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三聖剣物語


「ふぅふぅ……」

額から汗が滲み出る。

強ぇぇぇ……コイツは、強ぇや。

俺は手にした聖剣、バンブーブレイドの切っ先を敵に向けた。


「ふふ……それが貴様の持つ聖剣か、魔王よ」

白き衣を身に纏った初老の男は、薄い笑みを溢す。

特徴的な丸メガネの奥の目が細まると同時に、俺を威圧するオーラが解き放たれた。


「ぐ…」

この力は……予想以上だぜ。

くそったれが……


「ならば此方も、少しばかり本気を出すかな」

その男は己が背に手を伸ばし、ゆっくりと、切っ先が折れ曲がっている異様な形状の剣を引き抜いた。

「これぞ聖剣、エクスカリバール。ふふ……魔王よ、聖剣の本当の力を教えてやろう」


「な、舐めるなよ。このシング・ファルクオーツ……かつては大魔王様と女子供が語尾にハートマークを付けちゃうぐらい大人気だった男。聖剣の力だろうが何だろうが、軽く使いこなしてやる!!」

言って俺はバンブーブレイドを大上段に構え突進。

そして全身の力を籠めて聖剣を振り下ろすが、

「な、なにぃっ!?」

手の平に伝わる強烈な痺れ感。

見ると俺の聖剣が、いとも容易く敵の聖剣に受け止められていた。

しかも相手はその場から一歩も動いていない。

ただ剣を持った片手を軽く掲げただけで、俺の渾身の一撃を撥ね返したのだ。


「ふふ……甘い。甘い甘い甘い。それしきの攻撃しか出来ぬのか、魔王?」


「ぐ…」

くそ!!

俺は……俺の力では、この聖剣を使いこなす事は出来ないと言うのか。

「ま、まだだ!!聖剣よ、俺に力を貸せ!!我が名はシング・ファルクオーツ!!この世を統べる最強の魔王なり!!」


「ふはは……良いぞ、魔王。そうでなくては。もっと私を愉しませてくれ」

男はゆっくりと聖剣を構える。

そして俺も聖剣を構える。

辺りに緊張が走るがその瞬間、

「……何してんのアンタ達?」

どこか醒めたような声が横合いから響いてきた。


「はへ?おや、これは酒井さん……それに黒兵衛も」


「で、何してんのよ、シング。竹刀を構えて……なに?チャンバラごっこ?」


「チャンバラって……そんなガキの遊びじゃあるまいし」

俺は竹刀…もとい、聖剣バンブーブレイドを肩に担ぎながら、苦笑いを一つ。

「今のは三聖剣物語、第二部第3章を演じてたんですよぅ」


「あぁ……そうなの」

酒井さんは何故だか分からないが、ガックリと項垂れた。

隣にいる黒兵衛は、欠伸を溢しながら、

「なんや、芹沢のおっちゃんと遊んどったんかい。仲エエなぁ」


「遊びじゃないんだけどなぁ……」


「そうだね」

と、髪のサイドに微かに白髪が走るドクター芹沢は、バールのような物を壁に立て掛け、

「実践を模した剣での演舞……と言った所かな。ま、実際はシング君と、色々と武器等の打ち合わせをしていた所なんだよ」

「武器?あぁ……そう言えば前にシングがそんな事を言ってたわね。自分専用の武器が欲しいとか」


「そう言う事でごわす。芹沢博士に、この魔王な俺様に相応しい何かチート級な武器を作ってもらおうかと思って……」


「それが何でチャンバラごっこに発展してんのよ」


「チャンバラじゃなくて、三聖剣物語第二部第3章なんですけど……」


「お黙り、シング」

酒井さんは俺を一瞥すると、次に芹沢博士を睨みつけ、

「全く……仕事をサボってるんじゃないわよ、芹沢」

「や、相変わらず酒井女史は手厳しいですな。ですが、遊んでたワケではないですぞ。シング君と打ち合わせするがてら、実は酒井女史にもプレゼントがありまして……それを持って来たんです」

