表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/163

通常行軍だと10日間ぐらいは掛るんです


 と言うわけで、今まで前線に駐屯していた魔王軍本隊、及び親衛隊に近衛隊、そして混成旅団はウォー・フォイ率いる第四軍と交替する形で一時魔王軍本拠地へと帰還。

俺は馬車の中からボンヤリと外の景色を眺めながら何気に呟く。

「しっかし、何で勝てないかなぁ」

暇を見つけては酒井さん相手に訓練しているのだが、全く勝てない。

いや、勝てないどころかそもそも攻撃が当たらん。

掠りもしない。

我ながらビックリを通り越し、少々落ち込んでしまいそうだ。

「もしかして僕チン、自分が思っているよりも弱い?」


「そんな事ないわよ」

眠っている黒兵衛とリッカの間に挟まれている酒井さんが軽く肩を竦める。

「ステータスって言うの?能力的にはシングは私より上よ」


「じゃあ……経験の差ってヤツですかい?」


「それもあるわね。けど、一番はやはり環境よ」

酒井さんはそう言うと腕を組み、少し小難しい顔をしながら

「この世界は私の住んでた人間世界より魔力が濃いわ。だから私はパワーアップしてるの。けど、シングの場合は……」


「自分の世界よりは低いですからね。その分、弱体化していると?」


「そうね。後は、何て言うのかしら……適応力?効率化の問題かしら?」


「どう言う意味で?」

僕チンには無駄が多いって事かな?


「私は低い魔力の環境で育ったの。シングはその逆でしょ?」


「うん、そうだけど……それが何か?」


「要は高地トレーニングの結果って事よ。私は低い魔力でもそれなりに魔法が使えるように身体が馴染んでいるのよ」


「……良く分からん」


「ふふ、シングも人間世界で何年か修行したら、元の世界へ戻った時にかなりパワーアップしていると思うわ」


「マジで?」

そう言うものかぁ……

「って、その理屈で言うと、もしかして酒井さんが俺の世界へ来たら今より更に強くなるって事ですか?」


「そうね。けど、それでも多分シングには勝てないわ。さっきも言ったけど、能力的にはシングが上よ。幾ら私がパワーアップしても、素の状態に戻ったシングには及ばないわ」


「へぇ…」

それ、本当かなぁ?

なんちゅうか……余裕で負ける気がするぞよ。

正直、酒井さんはホンマに化け物だ。

いや、まぁ……魔人形なんだけど……その戦闘力は桁が違う。

ぶっちゃけ、自分の世界の誰よりも強いと感じた。

あの俺の怨敵である糞姫どもよりもだ。

それに戦闘力だけでなく頭を非常にキレるし……

もし仮に酒井さんが俺の世界へ来たら、そのまま世界を征服するかも知れん。

……

今の内に媚を売っておこうかな?


そんなアホな事を考えていると、黒兵衛の頭を撫でていた酒井さんが顔を上げ、

「でもシング、良いの?」


「にゃにがですか?」


「前線地帯からの転進よ。一時的とは言え協定を結んだ以上、帝国は何もして来ないとは思うけど……あの辺りはまだ情勢的に不安定よ。旧タウル王国の反乱勢力も多いわ。それに評議国も東部に最終防衛線を築いて戦力を集中していると聞いたわ」


「リフレッシュ休暇でごわす。直属部隊に近衛隊、親衛隊にその他の部隊も長いこと魔王城から離れていますからねぇ……この辺で休暇を与えないと、士気が落ちます」

リーンワイズ達にも、ブリューネスに戻って休むように命令を出したしね。

ちなみにカーチャ嬢達は、ロードタニヤへ戻すのではなく、同行を命じてある。

一度、魔王の本拠地を見せておいた方が良いだろうしね。


「でも第四軍だけ大丈夫かしら?」


「統治と防衛に専念しろと命令を出してます」

後は謀略戦だ。

各地へ間諜を放ち、反抗勢力に揺さぶりを掛けている。

既に幾人かの貴族どもが魔王軍へ恭順の意を内々にだが示していると言う話だ。

……

で、その事を徹底抗戦を主張している貴族の間に流したりもしている。

せいぜい内輪で争ってくれ。

「攻略戦は指示してませんので、暫く大規模戦闘などは起こらないでしょう」


「何か遭った時は?」


「ま、全力で戻ろうかなと。時間は多少掛りますがね」


「こう言う時、転移系の魔法が使えれば便利なのにねぇ」


「それはゲームや漫画の世界だけの話です。前にも言いましたけど、転移魔法なんてのは基本は緊急脱出魔法ですからね。特に長距離転移なんて、魔力がどれだけあっても足りませんよ」

