14 寝顔
窓際から、雀の賑やかな囀りが聞こえる。
大きな一羽と、小さな二羽。親子かな?
「うーん…………よく眠れたあ! 寝覚めいいし良い一日になりそうだな!」
身体をベッドから起こし、大きく腕を伸ばした。
まだちょっと眠いけど、頭はスッキリしている。二度寝するほど眠くないから起きよう。
「でも早起きしてもやることないんだよね……」
目蓋を擦り、部屋の壁時計に目を向けると、起床するには一時間ばかり早い時間である。
こんな時は話し相手がいてくれると助かるんだけど。
麦ちゃんは起きてるかな?
「優凪……ちゃん……」
ちらりと麦ちゃんを見てみると、穏やかな表情でいた。
「さすがに寝てるよね……」
とても気持ちよさそうに寝ている。
ただベッドの上に横になっているだけなのに、眠り姫を想像してしまうほど絵になっている。
その寝顔を見ているだけで、自然とこちらの頬が緩んでしまう。
やっぱり可愛いなあ、麦ちゃんは……。
天使のような麦ちゃんの寝顔を、彼女が起きる時が来るまで見ていてもいい。
だけど、ここに来て早起きをしたのは初めてのこと。
せっかくだし、この時間を有効に使うことにした。
「麦ちゃんが起きるまで敷地内の冒険でもしようかな……」
正直昨日とかは、麦ちゃんが案内してくれていたから道に迷ったりはしなかった。
それくらいにこの学園の敷地内は広大で、少し庭の方へ足を向ければ、正に絵本の中の世界のような森が待っている。
ここに初見で人が足を踏み入れたら、間違いなく迷子になる。
それでも散歩をするのは普通に好きだ。
それが、綺麗な噴水がある庭となれば尚更である。
一人で行って迷子にならないか不安ではあるが、朝の静かな庭の雰囲気を独り占めしたいと思った。
そうと決まればさっそく行動に移そう。
制服の袖に腕を通し、顔を冷たくて気持ちの良い水で洗い、コップに水を入れて喉を潤した。
「さてと……」
未だぐっすり眠っている麦ちゃんに歩み寄る。
出かける前に挨拶をしておこう。
スゥースゥーと静かな寝息が聞こえてきた。
天使のような寝顔を見ていると、麦ちゃんが余りにも愛らしいから少しイタズラしたくなってきた。
「…………麦ちゃん」
ツンツンと頬を突いてみる。
「………………んぅ」
やった!起きない!
なんとプニプニとした柔らかい感触だろう。
その上、悪戯されているのにも関わらず起きないで気持ちよさそうに眠っている。
余計に悪戯したくなってくる。
ツンツンツンツンツンツンツンツン。
「ふ、ふにぃ……」
なんと可愛らしい寝言だろう。
眉を少し寄せながら、小動物のように鳴く。
普段は整然とした麦ちゃんが、縋るように掛け布団を、抱き枕のように強く抱きしめている様は胸をくすぐられる。
「か、可愛いすぎるよ。麦ちゃん」
さらにツンツンしてみる。
「…………ふ、ふみゅう」
すると、さすがに刺激が強すぎたのか、身体を捩りながら唸る。
起こしてしまったのだろうか?
焦りながら観察していると、でもそれから、また気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。
「すぴー…………すぴー…………」
静かな寝息。
ここまでして起きないなんて。
起きない妹によくちょっかいを出していたことを思い出してしまう。
というか、いっそのことギュッと抱きしめたい。
ごめんね、麦ちゃん。
でも、麦ちゃんが可愛いのが悪いんだよ!
最後にトドメのツンツンをした。
「みゅ…………みゅいー…………」
思い切ってその大福のような白い頬を、指で掴んで、ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに、と撫でくりまわす。
なんて、なんて気持ちいい頬なんだろう。
この柔度は最高だ。ぜひ食べてしまいたい。ごくり。
女神のような寝顔。
桜餅のような頬。(赤く腫れているのは私が散々ふにふにしたからだ)
よし。
ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに。
……と。
「……ダメだよ……優凪ちゃん……」
「……うえ!?」
私が麦ちゃんの頬で楽しんでいると、麦ちゃんが色っぽく顔を赤に染めながらそう呟いた。
「そんなに、愛でられたら、わたしは……!」
さらにもどかしいのか、身を抱くようにしている。
ついには抱きしめていた掛け布団を剥いだ。
「め、愛でるなんて違うよ!」
違う、そんなんじゃない。
私はただ可愛いものを、衝動的に、私利私欲のままに楽しんでいただけだというのに。
「………………………………どうか、優しくしてください」
麦ちゃんの頬を、一滴の真珠が流れ落ちた。
えーと。
「……………………悪戯は、よくないよね。へへ」
遊んでいたけど、何かよくない予感がしたから麦ちゃんで遊ぶのはここまでにしておこう。
頬で遊ぶのをやめてしばらくすると、麦ちゃんはさっきみたいに穏やかに寝息をたて始めた。
「……すびー……すぴー……」
麦ちゃんは、漫画のような穏やかな寝息を立てている。
実は起きていて、さっきの寝言は私をからかう為のものだったりして。
そっと髪を撫でて上げると、麦ちゃんは気持ちよさそうな表情になった。
これは多分起きていないんじゃないかな。
「……優凪ちゃん、ここのお菓子はね……甘くて……とっても美味しいんだよ……ふふ、全部食べていいんだよ……」
もしかしたら、私とお茶をしに行く夢でも見ているのかもしれない。
「……えへへ、食べ過ぎですよ、優凪ちゃん……」
麦ちゃんは眠りながら、くすりと笑んだ。
「……甘くて、美味しいお菓子。なんだろうなあ……」
私は口から涎が出るのを我慢しながら、麦ちゃんにそっと掛け布団をかけてあげて部屋を後にした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
余談的なものを挟ませていただきます。
ネットでよく見るss的な感じで見てもらえてたらと思います。