「は?プレゼント?」

「えぇ。酒井女史、以前から言ってたでしょ?化け物相手よりも人間相手の方が厄介だと」

「……そうね。最近は聖騎士もどきの連中や生臭坊主も増えて来たし……」

「そこで開発したのがこれです」

そう言って芹沢博士はどこかウキウキと、部屋の片隅に置いてあったダンボールをテーブルの上に置いた。

そしてそれを開けながら、

「先ず此方は、キャノン砲付き単装ブースター」

実に男の浪漫溢れる、メカメカしいメカを取り出した。


「お、おおぅ……これは……カッチョ良い」

小さなロケットノズルが一つ付いたバッグパックだ。

しかも右の肩に20センチぐらいの砲が付いている。


「最新の極小型フェニックスエンジンを搭載したバックパックです。燃料積載能力からして一度しか使えませんが、その上昇能力は折り紙付です。上空千メートルまで、僅か10秒足らずで上がる事が出来ます。それに右肩部分のキャノン砲は、喜連川警備隊も採用している暴徒鎮圧用のスパイダーランチャーを改良した物。これも搭載制限から一度しか打てませんが、弾はかなり特殊で、中程度の戦闘車両なら粉微塵に破壊できます」


「す、すっげぇぇぇ」


「そしてお次は両腕に装着する二連装ミサイルランチャー。対人攻撃に特化したペンシルロケットを最大4発装填出来ます。もちろん両足にも同じく二連装ミサイルランチャーと、ホバーリング走行を可能にする小型単気筒ツインバーニア。そして腰の部分には煙幕弾発射装置。ここには煙幕弾以外にも催涙弾や焼夷弾なども装填できます。そしてそして、これら全てを装着すると……シャキーーーン!!これぞ酒井魅沙希・フルアーマーカスタムVER1.0モデル!!」


「くはっ!?かかかか、カッチョええ……」

たた、堪らん!!

何だか分からんけど、これは心を奪われる!!

男心を狂わせる!!


「……ふん!!」

そんな至高のアイテムを、酒井さんはいきなり蹴飛ばした。


「えぇぇぇッ!?」

「あぁぁぁッ!?」

と同時に声を上げる俺と芹沢博士。


「全く……私はアンタ達のオモチャじゃないわよ。超合金合体ロボじゃないのよ」


「え~……こんなに強くてカッチョ良くなれるのにぃ……」

と言うか、僕チンにも作って欲しい。


「やれやれ……所詮、酒井女史も大人の女。男の浪漫は理解できないのさ」


「ですね、博士」


「……あ゛?二人してなに私を見下ろしてんのよ。しかも憐れんだような目で……ぶっ殺すわよ」

酒井さんはそう言って、両の手をさっと上げた。


「あ~はいはい」

これは持ち上げろの合図だ。

俺は酒井さんを抱きかかえ、自分の肩の上に置く。

最近、俺の肩や頭が、酒井さん専用になりつつあるような気がする。

ま、物凄く軽いから苦にはならないんだけどね。


「で、芹沢。こんなオモチャじゃなく、私の頼んでいた物は出来たの?」


「え?頼んでいた物?」


「……あ?」


「じょ、冗談ですよ、冗談」

芹沢博士は苦笑を浮かべ俺を見やり、俺も苦笑を返した。

「例の探査ドローンですね。もちろん完成してますよ」

博士が段ボール箱の中から少し大き目の黒いケースを取り出した。

それを開けると、何には組み立て式のドローンと呼ばれるマルチコプターが入っていた。

これもかなりカッチョ良い。


「速度、旋回、上下降等、飛行能力全般をアップし、バッテリー部分の改良で飛行可能時間も市販品に比べかなり長くなってます。そして肝心の撮影能力は、高解像度撮影はもちろん、暗視モード、熱探知モードに加え、霊波探知機能も搭載。更に対悪霊に備え、自動結界システムに、術札散布装置も付いてます。ちなみに正式名称は特殊探査戦闘ドローン・雪風です」


「名前はどうでも良いけど……何か操作とか難しそうね」


「そうですねぇ……一応直感的に操作できるにように簡略してますし、動作もある程度は自動的に補正されるようにプログラミングしていますけど……やはり練習は必要ですね」


「……摩耶には絶対に無理ね。仕方ないわね……シング。これの練習をしなさい。今度の捜査に使うから、それまでにマスターしておきなさい」


「僕チンがですか?」


「当たり前でしょ?私や黒ちゃんが操縦できると思ってるの?」


「黒兵衛なら頑張れば……あ、いや、何でもないです。ま、操縦は……あ、ここにあるコントローラを使うんですね?見たところゲーム機とほぼ一緒な感じですし……少し練習すれば飛ばせるかな?その辺はどうでしょうか博士?」


