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08 メイドとしての生活

「……言っておくべきことはこれくらいね」


 二階堂様の話は、このお嬢様学園についての説明と、私のお仕事内容についての説明だった。三十分ばかり使い、こと細かく説明して貰った。ざっくりと要約してしまえば、二階堂様の近くに常にいるように、というものであった。


「何か、質問はある……?」


 私の心を射抜いてしまうような、真っ直ぐな瞳に一瞬見惚れてしまった。ぶんぶんと頭を振って雑念を振り払う。


「今のところは大丈夫です」


 きっと、これから沢山知らないことが出てくるから、その都度に教えてもらおう。


「後から聞いても教えてあげないから」


「え!」


 それは、物覚えの悪い私には、非常に困る。


「冗談よ」


 冗談には見えなかったよ。


「他は、ない?」


「はい」


「そう、じゃあ付いてきて」


 手に持っていたティーカップを優しく置くと、立ちあがり、ドアの方へと歩いて行く。


「どちらに行かれるんですか?」


「どちらって、授業に決まっているでしょ」


 当たり前のことを聞いたせいだろうか、眉間を八の字にさせて、指摘されてしまった。


「そうですよね、すみません」


 すっかり、二階堂様のことをお仕事先の先輩、というような気分で話を聞いていたけど、私はこの人の召使いなのだった。それを忘れないようにしないと。




「後ろで控えているだけでいいから……周りの子と同じようにしていれば平気よ」


「……分かりました」


 向かった先は、大学の講堂と言えるくらいに、広い教室であった。ここの教室に来る道中、皆の視線が全て二階堂様に集められていた。私はもしかしなくても、凄い人のメイドになってしまったみたい。


「……後ろで待っていて」


 こくりと頷いて、他のメイドの子たちがそうしているように、教室の後ろの方に移動した。教室内の席は決まっているみたいだ。また、お嬢様の数だけメイドさんがいるのは知っていたけど、私と同じようにして、メイド服の正装して、控えているメイドさんが何十人といるのは、奇妙な光景であった。


 皆、胸を張って自分のお嬢様を見守っている。その目は、召使が主に向ける視線と言うより、どれも恋い焦がれる相手に向けるような視線に見えた。


 その中でも、二階堂様はやっぱり目立つ存在だ。隣のお嬢様の子はもちろん、教室内の麗としたお嬢様たちが、時たま彼女に視線を投げていた。


「あら、見ない顔ですこと?」


 二階堂様の人気ぶりに関心していると、真隣の女の子がまじまじと、私を見つめてくる。


「……はい。私、今日からこのお嬢様学園に来たものです」


 同僚?の子に、挨拶をするというのは、気恥ずかしいものがあるんだな。


「あなたが噂になっていた例の……」


「噂といいますか、色々ありまして」


 噂ってなんだろう。悪い噂じゃないといいな……多分、さっきのことを言っているんだと思うけど。


「先ほど、騒ぎの中心にいた女の子ではありませんか」


 え、ちょっと。だんだん、と注目が大きくなっているような気がする。幸いに、メイドさんたちもお嬢様たちに気を遣っているので、最小限の声に抑えているのと、こちらからお嬢様たちのところまではある程度の距離があるから、あちらまでは聞こえていないようだったのが幸いだ。


「美しい黒髪ですこと」


 髪を触られそうになり、自然と身を引いてしまった。


「奥ゆかしいですこと、お名前を伺ってもよろしいですか?」


 皆が私を覗き込むように見てくる。


 この子たち、グイグイ来るよ。


「朝野、優凪です……」


 これまでの人生で、こんなに注目されることはなかったから、恥ずかしくて、俯いて呟いた。


「照れていらっしゃるのですか」


「まあ、可愛らしい」


 恥ずかしいのに、逆にそれがメイドさんたちの心を掴んでしまったらしい。


「お顔をよく見せていただけませんか?」


「…………」


 もういっぱい、いっぱいな上に、真っ赤な顔を見せてというらしい。しかし、このまま黙っているというのは失礼に当たってしまう。


「お姿が麗しいお方ですこと」


 耳元などから、四方八方から私を褒める言葉が聞こえてきた。そして、トドメの言葉これだ。


「まあ、真っ赤に。ミニトマトのようでいらっしゃいます」


 それって、皮肉にしか聞こえないよ。ミニを強調されて言われたので、褒められているのは声の感じから分かったから悪口ではないみたい。


「あの、出身はどちらなのですか?」


 その時間はメイドさんたちに、ひたすら質問責めにあっていた。


 想像できなかった。お嬢様の後ろに控えているだけのことが、こんなに大変なことだとは。




「また、午後の授業でお会いしましょうね」


 可愛らしいメイドさんたちは、私に小さく手を振って、それぞれのお嬢様の元へと散っていった。


 はあ……疲れたよ。まさか授業の時間の九十分まるまる、ずっと質問責めにされるとは思わなかったもん。



 ため息をついて肩を落としていると、ポンと誰かに肩を叩かれた。


「人気者だったわね」


「あ、すみません……」


 いけない。私も自分のお嬢様の元へ、すぐに向かわないといけなかったんだ。二階堂様から私に歩み寄らせてしまっていた。


「いいのよ、気にしてないから」


「……というか、聞こえてたんですか?先生は気にしていないようでしたけど……」


「聞こえてたわ。あの方は短気ではないからね。でも、いつ注意するか分からないくらに、眉をピクピクさせていたわ。私は気にしていなかったけど、周りの子たちはあの人を見てびくびくしていたけど……」


 新鮮な光景だったのか、楽しそうに頬を綻ばせている。


「う~、それは、お嬢様方にとんだ迷惑を……全然、気づきませんでした」


「いいのよ、最初はね」


 こういう事を、簡単にいってくれるので、こちらとしては気持ちに余裕ができる。だけど、後になったら厳しくなるそうなので、早くお仕事を覚えようと思った。


「それで、何の話をしていたの?」


「その……私、です。皆さん、私が珍しいようでした……」


 自分のことが、話題の中心になっていたと言うのはキツイものがある。


「なかなかいないからね。あなたのような人は……」


 どういう意味だろう?


「気にしないで。さ、お昼にいきましょうか」


 二階堂様は、そう言って私の手を引いて歩き出した。


読んでいただきありがとうございました!

次回もメイドとしての生活になります!

もしよろしかったら、ブックマーク、最新話のページ下部から評価していただけますと励みになり執筆が進みます!

次回も読んでいただけたら嬉しいです!


プロローグを除きますと、実はまだ一日経過してないです。ゆっくり見ていただけたらと思います。

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