- 幼馴染の太田 -
翌日の金曜日、週末の明日が休みという事もあって久しぶりに幼馴染の太田を誘って、少し小洒落た呑み屋へ出かけた。このトランジスタラジオの事も話したかったからだ。
わたしより賢い太田は、大学で理学部物理学科を卒業した、その後転職をして今の仕事はおもちゃメーカーに勤めている。その企業の玩具、ゲーム機器、おもちゃだけでは無くて日用品で使う便利な物等、その開発部の部長だ。今日はその部署の打ち上げがあるからと少し遅れる連絡が来た。
わたしは、待ち合わせの呑み屋へ先に行って少し寛いでいる。ここで呑む、一杯のジンライムは久しぶりだなぁ…と、ツマミの塩昆布のポテトフライをツマミながら、カウンター越しにドイツ人/日本人のハーフのマスターと昔話やら近況を話していた。
「…そうなんだぁ。ところで今日、太田と待ち合わせて居るんだけど、太田は頻繁に来てるの?ココへ。」
「うん、そうだねー。たまにだけど来るよ、ワンシーズンに一度くらいかなぁ。
君みたいに、ジントニックだけど一杯呑んでそれから約束があるとか言って帰る程度だったかな?」
「そうなんだぁ…」
すると、店の扉が開く… カチャンッ
「お、噂をすれば何とやらだ…いらっしゃい!」
幼馴染の太田がやって来た。
「やぁ、悪ぃー遅くなってぇ。、」
「おー久しぶりッ!まぁ、ココに座れよ。」
少し慌てた様子の太田に再会した。
マスターが言っていた様にジントニックを頼んだ後、打ち上げと会社の事、昔話に花が咲いた。それから、例の代物の本題に入った…
この日は現物は持ってこなかったが、マニュアルをコピーしようと、それだけを太田に見せた。すると太田の眼の色が変わり、重そうな口を開きこう言った、
「これさぁ?もう噂になって半年は経つよなぁー…それに噂話だけで進展が無くって、もう皆んな忘れかけてんじゃあ無いのか?」
太田は不機嫌そうに話した。
「あー、それでも暇見て探し当てたんだ。
三ヶ月はかかったかなぁーハハッ、
バカだよなーこんな付録のラジオごときに。」
わたしはそう言うと、太田はカウンターの真正面を向きそれ以降目を合わせる事なく話し始めた。
「そいつの事は…もう忘れろ。」
「な、なんだよぉ急にぃ?どうかしたのか?!これって、まずいもんか?」
「あ、マスターごめん…少し席外してくれる?悪い。」
「はいはい…では。」
太田は、とても深刻な話をしようとする空気を作る。2人だけの、いやそれ以外にも何か悪い情報を知っていた様だった。
「実は…そのラジオの噂は先週、うちの開発部で立証したんだ。」
「エッ!ホントかぁ?ど、どうなったんだよぉ?!」
「まぁ、落ち着けって。それでな、俺もその方法を海外の裏サイトで調べて管理者が公開してくれた通りに実行したんだ。
その時、俺と常勤するアシスタントの女の子、それからまだアシストしか出来ない新人社員の男の子、3人が立ち会って実験したんだ…」
わたしは食い入る様に、太田を睨みつける様に真剣に聞き入っていた、わたしがやろうとしている結果がもう太田が立証しているからだ。
その時、太田の携帯電話が鳴った…
"….あ、はい…はい、わかりました。
直ぐにでも伺います、それでは。ピッ"
「太田、用事か?」
「あぁ、悪いなあ。話の続きはまた来週、ココで同じ時間にまた会おうぜっ!
今度は遅れないから、じゃあな。」
太田は、カウンターに千円札を2枚置いて直ぐに店を出て行った…と、同時にマスターも戻ってきた。マスター云く…
「前回からと変わらない消え方ですねぇ
、太田くん。ココで一杯引っ掛けて、誰かに電話で呼ばれて立ち去るんですよ、いつも。」
「そうなんだ、何かまずい事にでも関わって居なけばいいけどなぁ…」
わたしは太田の事が心配になった。
まだ新婚で娘さんも居る、去年産まれたばかりだったからだ。家族が居るのに、変な事に巻き込まれてなければ良いが?と、そう思いマスターにもう一杯ジンライムを注文して、そのままそれを呑み干すまでマスターと話しその後、帰宅した…
つづく