「ま、シング君なら楽勝だろう。気を付けるポイントとしては、まぁ……横風ぐらいかな」


「行動範囲とかは?電波が途切れて墜落とか良く聞きますけど……」


「自動航行システムがあるからね。電波が途切れると同時に作動し、受信範囲まで自動的に戻る仕組みだ」


「なるほど。んじゃ、早速練習しますけど……博士」


「なんだい?」


「俺様のパーソナルカラーに塗り直してもらって良いですか?もちろん色は、言わずもがなですが」


「うむ、それは大変重要な問題だ。早速カラーリングし直そう」



休日の午後。

喜連川の広大な庭園が見渡せるテラスで、涼やかな風を浴びながら酒井魅沙希は御茶を愉しんでいた。

同席するのは、摩耶とアルことアルティナ・ランキフォイザーだ。


「しかし、まさかあの者がのぅ……」

童顔少女体型の上級魔女であるランキフォイザーは、薄い白磁器のティーカップを口元に運びながら、微苦笑を浮かべる。

「異界の村人か何かかと思うたが、よもや魔王とはな」


「私は今でも半分ぐらい疑ってるんだけどね」

と、魅沙希。

「だって……分かるでしょ?」

彼女はそのまま、目を細める。

その視線の先には、何やら騒ぎながらドローンの操縦練習をしているシングと黒兵衛の姿があった。

その姿は、良く言えば愉しそう、悪く言えば……超頭悪そうな感じであった。

ちなみにそんな魔王を、摩耶は微笑みながら優しい目で見つめていた。

摩耶のこの眼差しも、最近の魅沙希の頭痛の種の一つでもある。


沙紅耶もそうだったけど、摩耶は特に箱入りで男慣れしてないからねぇ……

「摩耶」

「え?何でしょうか酒井さん?」

「……深入りしちゃダメよ」

「え?え?」

「そなたも気苦労が絶えぬな、ミス酒井よ」

ランキフォイザーがクスクスと笑いながら、お茶菓子のクッキーを摘んだ。

「しかし、あの者の力は本物だぞえ」

「分かってるわ。実際、それで何度か助けられたし」

「じゃからこそ、警戒せねばな。魔王降臨が知れ渡れば、それこそ大騒ぎじゃ。魔女も聖騎士も、それぞれ別の意味で血眼になろうてな」

「あれでポンコツじゃなければ良いのに……」

魅沙希はそう言って、再びシングに目をやると、何時の間にかそこに芹沢が加わっていた。

男二人と猫一匹で、先程より何やら騒がしくしている。


「ところでアル。例の件だけど、何か分かった?」

「カロンのランタンか?ワシの所はもちろん、ルネール薔薇十字の魔女達にも聞いてみたが、何もじゃ。そもそもあれは普通の魔女が使う道具では無いからの」

「死霊術士の道具だしね。でも、そうなると……」

「ワシらの知らぬ、ネクロマンサーどもの組織があるのかもな」

「……」

「知っての通り、死霊術は禁忌の術じゃ。そもそもネクロマンサーどもは、その殆どが中世期に教会勢力により駆逐されておる。この現代に組織として残っているとは、およそ考えられぬが……」

「でも実際に襲われたわよ」

「そこじゃよ。しかもこの特殊な魔具を使用してと……これはかなり厄介じゃぞ。地下に潜っておる組織となると、尚更にの。それにワシの勘じゃが、この件、想像しているより遥かに根は深いと思うぞ」

「……でしょうね」

魅沙希はそう呟き、冷めた紅茶を口に含んだ。

正体不明の奴等の狙いは、ズバリ彼女自身だ。

消去法から考えて、それは間違いない。


「私の何が知りたいのかしら……」

「全てじゃろ?ミス酒井は、その存在こそが一つの奇跡じゃぞ。特にネクロマンサーにとってはな」

「私自身が良く分かってないのに?ご苦労な事ね」

魅沙希はランキフォイザーと顔を見合わせ、互いにどこか昔を懐かしく思うような笑みを浮かべた。

そして次の瞬間、『ドガン!!』と爆発音を立て、テーブルの上に真っ赤なドローンが落ちて来た。


「……」

魅沙希の着物は紅茶とお菓子に塗れていた。

摩耶はワタワタと慌てふためいており、ランキフォイザーは優雅にカップを口に運びつつ、

「迂闊じゃぞ、ミス酒井」

軽くウィンクすると、彼女の周りに張られていた簡易的なシールドが解除された。


「……そうね。少し注意力が散漫だったわ」

そう言って、ゆっくりと視線を動かすと……背中を見せて逃げて行く男二人と猫一匹の姿があった。

魅沙希は懐から術札を取り出し、

「雷爆鳥」

札は瞬時に金色に輝く隼に姿を変え、そのまま男達を目掛けて素っ飛んで行くや、そこで大爆発を起こしたのだった。








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