06 対峙
読んでいただきありがとうございます。
なんと嬉しいことにブックマーク数が九十を超えていました……(震)
もう少しで百だなんて信じられません。
また、評価を押してくださっている方も大変ありがとうございます。
励みになりますm(__)m
それ以外でも沢山の方が見て下さっているのかもしれませんので、
これからも精一杯頑張ります。
次回も見て頂けたら嬉しいです。
今回のお話は少し短めで、麦ちゃんとメインのお嬢様の話?です。
その方は身長が百六十五センチはあるだろうから、小さい私は見上げる形になる。
「きゃ……あの方は」
「お姉さま……!」
ひそひそと姉さまという単語がチラホラと聞こえてくる。
皆どうしちゃったの?それにお姉さまってなに……?
私が正面に立つ女の人に釘付けになっていると、沈黙していた周りの子たちから黄色い声援が沸き上がった。
閑散としていた子達が騒ぎ出す。とてもここがお嬢様学校とは思えない光景である。
「なぜあなたがここに、二階堂様……」
麦ちゃんがその女の人のことを二階堂様と呼んだ。
どうやら私の前にいるこの綺麗な人は二階堂……様というらしい。
上品なお名前だな……。
けど違和感がない。
二階堂という固いお家柄を想像してしまう苗字は彼女の毅然な物腰にピッタリと嵌った名称であった。
「二年生は今のお時間ですとフランス語・三の授業だと存じていますが……」
「仰る通り……今はフランス語の授業ですこと」
「でしたらなぜ……?」
麦ちゃんは困惑するように眉を潜めた。
どうして麦ちゃんは焦ったような声を出しているのだろう。
二階堂様は麦ちゃんを冷然たる態度で一瞥した。
「今日からわたくしのメイドになる子が、こちらにおいでになっているということを風の噂に聞いたのよ……」
「そんな……!優凪様のお嬢様がまさか二階堂様だなんて……そんなこと……伺っておりません……」
「あなたが認知してようがしてなかろうが関係なくてよ」
……え。
メイドって、それって私のこと……?
わたくしのメイドって……つまり私がお仕えするお嬢様がこの人なの?
「……誤算です」
小さい吐息をはいて声をわなわなと震わせている麦ちゃんに、二階堂さんは無関心にも不機嫌そうに囁いた。
「さようでございますこと」
何か軽くあしらわれたっぽく感じた麦ちゃんはムッとした顔を二階堂様に向けた。
けれど二階堂様という方はそれをものともせずに、私に向き直った。
待ってよ。
ちょっと、色々ついていけない。
「お会いできて、嬉しいわ」
二階堂様はしおらくし、制服の裾を両手で摘まんで会釈をしてくれた。
色々ついていけないんだけど、挨拶をしてくれたみたいだ。
私も何か言わないと失礼に当たる……
「初めまして。わたくしは朝野優凪といいます……」
敬語大丈夫かな……
麦ちゃんの一礼を見よう見まねにやってから、スッと顔を上げて二階堂様の顔を伺ってみる。
依然、表情に変化はなく無感情そうな瞳のままであった。
この方が私のお嬢様ってことは、私はこの人に仕えることになるんだよね。
スリムな彼女と、ちっぽけな私を横から見た人は、私が彼女に絡まれていると思っても仕方ない構図なのだけど。
本当に、私のお嬢様なのか。
まさか、ここまで美しい方にお仕いするとは思ってなかったから実感が湧かないし、ついていけない。
「ご挨拶どうもありがとう。可愛らしいお名前ですこと」
「いえ、そんなことないです……」
こんな綺麗な人に可愛いなんて言われるとまともに目を合わせられなくなっちゃうよ。
「わたくしは二階堂愛理栖。好きなように呼んで頂戴」
「は、はい……」
流れで納得してしまったけど、そもそもこの方は本当に私のお嬢様なのかな。
麦ちゃんがお嬢様の待機しているクラスまで案内してくれるはずだったんだけど、向こうから来てくれるとは……。
しかしなぜ、麦ちゃんはお嬢様の所まで案内してくれる役目を背負っていたのに、それがこの二階堂愛理栖様だということを知らなかったのだろう。
予期せぬ事態という雰囲気だし。手違いでもあったのかもしれない。
「そういう訳だから、そこの使用人さん。
…………後はわたくしがいれば大丈夫だからあなたは持ち場にお帰りなさい」
「…………かしこまりました」
麦ちゃんはそう言うと、苦虫を噛むように桜色の唇を紡いでいた。使用人だから出過ぎたことは言えないみたいだ。
「いたしかたありません……」と麦ちゃんは嘆息をこぼした。
「そういう訳ですからごめんなさい。
……優凪様。わたくしは一度宿舎の方に戻らせていただきますね」
「え、行っちゃ、
……行ってしまうんですか?」
「はい。優凪様の仕えますお嬢様に引継ぎをしましたら、次のお仕事に向かうようにと仰せつかっていますので……」
そっか。せっかくここまで案内してもらったけど用事があるなら残念だけどそれなら仕方ないよね。
けど、ちゃんとお礼は言っておこう。
「麦様、ここまでご案内していただきありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ」
麦ちゃんは桜色に頬を染めて笑った。
「お仕事頑張ってください。麦様」
頑張ってね、麦ちゃん。
私もいきなりのことでびっくりしてるけど頑張るから。
「ありがとうございます。優凪様こそ頑張ってください」
優しい麦ちゃんの目が「頑張ってね」と言っていた。
麦ちゃんは役目を終えたと言うようにゆっくりと目を閉じた。
そして玄関の扉に向かう一瞬…………
私の横を通りすぎる時に、耳元で小さく麦ちゃんは言った。
「……気をつけて。あの人は怖い人だから……」
「ふぇ……?」
それだけ言うと、麦ちゃんはこの場にいる皆に向けて、キッチリと深く頭を下げてから、扉のノブに手をかけこの場から退場した。
怖い人って、二階堂様のことを言ったの……?
聞き返したいけど、もう彼女の背中は見えない。
……。
…………。
……………………。
茫然と入り口の扉を見つめてから、周囲を見渡す。
…………わ!
そうだった。
すっかり私が二階堂様のメイドっていうことで忘れていたけど、私はなぜか凄い見ず知らずのお嬢様たちに注目されているのであった。
それは現在進行形で持続されているのだ。
たぶんおそらく前にいるこの人が原因だと思うけど……。
「二階堂様のメイドがあの少女ですこと?」
「……ありえませんわ、あのようなおっとりしていらっしゃる方が二階堂様のメイドであるはずがな……」
悪口が聞こえたような気がした。気がしたことにしておこう。
人間とは悲しいものでポジティブな言葉よりネガティブな言葉を拾い易い。
でも。
「行くわよ」
なんでか周りの声を遮るように、彼女は私の手をとって歩き始めた。
突然のことに私は頭をフル回転させるけど思考が追いついてこない。
私たちを囲んでいた野次の群れを抜けていく。
そのまま階段を上っていく。
「え、あ、あの……二階堂様?」
どこに行くの。
というか、この学校の子は皆手を引いて歩き出すのはなんなの!?
「あの…………!」
「黙ってついてきなさい……」
「…………すみません」
それ以上の追及を許さない二階堂様の冷徹な声音に怖気づいて口を閉じた。
結局、現状は良く分からず。
有耶無耶なままでどこかへと連れていかれた。
階下に残されたお嬢様たちは、何事ですこと……
と、これまた思考をフル回転させているのであった。