

本当は彼女も連れて来た方が色々と効率は良いと思うのだが、誰かが魔王城に常駐していないと、いざと言う時に困るからね。


「しかし魔王様」

隣を歩くカーチャ嬢が、何処か心配気な顔で尋ねてきた。

今日の彼女は一般庶民が着る様な質素な服に身を包んでいる。

護衛の騎士達も一応剣は下げているが、粗末な鎧を身に着けた駆け出し冒険者のような姿であった。

「その、宜しいのでしょうか?」


「ん?何がだ?」


「いえ、何と言うか……帝國とは一応休戦と言うことになっておりますが、魔王様自らが帝国首都を闊歩していると言うのはさすがに……」


「心配するな。我を害する者が現れても対処は出来るぞ」


「い、いえ、その辺は全く心配しておりませんが……」


「あ~……そう言えば不法入国だからな。怒られるかな?」


「そ、そう言うことではなくて……」

カーチャ嬢は物凄く困った顔をしていた。

何でだ?

サッパリ分からんが……ま、良いや。

取り敢えず、最初の目的地は世界最大の蔵書を誇ると言われている帝國図書館だ。

そこで色々と調べたいのだ。

ま、後は皇帝一族が所有する稀少本とかも見てみたいし。

……

漫画とかあったら持って帰りたいけど……ま、無いだろうな。

そもそも文字が分からんけど。


「と、そろそろ昼か。先ずは何処かで腹を満たして行くか」

少しばかりお腹が情けない声を上げ始めているしな。

何を食べようかなぁ……

今は麺的な物が食べたい気分だ。


「それは良いのですが……そもそも魔王様、どうして私達がこうして魔王様に同行しているのか分からないのですが……」

カーチャ嬢は困惑を面に出す。


「ん?言ってなかったか?」


「はい。文字が分からないので読むのを手伝って欲しいとしか……」


「ふむ、そう言えばそうだったな」

勇者の誕生云々に関してはトップシークレット扱いだからな。

エリウちゃんにも詳しい事はあまり話してないし。

詳細を知る者は、魔王軍でもウォー・フォイや直近の参謀達だけだ。

後はリーネア姐さんとヤマダの旦那。

それとリッカだ。

ま、今はまだ憶測でしかないので、皆に周知させるのは控えていた方が良いだろうと判断したのだ。


俺は考える。

精霊教会と言う謎な組織に黄泉醜女と言う、おそらく人界より流れて来たであろう正体不明のアンデッド。

他種族を廃し、人間のみを勇者にさせる意味とは何だ?

何が目的だ?

密かに魔王側に味方する、と言うのなら何となく分かる。

が、実際に魔王を倒しているのは歴史が証明しているワケだし、その意図は何処にあるのやら……


「なに、少しばかり歴代の勇者について調べたい事があってな」

俺は軽く笑いながら言った。


「勇者ですか?そう言えば魔王様、勇者スティングとやらを御存知ですか?参謀部でも色々と話が出ていますが……」


「もちろん知っているぞ」

って言うか、僕チンだし。

「ま、それほどの脅威ではないし、スティングの事は放っておけ。アレにはまだまだやってもらいたい事があるからな。ふふ……」


「はぁ…」


「それよりもカーチャ嬢」


「何でしょうか?」


「勇者についてどれぐらい知っている?今のあのボンクラではなく、歴代の勇者に関してだが……」


「歴代の?」

カーチャ嬢は首を傾げる。


「そうだ。人間は知識として過去の勇者に関して詳しいのか?」


「どうでしょうか……ある程度の知識はあると思いますが、それも人によると思います」


「ほぅ…」


「自分の生まれ故郷からかつて勇者が誕生したとか、元々歴史等に興味がある人は詳しいでしょうが、一般人はそれほど……常識として、有名な勇者の名ぐらいは何となく憶えている……そんな所でしょうか」


ま、歴史上のマイナーな偉人として考えれば、そんなモンか。

そもそも俺も魔王だけど、自分の先祖とかあんま知らねぇーしな。

それにこの世界は人間界のように義務教育とやらが普及しているワケじゃないし、歴史なんて殆どの一般庶民には関係の無いことだろうな。

「なるほどな。しかし勇者にも有名無名がいるのか?」


「はい。言い方は少し悪いですが……やはり凶悪な魔王を倒した勇者の方が、知名度はあります。私自身、有名な勇者しか名前は知りませんし……」


「……なるほどねぇ」

ま、そうだな。

魔王いての勇者だモンな。

過去には平和主義的な魔王もいたかも知れんし……そんな時代に勇者になったって、特に有名にはならんわな。

「で、魔王を倒した勇者のその後は?何か知っているかね?」


「……そう言えば、その辺はあまり話には出ませんね」


「ふ~ん……不思議なもんだな。物語や英雄譚……もしくはゲームやラノベだと、魔王を倒した勇者はその後、お姫様を娶り末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし……と言うのが定番なんだがな。そもそも勇者の子孫って奴の話を聞いたりとかした事はあるか?」

作られた勇者とは言え、魔王を倒したんだ。

人類国家の救世主だぞ。

その日を祝日にしても言いぐらいだ、

最低でも、各国から貴族位ぐらいは貰えると思うんだがなぁ。


「……言われてみれば確かに……自分の先祖が勇者だったと言う者の話は聞いた事がありませんね」


「だろ?では、勇者の墓は?有名な勇者の墓なら、普通は名所になっていると思うが……この世界を色々と回って来たが、一度もお目に掛った事はないぞ」

人間界なら、住んでた家でさえ観光名所になっているし、もしくは紙幣にもなっているわい。


「勇者の墓……それもそうですね」

カーチャ嬢の眉間に微かに皺が寄った。

そして何か考察するかのようにゆっくりと視線をさ迷わせると、

「私も魔王様に言われるまで、一度も気にした事がありませんが……そう言われると、かなり妙ですね」


「そうだろ?勇者を祖とする王家や大貴族ぐらいいてもおかしくはないんだが……ふん、色々と怪しい事ばかりだな」


「その辺を調べる為に、帝國へ来たと……」


「そう言うことだ。何か資料でも残っていないかと思ってな」

そう言えば、精霊教会とやらもあったな。

ふむ、そこも後で調べてみるか。









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