ぶっちゃけ、転移しても魔力不足で戦えませんって事になったら本末転倒も良い所だ。

「ま、アイテムや魔法陣などによる術式転移と言う方法もありますけど、そんな便利アイテムは持って無いし、術式も超複雑で……参考書を見ながらでないと書けませんよ。人間界で例えると、長いお経を空で一字一句間違えずに書くのと同じです。専門家でもないと先ず出来ません。ま、そう言う意味では人間界の様々な移動手段はやっぱ凄ぇなぁと思いますよ。誰でも気軽に長距離を移動出来るんですからね」


「そうね。ところでシング、話は変わるけど例の精霊教会の神官達は……」


「尋問の結果、なーんにも知らんかったみたいです。普通の人間でしたし」

ちなみに神官達は、タコ助が美味しくいただきました。


「そうなの」


「あくまでも普通の狂信者です」

ま、その時点で普通じゃねーけどな。

「人間の勇者が誕生してから、結構時が経ってますからね。前に調べた精霊の郷と同じですね。陰謀は時の流れで風化したのでしょう」


「でも、聖女とやらは人間じゃなかった」


「死後の状況からしても、普通の生物でもなかったで御座る」


「……分からないことばかりね」


「魔王城に戻ったら、一度あのデュラハンに聞いてみましょうか?」


「ロンベルトに?シングは、大昔の世界の大厄とやらと何か繋がりとあると思うの?」


「うんにゃ。ま、勘みたいなモンです」


「……そうね。もしかしたら何か手掛かりが掴めるかも。けど、だとしたら益々謎が深まるわねぇ」


「ですね。いや、面白い事になりそうですよ。博士にも色々と報告しないと……そう言えば、その博士は今頃どの辺りでしょうか」


「帝国南方のサウトバーレンとか言う街に着いたって話よ。例の洞窟がある場所まで半分って話だったわ」


「ほぅほぅ、そうですかぁ。って、実は今頃になって気付いた事があるんですけど……」


「なに?」


「や、なんちゅうか……あのボンクラ勇者と博士達だけで、ダンジョン探索が出来るのでしょうか?」

何しろウチの魔王ちゃんがあの調子だったからなぁ……かなり不安ですよ僕チンは。


「オーティスは仮にも勇者でしょ?ダンジョンに潜るのだって初めてじゃないわよ」


「いやぁ~……思うにあの馬鹿勇者、今までのダンジョン行はリーネア姐さんやヤマダの旦那、それに死んだギルメスとやらに色々と任せていたのではなかろうかと思いまして……実際、自分が仕切るのは今回が初めてじゃないかと」

今までの行動パターンからして、あのボンクラが自発的に先頭に立って行動するってのは無かったような気がするのだ。

うぅ~ん……ちょっと心配だな。

馬鹿がでしゃばるとロクな結果にならないモンじゃが……

あ、もしかしてリーネア姐さん達は無意識の内にそれに気付いて、あの馬鹿に仕切らせなかったとか?


「止めてよ。ちょっと不安になるじゃないの」


「博士や摩耶さんは、もちろん初めてですよね?」


「そうよ。それ以前に二人ともアウトドアは苦手なタイプよ。今までの旅も殆ど宿に泊まっていたって話しだし」


まぁ、そうだろうな。

摩耶さんは如何にもお姫様って感じだし、博士も基本はデスクワークの人だからな。

「リッテンやディクリスも、ダンジョンに潜った経験は無いと言う話しだしなぁ……なんか、大丈夫ですかね?」


「シルクだって付いているでしょ?それに初見のダンジョンってワケでもないし……大丈夫でしょ。摩耶にも良い経験になると思うわ」


「だと良いんですが……」

後でちょっとリーネア姐さんに聞いてみるとしよう。

あの馬鹿を鍛える為とは言え、博士や摩耶さんに危険が迫るとなれば話は別だ。

何しろダンジョン探索って言うのは普通の戦闘や冒険とは勝手が大きく違うからな。

場合によっては誰か助っ人を派遣した方が良いかも知れん。

とは言え、送るとすれば誰が良いのやら……







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